第四十三夜 ナイツァノ王国ヘ
自警団の仕事にも慣れ、溜まっていた仕事を終えた頃。ジェンは誕生日を迎え、十六歳となった。
そんなある日、ナシィーに呼ばれたナイトとジェンは王の間にて話をしていた。
「母さん。伝えておく事って何だ?」
「そろそろ。ナイツァノ王国に行くとリティから聞いて。二人に話があって。」
王の間の外には、アンネ、シーガ、ソルがいた。
「遅いなぁ…。」
「何話してるのかな?」
シーガとソルは王の間のドアに耳を当て、中の様子を音で探る。アンネは「やめておきなさいよ」と言っておくも、二人は辞める様子がない。
と、その時。
「うわぁ‼」
ドアが開き、シーガとソルは尻餅をつく。ジェン、ナイト、リティが王の間から出る際に、ドアが開いたので、驚いてしまった様だ。
「どうしたの?シーガ、ソル。」
「ったく。盗み聞きするから、罰が当たったんでしょ。」
アンネの言う通りだ。シーガとソルに罰が当たった様なものだ。ナイトは「準備を整えた後、ナイツァノ王国ヘ出発だ」と言った。この知らせを聞いた三人は、喜んだ。
その様子を、ナシィーは微笑んで見守っていた。
“ナイト、リティ。貴方達は、立派になったわね。ジェン、ナイトとリティを…頼んだわよ”
ナイトは、自警団団員にナイツァノ王国へ赴く事を伝え、準備をする様に命じた。
“無理はさせたくないが…。数日前、母さんが言っていた俺とシーガだけに話した忠告…気を付けないとな…”
ナイトは、ナシィーから何かを伝えられたが、自警団の団員にも…ジェンやアンネ、ソル、リティにすら話せない事だと彼の様子から察する。一体、なんだろうか?
「ナイト様!準備は整いました!」
自警団の団員が、ナイトに「出発準備は完了した」と伝えた。彼は「よし、ナイツァノ王国に向けて、出発する‼」と言った。
ジェンとナイトは愛馬で、アンネとシーガ、ソル、リティ、リアフ、ニック、ペラリ、フーティは荷馬車に乗り込んだ。他の団員は、騎馬班と荷馬車に乗る班に別れた。そして、自警団は王都を出発した。
城下町の南門へ向かう際中、町の人々は彼らに「いってらっしゃい!」や「気を付けてくださいね!」などと声が掛かる。ジェンは、ナイトと先頭で馬を歩かせていた時、自分たちを見送る町の人々の中にクラッド、アイカ、アレックス、フィノがいた。四人とも手を振っている。
「姉さん!気を付けてな‼」
「お姉ちゃん!いってらっしゃい!」
クラッドとアイカは笑顔で、ジェンにそう言った。彼女は、手を振って「いってきます‼」と元気よく言った。クラッドとアイカは彼女だけでなく、ナイト、アンネ、シーガ、ソルや自警団全員にも手を振った。
彼らに気付いたアンネ、シーガ、ソルは笑顔で手を振った。
南門を抜け、騎士として初めての外を見た。訓練事件以降、全く外へ赴いていなかったが、あの日と変わらぬことに、ジェンは嬉しい気持ちであった。
「ジェン。嬉しそうだな。」
「えぇ、勿論!それに、ツキノとフウカに会える事も、ナイツァノ王国に行ける事も…何もかもが久しぶりで嬉しいもの。」
「変わらないな。…相変わらず、昔から人と会う事も異国へ赴く事も喜んでいたな。」
「そ、そうかな?私は、ナイトもそう言う気持ちはあると思う。」
「まぁな。俺も、久しぶりで元気にしているか、どんな人になったか、楽しみだ。」
二人はそう言って、笑い合う。その様子を密かに、荷馬車からアンネ、シーガ、ソル、リティは見守っていた。
「あのお二人。仲良く話しているね。」
「確かに。」
アンネ、シーガはそう言う。ソルとリティは、何故か喋らずに二人を見守っている。時々に、リティはガッツポーズしている。恐らくだが、兄の応援だろうか?ソルとリティは、二人で何かを話している様子も伺える。
その数秒後、シーガはアンネに話しかける。
「そう言えば、アンネちゃんって、ナイツァノ王国に行ったことあるんだっけ?」
「うん。随分小さい時で、記憶に無いけど…お父さんが教えてくれたよ。」
「そっか!父さんがいつも俺と人狼族と一緒に行ってたけど、最近行っていなかったんだよね。」
「人狼族?確か、人間と狼の二つを持つ一族の事?」
アンネがそう言うと、シーガは頷く。彼は、吸血鬼の伝統行事が行われていた時に、一族が訪れて来た事があるらしく、その時、一つか二つ上の人狼の少女が未来の長と言われており、信頼を築いていると話した。しかし、吸血鬼の一族が殺された後、少女と会っていないと言う事だった。
“人狼族の女の子が、今、族長になっているかもって事か…。シーガって、やっぱり女子にモテるんだね…。はぁ…”
アンネは表情を変えないまま、そう思っていた。が、シーガは彼女の様子の些細な変化に気付き―
「あれ?もしかして、嫉妬しちゃったかな?」
