第三十七夜 結界の儀 ―前編―
数日後、人々は不安なく平穏な毎日を過ごしていた。結界の儀はこの時期、いつ行われるかは分からない。
それに、ジェンは生徒である為、第一壁の駐屯団に見つかっては不味い。また、彼女が結界を作れるかどうかも課題だ。
自宅の屋根の上でジェンはある事に悩んでいた。
“どうしてでしょう。最近、同じ夢を何度も…。幼い時から見て来た夢とは全く違います”
と思う。彼女が言う夢は「前世」で見たものではない。勿論、その夢を見る事もあるが、全く違う夢だった。
それは、真っ暗な闇の中に光が射し込んで「貴方の身に付けし首飾りが導く時、結界を築くのです」と声がした。
それだけだが、何度も繰り返されている事に彼女は、いつも以上に緊張と恐怖と責任を感じていた。その時だった。
「ジェ~ン‼」
アンネ、どうしたのでしょうか?
と思ったジェンは屋上から降りて、家の境内外にいるアンネの元へ行く。
「どうしたのですか?」
「これ!」
アンネが新聞のある記事をジェンに見せる。そこには、驚きの情報があった。
『南の宝玉、罅割れ 進行する。宝玉の欠片、一部 落ちる。』
“そんな…。これは、不味いですね”
とジェンは感じた。アンネは「どうする?」と尋ねると、ジェンは答える。
「行くしかありません。ですが、その前に協力してもらいたい人たちを集めましょう。」
「じゃぁ、行こう!」
「はい。」
ジェンとアンネは、ナイトとシーガ、ソル、リティ、リアフ、ニック、ペラリ、フーティを招集して、噴水広場にて話を始める。集められた者たちは、新聞に載った記事の事だと察する。
「皆さんも知っていると思いますが、結界が危うい状況です。結界の儀はいつ行われるか予測できません。ですが、いつでも戦闘できる状態でいてください。」
ジェンがそう話して、皆は「おう!」や「了解‼」と言う。が、アンネが何かに気付いて言う。
「あれ?ヴィルは?」
「遠征に行ったのさ。まったく、無茶しやがって。」
フーティは、そっけなく言う。ジェンは、ヴィルにこの事を伝えるのをナイトに任せ、解散させた。ソルは歩き去るジェンの背中を見て、何かに気付いたようだ。
その数時間後、夜になり人々は就寝し、町は静寂に包まれる。ジェンは、そんな街中を走っていた。
“急がねば…。あの夢の言う通り、もう結界が‼”
と思いながらジェンは、第二壁の元まで走って止まる。何故なら、警備している駐屯団の団員がいて、見つかったら不味いからだ。そこで、彼女は透明で姿を消して、飛翔で壁に沿って上へ飛ぶ。
警備する者がいないことを確認して、第二壁を越えて、そのまま第一壁の元へ向かう。到着しようとしたその時、ペンダントが光ってしまいジェンは服で隠す。すると、第一壁の警備の者が近くへ来る。
ジェンは高度を下げて、警備兵が過ぎ去るのを待つ。ゆっくりと高度を上げて行き、警備兵がいない事を確認して宝玉の元へ向かう。
“……っ‼これは!”
そこにあった宝玉はただの石となっていた。ジェンは衝撃を喰らう。
“結界が‼……やるしかありません!私に出来なくて誰が成し遂げるんですか!”
とジェンは透明を解いて、短剣を抜いて宝剣に変身させる。
そして、石畳のほぼ中心にある台座の溝にゆっくりと刺す。ぴったりと納まると、彼女の足元に青白色の魔法陣が現れる。どうやら、結界を創るに相応しい様だ。
魔法陣は一mの高さへと上昇し、ジェンも魔法陣と共に宙に浮かぶ。すると、ジェンの瞼が無意識に閉じられる。彼女の意識は、脳に集中した。
精神の空間。ジェンは光の球体の中にいて、その球体の周りには環がいくつもあった。そして、それ以外には古代の文字が無数に広がっていた。
“なるほど。これを解読して、結界を新たに創るのですね。ぶっつけ本番で……これは”
突如、ジェンの脳内に何かの文字がずらっと浮かんで来た。不思議な事に何が書いてあるのか分かり、これが結界を「初めから創る」方法であり、それを解くと環が消える事に気付いた。
“さて、行きましょう。この国を守る為に‼”
ジェンは文字を見て解読して、目の前に古代の文字の文章を作って行く。
しかし、現実に戻すと…とんでもない事が起きていた。駐屯団の警備兵が数名、ジェンに攻撃をしている。だが、攻撃は効かず…宝剣を台座から抜こうとしても剣に触れられない。
その頃。寝室のバルコニーからナシィーは第一壁を見て、今、儀式が始まっている事を察する。同時に、彼女が身に付けているペンダント、覚醒の宝玉が青白く光っていた。
「結界を、最初から創るなんて。ジェン、あなたは…。」
同時刻。彼女がいない事に気付いたクラッドがナイトの元に駆け付け、彼はアンネ、シーガ、ソル、リティ、リアフ、ニック、ペラリ、フーティは、第一壁にいるジェンの元へ向かっていた。
