第五十夜 騎士を目指して
今から二十一年程前。当時、異獣と言う存在は無い。また、ヴィルハン王国との争いもない。エルシィーダン王国には「騎士」と言う者たちはいたが、自警団以外の騎士団は存在しなかった。
王都から南に位置する町…「フィーメ町」。古代の伝説に登場する人物の子孫であるが、ライリーの子孫かノアの子孫か不明だった。
ある日、その町を統治する一家・フィーメ家に一人の少年がいた。彼の名は、「ディオス・フィーメ」。将来、フィーメ町を統率する町長であり、公爵と言う身分を受け継ぐのであった。
その証に、フィーメ家が受け持つ宝剣を所持している。
(はぁ、俺が受け継いで良いのか?父さん、酒ばっかでどうしようもないからな…。俺、将来あんな風になんのかな?)
彼の思う通り。ディオスの父は酒におぼれる寸前、いや、既に溺れていた。所謂、アルコール依存症である。機嫌を損ねてしまえば、大声を上げて罵声を上げると、公爵に相応しくない行動をよくしていた。ディオスの母は何とかしようと努力を積み重ねたが、ストレスの重ねや過労によって死んでしまった。
(父さんみたいになるのは嫌だ。絶対に、立派な騎士になってフィーメの町を救ってやる‼)
そんな思いを秘め、馬車にて王都へ向かおうとしていた。彼は十三歳…騎士を学ぶ資格を得た年齢になった為、騎士学校へ進学し、立派な騎士になる事を目標にしていた。
「お兄様。」
「ヘンリ…、大丈夫か?あまり動かない方が良いぞ。」
彼には、妹であるヘンリがいた。彼女は一歳下であるが、父親の暴力によって所々痣が見られる。彼女は心優しい兄がいた為、前向きへ歩む事に努力をしている。
「いいえ、お兄様を見送るだけ。……気を付けてね。」
「お、おう。絶対に立派になって帰って来る。」
二人がそう話していると、町に住まう人々が彼の元へと来た。人々は、彼が三年程町からいなくなる事を寂しいと言った。ディオスは笑顔で言う。
「皆さん、俺は必ず助けてあげます。しばしの辛抱です。何かありましたら、手紙で連絡ください。……では、行って参ります。」
『ディオス様‼』
町の人々は、馬車に乗った彼に手を振る。彼は笑顔で手を振った。そして、強く誓う。
(必ず、この町を救ってみせる。俺は、騎士になるんだ‼)
王都に着くと、まずエルシィーダン王城へと向かった。第四十九代エルシィーダン国王がいる王の間へ赴き、ディオスは跪いて挨拶を言う。
「国王陛下。この度、お会いできて光栄です。」
「そう畏まらくても良い。余も会えて嬉しい。大きくなったな、ディオス。」
「勿体なきお言葉…感謝します。」
「うむ。して、御父上はどうしておる?」
そう聞かれた時、ディオスは迷った。真実を言うか、嘘を言うか……どちらにせよ、今の父親はどうしようもないのは本当だ。ディオスは、迷った末にこう言った。
「国王陛下…それが、父上は酒に溺れ…町の人々を困らせております。また、妹に暴力を振るう事もしばしばあります。父上のその行為で、母上は亡くなったのです。」
ディオスはそう言うと、彼を歓迎しようと王の間に出向いていた王族たちはざわつく。ディオスは正直に言ったが、これで嘘を付いていると言われればお終いだ。不安が募るディオス。国王は口を開く。
「皆、静粛に‼……そうか。あやつは、何をしておる。友人とは言え、許される事ではない。ディオス。」
「は、はい!」
「余から君の父上に話しておこう。友人である君の父上がそんな事をして、民を困らせる訳には行かん。協力を申し立てよう。」
「……っ‼ありがとうございます‼」
挨拶を終えた後、ディオスはエルシィーダン王家であり、未来の国王となるアレスと話をしていた。
「お前、辛い思いをしたな…。」
アレスはディオスの一家で起きている事を初めて聞いた為、驚きを隠せなかった。
「けど、辛い思いをしたからって逃れる訳には行かねぇ。俺は騎士になって、父さんの様に他人を巻き込む輩にはならん‼」
「…そうだな。お前は、立派になれるだろうさ。そう信じているぞ!」
「お前だって、ぜってぇカッコイイ国王になれるさ。…お互い、頑張ろうな‼」
二人はそう言って、グータッチをした。彼らは幼馴染みで、喧嘩も何度かしている良い友情を育んでいる。アレスは王家剣術を学び始めたらしく、現国王から王剣を授かった様だ。それは、伝説に伝わる邪悪な者を鎮め、消滅させる聖剣であった。
騎士学校の入学式を終え、寮にある部屋へ移動する時間となった。配られたプリントを見て、ディオスはパートナーを探していた。
(えっと、ロッソニ・ミルーセさんが俺のパートナーか。……どこにいるんだ?)
