第三夜 「新たな」友達
翌日、ジェンとアンネは食堂で食事を済ませ、教室へ向かった。ジェンと同じ魔導書を持つ生徒もいれば、アンネの様に杖を持つ生徒もいる。勿論、デザインはそれぞれ違う。また、杖の大きさも持ち主によって異なっている。席に座った二人は雑談を始めた。
「ジェンって、兄弟とかいるの?」
「姉弟ではありませんが、従兄妹ならいます。クラッドとアイカです。二人は、とても仲が良いんです。アンネは?」
「一人っ子なんだ。兄妹が欲しいなぁ~。」
そして、チャイムが鳴り担任が教室へ入って来た為、生徒らは急いで座る。号令を済ませると、担任は質問を投げかける。
「さて、皆さんはご存知かと思いますが、魔法には属性が主にいくつあるか知っていますね?」
『七つです』
バラバラだったが、生徒らは正解を答える。さらに、担任は次の質問をする。
「では、皆さんが現在取得済みの魔法を答えてもらいます。属性ごとに言ってゆくので、挙手をお願いします。」
そう言って、七属性を言って行く担任。アンネは、光と風に手を挙げる。が―
「君は……一体、いくつ使えるんだね?」
担任がそう質問したのはジェンだった。彼女は七つの属性の全てに挙手したので、担任は本当の事を確かめる。ジェンは正直に答えた。
「七属性です。」
教室はざわめく。周りにいる生徒らも今まで、七属性を使いこなす同世代で見た事がなかった。担任は半信半疑で、ズルしているのかと思った。
「そうか……。では、皆さん。早速、皆さんの実技を見させてもらうので訓練所へ案内しましょう。」
担任がそう言うと、生徒らは訓練所へと向かい始める。ジェンとアンネは、最後尾で付いて行きながら話をしていた。
「先生ったら、ジェンを疑っているわね…。」
「仕方ありませんよ。私の様に、七属性を使いこなす人がいなかったものですから。それに、私以外にももう一人いたようですけど。」
「そ、そう言えば…。その人、男子だったわね。」
そう話をしながらも、彼女と生徒らは訓練所に着いた。そこは、魔法を練習するのに特化された場所で、強力な魔法でも壊れぬ造りとなっており、空が見える天井には雨や雪を防ぐ魔法がなされている。
生徒らは、順番に訓練所で用意された的に向かって魔法を放つ。
ある生徒は技を駆使し、別の生徒は的を外してしまったり、さらに別の生徒はとんでもない場所へ飛ばしたりする。
そんな中、ジェンはある人物に注目した。彼は、ジェンと同様に「全属性」を使える。
「アンネ。今、前に立っている彼は誰なんですか?」
ジェンは、小声でアンネに尋ねる。
「あの子?確か…、ソルヤータ・アルベニと言うんだって。」
「ソルヤータ君ですか…。彼も、全属性ですが…。」
ソルヤータと呼ばれる少年は、単体魔法の魔法弾、光線、刃の三つを使った。
魔法弾は、使う際に球体で攻撃するのが特徴。光線は、一直線に魔法を放ち攻撃するのが特徴。刃は、剣を振った時などに描かれる「弧」の様な形で魔法が放たれる特徴を持つ。
順番が来たアンネは、光と風を使いこなして、的に命中する事ができた。そして、いよいよジェンの番だ。
どうしましょうか…。先生を信じてもらうには、驚かせる魔法が必要ですよね…。と、ジェンは左手に魔導書を持ち、考えながら持ち場へ向かう。
すると、何かを思いついたのか、ジェンは、これだ、と言う表情を見せる。
ジェンは表情を引き締め、飛翔で体を少し宙に浮かばせる。そして、まず魔法弾を発動させる。炎、水、光、闇の魔法弾を的に向けて放った。
見事に的は全て大破する。さらに―
「氷吹雪…。」
と言うと、大きな吹雪が発生して的の脚を凍らせる。吹雪は、氷雪属性の範囲攻撃魔法であり、上級とされている。
「螺旋突風‼」
的の脚は螺旋突風により、的の脚は少し砕けて空中に巻き上がる。これは複数魔法の一種で、「螺旋」と「突風」を合わせた技。複数魔法は失敗する事もあるが、ジェンはそれをいとも簡単にこなした。そして、最後には―
「衝撃電流光線‼」
と言う。それは、光線の中でも、とても高度な魔法。十三歳の子供にとって、「危険」と言っていい程だ。彼女は、それを四つ繰り出し、脚を全て大破した。脚は粉々となったが、小さな氷の結晶として訓練所へそっと降り注いだ。
『おぉ‼』
生徒らは歓声を挙げるが、担任は彼女の技術に驚かされ、絶句状態である。これは、学校内でもいない技術と魔力の大きさを持った子供である。その様子を校長は見ていた。
“あの子は、とても凄い子になるかもしれんぞ”と感じて…
