第三十一夜 華麗なる冬のパーティー
しばらくして、従者たちがジェンたちを迎えに来る。七人はパーティーが開かれる場所へと向かった。
会場は、王城の大宴会場である。ドレスやタキシードなど、パーティーに相応しい物を着ている貴族たちなどが集まっている。
ジェンたちが入って来ると、客人はナシィーとナイト、リティに気付き、大きな拍手をする。ジェン、アンネ、シーガ、ソル、ヴィル…そして、大会に出場した二、三年生の先輩たちは、従者の指示により三人の後ろに付いて行く。
そして、大宴会場の前の席に七人が一斉に並ぶ。ナシィーは整列後、前に出て言葉を紡ぐ。
「皆さん。寒い中、パーティーへお越しくださり、誠にありがとうございます。
今日、この壇上にいるお客様は、昨年の大会で優勝された魔導・杖騎士学校の生徒九人と新たな自警団団員二人です。」
ナシィーがそう言うと、客人は全員拍手をする。彼女は、拍手が治まったと同時にこう言う。
「……それでは、昨年の大会の優勝者代表・ジェンレヴィ殿のお言葉をいただきたいと思います。」
ナシィーに言われ、ジェンは壇上に行き、スピーチを始める。
「私は、魔導・杖騎士学校一年一組のジェンレヴィと申します。今夜、皆様と楽しいパーティーを過ごせること…大変嬉しく思います。
私がこの学校に入った理由は、三つあります。一つは、亡くなってしまった祖父の願いを叶える事。二つ目に、記憶喪失の自分が何者なのかを知る事。三つ目は、この世界に誰も差別される事の無い平和を築く事です。私は――」
スピーチを終えたジェンは、特等席で食事をしていた。他は、賑やかに食事を摂ったり、演奏者が奏でる音楽のリズムに社交ダンスをしたりして、楽しんでいる。
ソルとリティは社交ダンスを、ヴィルとナシィーは昔の話などをしていた。しかし、ジェンは楽しむことを忘れてはいなかったが、パーティーというものが一体何なのかよく分からず……ただ、ソルたちが楽しんでいるのを見守っていた。
「なぁ、ジェン。一回、外に出ないか?」
「はい。」
ナイトとジェンは、会場を抜け、防寒着を着て外へと出た。今いる場所は屋根があり、濡れずに済む。
「大丈夫?あぁいうの、慣れてなかった?」
ナイトは、ジェンにパーティーの事を聞く。彼女は「いいえ」と言って、理由を話した。
「ただ、パーティーをどう楽しんで良いか、分からなかったんです。それに、どこかで似たような景色が頭に残っている様な気がしまして。」
「……思い出せるところまで来たんだよ。実は、ジェンは過去に三回パーティーに出席しているよ。四、五、六歳の頃……、あの時は一緒に社交ダンスの練習で僕が苦戦してさ。それで――」
彼の話を聞いたジェンは、この時、脳内に記憶が映されていた。
五歳の頃、ジェンとナイトは初めての社交ダンスに挑戦!ナシィーと、顔はよく見えないがジェンの母親らしき人物が、二人に社交ダンスを教えていた。ジェンは直ぐに覚えるような感じだったが、ナイトは少し不器用な動作だった。
「お母さん、できないよぉ。」
「ナイト、できないじゃなくて、やるのよ。」
ナシィーは、諦めかけるナイトを励ます。ジェンは、ナイトにこう言う。
「練習をすれば、できるよ!一緒に頑張ろうよ、ナイト君。」
「う、うん。」
ジェンの差し伸べた手を、ナイトは優しく取り、二人でダンスの練習をする。そんな様子を見て、ナシィーとジェンの母は、微笑んでいた。
パーティーを終えて、星空を眺めていた。丁度、夏だったのか天の川が見える。
「ねぇ、ジェン。僕さ、大人になったら…お父さんの様な王様になるんだって。」
「凄いね‼」
「だよね!僕、強くなって、お父さんみたいにこの王国を守るよ‼」
「……っ!」
「大丈夫?ぼーっとしていたけど?」
「その、き、記憶が。パーティーの社交ダンスの練習、楽しかったですね。」
ジェンの言葉にナイトは「彼女がまた、過去の一部を取り戻したのだ。」と確信した。
彼女は、体が冷えたのを感じたのか、彼に「戻りましょう」と言い、共に会場へと戻った。扉が開くと、丁度音楽が始まる。
「あのさ。……一曲だけでも、踊らないか?」
「えぇ。久しぶりですし、良い機会です。」
ジェンがそう言うと、ナイトは手を差し出す。彼女は、微笑んで手を取って、ナイトと共にワルツを踊る。その姿を見たナシィーとヴィルは、心から嬉しく思った。アンネとシーガ、ソルとリティは、二人の踊る姿を見て魅了される。
ジェンとナイトは、久しぶりでもあり踊りの最中、楽しそうに笑っていた。
パーティーの時間は、あっという間に過ぎてしまった。五人は共に、とあるバルコニーで話をしていた。ジェンは、ナイトにアンネとソルの紹介をした。ナシィーとヴィルは、パーティーへ参加している貴族らに挨拶をしている。
「よろしく、アンネ、ソル。僕の事は、ナイトと呼んで良いよ。」
