第五十三夜 幼き日々と混乱の始まり
ジェンが生まれから二年が経ち、家族は両親を含め七人となった。
その二年前、彼女が生まれた直後。アンヌはベッドに横になり、布に包まれたジェンを優しく抱っこをしていた。傍には、ディオスと二歳の兄・ウィルソン(愛称:ウィル)と一歳の姉・エムリーナ(愛称:エムリ)がいた。ディオスは、ウィルとエムリに笑顔で言う。
「ほら~、お前たちの妹だぞぉ!」
「やった‼いおうとだ!」
ウィルは大喜びして、飛び跳ねる。エムリーナもまだはっきりと喋れないが―
「いおうと…。エウイの!」
と喜んでいた。ジェンは、産声を上げた後はとても静かで泣く事はあっても、泣き虫と言う程では無かったようだ。ウィルやエムリが騒いでいても、スヤスヤと母親の腕の中で眠っている。しかし、この時はまだ名前は決まっていなかった。
「貴方、この子の名前…どうしましょうか?」
「そうだな…。」
ディオスは、アンヌと共に名前を考える。しばらくすると、アンヌがこう言う。
「ジェン……。ジェンはどうかしら?」
彼女の言う名前に、ディオスはすんなりと納得した。「優しい」と言う意味がある「ジェン」に追加で、両親が友人と「強い結び」……絆を築いて欲しいと言う意味で「レヴィ」を合わせ、「ジェンレヴィ」と名付けた。
また、深い意味には「勇敢」と言う意味を込めた。愛称は、アンヌが考えた名前の通りになった。
彼女は、すくすくと育っていった。半年後には、離乳食を食べる様になり、一歳時には二足歩行ができ、二歳時には曖昧でも一文の言葉を発するようになった。三歳には自我が身に付き、言葉もはっきりする様になった。それは、両親だけでなく、ウィルもエムリも彼女の成長ぶりに驚いた(第一夜の一部の話にて)。
時が過ぎ、ジェンが三歳になった。彼女は、下に双子が生まれていた。一つ下で兄の方に「チャールズ」、妹の方に「マリア」と言う名を付けた。
ある日の昼過ぎ。フィーメ家の庭にある花を見ながら、五歳の兄・ウィルと共に散歩をしていると、ジェンが足を止めて兄の裾を軽く引っ張る。
「どうした?ジェン。」
「お兄ちゃん、アレ…何?」
彼女が指さす花畑の中、そこには何かの動物がいた。ジェンとウィルは、花畑の中に入って動物の元へと行くと、そこにいたのは体が少し汚れている子供の白い狼だった。大きさは、中型犬に近い。
「うわぁ‼狼‼」
「お兄ちゃん、見て。怪我してる。」
ジェンが見たのは、白き狼の後ろ脚の付け根辺りに怪我を負っていた。ウィルは怪我をしていると気付き、「手当てしなくっちゃ!」と言う。ジェンも「怪我、治さなきゃ!」と彼に賛同していた。ウィルは、子供の狼を優しく抱えて、ジェンと共に家の中へと入って行った。
家に入ると、メイドが来た。ウィルが抱えているのが狼と分かると、驚いて言う。
「ウィル様。それは、狼です。危険ですよ!」
「怪我をしているんだ。手当てをしなきゃ!放ってはおけない‼」
「手当て、してあげて!」
ジェンがそう言った時、丁度そこにディオスが来た。彼は、ウィルが抱える白き狼を見てメイドにこう言った。
「大丈夫だ。あの狼は、古からこの地を納める人狼族だ。手当てをお願いしたい。それと、今日は民族のパーティーが行われる。」
「そうでしたね!分かりました。さぁ、ウィル様。こちらへ」
メイドは、白き狼を受け取ってディオスと共に彼の部屋へと向かった。ジェンとウィルも後に付いて行き、狼の治療を見届ける。治癒を使い、ガーゼと包帯で治療を終え、体の汚れを落とすと、ディオスはジェンとウィルにこう言う。
「ウィル、ジェン。二人にこの人狼族の子供の面倒を見て欲しい。脚を怪我していたから、歩くのは大変だと思う。お願いできるかな?お父さん、今、少し忙しくてな。ごめんな。」
「良いよ!俺、助けてやりたい!」
「私がお世話する。お父さん、この子を、私の部屋に移動させて良い?」
「分かった。ジェン、お兄ちゃんと二人で助けてやるんだぞ。」
「はーい!」
