第三十四夜 謎の気配
その頃…ジェンは、柘榴石の欠片の復元を目指していた。机に清潔な白い布を敷き、その上に槍に装飾されていた宝石の欠片を置いて復元魔法と言う、ジェンが考案した「物を元に戻す魔法」だ。
最初は、なかなか難しく衝撃で散ってしまう事が多い。ジェンは細心の注意でそれを行うが―
「うわぁ‼」
魔力の衝撃により欠片は散ってしまう。ジェンは、急いで魔法で欠片を集める。
“焦りましたぁ。やはり、まだ時間が必要ですね。……っ⁈”
と何かに気付いたジェンは、扉の方へ顔を振り向く。
「何でしょう?邪悪な気配を感じたのですが……。一瞬で消えてしまいましたね。」
ジェンはそう言い、欠片の復元を再開した。
数時間後、ナイトはリティと共にジェンの部屋に着いた。
「お兄ちゃん、今更だけど、何を持っているの?」
「あぁ、緑茶と胡麻餡団子だよ。リティの分もあるから、後でね。」
「本当‼ありがとう‼……あ、お兄ちゃん、私が扉を開ける。」
リティはそう言い、扉を開ける。そこには―
「ジェン⁈」
机に伏せているジェンがいた。その様子だと、かなり復元に苦戦し、参っている様だ。
「あぁ、ナイト。それにリティですか。どうしましたぁ?」
“何か、へたっているように感じる”
とナイトはジェンの様子から感じた。
「ジェンさんに、緑茶と胡麻餡団子を持って来たんだよ!お兄ちゃんは、ジェンさんが疲れていると思って持って来たんだよ。」
「リ、リティ!ち、違うぞ。これは、単なるおすそ分けだ。」
ナイトは照れ隠しで、そう言う。ジェンは微笑んで「ありがとうございます」と言い、緑茶と胡麻餡団子を部屋の真ん中にある円形のテーブルで食べ始めた。
「どうだい、復元は?」
「…時間が必要と言う所です。まだ、一部しか復元できていませんし、魔力が私の限界を超える事がしばしばあるので、少しずつしか……。」
「そうか。」
ナイトがそう言うと、リティがジェンにこう話す。
「ねぇ、ジェンさん。モーナさんが持っていた槍の金属は、見た事も無いものだったけど…。」
「けど?」
ジェンは首を傾げる。リティは続ける。
「実は、千年前から魔法研究省に残っている魔剣の欠片と同類の金属だって結果が出ているよ。」
「魔剣……。確か、この地を拠点に世界を滅ぼそうとした魔王が所有していた不吉剣と言うものでしょうか?」
「うん。ちょうど、研究結果をジェンさんの為に作ってもらったよ。これが、その報告書だよ。」
リティは報告書と言う数枚の紙をジェンに渡す。彼女は受け取って、よく読む。
報告書に書かれていた事はこうであった。
・数日前に見せてもらった柘榴石は闇の力を倍増させ、人々に脅威をもたらす。それだけでなく、普通の人間が使用した場合は手放す事が出来ないと言われている。また、見た目だけでは普通の柘榴石との区別がつかず、綺麗だと言う。(古の書物より)
・傷口に出来た宝石の欠片の詳細結果。柘榴石の中に小さくだが、ヴィルハン王国と思われる紋章が刻まれており、炎の様な形をしている。
・その宝石には怪我を負わせた者へ苦痛を味合わせ、洗脳作用がある。最悪の場合は、犯罪に手を出してしまったり、宝石の呪いによる突然死が予測される。ただ、王族やフィーメ家のような公家の治癒の力で完治する事が出来、完治後も普通の暮らしができる。
「随分と恐ろしいものですね。」
「僕も読んでみたけど、これは酷い。王族や公家の力で完治出来て、幸いだった。」
「はい。本当に……ナシィー様に感謝です。」
ジェンはそう言い、緑茶を飲む。団子も食べ終え、再び復元へと挑戦する。出来上がっているのは、ごく一部のみ。残りの大部分を完成させるために、集中力を研ぎ澄まして行く。
一方、ナイトとリティは、ジェンの部屋を後にしてナイトの部屋でゆっくり休憩していた。
「最近、異獣が活発化しているけど、小型の知性異獣が多い。どうしてだ。」
ナイトは自警団の報告書を見て、疑問を抱く。リティは、ゆっくりと緑茶を飲みながらナイトと同じ疑問について考えていた。
「腕の良いニックすら、苦戦を強いれられるとは…。」
“ここの所、あちこちに出向いていたから遠征は後回しになってしまっている。何か、申し訳ない”
とナイトは思う。
「お兄ちゃんは、それをどう思っているの?」
リティは、自分と同じ疑問を持っている兄に気持ちを尋ねる。
「そうだね。……母上が言っていたけど、覚醒の宝玉がまたお告げを出したんだ。」
「どんなのだったの?」
リティがそう聞くと、ナイトは少し難しい表情をして答える。
「それが、……誰も見た事の無いものを見る。それは、闇の時で光の儀式が行われると同時に…って。」
「難しい。」
リティはそう言うが、ナイトは心当たりのある事を思い浮かべる。
“光の儀式…おそらく、結界の儀の事だろう。だけど、闇の時と誰も見た事ないもの……何だろうか?”
