第四十七夜 ナシィー、暗殺の危機⁈
楽しい食事と風呂を済ませ、浴衣姿になったジェンとアンネは部屋で話をしていた。
「ねぇ、ジェンは好きな人とかいないの?」
「好きな人?友達だけど。」
「違うって……。さっきお風呂で話していたことよ。」
「ん〜。よく分からない……。」
(本当に、無垢というか、純粋と言うか。)
アンネがそう呆れていると、ドアからノック音が聞こえる。ジェンが扉を開けると、ナイトだった。
「悪いな。アンネ、シーガが来て欲しいって。なんか、二人で話したいそうだ。」
「うん。分かった。」
アンネは、部屋を後にしてシーガのいる部屋へと向かった。部屋に残されたジェンとナイト。ジェンは、彼に話しかける。
「そう言えば、シーガは大丈夫だったのかな?船の戦いで傷を多く負っていたし…。」
「俺も心配したが、大丈夫だと言われてな…。全く、アイツは時に無茶すんだから。」
アンネはシーガのいる部屋の前に着き、ドアをノックして自分である事を伝える。「入って良いよ」と彼からの返事が来た為、彼女は部屋へと入った。
「ごめんね。突然、呼び出しちゃって。」
「大丈夫。そう言えば、シーガ君。怪我、大丈夫だった?」
アンネは彼の元へと行く。シーガはこう言う。
「……大丈夫って、言ったけど…実は回復していないんだ。でも、一瞬で回復する方法は一つしかないんだ。」
そう言うと、彼は彼女を優しく抱きしめる。アンネは突然だった為、少し困惑する。
「シーガ君?」
「ごめん。……ねぇ、アンネ。吸血鬼は赤い月の日にね、愛する人に誓いを立てて、血を貰わなきゃいけないんだ。君は、その覚悟はある?」
シーガの不安を抱えた声は、アンネに届いていた。彼女は、シーガが自分を傷付けるのが怖いのだろうと思い、安心させるべくこう言った。
「……何を言っているの。シーガは私の大切な家族…いや、大切な人だもの。私は貴方といれば、恐怖なんて何も感じないわ。私の血で貴方の怪我を治したい…。」
アンネは恥ずかしいと思いながらも、彼に自分の思いを伝えた。
「……っ!アンネ。……ありがとう。じゃぁ、お言葉に甘えて………っ。」
シーガは、アンネの左首筋に鋭い牙を立てる。
(……っ!)
アンネは最初の一瞬は痛みを感じたが、その後はその部分が熱を持ち始め、体中に伝染してい行くようだった。シーガはある程度で吸血した後、そっと唇を彼女の首筋から放してこう言う。
「誓いは月の日になっちゃうけど…。俺の誓い、受け入れてくれますか?」
「はい。勿論。」
この出来事は後に、彼らに取って幸せと言うものへ近づく大きな一歩であった。
それから、あっという間に二日が経ってしまった。ジェンはナイトと共に、新たな魔法道具…「通いの瞳」と言う物を使って、ある人物との連絡を取っていた。
通いの瞳とは、電話の様なもので相手の様子を見ながら話す事ができる。
「ダティ先輩、そちらは大丈夫ですか?」
自警団を務めるダティと言う青年。リアフと同じ歳で故郷も同じだそうだ。ニックとは、先輩後輩関係ではある。
「…あぁ。ジェンさん、今の所異常はありません。しかし、昨日一通の手紙が届きました。」
ダティの言葉にナイトは耳を疑い、手紙の内容を教える様に伝えると彼はこう言った。
「明日の夜。ナシィー暗殺を目論む集団が現れる。帰れば、新たな仲間……怪傑・フィーメが来る。ファマスより……と。」
「何っ!母さんの暗殺!それに、ファマスって、あの時の者か……。」
「ナイト。どうする。」
ジェンは彼に尋ねる。倭武の王との話を終えたが、本当なのかが分からない。と、そこへ。
「あ、ナイト、ジェン。……どうしたんだ?」
ソルが来た。二人の様子を見て、深刻な事があったのかと察する。
「ソル。あのね、ダティ先輩から連絡があって。ナシィー女王暗殺を目論む集団がいるって……。」
「マジかよ……。それなら、戻ったほうが良い。善は急げだ。」
ソルの言葉にナイトは感謝を述べ、転送魔法でエルシィーダンへ戻る事に決めた。
緊急会議を開き、戻る者は、ナイト、ジェン、ソル、リアフ、ニック。その他でフウカが行く事となった。
「フウカ、大丈夫なの?」
「心配しないで、ジェン。これでも、鍛錬してきたし。友達が困っているなら、助けるべきがモットーでしょ。」
「あ、ありがとう。」
準備が整い、帰還するものは転送魔法陣が描かれた床の上に立つ。フウカは魔境を宙に浮かばせて、呪文を唱える。魔法陣が光り出し、ジェンたちはエルシィーダン王城へと転送された。
光から解き放たれ、ジェンたちは王城の中庭ヘ到着。ナイトは辺りを見回していると―
「やっと来てくれたか。」
