第四十二夜 諦める訳には… ―卒業へ―
魔導・杖騎士学校の「郊外訓練事件」から二日が経った。ジェンは目を覚ましたが、しばらく休養を貰う為に王城の彼女の部屋のベッドへ横になり寛いでいた。
“はぁ…。私ったら、皆に迷惑をかけてばかりだわ…。訓練事件も、私を捕らえようとして異獣が押し寄せて来たし…”
ジェンはあの事件を境に、記憶が徐々に鮮明となって来た。自分の兄妹の事、両親の事…。しかし、家族を亡くした原因は未だに思い出せない。
「アンネ、ソル…シーガ、ナイト…皆。私って…迷惑な存在なのかな?」
同時刻。アンネはナイトやナシィーの許可をもらい、城へと入っていた。
“大丈夫かな?”
アンネはジェンのお見舞いに来ており、見舞い品にナイツァノ王国の菓子を持って来ていた。そして、彼女の部屋に辿り着き、「ジェン、入るよ」と言い入室してベッドに横たわるジェンの元へ行く。
「アンネ…。わざわざ…。」
「わざわざじゃないよ。…私が勝手に、皆の代表でお見舞いに来たの。」
「勝手じゃないよ。…ありがとうね。こんな世話を掛ける私の友達でいる事に感謝するよ。」
「そんな!迷惑じゃないっての。友達は迷惑をかけても、それを互いに協力して解決するってもんでしょ?」
「……。」
ジェンはアンネの言葉に何か思ったのか、天井を見る。
「……?ジェン?」
「あ、いや。考えてみれば、そうだなって思ったの。……何か、私、馬鹿な考えをしてたって。」
「ふふ。誰だって、馬鹿だって思うようなことはあるよ。……あ、そうだ。ファデル校長にしばらく休むって言ったら、了承してくれたよ。国ごと救っているジェンだし、十分に休養を取って欲しいって。」
「校長が…。世話を焼かせてしまったわね…。感謝します…校長。」
ジェンはそう言った。アンネは、見舞い品の和菓子をジェンに話す。彼女は「丁度、食べたかったものだ」と言って喜んだ。アンネは食べやすさを考えて、草餅を買って来たのだ。彼女はジェンの上体を起こし、草餅を渡した。
ジェンは草餅一つを手にして、口にする。
「ん‼美味しい‼」
「よかった!試食して、美味しいと思って買ったの。……あ、それで、ナイトから伝言があって。」
「ナイトが。」
「私たちが卒業した後、ナイツァノ王国に連れて行ってくれるそうよ!…あと、ジェンの事を心配していたそうよ。今、自警団の方で忙しくて、見舞いに来れなくて悪いって言っていたよ。」
「そうだったの。ナイトは、本当に優しいわね。」
“あ、でも、これって、ナイトにジェンには言わないでくれって言っていたっけ?……まぁ、いっか”
と、アンネは思いつつ、ジェンとの会話を楽しんだ。
その頃、ナイトは自警団のアジトにて書類確認等を行っていた。しばらく、忙しかったせいで山済みで、妹のリティは兄である彼の手伝いをしてい?。
“あぁ…この所、自警団の仕事をすっぽかしてたな…。まぁ、でも、リティも手伝ってくれているし…頑張るっきゃない”
と、彼は思って懸命に書類をまとめる。
「お兄ちゃん!この書類、どうすれば良い?」
「あぁ……、これはサインして、保管しておけば大丈夫なやつだ。」
「オッケー!」
リティはそう言い、ペンを走らせる。
“お兄ちゃん。…真剣だな。よし!私も負けていられない‼……ところで、ジェンさんは大丈夫かな?”
