第四十四夜 思わぬ天災 ―仮面のファマス―
ボス的存在の異獣を倒し終えた後、ジェン、ナイト、シーガは無事に自警団と合流した。団員たちは軽い怪我で済んでおり、ナイトは安心した。
ソルのおかげで、比較的安全な場所に誘導する事ができたようだ。
「ソル。ありがとうな。お前のおかげで、仲間たちは怪我が無かった。」
「いやいや。俺は、ただ頼まれた事をやっただけだ…。」
「謙遜するなって。本当に感謝している。……さて、今日はここにテントを張るか。」
「そうだな。皆、少し休ませないと…。それに、ここからナイツァノ王国に行くのは近いし。」
「そうか。じゃぁ、伝令するか。」
ナイトは、「今日はここにテントを張る」と伝令をした。団員たちは、テントを張る班と食事を作る班に分かれ、それぞれの役割をこなしていた。
ふと、ナイトは空を見上げた。もう、夕焼けであった。昼に王都から数時間なのに、一日の終わりが迫ろうとしている。なんて、あっけないのだろうか…。
夜になり、自警団は夕食を摂っていた。ジェンはコップに注がれたスープを飲み、草原に座りながら星空を眺めていた。
「大丈夫か?」
「ナイト…。うん。少し、疲れちゃったけど…。でも、久しぶりの綺麗な星空を見れて、嬉しいの。」
ジェンは、幼い時の記憶をまた思い出した様だ。町で七月七日に町明かりを全て消し、夜空に煌く星々に願いを託すと言う行事だ。彼女の前世で言う「七夕」と同じ様な物だ。
「そう言えば、星をよく見てたな。俺たち。」
「うん。」
ジェンはそう言って、まだ暖かいスープを飲む。ナイトは、ジェンを見て心で思う。
(本当…。お前は、無垢と言うか純粋って言うか。)
「ふぅ、美味しかった。さてと、そろそろ帰って寝よっか。」
「おう。そうだな。明日も早いし、早めの就寝にするか。」
ジェンとナイトは、テントが集まる仲間たちの元へと戻って行った。
それから、しばらくして皆が就寝した頃……。
「……!」
ナイトは何かの気配を感じたのか、ベッドから起き上がって装備を整えて、テントの外に出る。すると、音で目を覚ましたリティが杖を持って来る。
「お兄ちゃん…、どーしたの?」
「リティか…、起こして悪い。何か、嫌な気配がしたんだ。」
「え?でも、このテント集落には異獣から守る結界があるよ。」
「そうなんだが……。とにかく、俺は周囲を見て回る。」
「私も行く。お兄ちゃんを一人にしない。」
「悪いな。でも、ありがとな。」
二人は結界を越えて、近くの林に入って行く。ナイト曰く、この林付近から何かの気配を感じたらしい。また、愛馬の様子がいつもと少し変だった。
また、「動物たちが、近くの林から逃げている様子だった」とソルが話していた。
(ソルの言う通りだ。……たが、静かすぎる。)
ナイトが思ったその時!
「きゃぁ‼」
「うおっ!」
突如、地面が大きく揺れた。地震だ。ナイトはリティを自分の方に寄せ、周囲を見る。すると、西側の方角から地響きが発生した。ナイトは、林の奥の方から地割れが起きている事が分かり―
「リティ、皆がいる方へ走れ!」
「え?」
「良いから。早く!」
ナイトはリティを先に走らせ、直ぐに自分も走り出す。すると、彼らのいた場所は地割れによって引き裂かれる。そして、地下から炎の液体が吹き上がる。マグマだ。
二人は急いで林を抜ける事ができ、息を整える。こんな自然災害は初めてだ。しかし、そんな暇もなく―
「お兄ちゃん‼あれ!」
「……っ!」
(あれは、新手か!見たことも無い…強敵かもしれねぇ。)
ナイトとリティが見たのは、人型の形を取り、怪しく光る赤の瞳、敵意剥き出しで立つ者が何体かいた。確かに、見たことも無い。
「リティ、下がれ。」
「う、うん。」
ナイトは王剣を抜刀して構え、リティは杖を手にしつつ、ナイトの後ろに下がる。
すると、一匹の人型がナイトに向かって走り出し、手にしている斧で攻撃する。ナイトは王剣で鋭い一撃を行うが―
(……っ!何っ!)
人型は倒れず、彼に反撃する。ナイトは王剣の刃で防御をするが、人型は人間と同じ力を巧みに使う。
(クソっ!)