「まったく、心配させて‼」
「僕も同感だよ。……自警団団員は異獣が出てきた際、各自の判断で戦闘を開始せよ‼討伐が完了した際はジェンの元で、彼女の守護を依頼する‼」
『了解‼』
「なぁ、ナイト。俺たちはどうすれば良い?」
ソルは、生徒であるアンネも含めて何かできる事を無いかとナイト尋ねる。ナイトは「リティと共に、ジェンの元にいるように。そして、彼女の元に来る異獣の討伐を任せる」と言い、続ける。
「だけど、くれぐれも気を付けて。本物の異獣を見た事も無い人は、姿を見るだけでも腰を抜かす事があるから。」
「分かったわ。出来る限りの事はやるよ‼」
そして、ナイトたちはジェンの元へ来た。既にジェンは結界を創る事に集中していたが、兵士らはまだ攻撃をしていた。ナイト、アンネ、シーガ、ソル、リティは彼女の元へ行く。
ナイトは警備兵たちに注意をする。
「辞めないか‼」
彼に気付いた警備兵らは、ジェンの事を「不法侵入者」と言っている。
「見て分からないのか。ジェンは国の為に、今、結界を創っているんだ。母上が言うには、異獣がここに向かっている。」
彼がそう言うも。兵士たちは―
「結界の儀を発動するから、異獣が来るんだ。」
「止めるんだ‼」
と主張し、再びジェンへ攻撃をする。腹が立ったアンネは兵士たちの元へ行こうとするが、シーガは彼女を止めて、代わりに一人の兵士の武器を大鎌で振り払う。
「何をする!」
兵士はそう言うが、シーガは怒った表情でこう言った。
「お前ら、兵士だろ?兵士なら、今の状況を分かってんだろ?己の事しか考えずに、彼女に攻撃を続けるつもりか?違うだろ。
兵士は、国の平和と安全を築き…人々を危険から守る人じゃないのか⁈分かっているのなら、ナイト王子の命令通り……攻撃を止めろ。止めないなら、俺に攻撃してみろ……その時は、思う存分殴ってやる‼」
彼の言葉に、兵士たちは黙ってしまった。すると、リティは何かに気付いたのか。
「お兄ちゃん‼あれ‼」
「……っ‼」
彼らが見る先には、月夜に光る異獣の瞳だった。それもかなりの数だ。
「不味い事になったな、ナイト王子。」
「ディン団長‼」
ナイトの視線の先に、駐屯団団長・ディンがいた。幾度も壁に迫って来た異獣を高い統率力で人々を守って来た…別名『鉄壁の主』だ。
「ここは、私がお守りします。先陣を、自警団にお願い申し上げる。」
「了解した。」
「シーガ君。」
「心配するな。お前はここにいろ。お前に何か遭ったら、嫌だからな。」
シーガは、アンネにそう話す。ナイトはリアフ、ニック、ペラリ、フーティに討滅命を下して、アンネ、ソル、リティはジェンの元にいる様に言い、シーガと並んで異獣の群れを見る。
「全く、この数は呆れるね。」
「そうでもねぇけどな。ナイト、覚悟はできているか?」
シーガは、頼もしい表情で言う。ナイトは、覚悟を決めた瞳でシーガに言う。
「あぁ、勿論。出来ているさ。」
「じゃぁ、行くぞ‼」
「あぁ‼」
二人は壁を飛び降り―
『覚醒‼』
ナイトは青緑色を主に使った服に髪を白く染め上げ、シーガは赤と黒の服に銀髪にして、飛翔で異獣の群れの元へ向かった。
「あれは、覚醒の姿‼カッケー!」
「ソルさん、喜んでいる場合じゃないよ。空の異獣も来ているよ。」
リティの言う通り、夜空の異獣…蝙蝠型が来ていた。
「じゃぁ、歓迎と行こうじゃないの‼光矢‼」
アンネは以前、ジェンに教わった矢魔法で蝙蝠を倒す。ソルも雷矢で、リティは炎矢で蝙蝠を次々と倒す。
しかし、覚醒の姿で先陣を切ったナイトとシーガは、異獣の群れで強大な敵に出くわす事となる。
結界の儀が始まり、数十分後の事…ジェンの包む球体の環が少しずつ一本一本消えて行く。
アンネ、ソル、リティは矢魔法で、リアフ、ニック、ペラリ、フーティは接近戦で順調に異獣を討伐する。
しかし、ジェンがいる真っ直ぐの方角…。ナイトとシーガがいる所だ。
「やぁ‼」
「おぉぉぉぉ‼」
二人は順調に討伐している。彼らは背中を合わせて、それぞれの感想を言う。
「全く懲りない連中だね。」
「そうだな。……ナイト、分かるか?」
「シーガも気付いた?この異様な異獣の気配……周りにいる奴らとは桁違いだ。」
『……‼』
二人は、現在の位置を避けるかのように飛んだと、同時に地面から何かが出て来た。ナイトとシーガは防御で降って来る岩を防ぐ。
「なっ……‼」
「コイツ、デカすぎるだろ⁈」
二人は、驚いた。現れた異獣は、今まで見て来たものと大きく異なっていた。それは、大きさ百mで蛇の体をしているにも関わらず、上半身は蜈蚣の足がある不気味な異獣だった。




