第五十四夜 夢と友と異変
パーティーが行われた日からあっと言う間に二年が経った頃、ジェンは父親の元へと寄った。
「魔法を学びたい?」
「うん。」
「そうだな。チャールズとマリアも三歳になった事だし、母さんに魔法を教える様に頼んでみよう。母さんが無理だったら、父さんが教えてあげるから。」
「やった‼」
ジェンは、魔法を学べる事に嬉しさいっぱいであった。丁度、誕生日を迎える頃だった為、ディオスは彼女と共に町にある魔導書・杖屋へ向かった。幾つかの魔導書や杖に触れて相性が良いものを探した。すると、黒の表紙である魔導書が彼女に対して適合反応を示した。後に、現在も使われる愛用品となる。
前は、母親が「危険に晒したくない」と言う子供思いであった。しかし、ジェンは母親の反対を受けつつも騎士人ありたいと言う気持ちが勝っていた。
彼女は、大切な父親からプレゼントされた魔導書を肌身離さず持つ事になった。また、母親や父親に教えられた魔法をそつなくこなして行き、魔法を教える塾に入るもジェンの実力は並大抵の子の魔力とは大違いだった。それがあってか、塾の中で彼女に虐めを取り図ろうとした子供がおり、彼女に対して暴力や暴言を吐いたりした。
ある日、虐めを行っていたジェンと同い歳の男子が彼女の元へと訪れた。
「おい、何でお前は女子のくせに魔力が高いんだよ?自慢か?」
またもや暴言を吐いた。ジェンは周囲よりも大人であった為、その言葉に耳を貸さずに無視した。男子は無視した事に腹を立て、殴り掛かろうとすると―
「やぁ!」
「いでぇ‼」
塾に通っていた姉・エムリはその瞬間を見逃さず、魔法で男子を捕らえ、身動きを封じる。男子は抗うが、全く通じない。エムリは、ジェンを後ろへ隠して男子の近くに寄ってこう言う。
「私の妹を虐めていたのは、あんただったの?」
「エ、エムリ…さん‼」
「うちの妹が何したって言うの?」
「うるせぇ!てめぇの妹は、何で弱々しいくせに魔法が上手いんだよ⁈」
《パチーン‼》
エムリは男子に対して、強烈なビンタをかました。彼女は、妹を守るべくこう言った。
「弱いくせにとか言うな!そんな事で私の妹を殴るなんて、くだらないわ。それに、そんなに悔しかったら、あんたが努力していく事ね!」
その後、エムリは男子の身動きを解放した。男子は、エムリの怖さに圧倒され、どこかへと行ってしまった。ジェンは、姉に礼を言った。
「ありがとう、お姉ちゃん。」
「良いの。これくらいは、お姉さんとして当り前。」
エムリはそう言い、ジェンの頭を優しく撫でた。しばらく日にちが経つと、例の男子は両親と共にジェンに謝罪をした。エムリは妹を守るためと言えど、叩いてしまった事に謝った。両親は「エムリさんが止めなければ、分からなかった」と言う。自分の息子がそんな事をしたと聞いて、親として説教をしたと話した。謝罪を受けたジェンは、男子にこう言う。
「許してあげる!一緒に頑張ろうよ!ね?」
「お、おう!……俺は、オスカー…な。」
「うん。オスカーお兄ちゃん!」
こうして、オスカーと名乗る少年を中心に、ハリー、ジュール、エマ、ミアと言う友人がジェンの周囲に出来た。毎日の様に遊び相手になり、ジェンは町を走り回ったり、小さな丘の草原で遊んだりして、友との時間を大切にした。また、絵本の読み聞かせをジェンがする事もあった。そして、共に学んでいる魔法も一緒に学び、成長して行った。
既にジェンは、四歳になった時に治癒を取得しており、怪我や病気に罹った動物や人々を少しでも癒そうと人力を尽くすようになった。時々、働き過ぎて魔力切れによる熱を発症し、両親を心配させたが、治ると「人々の為に」と頑張り、全属性を扱えるほどの力までに達そうとしていた。