声と共に目の前に現れたのは、仮面をつけたファマスであった。
「ど、どっから入ったんだ⁈」
「城壁に古い穴があったからね。」
「あそこか……。父さん、隠していやがったか…。」
ナイト曰く、国王は生前に力がありあまり壁に穴を開けることが度々あった。それが何箇所かにあると噂されていた。
「すまない。けど、僕は君たちを助けに来たのさ。未来を変える為に。」
「未来を?どういう事だ?」
ニックがそう言うと、ファマスは答える。
「あぁ。絶望と終焉の未来だ。」
「……お前は一体、何者なんだ。手紙を寄こしたのは理由があるのか?」
ナイトがそう言うと、ファマスは「僕は未来が見える力を持っている。その証拠を見せよう」と言い、鎌を二本召喚した。ナイトは抜刀をする直前の姿勢をする。
「……そこにいるのだろう。暗殺者。」
ファマスはそう言い、木々の生い茂る場所に目を向ける。すると、ファマスの言う通り、暗殺者が現れた。ファマスは瞬時に背後に周り、暗殺者を斬り伏せた。
「ナシィー女王暗殺は本当さ。……分かってもらえただろうか?」
ナイトたちは「ファマスは事実を言っている」と、確信した。とその時、ファマスはジェンの背後にいる暗殺者に気づいて、彼女を守る為に鎌で防御しつつ、ジェンと後ろに下がるが―
《カキーンっ!》
その音が響くと同時に、ファマスの仮面が綺麗に真っ二つに割れた。傷は追ってはいないが、顔をよく見ると、赤い瞳に金髪の少女であった。
「せやっ!」
リアフは、暗殺者を仕留める。ナイトはファマスが少女であることに驚く。
「女⁈」
フウカは驚いた。ファマスはバレたのには仕方がないと思ったのか……。
「こうなると、もう、男子の演技は必要ないね。」
そう言った瞬間、爆発音が響き、ナイトたちは走り出した。
到着すると、王の間の前に暗殺を目論む集団がいた。ジェンは各自配置に付き、ナシィー女王を守るように伝える。
「ナシィー様を守り、指揮官を討つわよ!……ファマスさんは王の間の扉を守って下さい!」
ファマスは了承して扉の前に立ち、鎌を二本構える。
同時刻。暗殺を目論む集団の指揮官がナイトたちの存在に驚いていた。
「今なら、ナシィーの首を取るところだったのに。……むっ、この気配は?……………フフフっ、こんな所にいようとは!」
フードを被ってよく見えないが、男は悪の微笑をした。
城内は戦闘に入っていた。暗殺を目論む集団たちは攻めていくが、ジェンとナイトの大魔法により倒れて行く。
「兄さん。私達も本気で行く?」
「勿論。王家は俺らにとって大切な存在だ。行くぞっ!」
ニックとリアフは、一族の力である炎と熱の魔法を使いこなす。
「消え失せろ!赤貴族・炎‼」
ニックは剣に着用させ、敵を討つ。リアフは紅玉の宝玉の杖を使いこなし、炎の高度な技を繰り出す。
ジェンは宝剣で戦っていたが、二体の敵が一斉に斬りにかかる。
(……っ‼間に合わない!)
そう思った時だった。
「姉さん‼」
「お姉ちゃん!」
声と同時に敵は討たれた。ジェンは、目の前にいる二人の少年少女を見る。二人共、瑠璃色の瞳に白髪だった。まさしく、ジェンの兄妹であろう。
「……もしかして、チャールズとマリア?」
「そうさ。」
「うん。姉さんの事、見守っていたよ。」
二人はジェンの実の弟と妹であった。彼女は嬉しかった。
「あ、ありがとう。……二人共、援護をお願い!」
『了解‼』
チャールズとマリアは二本の短剣を手に、敵へと突撃する。その様子はかなり武術が上達しているものだった。時には連携技も行使している為、二人で懸命に生きて来たのだろうとジェンは思った。
彼女は、ナイトの援護に向かうべく走り出す。ナイトも彼女の元へ駆けつく所だったらしい。
「ジェン、丁度良いぞ。アイツが指揮官だ。行くぞ!」
「うん。」
二人は、敵指揮官の元へ辿り着く。指揮官は二人を見て、嘲笑う。
「お~、怖い怖い。何、怒ってんだか。」
「お前、よくも母さんを‼」
「ナシィー様を暗殺する不届き者‼退かないなら、ここで成敗する‼」
「良いね。掛かって来い。」
敵指揮官がそう言い、二体一の戦いが始まる。しかし、それは短い時間で終わる。ジェンとナイトの怒りは凄まじく、敵指揮官を追い詰めて行く。そして―
『これで、終わりだぁぁぁぁぁ‼』
二人は刃を一斉に、振り降ろした。指揮官は致命傷を負い、地へ倒れ、血が流れる。二人は刃に付着した血を振り払った。
ナシィーは無事で、事件は一応解決した。敵の遺体からは、ヴィルハンの紋章が発見された。あの国の仕業であるか…真実とは言い難い。しかし、ナイトとシーガは、謎に困惑するジェンたちと違って、何かを考えている様子であった。




