第四十八夜 非常事態⁈ ―女王と残酷王―
その後、ナシィーとジェンたちは王の間にて話をしていた。
「母さんが無事で何よりだった。」
「ごめんなさいね。迷惑をかけて。」
「いや、母さんは悪くないさ。……それより、ダティ。敵の詳細は?」
「現在調べている中で分かる事は、どの遺体にもヴィルハンの紋章が刻まれています。」
ダティはそう言う。彼の言葉にナイトは考える。その間、ジェンの元には兄妹であるチャールズとマリアがいた。彼らは今までジェンを見守っていただけでなく、困っている者を助け、悪人を捕らえたりと人々の為になる事をして来たようだ。
チャールズとマリアは十五歳。まだ、学校に通う時期のはず…。実は、ナイツァノ王国に二人を招き、保護していたのだ。フウカの話に寄れば、「二人は自分たちの兄や姉を助けたい。また、人々の為に何かをしたい」と思っていたらしい。
同時に、忍と言うものに興味を持ち、勉学と共に修行していった。そして、二人はジェンが十三歳の頃には、忍のスキルをマスターし、人々の為に影で動く「怪傑」に就職したのだ。
「無事で良かった。本当に…。」
「姉さん、泣かないでくれって。なぁ。」
「そうよ。……お姉ちゃんは、本当に心配し過ぎ。」
チャールズとマリアは、ジェンにそう言う。彼女は、ハンカチで涙を拭きながら「大事な兄妹だもの。心配するに決まっているよ」と言う。
通いの瞳でナイツァノ王国にいる仲間たちに昨夜の出来事を伝えた。向こうの国では何も無かった為、無事らしい。
「無事で良かった。女王様は無事よ。」
「本当‼良かった。リアフもニックも…皆無事で良かった。」
リアフは、ナイツァノ王国にいるペラリと通いの瞳で話をしていた。互いの無事に安心している様だ。しかし、そんな暇もなかった。そこへダティが駆けつけた。
「ナシィー様‼」
「何事ですか、ダティ殿。」
「たった今、町で事件が起きました。何世帯化の家が崩壊し、一人の少女が連れ去られた模様です‼」
「何と…。」
ナシィーは詳細をダティに問うと、驚く情報が入った。何と、事件現場はジェンの家の近くで、そこに鉢合わせてしまったアイカが連れ去れたのだ。それを聞いた全員は驚いてしまう。
「アイカが⁈」
「姉さんの従妹が‼」
チャールズとマリアもアイカの事は知っている為、彼女が連れ去られたと聞き、怒りが湧く。ジェンはアイカが巻き込まれたのを聞いて、怒りとショックが降りかかる。ダティに寄れば、娘の解放を望むならば女王自ら、フィーメ街道へ来いと言う事だった。
「なんて野蛮な‼」
「…ナイト。落ち着いて。……フィーメ街道へ行きましょう。」
「お母さん⁈」
「ナシィー様、それは…!」
「そうです。何をして来るか、分かりませぬ。」
ニックとリアフはナシィーにそう言う。確かに、敵は何をして来るか、分からない。殺されてしまう可能性も十分にあり得る。しかし、ナシィーは揺るがなぬ瞳を向けて言う。
「いいえ。民が命の危険を前に王が動かぬとはいきません。私は、民を救いに向かいます。」
「母さん……。なら、俺も行かせてくれ。」
ナイトは真剣な表情でそう言った。ナシィーは止めても無駄である事を悟り、ナイトたちと共にフィーメ街道へ向かった。ナイツァノにいる自警団団員にも伝え、エルシィーダンにいるメンバーだけで街道へ行く事を伝えた。
街道に着き、ジェンたちは隣国のヴィルハン王国の王と面会する。
「これは、これは。女王自ら出て来るとはね。」
フードマントを被った王と思わしき男は、そう言って嘲笑う。ナイトは前に出そうになるが、ジェンは肩に手を置いて彼を落ち着かせる。
「ヴィルハン国王・ゼス殿。今回の件をお話しいただけますか?」
「それなら、私が教えましょう。……私はゼス殿の側近のノベーと申します。お見知りおきを。さて、今回の件ですが、友好を結ぼうと訪れた矢先、災難に遭いました。ついでに、私たちに刃を向けたのです。」
「ノベー」と名乗る女がそう言うと、ヴィルハンの兵士が出て来た。そこには、囚われ手を縄でつながれたアイカの姿があった。
「放して!野蛮な‼」
「この者が私たちに歯向かった者…、念のため捕らえておきましたけどね。」
「…っ!アイカ!」
「お姉ちゃん!私は何もやっていません。この人たちは、偶然通りかかった私をひっ捕らえたのです!」
「あら、そうだったかしら?」
ノベーはわざとらしくそう言うと、アイカは怒って言う。
「大人のくせに、嘘を付かないでください‼」
ジェンは今すぐにでもアイカを助けたいが、どうすれば良いか分からない状態だった。ナイトは怒りに火が付き―
「おい、さっさとその子を放せ!民間人を巻き込むのは卑怯だぞ!」
「ガキは黙ってな。」
残酷王は、ナイトに向かってそう言う。ナシィーは、ナイトを落ち着かせてから話を切り出す。