そんな矢先だった。ジェンが五歳になったある日。一家に悲しい知らせが入って来た。
「そんな、ウィルお兄様が⁈」
なんと、ウィルが何者かに連れ去れたのだ。
また、ヴィルハンの方から謎の異形の化け物が出現した。ディオスは町を守るべく、王都にいる自警団を派遣した。が、これではめどが立たないと、現国王であるアレスが自警団の他に兵団を立てた。
「駐屯団」、「天馬・飛竜騎士兵団」、「エルシィーダン軍」、「エルシィーダン海軍」とそれぞれ設立し、それぞれの役割を与え、なるべく争いをせず、王都や四大公家が納める町を守護するように努めた。
「お兄ちゃん‼」
親しい兄が連れ去られた事をエムリ、ジェン、チャールズ、マリアは悲しみ、その日は一日泣いていたと言う。両親を中心に、ウィルの捜索をしたが、どこにも見当たらなかった。
ジェンの友人であるオスカー、ハリー、ジュール、エマ、ミアにも、その知らせが届いた。彼らは、泣いているジェンを優しく和ませたと言う。いつも自分たちを支えてくれる彼女が、こんなにも悲しく泣いているのは、放って置けないからだ。
ジェンの友人である彼らは、彼女に―
『必ず、ウィルお兄さんを救って見せる!だから、俺たちも兵士さんの様に強くなろう』
と約束した。ジェンは「ありがとう」と感謝した。彼らは、ジェンにとってもとても心強かった。それは、エムリ、チャールズ、マリア、ディオス、アンヌにも届き、彼らもジェンの友人に感謝した。
また、誘拐事件と同時に一人の孤児がフィーメ家に保護された。彼は、ヴィル。親もいないまま、近くの森にいたらしい。年はジェンより一つ上だ。フィーメの家族は、彼を養子として育てた。ジェンは、ヴィルと直ぐに親しんだが、心の奥底でモヤモヤとした何かがあった。
しかし、楽しい事ばかりでは無かった。ある日、ジェンはたまたまお手洗いから部屋へと帰っている途中、ある部屋で明かりがドアの隙間から漏れていた。彼女は気付かれない様に、隙間から覗くと―
(お姉ちゃん!)
なんと、姉・エムリが父親から暴力を受けていた。母親は必死に止め、何とか納まったものの、エムリには痣が何か所にも出来ていた。ジェンは恐ろしくなり、息を殺して部屋へ逃げ込んだ。ベッドに潜り込み、心を落ち着かせた。ジェンは、昨年、ディオスの父について尋ねた事を思い出す。
「お酒を毎日飲んでだらしなく、妹であるヘンリに暴力を振るっていた俺の親父」と言う言葉を思い出した時、彼女は今の年齢で考えられない思いを持った。
(お父さん…。それじゃ、お爺ちゃんと同じじゃない‼)
と。それから、エムリは痣が出来る度に人前に姿を現わさなくなった。チャールズとマリアは、頼れるジェンとヴィルと共に遊んでいた。また、ジェンの友人も彼女の家族の事を心配していた。
怪しい雲行きになって行くフィーメ家。ジェンは、「嫌な事が起こらない様に」と祈ってばかりだった。だが、彼女にも異変が訪れた。
朝、眠りから覚め、オスカーたちと遊んでいた際、ミアが彼女にこう言う。
「ジェンちゃん。どうしたの、それ?」
「どうしたの?」
「だって、ここの色と形が変わってる!」
ミアに言われてジェンはすぐさま家に帰って、部屋にある鏡でミアに言われた場所を見ると―
「何?何⁈」
そこに映っていたのは、左鎖骨に刻まれた聖痕が淡い青から赤紫へ、雫の形から炎の形へと変化してしまった。彼女は混乱し、パニック状態に。そこに爺やが駆けつけ、何があったのかミアに聞いた。
それは、ディオスとアンヌにも知らされた。ディオスは仕事に忙しく、相手に出来なかった為、アンヌは母親として、彼女を落ち着かせた。彼女の傍には母親だけでなく、ジェンを心配したオスカー、ハリー、エマ、ミアがいた。
