第三十五夜 エルシィーダン祭り 開催!
兵団大会を終えたその夜。ジェンはなかなか寝つけず、学校の屋根の上にいた。夏でも冷える夜の為、上着を羽織っている。すると―
「ジェン。ここにいたのか。」
「ソル。どうして?」
「いや、俺も眠れなくてさ。何か、胸騒ぎがすると言うか。」
「そうですか。」
すると、どこからか声がかすかに聞こえた。二人は、何が起きたのだろうと町の家の屋根へと飛び移り声のする方へ向かう。「こっちだ!」「逃すな‼」などの声が上がる。
「何だ?……っ!ジェン、あれ‼」
ソルが指さす方には―
「魔法研究省‼」
研究省から黒い煙が上がっているのを見て、二人は一気に走り現場近くへ着く。消防へ駆けつける自警団の団員達…そこには、ヴィルとシーガの姿があった。ジェンは、現場を見に来ていた市民にこう質問する。
「すみません。何が起きたか教えてくれませんか?」
「おぉ、これは、ジェンさんではありませんか!……それが、何やら襲撃に遭ったようです。」
「襲撃?この研究省が?」
ソルが、市民にそう聞く。市民は頷いて話す。
「はい。話し声が聞こえたのですが、とある物が盗難されたと言います。それが、とても重要なものとか。」
「ありがとうございます。ソル、私たちも消火活動に入りましょう。シーガが言うには、遠征に行っている自警団の団員たちが多くいるようです。」
「おうよ。任せろ‼」
二人は別々の場所へ向かい―
『水光線‼』
一斉に水光線を五つ繰り出し、消火をしてゆく。数十分後、無事に消火活動を終えた。死者はいないが、怪我を負った者は数名いた。そして、黒い煙が晴れたと同時に建物の被害状況を観察する。
ジェンとソルは、シーガとヴィルから情報を貰い、現場近くの家の屋根の上で話し合っていた。
「まさか、あの宝石を盗まれるとは思いませんでした。」
「俺もだ。もう少しで、手掛かりを掴めると思ったってのに…。犯人は、行方をくらませたって……まるで、夜を狙っている様だな。」
「でも、私にとって奇跡ですよ。」
「何でだ?」
ジェンの発言にソルは首を傾げた。すると、彼女は魔法鞄の中から柘榴石が入った小瓶を取り出した。
「ジェン、これは一体?」
「実は、魔法研究省の人に傷口に出来た柘榴石をこれと同じ大きさにしてくださいと頼んだのです。」
「何でさ?」
「確かめたい事があるからです。それは、先程の様な事件が起こるかどうかです。魔法研究省の皆さんにはその事を事前に伝えたので、怪我程度で済んだんですよ。ただ、火事が起こるとは、少し不覚でしたが。」
「でも、流石だな‼ジェンは。これなら、敵は、困り果てるだろうな。」
ソルがそう言うと、ジェンは頷いてこう話す。
「それと、この宝石の中にある紋章はヴィルハン王国の物に違いありません。自警団のリアフさんからの情報です。」
「そうなのか?」
「はい。以前、ヴィルハン王国の国境付近に行った事があるそうです。その紋章を絵に書いておいたそうです。」
「流石だな。でも、奴らは馬鹿な事をしたな。墓穴を掘るってやつだ。」
「そうですね。」
その後、研究省は復興へと向かう。同時に襲撃を免れ、無事だった分析室にて宝石の結果が出た。
ナシィーが言った通り……ヴィルハン王家の紋章だった。しかし、何故そんな恐ろしいものがあるのかは、謎のままだった。
あっと言う間に七月となってしまった。ジェンたちは夏服を着て、アイスやカキ氷を食べたりなどで盛り上がっていた。
「あぁ~、カキ氷旨い‼」
「はい。アイスは、絶品ですね。」
「いや、カキ氷が一番だよ‼」
「アイスの方も良いじゃないですか。」
「カキ氷‼」
「アイスです‼」
ジェンとソルは、「カキ氷とアイスのどちらが一番か」と言い合っている。それを見ていたアンネとシーガはこう口にする。
「何か、最近二人で言い合う事が多いね。」
「ジェンちゃんが徐々に本当の自分に戻り始めたんだよ。まだ、敬語は抜けていないけど。」
「え?そうなの?」
「うん。本当は一回、会っているんだけど…
まだ、思い出せないみたい。」
実は、数日前…一瞬だけだが、ジェンは会話をしている際に敬語を無くした発言をしていた。もし、シーガの言う事が正しければ、本来の彼女の性格が見えて来るはず。しかし、未だその道は長いようだ。
「はい。二人とも、言い合いはそこまで。」
シーガは、ジェンとソルを止める。二人は冷静になり、反省していた。
“ジェンって、真面目で少し天然で特別な感じだけど。改めて思うと、普通の女の子だのもね。それに、ソルとどことなく似ている所があるかも”
アンネはそう思い、微笑んだ。ジェンは、そんな彼女にこう聞いた。
「アンネ、何を考えているんですか?」
「いや、別に。」
「そうでしょうか?何か、楽しそうにしていますけど…。」