ウィルはその後、寝ている狼の子供を抱えてジェンの部屋へと運び、ベッドへ寝かせた。ジェンは狼の傍により、そっと頭を撫でる。すると、狼は目を開けた。
「あ!起きた!」
狼は起き上がろうとするが、痛みがあるのか立ち上がれない。ウィルは、狼に言う。
「駄目だよ!怪我しているんだから、動かないで!」
彼がそう言うと、狼は光を発し、昼間でも眩しい光に二人は目を瞑る。光が治まると、狼がいた場所には八か九歳くらいの少女がいた。太腿には、メイドが巻いた包帯があった。二人は、狼が人になったと思ったのか驚いてしまう。
少女の耳は人間と同じではなく、頭の方についており、狼の耳だった。また、尻尾も付いていた。
「お姉ちゃん、誰?」
ジェンがそう言うと、少女は彼女とウィルを見てこう言う。
「もしかして、貴方たち……ウィルとジェン?」
言われた本人たちは「そうだ」と言うが、何故知っているのかと不思議で一杯であった。すると、ドアがノックされた。「入っても良いか?」とディオスの声がする。ジェンは「良いよ!」と言い、父親を招き入れた。
「貴方は!フィーメ公爵!」
「人狼族よ。ようこそおいで下さいました。怪我をしている所を、ウィルとジェンが助けました。」
「そうだったのか……。実は、謎の集団に襲撃を受け、あたしは太腿に怪我を負いました。丁度、フィーメ家の近くだったのでお忍びしました。」
「聞いておる。最近、謎の集団による民族への攻撃が連続で行われていると聞く。人狼族も受ける程とは、連中は何を企んでいるのやら。」
ディオスはそう言ったが、ウィルとジェンがいた事で我に返り、人狼の少女に「また、後で話そう。」と言った。ディオスが部屋を後にすると、ウィルは少女に尋ねる。
「そう言えば、お姉さんの名前は何て言うの?」
「あぁ、ごめんなさい。自己紹介していなかったね。あたしの名は、ウルフィ。よろしくね。」
「ウルフィって言うんだ!よろしく!」
少女・ウルフィの名を聞き、ウィルはお辞儀をした。ジェンも兄に倣って「よろしくおねがいします」と言ってお辞儀をする。ウルフィは、二人の姿を見て「可愛らしい」と思い、彼らの頭を優しく撫でる。
「二人とも、本当に可愛い‼」
そう言うと、二人を抱きしめる。ウィルとジェンは、急に抱きしめられて吃驚する。ウルフィは、怪我の痛みに少しだけ眉をひそめたが、可愛い二人を見れて安心していたようだ。彼女は、数秒後腕を解き、ウィルとジェンに話しをする。
「そうだ。エムリとチャールズとマリアは元気にしてる?」
「うん。お姉ちゃんもチャールズともマリアも元気だよ。」
ジェンはそう言う。ウルフィは、彼らも元気でいる事に安心した。彼女は、二人に今日は何があるかを聞く。ジェンは答える。
「お父さんから聞いたよ!今日は、ウルフ族とヴァンパイア族にりゅうじん族の偉い人が来るって!」
「ジェンちゃん、覚えてたの⁈凄いね!」
ウルフィがそう言うと、ウィルは笑顔でこう言う。
「でしょ!ジェンは、凄いんだ!俺とエムリよりも、初めて喋ったのが早かったんだ。」
「へぇ!凄いな!」
ウルフィはそう言い、ジェンを褒めながら彼女の頭を撫でる。すると、扉からノックが聞こえ、執事が入って来る。
「ウィル様、ジェン様。パーティーの服に着替えるお時間です。ウィル様、服は部屋にてご用意しております。」
「分かったよ、爺や!じゃぁ、ウルフィ姉さん、また後でね!」
ウィルはそう言い、部屋を後にした。「爺や」と呼ばれた執事はジェンにも着替えを用意したと言い、ハンガーに掛かっているパーティー用の服を彼女に見せる。
「パーティー!うん。着替える!」
ジェンは、爺やの元へ行って服を受け取ると、着替えスペースの方へ行った。ウルフィは心配していたが、爺やはそれに気付きこう言う。
「ジェン様は、大丈夫ですよ。人狼族の娘様。ジェン様は、学んで覚えるのがとてもお早い方でして。二歳弱には、言葉をはっきりと言う様になられました。」
(ジェンは凄い。でも、彼女から誰にもない力を感じるのは気のせい?)