数十日後、ジェンはやっと柘榴石の復元に成功した。危険である可能性がある為、小瓶の中に保管している。彼女は復元した宝石をまず、ナイトとリティ、ナシィーに見せた。
「これが、復元した宝石です。危険性があるかは分からない為、小瓶に入れる事にしました。」
「大変だったろう、ジェン。お疲れ様。……よく見ると、宝石の中に紋章があるね。」
「本当だ!」
それを見たナシィーが、少し真剣な表情になる。それに気付いたナイトは「母上、どうしたの?」と尋ねる。
「ヴィルハン王家の紋章かもしれないわ。でも、ずっと前、ジェンの聖痕が赤紫の炎だった時の模様と同じ……。」
「え⁈わ、私の、昔の聖痕ですか。」
「どういう事、お母さん。」
リティは、ナシィーにそう質問する。彼女は、こう答える。
「ハンヴィルを敬う様になった時から、王家の紋章を赤紫色の炎へと変えたと言う噂を耳にしたの。」
「ハンヴィルを敬うとは…。何故、伝説の邪悪なる竜を信仰するのでしょうか?」
ナシィーの話に、ジェンはそう呟いた。ナシィーは自身の推測だが、こう話す。
「推測だけど、宗教なら最高司祭がいるはず。その者が何かを企んでいるのかもしれない。」
ナシィーはこの時、瞳の奥で泣いているのを誰も気づかなかった。
その後、柘榴石は、魔法研究省の元で厳重に保管された。
数日後、ジェンとナイト、アンネ、シーガ、ソル、リティは試合で操作魔法(以後、操作)を掛けられていたモーナの元へ訪れていた。彼女は、安静の為に王都にある病院の一室で休んでいた。
「ごめんね。でも、貴方たちがいたおかげで助かったわ。」
「いえいえ、モーナ団長。その武器を持ち込んだ者が悪いのですから。」
確かに、ジェンの言う通りである。関係のない人々を巻き込むのは、ただの無差別に過ぎない。
「ジェンの言う通りですよ。私たちは、その犯人を突き止める為に今、奮闘ですよ!」
アンネは元気よく言う。シーガ、ソル、リティも彼女と同じ意見で、頷く。
「モーナが無事で何よりだ。武器に装飾されていた宝石の在処も、もう少しで確定へ向かう所です。一度壊れたものを、ジェンが復元したのです。」
ナイトの言葉にモーナは驚く。
「凄いわね。さすが、魔導騎士の天才児ね。」
「え?天才児とは。」
「あら、知らなかったの。王都であなたの事を知らない人は、あまりいないよ。それに、自分の進む道も決めているって聞いたから、頑張って。」
「は、はい‼モーナ団長‼」
しばらくして、ジェンたち六人は病院を後にして、とあるレストランで食事を摂る事にした。
「モーナ団長が元気になられてよかったです。」
「あぁ。モーナは天馬・飛竜騎士兵団の長だし、それに彼女自身もしっかりしているからね。とても、皆にとって大事な存在だよ。」
「ナイト君だって、そうでしょ?いずれ、王になるんだから。俺たちにとっても、大事な存在だよ。」
シーガがそう言うと、ソルはこう言う。
「シーガ、言うじゃないか‼俺もナイトの力になるよ。それに、しっかり者のリティがいるんだし。な?」
「うん‼」
リティは、華やかな笑みでソルの質問に答えた。ナイトは照れくされて「妹に言われるなんて、は、恥ずかしいな」と言う。
「お兄ちゃんってば!照れすぎ‼そこは、堂々と受け入れてよ。」
「お、お前に分かるかよ‼」
兄妹での会話を見て、ジェンは微笑んで右隣のシーガにある質問をした。
「シーガ。ヴィル兄様は、どうしていらっしゃいますか?」
「ん?ヴィル君の事。そうね。最近、知性を持つ小型異獣の動きが活発でさ……いつも、出かけて行っているよ。俺も、最近、町の様子がおかしいと思う。」
「おかしい?」
ジェンとシーガの会話は小声で話している為、他はナイトとリティの会話に盛り上がっている。シーガは続ける。
「いや、町の人の噂だけど、ヴィルハンの者と思う人物が町に紛れているって言うんだ。それに、神器を手にしてから心の中に大きな悪意の野望を感じる事がある。
それが、王国にいるってね。でも、場所が特定できないのは、残念だけど…。」
「いえ、それだけでも大きな情報です。それに、神器の力の一部を使いこなせているシーガは、徐々に力が上手く使えるようになった証拠ですよ。」
「ありがとうね♪ジェンちゃん。」
シーガはそう言って、ウィンクをした。ジェンは、これが何を意味するか残念ながら、知らなかった。




