第五十一夜 例え、この手を汚しても… ―国王暗殺未遂事件―
妹であるヘンリを救うべく、ディオス、ロッソ二、メイドは王都からフィーメ町ヘ馬で駆けて行く。まだ、雪は降っていない為、降られる前に済ませる事を優先した。
しばらくして、彼らはフィーメ家に着く。
「メイドと執事たちは、安全な場所に避難しろと伝えてくれるか?それと、町の人にここには近づかぬ様に言ってくれ。」
「分かりました。」
メイドは了承して、屋敷の中に入る。ディオスはロッソニに「門の外にいてくれ」と伝え、屋敷の中に入っていった。
彼はまず、ヘンリがいると思われる場所へ行く。
(ヘンリ。いるかな?)
ディオスはドアをノックして、「ヘンリ、いるか?」と言うと―
「お兄様?入って良いよ。」
そう聞こえ、彼はドアをゆっくりと開ける。そこには、救うべき人がいた。
「悪いな、急に。」
「大丈夫です。」
「ヘンリ。いきなりで悪いが、お前は、ここから出なくては行けない。」
「ど、どういう事?」
ヘンリは、首を傾げる。当然だ。いきなり、訳を説明せずにそう言われても、困る。
「実は……このままじゃ、親父は暴走するんだ。メイドから危険だって連絡が来た。」
「それは、とても危険な事なの?」
「あぁ。悪いが、今の内に王都に身を置かせてもらう。後で、訳を話す。」
ディオスはそう言って、ヘンリの手を取って部屋を出る。門で待っているロッソニの元へ。しかし―
「酒ぇ。酒はどこだぁ‼」
目の前に、イラついている父親が来た。父親は彼らに気づいたのか、話しかける。
「ディオス、お前、帰ってたのか?なら、丁度良い。酒を買ってくれねぇか?メイドと執事が見当たらねぇんだ。」
「……そうですか。悪いのですが、自分で買いに行ったらどうですかねぇ‼」
ディオスはそう言い、ヘンリを連れて、彼女の部屋へと踵を返す。父親はその行動に腹を立て、彼らを追いかける。
ディオスはヘンリの部屋に入り、鍵魔法でドアを頑丈にする。窓の外には、門で待っているロッソニがいる。彼は、部屋の窓を開けた。
「ヘンリ!来い!」
「は、はい!」
ヘンリが彼の元に来ると、ディオスは姫様抱っこをする。
「しっかり捕まってろ!」
そう言い、ディオスはヘンリを抱えたまま窓から降りる。そして、急いでロッソニの元へ駆けつけ―
「ヘンリを頼む。」
「分かった!……さぁ、行きましょう。」
ロッソニの言葉に、ヘンリは彼の馬に乗った。ロッソニは馬を走らせ、王都へと向かった。彼の後ろには、馬に乗ったメイドと執事たちの姿があった。
「ディオス……。」
「来たか。……何の用ですか?」
「とぼけるな。俺の命令に背いた罰を受けてもらう為だ。」
「そうですか。……親父。一つ聞いても良いですか?……国王暗殺を企てているのは、本当ですか?」
ディオスは真剣にそう言うと、父親はこう言った。
「あんな国王、いねぇ方がマシだろ?偉そうに手紙で酒なんか止めちまえってよ。くだらねぇ。」
どうやら、本当のようだ。ディオスは、半分は嘘だろうと思っていたが、今ので崩れ去り、「許せない」と言う怒りが込み上げてくる。
「そうか。……お前がいると、この町どころか国に迷惑をかけることになる。なら、ここで根絶やしにする‼」
そう言い、ディオスは剣を抜き、刃を父親に向ける。もう、誰にも止められなかった。彼の瞳は、覚悟を決めていた。
「良いぞ。止めてたけりゃ、止めてみろ!」
父親がそう言うと同時に、二つの刃が激しくぶつかりあった。
同時刻。ロッソニたちは、馬で王都へ向かっていた。
「あの。」
「どうされましたか、ヘンリさん。」
「あの、お兄様はどうして帰ってきたのですか?」
ヘンリの質問にロッソニは話して良いか迷っていた。しかし、これ以上、不安を持たせる訳にはいかない。
「実は、貴女のお父さんが国王暗殺を企てている事と貴女が虐待を受けていると、連絡が来たのです。このままじゃ、国が大変になりますし、人々が困ってしまいます。ですから、事が起こる前にかたをつけるのです。…申し訳ありません。」
(お兄様…。私の為に…。)
この出来事が起こる数十分前の事。王の間へ出向く際、ディオスはロッソニと二人きりで話をしていた。
「お前に、頼みたい事がある。さっき、ヘンリを馬に乗せて、共に王都へ向かって欲しいって言っただろ?」
「あぁ。」
「もし、暗殺計画が本当だとしたら、俺は親父をこの手で始末しなきゃならない。」
ディオスの言葉に、ロッソニは「そんな事をしたら…最悪の場合、監獄行きか死刑だぞ」と止める様に言う。しかし、彼はこう言った。
