第四十六夜 ナイツァノ王国、到着
ようやく船から港が見えた。ジェンは、久しぶりに再会したメイダと話をしていた。
「本当に助かったわ。ありがとう、ジェン。」
「私こそ、セイレーンの手中にはまる所を助けてくれたもの。それに、人魚族が無事でなによりよ。」
「一時期は大変だったけど、貴方たちのおかげで運河は一安心ね。……そうだ‼」
メイダは、何か思いついたのか?ジェンはいきなりで驚き「どうしたの」と尋ねると―
「ねぇ!これからジェンたちに付いて行って良いかな?」
「え?大丈夫なの?」
彼女がそう言うと―
「大丈夫だよ。むしろ、仲間が増えてくれた方が良いに決まってるよ!」
ソルは、ジェンにそう言う。確かに、仲間が増えてくれるのは嬉しい。しかし、故郷を離れて大丈夫なのだろうか?メイダはジェンの思いを察したのか、こう言う。
「大丈夫!心配しないで。家臣たちに人間と共に運河を守る様に言っておいているから。」
「そう…。…よろしくね、メイダ。」
「うん。よろしくね。」
そして、ジェンたち船の一行は無事に港に着いた。彼女にとって九年ぶりか、それ以上である。ナイツァノ王国…ジェンの前世で言う日本の様な文化を持つ国である。
(久しぶりね。やっぱり、エルシィーダンには無い文化は新鮮…。ん?誰かこっちに向かってくる。)
「おーい!ナイト‼」
一人の青年がこちらへと駆けつける。見た所、王族っぽい感じである。ナイトは、心当たりがあったのか―
「ん?もしかして、ツキノか⁈」
「やっぱり、ナイトか!久しぶりだな!その隣は、リティにジェンだな。それに、ニックにリアフ、ペラリにフーティも…。元気だったんだな。」
ツキノは、久しぶりに見る友人を見てそう言う。すると―
「兄さん。置いて行かないでよね。」
ジェンとナイトと同じ歳くらいの少女が、ツキノの元へ駆けつける。少女はジェンたちを見て、状況を察する。
「久しぶりの再会ね。兄さん、先に宮廷に案内しましょ。」
「そうだな。じゃぁ、ご案内しまーす!」
ツキノは、自警団を宮廷へと向かう為に「馬車を呼んで欲しい」と使者に言い、ナイトと会話をする。
「随分、男らしくなったな。ずっと前は、許嫁に頼ってたくせによ。」
ツキノは、ナイトに冗談でそう言う。だが、これはほぼ事実に近い。そう言われたナイトは頬を赤らめて、慌てて言う。
「ば、馬鹿っ!お前だって、誰かに頼ってた時はあっただろ!」
「まぁまぁ。落ち着けって。…お互い、成長したって訳だ。」
「そ、そうだな。」
ナイトは恥ずかしい気持ちが残り、ツンとした表情で言った。ジェンはそれを見て、アンネに言う。
「ナイトったら、素直に認めればいいのに…。恥ずかしい事なのかな?」
「男子は、こういうのに弱いよね…。」
(ジェンは恥ずかしいと言うの、分かっているのかな?……どこまで純粋なんだか…。)
アンネはそう思いつつ、到着した馬車に乗り込んだ。
同じ馬車に乗り込んだジェンとナイト、ツキノと少女は話をしていた。
「ナシィー女王から聞いたよ。不味い事になったな。」
「あぁ。ヴィルハン王国からの脅迫状は相変わらずだ。覚醒の宝玉を寄越せだと…。」
「そうか…。父上も手紙を見て、真剣な表情をしていたそうだ。その話は早めの方が良いか?」
「悪いが、頼む。母さんからそう言われた。」
「分かった。父上に伝えておくよ。」
ナイトとツキノは二人で話をする。その間、ジェンは少女と話をしていた。
「お久しぶりね。」
「えぇ。改めて思うよ、フウカ。」
少女の名は「フウカ」。ツキノの妹であり、ナイツァノ王国(倭武の国)の王女である。年齢はジェンと同じ歳だ。
「そう言えば、ご両親とかはどうしたの?」
「あ、えっと…。実は、九年前に亡くなったの。私、何が起きたのか記憶に無くて…。」
「ご、ごめん。無理言っちゃって。」
フウカは悪いと思い謝るが、ジェンは「大丈夫」と言い、続ける。
「でも、安心したわ。ナイツァノ王国はエルシィーダンには無い文化や伝統があって。」
「ありがとう。…そうだ。久しぶりに着物とか浴衣を着てみない?」
「え?良いの?」
「勿論よ。宮廷には何着もあるし、お気に入りの色を選んで。」
ナイツァノ王国は、浴衣や着物を主に普段着としている。最近は、洋服を着る人もいる。また、武器や装備もエルシィーダンと違う。刀や薙刀、魔境(魔力を宿した鏡の事)、甲冑などである。
「ありがとう。」
そして、自警団一行は馬車の案内で、ナイツァノ王国宮廷に到着した。入り口付近に鳥居があり、神聖な感覚がする。早速、ナイトは倭武の王の元へ向かい、ジェンたちは宮廷の宿泊部屋へと向かった。
「ここが私たちの部屋と言う事ね。」
アンネは、ジェンと同じ部屋に入った。藺草が丁寧に編み込まれた畳がある和室だ。木材に精巧な彫刻が刻まれた箪笥……中には浴衣が二着入っていた。さらに、必要最低限の生活必需品が揃えられていた。
(流石、ナイツァノ王国ね。確か、お父様が言っていたおもてなしと言うものだったかな?)