「そうだったの。流石、お父さんから聞いた通り、とてもいい子です。」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。」
爺やは、ウルフィにそう言って礼をした。すると、着替えを終えたジェンが来る。
「爺や!着替え終わったよ!」
「おぉ!見事な着こなしですよ、ジェン様。よくできました。」
「やった!」
ジェンは、とても喜んだ。ウルフィも彼女の喜ぶ姿に笑顔になったが、ジェンの左鎖骨にある淡い青の何かが刻まれているのを見えた。
数時間後、夕方を過ぎると、客人である人狼族、吸血鬼族、竜人族の長とその息子が来た。人狼の族長は怪我を負ったウルフィを見て、無事である事に安心した。彼女は、未来の族長として一族を統率する使命を背負っていたのだ。食事をしながらパーティーは行われた。
ジェンはアンヌ、ウィル、エムリ、チャールズ、マリアと共にそれぞれの一族の娘や息子と共に話をしていた。ウルフィは初めて面会したアンヌ、エムリ、チャールズ、マリアに挨拶をした。そして、初めて見る吸血鬼族と竜人族の息子たちはそれぞれ挨拶をする。
「僕は、シグアーガ・ヴァンア。皆から、シーガって呼ばれているよ!よろしくね!」
シーガは、金髪に紅玉の様な瞳を持ち、整った顔に色白の肌が特徴だ。彼は、ジェンと同じ歳であるが、当時はジェンより少し小さかったらしい。次に紹介したのは、竜人族の息子だった。
「俺は、アージョ。遠い所に住んでいるけど、よろしくな!」
アージョは、腕の一部や足首の部分には竜人族である証の白銀の鱗が付いている。彼は、ウィルと同じ歳で活気があるような雰囲気を持っている。
その頃、ディオスや族長たちは話をしていた。
「気付いている人も多いと思いますが、ジェンは特別な力を有しているようです。」
「それは、あの青い…。」
人狼族長はそう言うと、ディオスは頷いて説明をする。
「そして、貴殿たちが来る少し前に王家から報告が入った。ヴィルハン王国が反旗を上げた。」
「何と!」
「あの友好関係だった国が!」
「一体、何があったのですか?」
竜人族長は、ディオスに詳細を尋ねる。彼は答える。
「ヴィルハン王国の国王が亡くなってから、跡取りとされる者が反抗するべく立ち向かって来たと言う。そして、王家の至宝を渡せとの脅迫も入った。同時に、ヴィルハンの旗があの邪竜の紋章を示していた。これから、何が起こるか分からない。古の伝承によれば、ヴィルハンには邪竜を復活させる神殿があると聞く。そして、ヴィルハンの邪竜を蘇らせるべく、邪魔となる一族へ攻撃を仕掛けたと記してある。」
ディオスはその後、「皆には気を付けてもらいたい」と話し、パーティーを再開させた。




