第三十八夜 結界の儀 ―後編―
ナイトとシーガが見たのは、とても巨大で奇妙過ぎる異獣であった。
「シーガ、こいつ。」
「あぁ、ヤバいぞ。アイツらに見せる訳にはいかねぇ。ココで食い止めるぞ!」
「おう!」
二人は飛翔で飛び、奴の頭の方へ向かう。着いてみると、地表からとても高い事が分かる。巨大な異獣は、目をギロッっとさせて二人を見つける。
「見つけた様だけど、遅かったなぁ‼」
シーガは、すさまじい速さで奴の右目を大鎌の刃で潰して、すぐさま離れた。
「よくやった、シーガ。だけど、安心はできないな。」
「あぁ。でも、吸血鬼にとっちゃ、月夜は、体調が絶好の日だからな。油断はしないが。」
「じゃぁ、戦うぞ!ジェンの様子も心配だけど。」
ナイトがそう言うと、シーガはこう言う。
「問題ない様だ。ここからじゃ、順調だな。」
「……ッ‼危ない‼」
ナイトは、奴に攻撃されそうになったシーガを助ける。シーガは「すまない」と言い、ナイトと共に戦闘に挑む。
その頃、第一壁では蝙蝠を完全討伐した為、地表にいる異獣と戦っていた。アンネ、ソル、リティは矢で対処をする。駐屯団の兵士たちは、ディンの優秀な攻撃により優勢にある。
リアフ、ニック、ペラリ、フーティは順調に討伐を進めていた。
「兄さん。そっちは?」
「問題ない。こっちは全部片付いた。」
「お~い!」
上空からペラリとフーティが来た。
「ペラリ‼そっちは?」
リアフはペラリに聞くと、彼女はリアフとニックの元に来てこう言う。
「私たちの所は片付いた。けど……。」
「どうした?ペラリ。」
ニックがそう問うと、フーティが答えた。
「ナイトとシーガの所で、今までにない大きさの異獣がいた。二人が止めているので精一杯だ。」
「何だと!」
「それよりも、兄さん。ジェンの事もあるぞ。」
リアフの言葉により、ニックは「まず、ジェンの元へ行こう」と言い、四人は彼女らの元へと向かった。
その頃、第一壁でジェンが突如険しい顔をしていた。
「ジェンさん。」
リティは心配をする。環の数はあと十本だが、ジェンの頬骨あたりに金剛が張り付いている。誰にも分からないが、彼女は一生懸命で今、苦しい最中にあるのだろう。
そこにリアフ、ニック、ペラリ、フーティが戻って来る。
「リアフさんたち、大丈夫だったの?」
「リティ、大丈夫。だけど、ナイトとシーガのいる場所には今まで見た事も無い巨大な異獣がいる。なぁ、フーティ。」
「あぁ。このままだと、奴はジェンに向かってまっしぐらさ。」
「そんな‼助けないと‼」
アンネは、ナイトとシーガの元へ行こうとしたが、ソルは彼女を止める。
「ソル。何をするのよ!シーガ君たちが‼」
「ダメだ‼お前が行って、大怪我でもしたら…。代わりに俺が行く。」
「ソル。でも、私は…。」
「助けたい気持ちは分かる。けど、シーガはお前に危険な目に遭わせたくなくて…ここに置いたんだ。」
ソルの言葉にアンネは「分かった。でも、気を付けて。」と言った。ソルは、飛翔でナイトとシーガの元へと向かった。
“頼むよ、ソル。私が出来なかった事を…。託すわ。”
とアンネは健闘を祈った。
「ジェンさん‼」
リティがそう叫んだ時、ジェンに異変が起きた。環はあと七つとなったが、彼女の左目と口から血が流れていた。体に負担が強い状態なのだろう。
とその時…‼
《ドカーン‼》
遠い所から爆発音が響く。ジェンたちがいる場所から二百mか、もう少し先の所で、奴が姿を現す。
「何あれ‼」
リティは、恐怖と驚きに包まれる。フーティは、アンネとリティに説明する。
「あれが、異獣の群れの主だ。」
「と言っても、奇妙過ぎです。気持ち悪い…。」
確かに。アンネの言う通り、奇妙で気持ち悪い。奴は暴れては地鳴りを響かせる。駐屯団の兵士たちも、腰を引いている者が多い。
空中で戦っているナイト、シーガ、ソルは奴の勢いで押されている。
「くそっ‼キリがねぇ‼」
シーガは、奴の攻撃が激しい事に怒る。彼は先程、攻撃を避けれずに地面へ叩かれた。
「やぁ‼」
ソルは奴に向けて矢で攻撃をする。しかし、刺さっても奴はビクともしない。
「ったく、ここを突破されたらおしまいだ‼」
その時…。奴の口から火光線が放たれる。その攻撃は、ジェンの元へと直撃する。
「ジェン‼貴様ぁぁぁぁ‼」
第一壁では、奴の攻撃により被害が出た。アンネ、リティ、リアフ、ニック、ペラリ、フーティは防御で守って軽傷で済んだが、駐屯団の中で死者が出てしまった。
この時、ジェンの意識は全ての環が消えて、とある空間に出る。そこは、まるでウユニ塩湖のような景色だ。ジェンは、目の前にいる小さな少女に気付く。
