第五十二夜 出会いと秘めた思い
ディオスは、アレスによって自警団へ正式に入団し、アレスと同じ本部隊班へ編成された。本部隊には、ディオスとアレスを含め十人以上はいた。しかし、中々彼がいる事を認めない者たちが大半で、邪険するかのような扱いだった。
アレスは、将来の国王に向けて修行の為、自警団に来る日は多くなかった。仕方ないと思い、ディオスは自分のやるべき事をコツコツと進んで行く。
「アイツ、人殺しのくせによく働いていられるな。」
「本当。アレス様が友人と言って、調子に乗ってんだろ?」
「そうじゃないと思うよ。」
二人の青年騎士の会話に、一人の少女がそう言う。
「あのな、アンヌ。アイツは、フィーメ公爵を、実の父親を殺してんだぞ?」
「絶対、権力を狙ってだぞ。」
「そう?もしそうだとしたら、私たちに対して偉そうに接するはずよ?」
彼女はそう言うも、二人の青年は「どうだか」と言った。彼女は、自警団の団員の中でも彼を邪険にしなかった。何か理由があるはず……そう感じたらしい。
アンヌは、一般家庭で育った美人娘。親の言う事を聞き、国を守るべく魔導士になった。兄弟で「アレックス」と「マーク」がいた。
数時間後、アジトの食堂で食事が始まった。アンヌは、料理をトレーに乗せて席を探し、開いている席を見つけた。そこには、一人で食事を始めたディオスがいた。彼女はその席へと向かい、彼と反対の席へ座った。
「どうも!」
「……どうも。確か、君はアンヌさんだったね。」
「はい。覚えてくれてありがとうございます。」
アンヌはお礼を言い、食事を始め、彼に話しかける。
「そう言えば、妹さんがいらしたんですよね?」
「あぁ。」
「初めてお会いした時、元気そうで何よりでしたが…。今も、元気でいますか?」
「あぁ。今は友人の家にいる。手紙では、プロポーズされたとかと聞いている。」
そう。彼の妹・ヘンリはロッソニからプロポーズを受けたらしい。本人によれば、ヘンリの見た目や性格が好みだったらしく、思い切ってプロポーズしたらしく。ヘンリは、快く引き受けた様だ。彼女の手紙も届いており、ロッソニとの生活を経験して、今まで体験した事の無い事や彼の優しさなどに触れて思いを寄せていた。彼らは、翌年に結婚式を挙げるらしく、招待状をディオスを含め仲間たちに送っているとの事だ。彼らは、後にアンネの両親となる。
ディオスは、ある程度食べた所で、彼女にこう問う。
「なぁ。どうして、君は俺に挨拶したんだ?」
「え?決まっています。同じ仲間、だからです。」
「……そうか。……でも、俺といても何の得もない。父親を殺した騎士なんて、周囲に言われているんじゃ。俺と関わらない方が良い。」
「そうでしょうか?」
「?」
「確かに、周囲は貴方の陰口を言っています。ですが、それは皆が何もわかっていない事がある、と思うんです。……ごめんなさい。私みたいな一般人がこんな事を言って。」
アンヌは、申し訳なさそうに言う。しかし、ディオスにとって彼女は自分の事を気に掛けているのかと感じた。彼は、我に返ってこう言う。
「………あ、いや。……そう言えば、アンヌはいくつだ?」
ディオスは、彼女が初めて自警団の仲間から話しかけてくれた事が嬉しかったのか、そう尋ねた。
「ディオスさんと同じ十八です。学校は、魔導・杖騎士です。」
「同い年だったら、敬語は良い。俺、敬語で話されるのはちょっと、嫌なんだ。対等に接したい。」
「そ、そうなんだ。ディオスは、フィーメ公爵の息子さんだから丁重にと思ってたんだけど…。」
「いや、俺は気を遣って皆を疲れさせたくない。それに、元々は皆人間だ。」
「じゃ、じゃぁ、こ、これから仲良くしてくれる?友達になろう!」
「い、良いのか?」
「勿論!友達は、多い方が良いでしょ!」
アンヌにそう言われたディオスは、彼女が差し出した手をそっと握り握手をした。それは、彼にとって大きな変化の始まりだった。
そんな中、エルシィーダン王国では王都、いや、国内全体が祝いムードに包まれた。それは、アレス王子と南に位置するヴィルハン王国のナシィー王女の結婚だった。話によれば、アレスは一度であったナシィーに一目ぼれしたらしい。向こうもアレスの立ち居振る舞いに惹かれて行ったらしく、互いに思いは一致していた。
結婚式当日の日、ディオスは自警団たちと共にパーティーに招待されていた。披露宴の際、彼は、アレスに祝いの言葉を言った。
「アレス王子、この度、ナシィー王女とのご結婚おめでとうございます。アレス王子は、私の良き友であり、この国の将来を支える立派な王となると私は思います。彼は、王子と言う身でありながらも、自警団を支え―」
祝いの言葉を送った後のパーティーで、アレスはナシィーを連れてディオスの元へと来て話をしていた。