数週間後。ジェンの聖痕は元に戻らなかったが、友人たちは彼女を励ますべく、一緒に遊んだりした。彼女にとって、とても心が安らぐ時間だった。また、チャールズとマリアも加わり、より楽しい時間となった。
しかし、そんなある日。夕方ごろになった途端、ジェンが家へ帰った直後に、兵士がディオスの元へと駆けつけて行くのが見えた。彼女は後を追って行き、ディオスの部屋の前で聞き取った。
「吸血鬼一族が、何者かに襲撃されています‼」
兵士の言葉を聞き、ジェンは急いで魔導書を手にして吸血鬼一族が住まうとある森へと向かった。一度は行った事があり、フィーメ町から東北の方角に住んでいる。彼女は飛翔で一族が住まう場所……友人であるシーガを助けるべく、救援に向かった。しかし―
「……っ‼」
森は炎に包まれ、全て焼け野原となっていた。ジェンは水光線で、森の炎を消しにあたった。徐々に炎は治まって行くが、まだだ。彼女は魔導書を媒介して―
「水雨!」
と言うと、森の上から水が降り注ぎ、炎は瞬く間に消えて行った。完全に消えた事を確認して、ジェンは森の中にある一族の住処へと走って行った。
「シーガ君‼シーガ君‼いたら、返事をして!吸血鬼の皆さん‼」
彼女は必死に叫び、住処へと辿り着いたが、そこには刃物や火傷によって死んでしまった吸血鬼たちの遺体があった。だが、シーガと思わしき姿はなかった。
彼は、その頃、王都へ無事に逃れたが、悪ガキに打ちのめされ、暴力を受け、陰で生きていた。食料を求めて、夜の間に商品の何品か盗み取ってしまうのだった。
彼の無事を祈るジェンだが、遺体が広がる場所の真ん中で地面に膝をつき、涙を流した。
「うわぁぁぁぁぁん‼ごめんなさい!皆を、皆を助けたかったのにぃぃぃ‼」
それは、純粋に「助けたい」と言う思いを抱えた彼女が見た現実だった。自分はまだ幼く多くの人を助ける事ができなかった事を、知らされた気分だった。シーガ以外にも、吸血鬼族の友人がいた。しかし、その友人は悲しい事に殺されてしまっていた。
その後、ディオスと兵士たちが駆けつけ、泣きじゃくる彼女を発見した。ディオスは「一人で勝手に行くな!」と叱ったが、彼女は怒られた事に泣いておらず、助けられなかった事に後悔する涙を流し続けた。同時に、遅くに来た父親に対して怒りの感情を持っていた。姉に対する暴力する姿、母親に苦労を掛けている姿を陰で見てきてしまったジェンは、怒ってこう言った。
「何で、遅く来たの?」
「ジェン?」
「もっと、早く来てたら助けられたのに‼……お父さん何か、大っ嫌い‼」
ジェンはそう言って、家へと帰って行ってしまった。ディオスは、ジェンの言う通り助けられなかった事に後悔した。ジェンに「大っ嫌い」と言われた後、何にも言えなかった。
そして、月日は流れ、ジェンは王都へ赴くべく、馬車に乗って行った。
ある日、王都のエルシィーダン王城で、ナイトと共に星空を眺めていた。彼とは、昔にはダンスやパーティーで会っており、仲は深かった。
だが、吸血鬼族の事件は、王都にも届いていた。街中で一部の人間は偏見をしていたらしく、ナイトはその者たちが口にした言葉が頭に残っている。
「大丈夫だよ。シーガは、生きている。」
「う、うん。」
「元気出してよ!僕、ジェンが悲しんでいると…僕も悲しくなっちゃう。だから、笑ったジェンでいて欲しいんだ。シーガの無事を祈って、また会った時に笑ってさ!」
「そうだね。ありがとう、ナイト。……今日も、星が綺麗!」
「でしょ!いつも、町明かりが消えた時に見るんだ!」
二人はしばらく仲良く会話している内に眠くなり、部屋のベッドへ横になった。しかし、明日には、ジェンは故郷へ帰らなくてはいけなかった。