「貴方は?」
「私?私は、ジェンレヴィだよ。お姉さんの子供時代の姿だよ。」
「今も子供ですよ。」
十四歳のジェンは微笑む。七歳のジェンはこう話を始める。
「…でもね。お姉さんは、まだ本当の自分っていうものに慣れていないんだ。」
「本当の自分?」
「うん。七年前にお姉さんが私を別の人として作っちゃったの。……たまに、敬語がなかったでしょ?それは、七歳の私の人格って言うものが出ているんだって。」
「人格…。でも、本当の自分に戻る方法が私には―」
「あるよ!」
七歳のジェンはそう言う。
「え?」
「私が…お姉さんに全部を返すんだよ‼……記憶は、まだ思い出せないけど…。」
「え?で、でも、そうしたら…貴女は⁈」
「良いの。元々、お姉さんが私を生んでくれたものだよ。だから、いつか返さなきゃ。ね?」
七歳のジェンは笑顔を浮かべる。十四歳の彼女にとって、それはとても悲しい笑顔だった。
「良いの、ですね?」
「うん。」
そして、ジェンは白く強い光に包まれた。
同時に、王都の結界は見事に完成した。ジェンも無事に生還し、こちらの世界に戻って来た…。
「ジェン‼」
「ジェンさん‼」
彼女の無事に皆が喜んだ。
「待たせて悪かったね。でも、私は奴の元に行かなくちゃいけない。」
ジェンは、そう言って宝剣を台座から片手で抜く。
「もしかして…ジェンさん。元に?」
リティは、気付いた。これが、本来のジェンの話し方であると。
「そうだよ。記憶は戻っていないけど、あの子が返してくれたんだ。だから、今、助ける‼」
そう言ってジェンは背中に白い翼を生やして、猛スピードで奴の元へと飛ぶ。頬骨の金剛と左目や口からの流血は元に戻らなかったが、彼女は奴の元へ向かう。
「はぁぁぁぁぁぁ‼」
ジェンはそのまま突っ込み、奴の尻尾部分を切断する。現場にいた三人は驚いた。
「ジェン‼」
「ジェンちゃん‼」
「ジェン、お前‼成功したのか!」
ナイトの質問に、ジェンは頷いて言う。
「えぇ。あとは、奴を片付けるのみ!行くぞ!」
四人は、一斉に斬りかかる。奴は攻撃をするも、四人は同時に避けて―
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁ‼』
叫びながら、奴に止めを刺した。奴は、叫びを挙げながら塵となって消えた。四人はほっとした。
が、ジェンはそうではなかった。儀式で結界を「初めから創る」事を代償に、力を酷使した苦しさと頬骨の金剛…だが、一番の代償は疲労だった。
ジェンはそれに耐えきれず、力が抜けて飛翔を解いてしまい、瞼を閉じてしまう。
「ジェン‼」
ナイトは急いで王剣を鞘に納め、両手で彼女を姫様抱っこでキャッチをする。
「ジェンちゃん!」
「不味い。急いで治療しないと…。」
「ナイト、急ごう!」
ソルは第一壁にいる仲間の元へと戻る。ナイトはジェンを連れて、シーガと共に学校の保健所へ向かった。
翌日、ナイトはジェンの看病に当たっていた。アンネ、リティ、リアフ、ペラリによって手当され、完治はしたが、儀式の疲れでまだ寝ていた。
「ジェン……馬鹿だよ、君は。小さい時から、無茶して。」
ナイトは、寝ているジェンに向かってそう言った。彼は、隣のベッドにいるシーガの容態を聞く。
「大丈夫か?」
「うん。覚醒の姿じゃなかったら、死んでいたかもしれないけど。生きているって思うとホッとするよ。」
「正直、僕もだよ。生きていて、驚くよ。」
二人は、今の心境を語った。確かに、あんな奇妙な異獣と戦ったのだから。
「けど、これから少し忙しくなるな。ジェンが無茶したから、駐屯団に詫びしなきゃいけないし…。」
「ナイト君。ジェンちゃんの事は任せて。今、自分にやるべき事をしてきなよ。」
「君、ジェンになにかするんじゃないよね?」
ナイトは睨むような眼差しでシーガに言うと、彼は笑って言う。
「あっはは、しないって!嫉妬し過ぎたよ。」
嫉妬…か。ったく、それは君が疑わしい事を言うからだろ?
と、ナイトはそう思いながらも病室を後にした。
儀式から数日後…。ナイトは民に結界が再び戻り、それはジェンが成し遂げた事だと報告した。彼は正直、不安だった。何故なら、ジェンが無理やりに行った事だからだ。しかし、予想外に民は大喜びだった。
「ジェンさんがやってくれるとは、なんと感謝したらよいか‼」
「万歳‼」
「おかげで不安が消えましたよ‼」
などの声が上がる。ナイトとリティ、ナシィーは民の笑顔を見て安心した。それから、王都は七年前の賑わいに戻り、貧しい人々は一般と変わらない生活を送れるようになった。




