第三十二夜 兵団大会
六月。彼らが二学年に進級してから、二ヵ月が経ったある日。王都では、夏イベントが開催された。
まず、六月に行われる『兵団大会』。
闘技場で自警団の団員、駐屯団、天馬・飛竜騎士兵団、エルシィーダン兵士が一人で戦うトーナメント方式。ただ、勝負に勝つのではなく相手の技量を知る事で、自らを磨き上げるなどを目的としている。ルールは、年末大会と同様である。
その大会になんと、ジェンも特別参加で出席する事となった。
去年、配られた新聞にジェンが翼を生やした姿をカメラが撮影したのだ。カメラは、一昨年にエルシィーダンで開発されたもので魔法研究省が研究に重ねて、新聞記者や思い出に残したり、薬草研究などに使用される。
当時撮影した新聞記者はジェンに「勝手に載せてしまい、すみません」と謝ったが、ジェンは「大丈夫です」と答えた。
開催時間の数分前。ジェンは、選手専用の待合室でナイト、シーガと話していた。
「まさか、ジェンがこの大会に招待されているとは思わなかったよ。」
「確かに。俺も驚いちゃったよ。」
ナイトとシーガは、ジェンの出場の感想を述べる。彼女はこう言う。
「そう言うシーガも、自警団の代表として参加しているとは思いませんでしたよ。」
「まぁね。正直、自分も驚いているよ。……でも、選手として出場するからには負けないよ。」
「私もです。」
ジェンとシーガはそう言う。ナイトは、やれやれとした表情で言った。
「いいけど、ルールは守るんだよ。」
「分かっているよ。ナイト君。」
そして、開催を知らせる鐘が鳴る。ナシィーの案内により、特別席にいるアンネとソル、リティはどんな勝負が始まるのだろうとハラハラドキドキの状態だった。審判は、観客たちに声を掛ける。
「みなさん。今年も、この大会を開催できた事、誠に感謝します。それでは、初戦のトーナメントを始めます‼……始め‼」
審判がそう言うと、観客は大声を上げる。すると、赤のゲートから天馬騎士の女性が、青のゲートからジェンが登場する。
“確か、相手は天馬騎士の中でも熟練、かつ団長のモーナさんとおっしゃっていましたね”
とジェンは確信した。
モーナは、天馬に乗ったままジェンを見て言う。
「魔導・杖騎士学校の噂のジェンレヴィさんね。」
「天馬・飛竜騎士兵団団長であるモーナ殿に会えて光栄です。」
「言うまでもないわ。年末大会で優勝しただけで、喜ばれると困るわ。私は、今までずっと勝ち続けて来た。これからも、私が勝利あるのみ!」
“何か、凄く嫌味っぽいです”
とジェンはそう思いつつも返事をする。
「でも、勝負には何が起こるかは分かりませんよ?ルールを守りつつ、お互いに本気で挑みましょう。」
「えぇ、私も。そうさせてもらいましょう。」
モーナは、槍を構えてジェンに刃を向ける。ジェンは、即座に後ろへ避けると、雷が目の前に落ちる。ジェンは直ぐに短剣を抜き、宝剣の姿に変える。その光景を見た観客は、興奮する。モーナも興奮していたが…。
「いいねぇ、それ。こっちも本気だぁ‼」
モーナの槍は黒の茨に巻かれて、刃は禍々しい色と形に変化した。この時、見ていたナイト、アンネ、ソル、シーガ、リティ、ナシィーは「まさか!」と思った。ジェンも当然気付いた。
“この人、呪われているのですか⁈”
とジェンは驚く。
「私の、この呪槍を受けてごらんなさい‼」
まるで、戦闘狂の人間の様な言い方で、モーナはジェンへ斬りかかる。ジェンは光の防御で守る。しかし、防御は破られていないものの、威力の桁違いにジェンは顔をしかめる。
「良いですねぇ。その苦しんでいる顔…。もっと、見せてごらんなさい‼」
「貴方のその、言い分は聞きたくないですね‼」
ジェンは宝剣の金剛を光らせ、反撃をして、モーナの背後に回る。モーナの右頬には、ジェンが通り過ぎた際に斬った薄い切り傷が刻まれた。
「痛いじゃないの‼」
「言いましたよ。何か起こるかは、分からないと。……悪いけど、モーナ団長を解放してください。その体を操っているのは、分かっていますよ。」
「……っ‼おのれぇ!貴様ぁ‼」
モーナは怒りを露わにし、黄色の瞳を赤黒色に染め上げ、天馬を走らせる。ジェンは、正面、側面、背後から迫るモーナを見事に避ける。
“早すぎます‼いくら何でも、天馬には限界が…‼”
とジェンは思う。再び側面から攻めて来た時、彼女は避けた。
しかし、左腕に傷を負ってしまう。彼女が傷を治そうとしたが、傷口には柘榴石の宝石が張り付いていた。
“な、何ですか⁈…落ち着いて…ここでアレを使うが良いのでしょうか?”