ジェンはそう思い、部屋の窓を開けバルコニーへ出る。先程、訪れた港が遠くにある。また、海からの風が心地よい。風の心地よさが部屋の中まで入って来ていた為、アンネもバルコニーへ出てジェンの隣に来る。
「本当に、良い国だよね。」
「うん。昔と変わらない……伝統をちゃんと持っていて、人の希望が満ちている。」
(…私の町みたいに、ならないもの。)
ジェンはネガティブな考えは止め、楽しい事を考えるようにした。
その頃、ナイトは倭武の王とエルシィーダンに起きている状況を話した。
「…そうだったか。何という事だ。」
「倭武の王殿…、どういたしたら良いでしょうか?」
ナイトは、真剣な表情で言う。確かに、今のエルシィーダンにとってヴィルハンが何をして来るか、いつ襲撃を受けるかもわからない。だから、ナシィーは協力関係のあるナイツァノなら何か良い案が出る可能性を見込んで、手紙を送った様だ。
「よし。では、万が一の為に軍勢を用意しておこう。だが、あちらから宣戦布告があった場合に対応する。それで良いか。」
「はい。ありがとうございます。貴殿と同じ考えだったので、安心しました。」
「いや、こちらこそ。ナイト殿、貴殿は立派な王になれるよ。」
「勿体なきお言葉…ありがとうございます。」
ナイトはそう言い、礼をする。倭武の王は彼にこう質問した。
「そう言えば、フィーメ家の皆はどうしたんだ?」
「あ、その…。実は九年前に…バラバラになったそうです。」
「何と……。」
「俺にもよく分かりませんが、ジェンの両親は亡くなりました。彼女は、事件当時の記憶がないんです。彼女の兄妹は無事と言われていますが、彼女の姉は、ヴィルハンに囚われている可能性があります。」
ナイトの言葉に倭武の王は「ツキノとフウカが所属する使節団を貴殿に授けよう」と言った。
「ありがとうございます!」
同時刻辺り。シーガは、ソルと共に部屋にて話していた。
「どうしたんだ?シーガ、相談って。」
「実はさ……吸血鬼一族にとって、大事な事があって。いつになるか、分からないけど、儀式があるんだ。」
「もしかして、赤い満月の事か?」
ソルの言葉にシーガは驚いた様子だった。ソル自身も、まさか図星を言ってしまったとは思わなかったのだ。
「ソル君は凄いね。ズバリと当てちゃうなんて。」
「あ、いや、その……実は前呼んでいた小説に書いてあったんだ。赤い満月の日に吸血鬼の一族は愛する人の血を飲むって。」
「……そう。けど、俺は誰かを傷付けてまで儀式を行う訳には行かない…。大切な物を失う訳には行かない…。」
「……でも、相手の為だと思っても、シーガが苦しむのは……俺は嫌だな。」
ソルがそう言う。シーガはそうだとは分かっていても、心で戸惑いを隠せなかったのだ。
「お前にとって、大切な人は…ちゃんと受け入れると思うよ。俺は、そう信じているさ。」
「…ソル君の勘はどこから来るの?」
「えっと、まぁ、よく考える癖があってさ。あはは…。」
「ふふ、ソル君らしいな。」
(アイツは俺の事、どう思っているんだろう?)
シーガはそう思い、窓の外を見た。外を眺める瞳は、どこかに迷いと不安があった。ソルはシーガの不安がどれだけなのか、分かっていたのかもしれない。
しばらくして、夕食時となった。昼は船上の戦いもあったせいで、食事をしていなかった自警団一行は、とても楽しみにしていた。
「あぁ~、腹減った…。」
「確かに、昼ごはんは取る時間も無かったからね。久しぶりに、楽しみだわ。」
ジェンとナイトはそう言う。彼らだけではない。アンネ、シーガ、メイダ、ソル、リアフ、ニック、ペラリ、フーティも…その他の団員もだ。
宴会場の様な広い食堂に、全員座布団に座り、長机に並べられた豪華な料理を眺める。巻き寿司、刺身盛り合わせに一人分のサイズの小さな鍋が人数分などがあった。
宴会場に全員集った所で、ツキノがナイツァノ王国代表でこう言った。
「エルシィーダン王国の皆様方、倭武の国へようこそおいでになり、ありがとうございます。今日はたくさん召し上がってください。それでは、乾杯~‼」
『乾杯~‼』
自警団たちは、ジュースや酒が注がれたコップを天に掲げて乾杯をする。
ジェンは笑顔で元気良く「乾杯」と言った。再会した同じ歳のフウカと共に、アンネ、メイダも仲間に加えて、仲良く話していった。