「いや、俺が止めなくちゃいけない事だ。お前はもし、そんな事を知って俺の父親を殺められるか?」
「……。」
「悪い。けど、やらなくてはいけない。覚悟が出来ている奴でしか、これは成し遂げられない。」
そう言っていたのをロッソニは馬上で思い出す。
(ディオス…。)
その頃、ディオスは父と剣での戦いを繰り広げていた。父親は、力任せに剣を振るう。ディオスは、その刃を剣で受け止め、こう言う。
「力任せに剣を振るうんじゃねぇ。そんなの剣術とは言わねぇ‼」
そう言って、ディオスは父の剣を押し返し、素早く剣を持っていない方の肩に一撃を入れた。
「ぐっ‼……貴様‼」
「せやぁっ‼」
再び、父からの攻撃を弾き、ディオスは刃を通して攻撃を続ける。そして―
「これで…終わりだぁ‼」
彼は最後の一撃をと思い、行動へ出たが、父親は彼に一撃をかました。それを見逃さなかったディオスだったが、一歩遅く当たってしまった。
「うぐっ‼」
「残念だな。あんな戯言を言っておきながら、無様だ。」
父親は嘲笑うかのように、自分の息子の有様を馬鹿にする。ディオスは怒りに燃えていたが、怒りだけじゃなく、この国を安泰を守る為に剣を振るうのだ。例え、この手で誰かを殺めたとしても…。
「黙れ‼……お前は、都合の悪い事を他人のせいにするな‼……酒が無くなったからと言って、ヘンリに暴力を振るいやがって。母さんにも大変な思いをさせやがって‼そんな奴に、国を荒らさせる訳にはいかねぇ‼」
ディオスは痛みをこらえて、最後の一撃を加えるべく、父親へと立ち向かった。向こうも、最後の一撃をと斬りかかる。二人は、一斉に斬りかかった。すると、剣が一つ地へと落ちた。
「……親父、悪いが…ここで、死んでもらう。」
ディオスは、父親の胸部に刺さった刃を一気に引き抜き、血を払って鞘へと納めた。父親は地に倒れ、何も言葉を発さなかった。
それから数週間後。ディオスは、牢屋にて生活していた。
あの後、父親の遺体を王都まで運び、葬儀を行った後、ディオスは自ら牢屋へと入り、自分の犯した罪を償っていた。また、騎士学校を退学したと言う事だ。
ヘンリは、国王に無事を知らせ、しばらくはロッソニの家にて暮らす事となった。その知らせを聞いたアレスは、「どうして?」と言う表情だった。国王から事情を聴いたアレスは、何かできる事はないかと考え、なるべくディオスのいる牢屋へと赴いていた。
五年後のある日、国王から伝言でアレスはディオスを連れてどこかへ案内していた。
「アレス。俺を、どうするんだ?」
「ディオス。お前は、終身刑にはならない。むしろ、国の危機を救ってくれた。父親の事は残念だったが…。けど、お前には苦しんで欲しくない。」
アレスは、真剣な目でそう言った。ディオスは、彼は自分を救おうとしているのが伝わり―
「ありがとう。でも、父を止めたとしても、俺は人を殺したの過ぎない。一生背負ってゆくだろうな。」
と言う。それは、まるで人生を諦めたかの様なものだった。そして、目的地へと辿り着くと、ディオスは目的地の建物を見て驚いた。そこは、王都を守る騎士団…自警団であった。当時は、騎士と言えども自警団に所属しており、班ごとで役割が異なっていた。
「自警団のアジト…。まさか!」
「そう。俺は、お前を自警団に入団させる。」
「何でだよ!俺をそんな所に入れたって…。」
「意味がないと言うのか?」
「え?」
アレスは、ディオスに真剣な眼差しで襟を掴んでこう言った。
「お前一人で抱え込むな!俺だって、ちゃんとした王になれるか分からねぇんだ。だから、もう人生の終わりって思うんじゃねぇ‼まだ、生きているんだ!これから、前に進むしかねぇんだ‼」
そう言われた時、ディオスは思い出した。町の人々に、「ちゃんとこの町を助けてやる」と言った事を…。
そうだ。まだ、終わっちゃいない……まだ生きているではないか。自分の思いや目標を果たせぬまま、死ぬのは助けを待っている人への失礼ではないか。
【弱きものを助け、忠誠と武勇、名誉を持つ徳を理想とする】
それが、騎士道だと……ディオスは、それを忘れかけている事に気付き、アレスの手を取って言う。
「そうだったな。俺たち、人を助ける騎士になるって、ずっと前に約束してたよな。忘れる所だった…。ありがとうな。」
「全く、お前は。」
アレスは嬉しく、思わず涙が出て来てしまった。ディオスは、アレスにより自警団へ正式に入団する事となった。しかし、皆に認められるまでは時間を要するのだった。