と、ジェンの事を心配しながらリティは書類をまとめて行った。
自警団の団員は異獣の対処による負傷者が多く、時には死者が出ている。自警団だけではない、駐屯団、天馬・飛竜騎士兵団も、負傷者と死者が出た。
それは、これまでよりも規模は大きく、異獣の脅威を確証させるものだった。しかし、ジェンの言葉やその仲間たち活躍により、民は光を見失わなかった。
“自分たちは無力…でも、出来る事で役に立ちたい”
それは、小さな願いでも大きな願いであった。
それから、一年という月日があっという間に経とうとしていた。ジェンはあの後、完全に回復して学校生活を送り、卒業の日となった。
卒業式の後、入学式が行われ、入学生の中にはクラッドがいた。彼はもう、十三歳……逞しく優しさと正義のある少年となった。
「クラッド君、もう十三歳なのね。カッコよくなったね。」
「そうだな。俺らは卒業だけど、アイツはちゃんとした騎士になれるさ。」
「ソル。その考えは、どこから来るの?」
ジェンがそう言うと、ソルは「俺の勘だ」と自信満々に言う。ジェンとアンネは、流石に苦笑いだった。
「皆〜、卒業、おめでとう!」
「シーガ。仕事は大丈夫なの?」
「大丈夫!三人共、自警団に入ってくれるのは嬉しいよ!」
シーガはそう言い、三人に肩組をする。四人は笑い合った。その後、ジェンの伯父のアレックスによって写真を撮り、ジェンたちは夜の卒業兼入学パーティーに出席した。
「姉さん!」
「クラッド、入学おめでとう。」
「あれ?姉さん、敬語取れたのか?」
「うん。まぁ、色々と事情があってね。」
「無理に話さなくても良いさ。……あっ、友達に呼ばれちった。後でな!」
クラッドはそう言って、彼の友の元へと駆け出した。ジェンはそれを見送り、グラスを持ったまま会場のバルコニーへと出た。
“あっという間の三年だったわ……。私達は、十六歳…か”
と、彼女がそう思っていると、ナイトが声をかける。
「卒業、おめでとう。」
「ナイト……。ありがとう。」
グラスで軽く乾杯する。その音は、綺麗に鳴る。
「自警団に入団、ありがとうな。」
「お礼なんて、良いよ。私は、随分とお世話になっているもの。迷惑だって掛けてしまったし。」
「迷惑じゃねぇよ。……むしろ、救われてる。お前がいなかったら、この国は異獣に追い込まれていたかもしれない。」
「…ありがとう、ナイト。」
ジェンがそう言うと―
「あっ!いたいた!ジェンちゃん、ナイト君!」
「シーガ!」
彼だけでない、アンネとソルも来ていた。
「お前、何で来んだよ…。」
「あれ?ナイト君、拗ねてる?」
シーガがそう言うと、「拗ねてねぇし!」とナイトはキッパリと言う。シーガは「そうかな?」と言うとジェンと肩組をしたかと思うと、頬で髪の毛を擦る。
「あ〜。ふわふわ。やっぱり、ジェンちゃんの髪の毛、優しい。」
「こ、こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「うわぁぁぁぁぁ!」
ナイトが怒り、シーガは楽しんでいるのかいないのかという所で、ナイトに捕まらぬ様に走る。
「相変わらず、って感じだな。」
「ナイトがいてくれて良かったけど…。もしいなかったら、私が鬼になってたわ。」
「アンネ。鬼って、女が自分から言うか?」
「え⁈あ、た、例えよ‼」
アンネは、ソルに言われた事に恥ずかしくなり慌てる。ジェンは、楽しいやり取りに微笑んだ。
“皆、相変わらず…だね”
その後、ナイトとシーガの小さな争いを納めた彼らはパーティー会場の中へと入り、楽しい夜を過ごした。そして、卒業生たちはパーティーの最後に、学校にこう言った。
『ありがとうございました‼』
その翌日。ジェン、アンネ、ソルは自警団のアジトのとある広場に集まっていた。そこには、ナイト、リティ、リアフ、ニック、ペラリ、フーティ、ナシィーがいた。
ジェンたち以外にも自警団に入団する者もいる。
全員揃ったのを確認して、ナイトはこう言う。
「新入団員の皆さん。自警団へ入団していただき、誠にありがとうございます。私達は、時に危険な任務を背負う事もあります。しかし、それでも――」
ナイトが話した後、新入団員の皆は自警団の証であるバッジを左胸辺りにつけた。これから、正式な自警団団員として、暮らしてゆく。
ジェンは入団式を終えた後、アイカ、アレックス、フィノの元へ行き、今までの感謝とこれからは王城にて暮らす事を話した。アイカは寂しかったが、ジェンはいつでも会いに行くと伝えた。
その日の昼。ジェン、ナイト、アンネ、シーガ、ソル、リティは、ナイトの部屋のバルコニーにて昼食を摂っていた。
「そうだ。皆……仕事が安定次第、ナイツァノ王国に行くぞ!」
「え?!マジっすか‼」
とソル、
「お兄ちゃん、本当!」
とリティ、
「あぁ。本当さ。」
とナイト、
「流石!ナイト君、やるね!」
とシーガ、
「ナイト、ありがとう!」
とアンネ、
「久しぶりに行けるのね。ツキノとフウカ、どう立派になったかな…。」
とジェンは言う。六人はその事に喜んだ。
ジェンは記憶に蘇った後、ナイツァノ王国を心配していた。手紙で、招待された時はとても嬉しかった。
その事を祝福するかの様に、街は桜が満開している。そして、心地よい風が吹き、散った桜が舞い上がっていた。
ここで、諦める訳にはいかない。まだ、異獣は根絶やしにされていない。人々が不安を抱えることのない国、世界……自分たちで築く。
彼女は、心に熱き思いを持っていた。