ジェンは奥の手を使いたかったが、まだ不安があった。年末大会で見せた翼を生やし、傷が完治し、速さや攻撃を増した技。
しかし、それに使用される魔力が八割五分前後と危険に値する。彼女はこの兵団大会に出席するにあたり「七割で使用するのを可能にしたい」と提案し、ナイトと猛特訓した。だが、肝心な結果を得られず、今日を迎えてしまった。
“あの技ではルール違反になってしまいます。……出来ない…いや、やってみせるのです‼”
とジェンは覚悟を決める。
モーナは上から鋭い刃を突くが、ジェンは勢いよく宝剣で跳ね除けてモーナと天馬を遠くへ飛ばし、目の前で剣の刃の穂先を天に向けて構える。
“以前ナイトが、言っていました。年末大会で、私が行った翼を生やし本来の力を発揮する技………覚醒‼"
ジェンが強く念じると、宝剣の鍔の金剛が青白く光る。
彼女の周囲には青白い光が現れ、彼女自身を包み込む。観客は彼女の放つ魔法に驚き、歓声を止める。
「……宝剣の精霊よ、汝に願う。我に神器の力を宿せ、そして邪悪な闇に取りつかれし者を解き放ち、本来の姿に戻せよ‼」
ジェンがそう言うと、彼女を包んでいた光が解かれる。その姿は、背中にはやや小さくした白き翼であった。魔力を押さえる事ができた証拠となる。
「ジェン‼調節が上手く行ったんだね!」
ナイトは、やっとできたのかと喜びと驚きの表情を出す。モーナはジェンの姿に驚くが、再び悪の微笑みを浮かべる。
「良いですねぇ。でも、私の方が上よ。この呪槍がある限り‼」
「いいえ。上には上がありますよ。今までの戦い方が、本気だと思われて困ります。今から、お見せします‼………炎風の矢‼」
ジェンは、翼を羽ばたかせてモーナに炎風の矢を複数放つ。弓使い以外で使用される矢を始めてみる事により、観客は興奮する。モーナは、天馬を走らせる。
“こんな矢は、こうしてやる‼”
モーナは氷槍を複数放ち、風矢にぶつけ爆発を起こす。しかし、普通の爆発で起こる煙とは違う。灰色の煙ではなく、大量の水蒸気だ。
実は、ジェンは風と炎を融合したもの。モーナは気付かずに、氷槍を放った。ぶつかる事により、氷を液体化させる事になり、水蒸気を発生させる。
“な、何だ⁈”
驚いたモーナの両手と、馬の左後ろ脚に金剛の鎖が巻き付き身動きができなくなる。
モーナは闇の力で反抗するが、ビクともしない。さらに、下半身が天馬に乗っている感覚を無くし、直ぐに足首が動けなくなった。
水蒸気の靄が晴れると、ジェンが天馬の傍にいた。水蒸気の靄に紛れ、ジェンは天馬を闇から解放し、地上へ降りさせた。モーナは、両手両足を六つの魔法陣から放たれた金剛の鎖により身動きができなくなっていた。
「はぁぁぁっっ‼」
ジェンは瞬時に相手へ詰め寄り、モーナの右手にある呪槍の柘榴石に宝剣の刃を入れ、破壊する。すると―
「きゃぁぁぁ‼」
モーナは、柘榴石が破壊されると同時に叫んだ。ジェンは、鎖を解き放って直ぐに宝剣を鞘に納めて落ちていくモーナを両手でキャッチした。審判は「ジェンの勝利」と客に伝えた。
ナイトの命令により、自警団の団員は、モーナを闘技場にある休憩室へ運んだ。その後、試合は続行され、昼を迎えた。
ジェン、ナイト、アンネ、シーガ、ソル、リティとナシィーは闘技場にある会議室で昼食を摂り終え、話し合う事にした。
会議室のテーブルには、モーナが所持していた「黒い槍」と小瓶に入れられた「柘榴石」の欠片があった。