「ち、違うわよ‼絶対ないから!」
「そうかな?」
シーガはそう言うと、彼女の頬にキスをする。アンネは、まさかの出来事で頬を赤く染めた。彼は彼女をからかったが、アンネは軽く拳で彼の肩をパンチされた為に降参する。
“本当。可愛いんだから。俺だって、言っちゃうと嫉妬する時もある…。いつも、他の男と話しているのかって思うと、嫉妬深くなるんだよ。まぁ、ジェンちゃんの髪の毛がふわふわなのは事実だけど…お前だって可愛い所があるから、こっちだって…たまに心がやられそうになる”
“ったく。シーガは、女たらしと言うか…。まぁ、年齢を重ねて行くごとに大人っぽさとか男っぽさとか増したけど…。妙に色気もあるし…。何なのよ”
己の気持ちが混同する二人。しかし、これは「とある感情」の始まりかと思えるきっかけになるか否か…。だが、これだけは言える。二人の間には、幼馴染み以上の「何か」が生まれようとしていた。
出発してから数時間後。周囲に危険がいないかナイト、ジェンたちは見て、ナイツァノ王国に向かって進んでいた。乗馬していたジェンは何かの気配に気付き、今歩いている道のすぐ右側にある森を夜目の魔法で見る。
“……っ‼”
ジェンは何かに気付き、宝剣を抜刀する。ナイトは彼女に「何か見えたのか?」と問う。すると、彼女は―
「ナイト…。奴らの気配があの森にいる。……おそらく、待ち伏せだ。安全な場所にすぐ向かって欲しい。ソルなら、安全な場所とかすぐに見抜けるし、彼に任せても良いわ。」
「何でそんな事、言えるんだ?」
「ソルは先の事も考えてくれて、何度か助けられたのよ。勘が良いと言うか……。私の馬、お願いするよ。」
と言うと、ジェンは手綱をナイトに託して森の方へと飛翔で飛んで行く。
「…っ!ジェン‼……至急、ソルを呼んでくれ‼」
団員にナイトはそう言い、ソルを召集させた。
ジェンは森の近くに付き、宝剣を振るい、光魔法弾を森の中に放ち、光を暗い森の中に照らすと―
“間違いない…異獣だ‼”
光によって、森に潜んでいた異獣のシルエットが見えた。見破られたのか、異獣は森から出て来た。見てみると、蜘蛛型、蛇型、鴉型の三種の集団だった。
それを見たナイトは、ソルに仲間を安全な場所まで先導するように頼み、ソルを自分の馬に乗せ、ジェンの馬を預けて出陣する。
そして、シーガと精鋭の自警団団員も出陣する。
「アンネ、リティ。お前たちは遠距離で部隊に異獣を近づけさせないでくれ!…アンネ、ここはお前が指揮を執ってくれ!」
「が、頑張って見る‼」
アンネはそう言う。シーガは、ジェンとナイトの元へと向かう。リティはアンネに「大丈夫だよ!私も付いている‼」と励ました。
「ありがとう…。…矢部隊‼」
アンネの指示により、弓矢部隊は魔法で矢を作る。
「攻撃用意!」
アンネは、弓矢部隊にそう言う。彼女もリティも杖で矢を作り、放つ構えを取る。そして―
「放てぇ‼」
アンネは威勢のいい声でタイミングを計って、言う。彼女とリティを含めた弓矢部隊は一斉に矢を放つ。すると、鴉型の異獣は矢によって撃ち落とされる。
一方、ジェン、ナイト、シーガは蜘蛛型、蛇型それぞれ討伐していた。ジェンは初めて一騎で戦う事になる為、油断はしない。これまでも、異獣の危険や恐ろしさは見て来た。それを今、生かす時だと感じていた。
“…っ!森に、異獣?大型…ボス的存在かな?”
「ナイト、シーガ…ここを頼んでも良い?」
「喜んで!」
「どこに行くんだ?」
頼まれた事を了承したシーガとは反対に、ナイトは彼女に尋ねた。
「ボス的存在の異獣に会いに行くのよ。」
「気を付けろよ!」
ナイトはそう言うと、ジェンは「ありがとう」と言い森の中へと入った。
森へと入ったジェンが少し進んで行くと、異獣の攻撃と思われる物が飛んでくる。ジェンは直ぐに避けて、薄暗い森を夜目で見ると、ボスらしき蛇型の異獣が正面に待ち構えていた。大きさは、十m~二十mくらいだろうか?その体には、知性を持つ証が刻まれていた。
「全く、驚かせてくれたね。攻撃の正確さは、知性が有るって事かな?…なら私も、負けない‼」
ジェンは宝剣を輝かせ、風刃を五つ放つ。異獣は攻撃を受けるも、反撃をする。彼女はすぐさま避けて、矢や光線、魔法弾を放ち、接近しては刃で攻撃する。
異獣は彼女の速さに追いつけないのか、傷だらけになっている。ジェンはこれ以上長くは付き合っていられないと思い、宝剣を強い光を発させる。
異獣は、その光の強さに動けなかった。それを狙い、ジェンは斬りかかった。
「我が一族の刃を受けよ!ライリー・フィーメズ・宝剣‼」
ジェンは、異獣の頭から尾まで力を宿した宝剣で斬る。斬り終えた後、異獣はジェンの凄まじい力によって粉々に飛び散った。