さらに、魔導・杖騎士学校の屋根上で、ある少年が顔を覗かせていた。
「相変わらず魔法は凄いな。」
その後、昼休みにジェンはアンネと共に昼食をとっていた。。
ジェンは魔法を披露した後、アンネと生徒らに見本として魔法を何度も見てせいて、少々疲れが生じた様子だった。その為、ボリュームのある物を食べていた。アンネは、見本としてジェンを少々手荒くした担任に腹を立てていたが、昼食を食べる時にはもうすっかり気分を転換させる事にした。
ジェンはトンカツサンドに蜜柑ゼリー、アンネはコロッケサンドと林檎シャーベットを食べていた。
「やっぱり、お昼はスタミナ食が良いよね!」
「はい。おかげで、元気いっぱいです。」
「それは、良かったわ。少し心配したわ。」
アンネはジェンにそう話すと、彼女はお礼を言って話を続ける。
「そう言えば、ソルヤータ君と言いましたっけ。彼はまだ、未完成な部分があります。魔法弾の分割で、一つだけ小さくなってしまっていた。」
「全然気づかなかったわ。まぁ、少し遠くからだったから、見えにくかったのかもしれないけど。でも、未完成ってそれだけなの?」
「そうですね…。断言するのは難しいですけど、経験が浅いか…あるいはその他です。」
そして、昼食を終えて二人は食堂を出る。すると、アンネはジェンにこう話して来た。
「ジェン、あの、さっきの授業で見せた魔法…簡単な物で良いから教えてくれるかな?」
「良いですよ。むしろ、嬉しいです。」
まだ、時間は十分にある為、訓練所でアンネはジェンの教えによって打ち込む。ジェンは、彼女を無理させぬ程度に丁寧に教える。アンネは、ジェンの的確なアドバイスによって魔法を上達して言った。
「ふぅ…。」
「そろそろ、休憩を挟みましょうか。…アンネは、覚えるのが早いですね。」
「そんな事ないよ。ジェンが丁寧に教えてくれたおかげ。」
「いえいえ。それほどでも…。」
そう話していると、二人の元に誰かが来た。ジェンとアンネは、気配に気付く。
「なぁ、お前…俺と腕試ししてくれるか?」
「貴方は…、ソルヤータ・アルベニ君ですか?」
ジェンはそう尋ねると、彼は、あぁ、と答える。深緑の髪に水色の瞳を持つ彼は、一体何の用で、腕試し、と言ったのだろうか?
「お前、ジェンレヴィだろ?」
「何故、私の名前を?」
「当然だよ。お前の魔法の高度な技術がもう噂になるんだから。」
“噂になる?まるで、予言者っぽい言い方ね”
とアンネは不可思議な事と思ったが、割って入ったら不味いと思い、あえて口に出さないようにした。
「大袈裟ですよ。あの魔法は、担任を驚かせる為に考えたので…そう簡単には。」
「そんなはずないだろ…。俺は、お前の魔法がどれくらいなのか確かめに来ただけさ。」
ソルヤータ曰く、ジェンと魔法勝負をしたい、と言う事だった。挑戦的に言われた彼女は、その事をいち早く理解した。
「無茶は止してください。それに、もし高度な魔法が発動したとしても失敗する可能性があります。」
「構わん。」
ソルヤータは、そう言いながら訓練所に書かれている試合コートの端…ジェンの反対側に立つ。
「ジェン、どうするの?」
「大丈夫ですよ、アンネ。先程の授業で言っていた試合時の規則を守れば、致命傷もありませんし、心配無用です。こう言う挑戦的なのは、あまり好きではありませんが、相手も耳に貸さないようですし…。アンネは、安全な場所にいてください。」
この王国では、兵士や魔導・杖騎士学校と他二校の試合があり、その規則が主に三つである。
其の一:使用する魔力は七割とする。
其の二:治癒は三回までとする。
其の三:相手が「降参」と言ったら、これ以上の攻撃は許されない。
「ジェン、気を付けて。」
アンネの応援を受け、ジェンはソルヤータの反対側のコートに立つ。
これは、慎重にいくしかないですね…。お互い、装備は若干薄いですし…防御で凌ぐしかありませんね。とジェンは感じた。
「準備は良いか?」
「はい。規則は、先程の授業で申していた通りですよ?」
「あぁ。……行くぞ!」
二人は一斉にコート内に走り込んで、全身に魔法を身に纏う。
これは、着用魔法(以後、着用)と言う「特殊魔法」の一種で魔法を体や剣などの武器に宿して、使われるものだ。
二人は、コートの真ん中でぶつかり合い、火花を散らせる。そして、距離を取ってソルヤータは光魔法弾を三つ、ジェンに放つ。彼女は避けて、炎魔法弾を五つを作り、彼に放つ。
次から次へと行われる攻撃に、アンネは驚く。