「すみません。ディオス・フィーメさんですよね?」
「あぁ。」
「良かったです。俺は、ロッソニ・ミルーセと言います。よろしくお願いします。」
「よろしくな。って、敬語は良いよ。同い年だしよ。」
「えぇ……。公家の御方にそんな…。」
ロッソニは少々戸惑うが、ディオスは彼にこう言う。
「良いんだよ。パートナーだし、畏まってちゃお前が辛いだけだ。これから友人として、付き合っていくんだからさ!」
「友人…。…良いのか?」
「勿論だよ!改めて、よろしくな。ロッソニ!」
「あぁ。よろしく、ディオス。」
二人は握手を交わした。ロッソニはディオスの友人となり、後にヘンリの夫となる存在だった。彼らは部屋へと移動し、片づけを済ませて、お互いの話を始めた。
「そう言えば、ディオスはどうして騎士になりたいんだ?」
「あぁ。実はな…父さんがどうしようもない人でさ。人々を困らせてばかりで……俺はそんなのを止めたいし、困っている人々を救ってやりたいんだ。」
「え?フィーメ公爵…そんな事を?大丈夫か?」
「ここに来る前、国王様にそう言ったんだ。協力してくれるって言ってくれたよ。」
ディオスがそう言うと、ロッソニは「国王様は優しくていいよな!」と賛同してくれた。そして、ディオスは自分の家の状況を彼に話した。
「酷いな。妹さん、辛いだろうに…。」
「あぁ。しばらく、ここで生活する事になるから心配だ。」
確かに。妹に何かあれば、ディオスは心配でならない。ロッソニは心で「どうしたら、彼女を救ってやれるだろうか?」と考え始めていた。
「そう言えば、ロッソニはどうして騎士に?」
「俺は、将来大切な人を守れるようになりたいって思ってさ。家族とか、武器を持たない人たちを守ってあげたいって思った。」
「へぇ~。良いじゃないか。お前は騎士道に相応しい。そんな人がいなきゃ、騎士は務まらない事もある。」
「そうなのか?」
「勿論。国王様から昔、教えてもらったんだ。人の為に騎士は存在するって、力があるからと言って弱き者たちに刃を向けてならぬって。」
それから、二人は授業や訓練に試験などにお互いに支え合って行った。彼らのいる学校には女子もいる。しかし、訓練で参ってしまう事もあり、二人は紳士如く女子たちに無理させぬ様に頑張っていた。また、悩んでいる仲間と相談し合ったりしてアドバイスをした。それもあってか、生徒たちは彼らに厚い信頼を持つ様になり、訓練でも努力を重ねて行った。
そして、月日は流れて行き、あっという間に冬となった。ある日、ディオスはロッソニと共に部屋にてホットミルクを飲んで話をしていた。
「あっという間だったよな。」
「確かに。この間が春と思ったら、もう冬だもんな。」
そう思い二人はホットミルクを飲んでいると、ドアからノック音がした。それは、まるで急ぎの様かと思われる音がする。ロッソニがドアを開けると―
「ディオス様‼」
「…っ‼どうした、そんなに焦って…。」
ディオスのメイドだった。ディオスは王都へ来る前に、予め何かあったら報告に来るように言っておいた。彼は、彼女の元へ行き、何があったのかを聞く。
「そ、それが、ご主人様が…。」
話を聞いたディオスとロッソニは驚いた。非常事態となった…。
何と、ディオスの父が昔からの友人である国王を暗殺すると言っており、八つ当たりにヘンリを虐待しているとの事だった。このままでは、ヘンリも国王の身も危ない。
ディオスはそれを回避すべく、まずは故郷の町にいるヘンリの救出を計画した。ロッソニたちもそれに賛同した。「まだ、午前中だ。今からでも間に合う」そう信じた彼らは計画を練り、王城の王の間へと駆けつけた。それを聞いた国王は―
「何と…。我が友よ…。」
「細かい事はまだ、未知なる事があります。それが判明し、国王陛下に危険が及ぶのならば、私が決着を着けます。」
決着を着ける…それは、もし国王暗殺の件が真実の場合、ディオスは自分の手で父親を始末すると言う事だった。国王は止める様に言ったが、彼は―
「このままでは、いずれ王国に悪影響を及ぼす危険性があると思います。そうなれば、民が困り果ててしまう。事があってからは遅いのです‼」
と言い、王の間を後にした。馬を借り、フィーメ町へと走りゆくディオスとロッソニたちを国王は見てこう思った。
(彼の目は、本物だった。その揺るがぬ心……私は初めて見たぞ。)