「はぁぁぁぁ‼」
ナイトは精一杯に人型を押し返し、鋭い突きで人型を仕留める。見事だが、彼はこれ程力を有する戦いを経験しておらず、疲れが一気に襲い掛かる。しかし、そんな場合ではなかった。
「こ、来ないで‼」
「……っ‼リティ!」
リティの元には、一匹の人型が迫っていた。ナイトは、大事な妹を守るべく走ろうとするが、体力がさっきので大きく削られており、走るのがやっとだ。危機が迫る兄妹…。
その時、空中に転送魔法の魔法陣が描かれた。そして、魔法陣の中から仮面をつけた一人の者が現れる。仮面の者は地面に着地すると共に、リティに迫る人型を鎌二本で仕留めた。
「…!」
「…お前は、一体…何者だ?」
ナイトは、仮面の者に問う。その者は、彼の問いに答える。
「悪いが、話は後だ。…今は目の前の敵を片付けよう。」
そうだ。話している場合ではない。目の前の敵は、まだいる。ナイトは一気に片付ける為、王剣を強く握り、覚醒の姿に変え、王剣に力を溜め―
「王剣よ…我が意思に答え給え……エルシィーダン・ラーフ・王剣‼」
ナイトは、刃に溜まった一撃を人型に勢い良く当てた。それは、天に光の柱の様に聳え立つ程の威力だった。
彼の攻撃で人型は消滅した。ナイトとリティは、仮面の者に礼を言う。仮面の者は礼を言われた後、こう話し始める。
「いや、貴方様の力があってこそだ。」
「そう言えば、名を聞いていなかったな。名は何と言うんだ?」
「僕は、ファマス。」
「ファマス…。時を越えた者と言う意味か…。先程の武術は見事だった。どこの出身だ?」
ナイトはそう聞くが、仮面の者はこう言う。
「それよりも…これは、未来の闇の予兆だ。王都に影響はないが、気を付けてくれ。異獣は減って行くが、人型…屍型がこれから増える。それと、旅先で注意してくれ。……運河より聞こえし、歌に惑わされるな……特に、神器を持つ者以外はな。」
仮面の者はそう言うと、さっさと歩いて行ってしまった。リティは「待って」と言ったが、仮面の者は既に姿を消していた。と、そこへ―
「ナイト‼リティ‼」
「ジェンさん!」
ジェン、アンネ、シーガ、ソルが駆けつけた。リティは怖かったのか、ジェンに飛びつく。
「おっと!……ナイト、この林の状況は?」
「もしかして、俺の言っていた事で…。」
ソルはナイトに話した事を思い出し、そう言う。ナイトは「勝手に行動してすまない」と謝罪した。ジェンは「反省しているなら構わない。でも、無事で何より」と言った。
「この場所は危険だ。テントの方へ戻って話をする。」
ナイトの言う通りに、彼らは林から離れてテントの方へ戻った。彼は何が起きたのか、経緯と状況をジェン、アンネ、シーガ、ソルに説明した。
「何ですって。……屍と言う新たな敵…。」
「力を巧みに使うなんて、厄介ね。」
「ナイト。本当に仮面の人は、鎌を持っていたのか?」
シーガはナイトにそう聞くと、彼は「そうだ」と言い話を続ける。
「あと、こんな事を言っていたな。あの現象は、未来の闇の予兆だ。王都に影響はないが、気を付けてくれ。異獣は減って行くが、人型…屍型がこれから増える。そして、旅先で注意して欲しい。……運河より聞こえし、歌に惑わされるな……神器を持つ者以外はって。」
「どう言う事なんだ。」
シーガはナイトに聞くが、「分からない」と言って話を続ける。
「でも、これから何かが起きる事があるのかもしれねぇ。それに、その者は自分の事をファマスって言っていた。」
「ファマスって、時を越えた者と言う意味?」
ジェンはそう言うと、ナイトは頷く。彼は「これからは気を付けて行こう」と言い、皆を寝かせた。
そして、翌朝。自警団はナイツァノ王国に向けて、出発していた。リティは昨日の疲れか、荷馬車にて寝てしまっていた。アンネ、シーガ、ソルは彼女をそっと寝かせてあげつつ、前にいるジェンとナイトに注目している。
「あの二人、本当に仲良いな…。」
「まぁね。昔からみたいだよ。幼馴染みってトコだね。」
「私たちと同じね。」
ジェンとナイトは乗馬しつつ、仲良く話していた。
「そう言えば、この先はラフィンナ運河があったわね。」
「あぁ。海軍の報告に寄れば、運河や海自体には異変は無いが…何でも歌に誘われて海に突如飛び込む奴がいると聞く。」
「もしかして、人魚型の…。不思議な歌で人を誘うって言う…。でも、変よ。九年前、そんな事…無かったのに…。」
そう。彼女たちが七歳の頃までは、人魚一族がそんなことをする訳が無かった。しかし、ナイトによればフィーメ町消滅事件から、人魚一族の一部が突如敵意むき出ししたと言うのだ。「明らかにおかしい」と二人は思った。
自警団一行は各自休憩を取りつつ、運河へと向かって行った。