「え、でも。」
アンネはナイトの言葉に戸惑う。が―
「良いのか⁈」
ソルは、すぐさまに親しみ始める。
「あぁ。それに、リティの事もそう呼んでくれる?」
「勿論!リティ、今まで敬語で悪かった。これからは、よろしくな!」
「うん‼」
リティは、喜んで言った。アンネは、改めて言う。
「そうよね。友達なんだし、敬語何てカッコ悪いもんね。」
「そうだよ。アンネちゃん、やっとわかったみたいね。」
「シーガは、親しみが上手いから余裕なのよ。」
アンネは、コミュニケーションが上手いシーガにそう言う。ジェンもそれに賛同する。
「そうですね。友達として、行きましょう。」
そして、六人は、これから互いを親しい関係を歩む事になった。今晩は、特別で王城に泊まる事になっている。
アンネ、ソル、シーガ、リティはそれぞれの部屋に戻ったが、ナイトはジェンにある話をするため自分の部屋へと彼女を案内する。
「ジェン。王都の結界の事を知っているよね?」
「はい。情報に寄れば、力が弱まってきていると聞きますが…。」
「あぁ。母上が覚醒の宝玉でそうお告げを聞いたんだ。一応、民も知っている事だから、いつ結界が無くなっても民を混乱させないために、新聞で伝える事にしたんだ。」
「そうだったのですね。ところで、その、覚醒の宝玉とは?」
ジェンは、ナイトから「覚醒の宝玉」について聞いた。それを聞いた彼女は、今まで起きた事件との関連性があると考える。
ナイトの部屋に着き、まずは睡眠前に良いホットミルクを飲む。彼は、ジェンとテーブルを挟み、相対するように椅子に座りホットミルクを飲み、彼女にとある資料を差し出した。
「実は、一昨日奇妙な事があったんだ。」
「奇妙な事ですか?」
「あぁ。その資料は、その事をまとめたものだ。」
「そうなんですね。……では、読ませていただきますね。」
ジェンは、資料を黙読。彼女は、資料を一通り読み終えてナイトに「一体何が起きたのですか?」と問う。
「来て。丁度、雪は止んだし晴れている。見えるかもしれない。」
二人は、ナイトの部屋のバルコニーに出る。そこは、南を一望できる場所である。王城は少し高台の方に建てられている為、第一壁の外も見られる。
「あれは…。さっき読んだ現象ですか?」
二人の向く先は、南の方角。その方角の遠くにある空には、オーロラがあった。しかし、暖かい場所にはオーロラはできない。この国の北……極寒の地でしかオーロラは、観測されていない。
「オーロラですか。しかし、条件が全く一致しませんね。」
「うん。観測者に調べてもらったけど、自然現象で起きているとは考えにくいって。それに、あのオーロラから聲が聞こえる時がある。」
「聲ですか?」
とその時―
⦅ジェン…。聞こえる?⦆
「え?誰?」
彼女は、女性の聲が脳内に聞こえた。
「ジェン、どうした?」
⦅私は、エムリーナ。今年の夏に最大の危機が迫るわ。分かっていると思うけど、結界の儀には―――が来るわ。気を付け―⦆
聲は、そこで遮断された。「最大の危機」とは、一体何だろうか?
「大丈夫?」
ナイトに声を掛けられ、我に返ったジェンは彼に「エムリーナ」という女性の聲がしたと話す。
そう聞いた彼はジェンにこう話し始めた。
「エムリーナ…。実は、ヴィルの姉で、君の姉でもある人だよ。」
「え?…でも。」
「ごめん、無理させたね。」
ナイトは彼女に謝る。だが、ジェンはここに来る前の話に心当たりが浮かんだ。
「そう言えば、兄様が言っていました。私の姉は、ヴィルハン王国の城の本丸から離れたとある塔にいると言うのです。」
「………本当⁈」
ナイトは数秒してジェンに尋ねる。確かに、ヴィルの言う事は嘘か真かは分からない。
「ですが……。どうして、結界の儀を知っていたのかが不可解です。」
「そうだな。ヴィルハン王国は、エルシィーダンと同じ魔法にもたけている国だから。罠って言う事もあるね。」
「はい。しかし、ヴィルハン王国は、かつて……昔の時代で共に戦ったとされていますが、何故…。」
ジェンの言う通り、昔…ヴィルハン王国はエルシィーダンとも友好で、現在の様な緊張関係では無かった。ナイトは彼女の言う事を「確かに」と思った。
「わからない。けど、君には今、やるべき事がある。だから、僕は君が人々を助けたように、これから自分にできる事をするよ。自警団団長として!」
「はい!私も、この国の人々の為に精進します‼何か、困る事がありましたら言ってくださいね。」
「うん。ありがとう。」
こうして、ジェンとナイトは、改めて仲を深める事となった。ジェンは、アンネとソルと共に魔導・杖騎士学校にて授業を受け、一学年最終テストに合格した。
ナイトは、シーガとリティ、ヴィルと共に町の自警に勤めた。時々、ジェン、アンネ、ソルに協力を貰い、人々を助けていた。




