第三十六夜 楽しいエルシィーダン祭り‼
ジェンとナイトが来たのは、既に行列ができている「お化け屋敷」で外装もなかなかの演出だ。
「随分、人気なんですね。」
「まぁ、夏の風物詩と言うくらいだよ。暑いのを吹き飛ばすくらいの恐怖を味わおうって事だよ。」
「へぇ、確かにぞっとするものでしたら、背筋が寒くなりそうですね。」
「そうだな。」
そして、いよいよ二人の番が迫る。受付の者に説明を受け、スタンバイする。
「あ、あのさ。二人で、手を繋ごう。離れたら、いけないだろ?」
「そうですね。では。」
“お、おい!余裕で手を繋ぐんじゃねぇよ‼……そうだった。ジェンは、少女漫画の掟っぽいもの知らないんだ。俺は、リティのせいで知っているだけだ”
とナイトは心の中で慌てる。そして、二人はスタッフの指示により、中へと入る。入ると同時に、まずは冷気を感じた。
「凄いですね。入り口からこんな演出とは…。」
「あぁ。さて、受付の人が言っていたルールを守らないと…。」
二人は、順調に進んで行く。その時―
《バチっ‼》
いきなり、室内を照らしていたブラックライトが消えてしまった。
「な、何ですか?」
「ジェン。今は、動かない方が良い。」
「は、はい。」
しかし、室内で突然の停電に子供の泣き声が所々で聞こえる。
「…ろわぁ‼」
ジェンは何かに押され、倒れそうになる。
「ジェン‼」
どうなったのだろうと二人は思った時、パチッとライトが点いた。だが、ジェンは驚いて言葉にできず頬を赤くする。何故なら、彼と顔が近かったからだ。ナイトも当然、同じだった。
「す、すみません‼」
「いや、き、君が怪我をしなくて良かったよ。」
ジェンはこの時に初めて、ドキドキした。しかし、「それ」が何なのかは本人には分からず。
数時間後、ジェンたちは焼きそばを食べていた。それぞれのアトラクションで楽しんだ事もあり、ハプニングもあった様だ。
「お兄ちゃん。ソルさんのおかげで金魚を取ったの。」
「リティ、やったな。前までは、一匹も取れなかったもんね。」
「そ、それは、言わないでよ‼」
ナイトとリティは、仲良く話している。ジェンは、隣で食べているアンネと話していた。
「ジェン…。シーガったら、からかいが酷いんだよ。」
「そうですか…。もしかして、アンネの事を気に入っているのかもしれませんよ?」
「えぇ⁈そ、そんな訳無いじゃない。だいたい、私はそんなに可愛くないし。」
「私よりは可愛いと思いますよ、アンネは。」
「そう?」
アンネは本当なのかと心で思った。すると、ジェンはある事を思いついた。
「では、夜の部の最終プログラムの踊り……私と一緒に出ませんか?」
「えぇ⁈ジェン、踊りってエルシィーダン伝統舞踊の事?一度も踊った事ないよ。」
エルシィーダン伝統舞踊とは、明るくリズムの良い音楽に合わせて舞う踊りで太古から受け継がれている。アンネは祭りで見た事はあるが、実践した試しがなく少々困惑する。ジェンは、彼女の手を取ってこう言う。
「私、アンネとの思い出を作りたいんです‼数日前に祖母が亡くなって、それで伝統舞踊を行う事を改めて決めたんです。……思い出作りにアンネと私が躍って、楽しみましょうよ!私が、フォローしますから。」
「………やってみようかな。」
「やりましょう!」
ジェンは瞳を輝かせて、そう言った。そう、彼女の祖母は祭りが始まる数日前に、病により亡くなってしまったのだ。祖母は、彼女に最後の言葉に―
「私は、いつでもジェンを、皆を見守っているよ。だから、悲しまないで皆と共に前に進みなさい。」
と言った。ジェンは、祖母に見せたかったエルシィーダン伝統舞踊を一時、止めようと諦めかけたが、祖母の言葉により、踊る事にしたのだ。
すると、ペラリが二人の元に来て肩に手を置く。
「良いんじゃない。女の美を見せつけちゃおう。」
「ペラリ先輩。でも、ジェンはともかく私なんて…。」
「アンネちゃん、もっと自信を持っていいのよ。貴方が踊れば、会場もさらに盛り上がるし。それに、綺麗な顔をしているんだから、笑顔でいて欲しいよ。」
「私もペラリの意見に賛成する。」
「リアフ先輩‼」
「二人で存分に楽しむと良いよ。ジェンの言う通り、思い出にもなる。」
リアフは頼もしそうな表情をして、アンネに言う。アンネはジェンにこう言った。
「じゃぁ、一緒に踊ろう!ジェンとなら、上手くできそうな気がする。」
「あ、ありがとうございます、アンネ!なら、早速、練習しに行きましょう‼……リアフ先輩、ペラリ先輩。この事は内緒にしてください。」
「OK!任せて‼」
「分かった。秘密は守るさ。」
ジェンとアンネは、焼きそばを入れていたパックと割り箸を、近くのゴミ袋に入れて練習する場所へ向かった。
ナイトは焼きそばを食べ終え、近くのごみ袋に入れて来たが、ジェンとアンネがいない事に気付く。
「あれ?ジェンとアンネは?」
「少し事情があって外しているよ。」