“ジェンとソルヤータ君の速さ…人並み以上だわ。いくら人間でも、並外れている‼”
とアンネは直感で感じ取る。
「くっ‼」
ジェンは、突然に彼が放って来た五つの雷魔法弾の一つが当たってしまい、全身に多少の痺れが伴う。ソルヤータは、雷光線を放って来る。
ジェンは、力を振り絞り風防御で守り抜き、治癒で全身の痺れを取り、ソルヤータとの距離を取る。彼は構わず、ジェンに今度は水刃を放つ。
彼女は風刃で、彼の放った水刃にぶつけ、攻撃を阻止する。
試合は続く、激しい魔法の攻撃にアンネは両者の無事を祈る。
ソルヤータは、ジェンに風魔法弾を放ち、命中させる。彼女は吹き飛ばされ、壁に背中を打ち付ける。
「いっ…。」
“ちょっと‼今のは、酷すぎる‼許さないよ”
アンネはそう思って怒り、ソルヤータの元へ向かおうとするが、ジェンは―
「アンネ!…大丈夫です。これ位、乗り越えて見せます。」
という。
“ジェン…。あぁ…どうしよう!…もう、また危険な事をしたらあいつを殴ろうかしら‼”
とアンネはジェンの言う通りに手を出さずに我慢するが、怒りは増すばかりである。
ジェンは治癒で痛みを解消し、氷雪魔法弾を五つ放ち、彼に命中させる。ソルヤータは、炎魔法弾を五つ放つ。ジェンは避けて、水刃で彼の頬に掠める。
ソルヤータは、風魔法弾を放つ。ジェンは、氷雪刃を放ち、風魔法弾を分断させる。が、彼はすぐさま炎光線を放った。
昼休みが終了する約三分前となった今…。ジェンは、初めての窮地に追い込まれる。
“どうしましょう…。治癒を使用できるのは、あと一回ですか…。よく考えていましたが、不覚です”
とジェンは少し反省する。
両者は、激しい息切れを見せる。ソルヤータは、魔導書を強く握りしめる。
“まだだ。治癒は、残り二回。ライバルは、男だし…まだ、行ける!”
とソルヤータは自信を持つ。
ジェンは全身に打撲や掠り傷、軽い火傷を負いつつも立ち上がり、魔導書を握る。ソルヤータは、ジェンに向かって闇魔法弾を放とうとした時…。ジェンのペンダントの金剛が光る。
「光雨‼」
ジェンの言葉と共に、ソルヤータのいる場所にバケツをひっくり返したように降り注いだ。光雨が止むと、ソルヤータはこう言った。
「こ、降参だよ。」
「ふぅ…。二人とも、無茶は止めてよ。冷や冷やしたよ。」
「ごめんなさい、アンネ。」
ジェンはアンネに謝り、立ちあがるのに困難なソルヤータに手を差し伸べる。
「わりぃな。」
ソルヤータはジェンの手を借りて、立ちあがる。アンネは、二人の怪我を治癒で治す。ソルヤータは、怪我が治った所でこう言う。
「しかし、お前、男なのによく女子といられるな。」
「ソルヤータ君、何を言っているの?」
アンネがそう言うと、ソルヤータは「男だろ?」と言っている。ジェンは、微笑んで答えた。
「私は、こう見えて女子ですよ。よく間違われますが。」
「え、えぇ⁈お、女⁈」
ソルヤータは、ジェンが女子である事に驚きを隠せなかった。
「えぇ!ジェンが女の子って知らなかったの?」
「…だって、顔立ち的にもそうだし…。」
「あのね。もし、ジェンが男の子だったら、私と同じ部屋じゃないわよ!」
「あ、そうか。」
「もう、この馬鹿ちん‼」
アンネは、ソルヤータの背中を思いっきり叩いた。彼は、激痛に悲鳴を上げるが、治まるとジェンに試合の事を謝り、こう話した。
「あ、そうだ。俺の事、ソルって呼んで構わないぜ。」
「はい。ソル、よろしくお願いします。私の事は、ジェンと呼んでください。」
「私は、アンネリーカ・ミルーセ。アンネで良いよ。」
それぞれ呼び名を紹介した所で、ソルはこう言う。
「なぁ、俺も仲間に入れてくれよ。さっきの大技、凄かったからよ。それに、これから二人より三人の方が頼もしいだろ?」
「そうですね。一人よりも二人、二人よりも三人とでもいいますからね。」
「うん。それに、年末大会の人数になれるじゃない。これからも、三人でビシバシ魔法を頑張ろ!」
「アンネ…年末大会って?」
ソルは、初めて聞いてキョトンとするが、アンネは「後で説明する」と言った。
「さぁ、教室に戻りましょ!」
「そうですね。」
「あぁ。授業が始まるからな。」
これが、彼女…ジェンの戦友であり生涯の友であるアンネ、ソルが加わり、学校生活は青春の日々となる。そして、三人はふと心の中で思った。
『一緒に戦って、生きて。国を、世界を平和にする』
しかし、それと同時に様々な「壁」が待ち受ける事となる。三人は、当然知らないまま…。