「ふふ、気にしないで。」
そして、七月のある日。昼間の街中は、夏祭りの飾りつけに追われていた。ジェンとアンネはそれぞれの家で飾り付けをし、シーガはアンネ、ソルはジェンの手伝いをしていた。
「姉さん。ここで良いか?」
十二歳となったクラッドは飾りつけの位置を、ジェンに確認していた。
「大丈夫ですよ!」
「お姉ちゃん。この辺で良い?」
十一歳のアイカは、小物飾りをジェンに確認してもらう。
「はい。」
ジェンが十四になった現在、祖母が寝たきりとなってしまった。数日前、医師によれば、原因は不治の病らしく。余命は、せめてあと数ヵ月と言う所だった。祖母に祭りを見て欲しいと強く願っているジェンはいつにも増して真剣だった。
その頃、王宮でナイトは、リティと共に街並みを眺めつつ、昼食後の緑茶を堪能していた。
「まさか、ジェンさん。今年の祭りでエルシィーダンの伝統舞踊を踊るだなんて。」
「驚いたよね。僕は正直悩んだけど、彼女の母方のお婆ちゃんの事を考えて承諾したよ。」
『エルシィーダン伝統舞踊』とは、リズムが良く明るい音楽に合わせて踊り子の気持ちや思いをダンスで表現すると言うもの。
至って簡単そうだが、意外と難しいとも言われている。服は、エルシィーダンを象徴する青の布の服。露出度は腹部と脚、腕のみの為、肌の露出を拒む踊り子も安心する。
「そうだもんね。ジェンさんにとって大切な人だもの。」
ナイトとリティは、ジェンの祖母の病を彼女自身から伝えられたことで知った。もちろん、アンネ、シーガ、ソルもだ。
すると、二人がいるバルコニーへ、一人の青年が来た。ジェンの兄で現在、十五歳となったヴィルだ。
「やぁ、お話している所悪いね。」
「ヴィル。自警団の方はどうだ?」
「問題無いよ。だけど、遠征部隊の報告によれば、知性異獣が多くなっていると聞く。」
「そっか。やっぱり、結界が弱くなっている事が原因なのかな?」
「まぁ、リティ。今は、夏祭りの事を考えていれば大丈夫さ。」
「うん。そうするね!」
ナイトは、その後リティを席から外して部屋を後にさせ、ヴィルと話を始める。
「ヴィル。それで、知性異獣の大きさはどのくらいだった?」
「この間までは小型だったが、最近は中型まで出る様になった。でも、王都へ近づけさせない様にしたよ。」
「そうか。いつも苦労を掛けて悪いね。」
“いずれ、僕は母の跡継ぎをするんだ。自警団団長としても、王としても”
とナイトは感じた。
その頃、アンネの家では…。
「シーガ君。ここに設置するけど、大丈夫?」
「OKだよ‼」
二人は家の周りの飾りつけを行っていた。アンネの父・ロッソニは仕事で忙しく、家にいない事が多い。
「よし、完成っと。……っと、きゃぁ‼」
アンネは足を滑らせて、地面へ落ちて行く。シーガは、俊敏に動いて彼女を両手でキャッチした。
「気を付けろよ。」
「あ、ありがとう。」
しかし、アンネは自分がお姫様抱っこをされている事に気付き、頬を赤くする。
「あれ?どうしたの、顔が赤いけど?」
「え⁈」
「あ、林檎みたいに真っ赤。相変わらずだね。」
「う、うるさい‼早く降ろしなさい!」
アンネはシーガにからかわれた事を恥ずかしくなり、そう言った。
祭り会場などの準備は、城下町の中心である噴水広場にそれぞれの店の屋台が、踊りなどを見せる舞台も設置が行われていた。
そして、当日「エルシィーダン祭り」が開催された。
運が良い事に、祭りに相応しい快晴だ。朝にも関わらず、祭りは人々で賑わっている。人々の中に浴衣を着て、下駄を履いて歩く者もいる。ジェン、アンネ、リティは、それぞれの浴衣を身に纏っていた。
ジェンは淡い青の朝顔の柄の浴衣を、アンネは向日葵の柄の浴衣を、リティはカラフルな折り鶴の柄の浴衣を着ていた。
「ジェンは、本当に色んな服が似合うね。」
「アンネこそ。リティも、似合っていますよ。」
「本当⁈ありがとう‼」
そう話していると―
「おぉ、可愛いジェンちゃん。浴衣姿、必見‼」
「何してんだよ、このクソ兄貴ィィィィィィィ‼」
ニックが写真を撮る寸前で、彼の妹であるリアフがチョップでお見舞いする。相変わらず、ビルフ兄妹は毎日、この様な感じらしい。他にも浴衣姿のペラリと普段着姿のフーティがいた。
「先輩たちもお祭りに?」
ジェンはリアフ、ペラリ、フーティに質問すると、ペラリが代表して答える。
「うん。それに、今夜、ジェンちゃんが躍ると聞いて、遊びがてら見に来たの。ねぇ、フーティ。」
「まぁな。」
フーティはそう言って、そっぽを向く。すると、ナイトがジェンに話しかける。
「ジェン、緊張し過ぎだよ。……時間もまだあるから、皆で回って行こう。」
彼の言葉に、皆は賛成する。それぞれ、行きたい場所が出て来た為、集合場所を決めて散らばった。