「……ヴィルハン国王、その子を放してあげてください。戦いで解決する事は危険です。話し合いで解決するべきです。」
「おいおい、今更そんな事を言うなよ。…この捕虜と交換するなら、覚醒の宝玉を持ってこい。」
残酷王の発言に、ナシィーは驚いた。あの宝玉はエルシィーダン至宝であり、世界の危機が迫る時に必要となる大事な物…。それを渡せとは……。「一体、何の目的なんですか?」とナシィーが聞くと―
「勿論。この俺に逆らう奴を皆殺しってな!それに、アンタの生まれ出はこっちだもんな!」
「……っ‼」
どういう事だろうか…。ナイトとリティは、怒った表情をする。ジェンは、少し混乱していた。ナシィーは元々、ヴィルハン王国の王家である事が残酷王の口から出された。
(女王様がヴィルハン王国の王女だった?……っ、何?何かが、頭に、浮かぶ…。何、これ⁈)
ジェンは、突如目の前が真っ白になり、後ろへふらつく。ナシィーがヴィルハン王国の王女である事は記憶に無かった。それだけでなく、何かが脳裏に浮かんでくるのだ。フウカは、彼女を支える。ナシィーは動揺せず、こう言う。
「いいえ。私は今、エルシィーダン王国女王・ナシィーです。貴方たちとの関係は過去にて切りました。」
「うぜぇな。んな、御託は良いんだよ‼」
残酷王がそう言うと、奴の部下がナシィーの前に現れる。奴らは、鋭い刃を持つ斧を持っていた。ナイトは「母さんを死なせる訳にはいかない‼」と言う怒りと使命感の二つが混ざり合い、王剣で目の前にいる敵を斬った。
「母さんは、偉大な女王だ‼だから、守ってやる!勝手に侮辱するな‼」
「ほう、これは宣戦布告か?血なまぐさい戦いの始まりって訳だな。ハっハハハハハ‼」
残酷王は、嘲笑いをした。
「……ついに始まったわね。貴方の大切な人たちが死んでしまうかもね。」
ノベーは、アイカの元へ来てそう言う。彼女は、ノベーの言葉に動揺してしまう。
「…っ‼そんな、お姉ちゃん…皆…。」
その時。アイカを掴んでいた男が、いきなり倒れたのだ。そして、そこへ―
「アイカちゃん!」
「シーガさん‼」
なんと、ナイツァノ王国にいるはずのシーガが駆けつけたのだ。ノベーはシーガを見て、驚く。
「なっ‼どうして、吸血鬼がここに‼」
「……何故、俺の事を知っている。汚らわしい奴に言われたくないね!」
シーガはそう言い、ノベーに強烈な蹴りをかまして、アイカを姫様抱っこして避難する。ノベーは彼の強烈なキックを受けた片腕を押さえ、顔をしかめる。
「確かに…全滅させたはず!小癪な…。」
「ノベー。退散するぞ。……野郎ども、やっちまえよ‼」
そう言った残酷王とノベーは姿を消す。ナイトたちの元には、敵が押し寄せて囲む。しかし、そこには、ナイツァノ王国にいるはずのアンネ、ペラリ、フーティ、ツキノ、メイダがいた。彼らはファマスによって魔法陣でここへ転送してもらったそうだ。
しかし、ジェンの様子がおかしく、立ちあがるので精一杯の様だ。ナイトはこう言う。
「シーガとフウカは、母さんとジェン、アイカさんを頼む!」
「待って、ナイト君。ファマスからの伝言がある。」
「何だ?」
「敵を殺すな。しかし、心の闇を取り除け…。」
「は⁈どう言う意味だよ?」
意味が分からぬ言葉にナイトは苛立つ。シーガは「落ち着け、ちゃんと話す」と言い、続ける。
「ファマス曰く、こいつらはあの二人に操られたヴィルハン市民だ。闇から解放すれば、何か分かるかもしれない…。今は、ファマスを信じるしかない。」
「……分かった。…戦闘を行う団員に命ずる、目の前にいる敵の闇を晴らせ…魔法で奴らの心を救え‼絶対に殺すな‼」
『……了解‼』
ナイツァノ王国にいたメンバーは分かっていたが、それ以外のメンバーはどういう事か分からなかったが、とりあえず王子・ナイトの命に従う事にする。
シーガのエスコートにより、アイカとナシィーはジェンの元へと辿り着く。
「お姉ちゃん!」
「…アイカ…。無事で、良かった。……ぐっ‼」
ジェンはアイカの無事に喜んだが、脳裏に何かがフラシュバックしてしまい、頭を抱え込んでしまう。ナシィーはとても心配する。
「お姉ちゃん、しっかり!」
「頭に、何か、浮かんでくる…。うっ‼」
「ジェン……。」
(記憶に繋がる出来事が、ここであったのね…ジェン。)
ナシィーは、ジェンの背中に手を当てて優しくさする。シーガは、ジェンに何があったのかと聞きたい所だったが、敵が数人こちらへと向かって来た。フウカは、魔鏡を使う。
「目を覚ましなさい‼太陽ノ真実ノ光‼」
魔鏡で太陽の光を反射させる。実際は危険な行為だが、魔鏡ならば光属性の魔法へと変換できるのだ。光を浴びた敵から闇の塊が出現する。シーガは、拳に光を着用させ―
「はぁぁぁぁっ‼」
彼は、一撃で闇の塊を打ち破る。他の団員も必死に戦っている。この国を守る為、仲間を守る為に…。