「ディオス。恥ずかしい事を言うなっての。」
「いいだろ?ナシィー様に良い所を紹介兼祝いの言葉なんだから!」
「ディオス、さん。素敵なお言葉、ありがとうございます。アレスさんの素敵な所をもっと知る事が出来て、嬉しいです。」
ナシィーは笑顔で、ディオスに礼を言う。アレスは、彼に小声でこう質問する。
「そう言えば、お前も思い寄せる人は見つかったか?」
「お、お前‼」
「ただ聞いただけだぞ?あ、もしかして、いるのか⁈」
「い、言うなっ‼……お前こそ、何てプロポーズしたんだよ?」
「え⁈あ、その…。」
「【貴女をずっと愛し続けます。そして、貴女の剣として、夫として、将来の王としてお守りいたします。結婚してくれませんか】って。」
ナシィーは、アレスがプロポーズした言葉をディオスに言った。当の発言者である彼は、赤面してしまい「い、言わないって言っただろぉ⁈」と焦っていた。
その後、アレスとディオスは昔と同じ、冗談や青春の話をした。それを見ていたナシィーは、微笑ましく笑顔を見せた。アレスとナシィーは、パーティーの音楽が鳴り始めるとダンスを踊り始めた。二人は息があっており、夫婦らしさが出ている。
その中で、ディオスは無意識に「彼女」を探す。彼女…アンヌはドレス姿で、会場の端に近い場所でグラスに注がれたシャンパンを飲んでいた。
「アンヌ。そ、そんな所にいちゃ、寂しいだろ?」
「で、でも、私…こんな所にいても…。」
アンヌがそう言うと、ディオスは手を差し伸べてこう言った。
「そ、そんな事無いさ。………それより、一曲踊ってくれないか?」
「………はい。」
アンヌは恥ずかしながらも、彼の手を取った。ディオスは彼女を連れて、ダンスをしている場所へと赴き、ダンスを楽しむ人々に混ざって踊り出す。アンヌは、困惑して言う。
「私、上手く踊れない…。」
「大丈夫。フォローするから。」
ディオスはそう言って、彼女をフォローしながら共にダンスをする。彼女はダンスをしている間、頬を赤くしてしまい、しばらくは彼を見る事ができなかった。
パーティーの時間はあっという間に過ぎ、ドレスから普段着に着替えたアンヌは、ディオスの部屋へと入った。
「どうしたの?ディオス。」
「ちょっと、話したい事があってさ。……あ、あのさ。」
ディオスは恥ずかしながらもそう言って、アンヌの手を取り跪く。彼女は突然の事で戸惑ったが、彼はこう言った。
「俺は、国王暗殺未遂事件の時、父親を殺したのは知っているだろ?」
「う、うん。」
「あれは、深い訳があったんだ。俺の親父は、酒を飲んだくれて、暴れ出したら妹に暴力を振るっていたりと愚か者だった。親父は、国王と仲が良かったんだ。ヘンリに暴力を振るっている事と酒を飲み過ぎだと注意されたら、腹を立てて暴力はエスカレートし、遂には国王暗殺を企てた。メイドからそう聞いて、俺は許される事ではないと感じた。国王が殺される前に、何とかしなければいけなかった。親父は、もう止められない状態まで来ていた。だから、殺せざるを得なかった。」
「そんな……。」
アンヌは、初めて聞いた事に驚きしかなかったが、それと裏腹にそんな事情があったのかと思うと、「怒り」と「悲しみ」の狭間を彷徨い、葛藤していたのだと感じた。皆には、全く知られていない真実を王家以外初めて伝えられた。
「だから、お前が……皆が分かっていないから陰口を言っているだけだって言ってくれた時、正直、嬉しかったんだ。」
「嬉しい?」
「あぁ。話し相手もされない俺に話しかけてくれて、本当にうれしかったんだ。色々と助かったんだ。………お前の事が……好きだ。だから、俺と結婚してくれるか?」
そう言われたアンヌはプロポーズを受け、頬を赤らめるも―
「私も……貴方の事が、好き、です。」
と言った。ディオスは顔を上げて「本当に、良いのか?」と言うと、彼女は「私は、嘘を付きません。それに、貴方に恋をしているようです」と返事をした。彼は嬉しくなり、涙を流してしまった。
こうして、二人は夫婦として生活する事になった。ロッソニとヘンリの結婚式の数日後に、彼らは式を挙げた。アンヌは、ディオスの誤解を解くべく、彼と国王の許可を得て国内に事件の真相を話した。
それは、瞬く間に広がった。最初は、信じる者が少なかったが、フィーメ町の人々がディオスの元を訪れ、町を救ってくれた事に感謝したのだ。そうして、彼の誤解は解け、人々と再び親しむ事が出来たのだ。
数年後、ディオスとアンヌが二十六となった頃、フィーメの家で長男・ウィルソンが生まれた。その翌年に長女・エムリーナが生まれ、さらに一年後には次女・ジェンが生まれた。アンヌは、自警団を脱退し、教師として、母親として生活する事に決めた。ディオスは、フィーメ公爵として、町を築き、人々を幸せへと導いた。