リアフは、彼にそう言う。
「そうか。仕方ない。さて、食べ終えたらどうしようか?リティ、どこか行きたい所はあるか?」
「えっと、じゃぁ、林檎飴を食べてみたい!」
「OK!皆は、どうするんだ?」
ナイトがそう言うと、それぞれ行きたい場所に行く事になっていた。
「あれ?アンネちゃんは?」
「あぁ、ジェンちゃんとちょっと用事で外しちゃったの。」
「そっか。じゃぁ、ナイト君に付いて行こ。」
シーガがそう言うと、ナイトは驚く。
「な、何で?」
「俺も、林檎飴を食べてみたいんだ。良いでしょ?」
「良いよ。お兄ちゃんもシーガさんも一緒に食べよう‼」
「うん。」
三人は林檎飴を食べながら、町を歩く。すると、リティはシーガにある質問をした。
「ねぇ、シーガさん。」
「何、リティちゃん。」
「シーガさんって、アンネさんの事……好きなの?」
「うん。好きだよ!昔からの恩人だからね。」
「大切な人、なんだね。お兄ちゃんもジェンさんが好きなんだよね?」
急にリティに話を振られたナイトは、頬を赤らめて困惑する。
「お、おい!何で、僕に振るのさ⁈」
「え?」
「ナイト君ってば、図星~?」
「ち、違ぇ‼僕は、友人と思っているだけだ。恋なんて…。」
「本当かな?素直になればいいのに。」
「……っ!君みたいに余裕で言えないんだ。」
シーガの言う事に、ナイトは恥ずかしくなり、そっぽを向いて林檎飴を食べる。
“お兄ちゃんったら、嘘が下手くそなんだから。……でも、ジェンさんに今、好きって伝えても恋愛の意味でって受け止めるか。分からないもんね”
リティはそう思いながら微笑んだ。
そして、夜になり舞台イベントが始まる。噴水広場にはたくさんの人々が集っている。その中に、舞台に一番近い場所にクラッド、アイカ、アレックス、フィノ、リティがいて、そこから四列くらい後ろにはナイト、シーガ、リアフ、ニック、ペラリ、フーティがいた。
「というより、ジェンとアンネはどこにいったんだ?」
「そうだよね。二人とも、何をしているんだか……。」
ナイトとシーガはそう話していると、イベントの司会者が話を始めた。
「レディース&ジェントルマン‼さぁて、お待たせ致しました!本日最後のプログラムです。
何と、今年は建国一五〇〇年の記念に二人のガールズがエルシィーダン伝統舞踊をダンシング‼それでは、レッツ……スタート!」
司会がそう言うと、エルシィーダン伝統舞踊に出て来る楽器が演奏者により、明るくリズムよい響きを放つ。そして、色違いのダンス衣装を身に纏ったジェンとアンネがステージに登場して、踊り始める。
「ジェン⁈」
「アンネちゃん⁈」
ナイトとシーガは、二人の登場に驚く。すると、隣にいるニックがカメラを構える。
「これは‼…超レア‼写し絵に納めねば‼」
「ニヤニヤしながら撮るんじゃねよ、このクソ兄貴。」
リアフは腹にパンチをかまして、ニックのカメラを奪い取る。ニックは「そんなぁ‼」と言うが、リアフは貫禄を付けて言う。
「兄さんは顔が良いんだから。そんな変態な性格じゃら、彼女いない歴が伸びるだけ。」
「ぐおっ…。」
ニックは図星を言われ、ショックを受ける。すると、リアフの肩にペラリの手が乗っかる。
「まぁ、良いじゃん。お兄さんはそう言う人だって。」
「あのね。腐女子のお前に言えるか、そんな事。」
「良いじゃない。まぁ、好きも嫌いもあるかもしれないけれど。」
そう、リアフの言う通り。ペラリはれっきとした「腐女子」の枠に入る。最近、本の新たなジャンルとして「同性愛」が登場し話題となっていて、ペラリは、まんまとハマってしまった様だ。
ナイトとシーガは、彼女たちの踊りに魅了されていた。
「ナイト君。ジェンちゃんとアンネちゃんの応援をしようよ。」
「何で?」
「周りをよく見てみなよ。」
シーガに言われ、ナイトは周囲に目を向ける。「良いぞ!」や「フゥ~」と言う人がいれば、「ジェン様~」や「アンネ様~」と言っている人もいた。
“平気で他人の名前をぉぉぉ‼ぼ、僕だって負けない‼”
とナイトは思ったが、それをシーガは察して―
「やっぱり、ちょっと嫉妬しちゃうよね。」
と言った。ナイトはあまりの図星を当てられた事で吃驚して「は⁈」という。シーガは、更に意地悪そうにこう言う。
「だって、顔に書いてあるから。」
「うっ…。まぁ、良い。とりあえず、二人に声かけよう。」
「良いよ。」
『二人とも、綺麗だぞ~‼』
ナイトとシーガは一斉にそう言うと、二人は気付いて笑顔を向ける。前の席にいるクラッドはカメラで写し絵を撮り、アイカは掛け声をする。
すると、ジェンとアンネは踊りながら魔法で水の粒を会場へ舞わせる。心地よい水の粒は会場にゆっくりと降り注ぎ、人々を涼ませる。さらに、祭りのスタッフは、祭りのフィナーレの為に用意してあった花火を空へ打ち上げて盛り上がらせる。
そして、この祭りは人々の不安を吹き飛ばす程に盛り上がり、心に残る思い出となった。




