第二十九夜 冬のパーティーへ
こうして、年末大会は幕を閉じた。
表彰式には、先輩たちにも勧められて、代表としてジェンが出た。ナシィーは、チャンピオンの証として黄金で作られた月桂樹の葉の冠を乗せた。
その冠には、中心に金剛があり、その両隣には翆玉が飾られていた。
黄金の月桂樹の冠の宝石は、金剛以外、毎年変わる為に今年は翆玉となっている。その他にも、勝利を納めた学校には優勝カップと選手全員分のメダルを貰う事となっている。
表彰の後、勝利記念写真を取る為、ジェンたち魔導・杖騎士学校の代表選手は撮影場所に来ていた。そこには、ナイト王子、リティ王女、ナシィー女王の三人がいた。そして、速やかに撮影準備を進める。ジェンは代表者として、前列のナイトとリティの間に入って座り、ナシィーはリティの隣に座る。そして―
《パシャッ‼》
一生忘れない写真がここに誕生した。のちに、選手全員分に渡され、魔導・杖騎士学校の広告にも載り、年末大会の勝利写真として納められる事となる。
「よくやった…ジェンレヴィくん。お前さんは、昔から変わらぬ子じゃのう。」
ファデル校長は、勝利の知らせを聞いて微笑んで言った。
夕方…。撮影を終えた後、学校の寮に戻った四人は一〇三号室にて話をしていた。ジェンは鏡を見て、治癒を行うも、完全止血はしたものの、傷自体の完治できず、痕に残ってしまった。
「ったく、ジェンにこんな怪我をさせたあのおっさん……とっちめいて良いかしら?」
「アンネちゃん、怖い顔をしないで。君は笑顔でいて。」
怒るアンネをシーガは、優しく宥める。ソルは、ジェンの傷の心配をする。
「大丈夫か?あの時、痛々しかったから、こっちが痛いと思ったぜ。」
「心配無用ですよ。いつか、治るものですし。」
“そういう問題じゃない‼”
三人はジェンの天然さに内心、突っ込みを入れる。ジェンの綺麗な顔に傷など、もったいない事であるとアンネ、ソル、シーガは思っており、彼女自身は自分の美しさに気付いていない。
「そう言えば、シーガ。お兄様の様子は?」
「あぁ、ナシィーちゃんも同行してもらったけど、呪いは完全に消えたから、自警団団員に入れる事にしたんだ。」
シーガの言葉にジェンは、笑顔を浮かべて言う。
「ありがとうございます。……でも、まだ安心はしていられません。来年は、結界の儀を行いますので…それが一番難しい試練だと思います。」
彼女は、真剣だった。すると、アンネは笑顔でこう言う。
「そうね。だけど、たまには楽しんで、はっちゃけるのも悪くないでしょ!」
「確かに。四人でずっと、支えて行くんだ。楽しんだり、一緒に困難を乗り越えて行こうぜ‼」
「うん!皆で楽しく過ごせる来年が良いよ‼」
「そうですね。では…、改めまして―」
『ハッピーニューイヤー!』
そして、迎えた新年の一月二日。新年を祝った昨日に続き、町が活気づいている。和菓子店では、門松がおかれ、看板には「あけましておめでとうございます」と書かれているのも見える。ジェンたちは昨日、家族と共に過ごし、今日から再び学校寮へと戻った。
一〇三号室でジェン、アンネ、ソル、シーガ、ヴィルの五人は、新年祝いを終えた。すると、ドアの方からノック音が聞こえた。ヴィルがドアを開けると、そこには王家に仕える兵士たちの姿があった。何やら、ジェンに用がある様だ。
「貴殿をエルシィーダン王城へご招待したいとの事。貴殿のご友人も招待をされております故、どうか応じていただきたい。」
内容は、今日の夜に新年祝いとジェンたちの栄光を称えるパーティーがある為、来て欲しいとの事だった。
「……わかりました。では、行きましょう!」
ジェンたちは防寒着を着て、すぐに部屋を出ようとする。
「しょ、所持品は無いのですか?」
兵士はそう言うが、ジェンは「魔法鞄があるので大丈夫です」と言った。
実は、ジェンはさらに機能を追加して、泊まりの際に家にある私物を魔法鞄から通じて持って来るという便利なものへ進化させた。
五人は防寒をして、雪が優しく舞う町中を、兵士たちと共に歩いて行く。ジェンもさすがに寒く、魔法によって暖かくなっている服以外に、白マフラーに白のモフモフの手袋を身に付けている。アンネはコートにカイロを用いて、ソルはセーターとマフラーで、シーガはダウンコートにマフラー、ヴィルはベストとマフラーと手袋で温めて行く。
「城に行くのは、久しぶりだな…。」
「兄様は、行った事があるんですか?」
ヴィルの言葉にジェンは問いかける。
「そうか…、まだ思い出せてない所もあったね。……私たちは年に数回、王城へ訪れていたよ。」
「そうだったのですか。記憶の手がかりになる物があると良いのですが…。」
ジェンがそう言うと、タイミングよくソルがヴィルに話しかける。
「え?ヴィルは、城に入った事があるのか?」
ヴィルは「皆と親しくしたい」と言う気持ちで「敬語は無用だ」と伝えた為、アンネ、ソル、シーガは普通に接している。
「あぁ。ヴィルハン王国に洗脳される前…父と母と共に来ていたよ。アンネのお母さんにも会いに行ったよ。」
「私のお母さんに⁈」
「うん。…それに、瞳がよく似ている。」
アンネはそう言われ、少し照れてしまう。すると、シーガはヴィルに質問する。
「ヴィル君。そう言えば、君に姉弟がいるって聞いたけど…。他の姉弟はどうしたの?」
「分からない。けど、洗脳された時…姉弟を心配する気持ちが僅かに残っていた。それで姉弟の様子を見ていたんだ。姉上は、ヴィルハン王国の城で少し本丸から離れている塔にいる。弟と妹は、孤児院で育ったのち悪事をひれ伏す怪傑として頑張っているそうだ。」
ヴィルの言葉にジェンは「自分やヴィル兄様以外にも姉弟がいるのですか?」と問い、彼の答えを聞く。
「あぁ、五人兄弟さ。俺は長男だが、姉さんがいる。お前は大切な姉、弟と妹がいる。」
「怪傑をしている弟と妹ですか…。一度、会ってみたいですね。」
「あぁ、あいつらもそう思っているだろうね。」
そう話しているうちに兵士たちと共に、エルシィーダン王城の門へ辿り着いた。兵士たちは、門番に門の扉を開ける様に指示する。
すると、巨大な門の扉がゆっくりと開いて行く。その向こうには、雪景色で美しく映えるエルシィーダン王城が見えた。五人は、その美しさに見とれたが、兵士たちに呼びかけられ、急いで門の中へ入って行った。
五人は、肩やフードに積もった雪を払い王城内へ入る。兵士たちや執事、メイドに頭を下げられた彼らは、案内する兵士の後を追って中へと進む。まずは、王の間へと向かった。
王の間に着くと、王の座に座るナシィーとその両側にはナイトとリティの姿があった。ジェンたちは、一礼をする。ジェンは、代表としてお礼の言葉を言う。
「ナシィー女王陛下…本日、パーティーのご招待…誠にありがとうございます。」
「…お顔を挙げてください。」
ナシィーはそう言った為、ジェンたち五人は頭をあげる。ナシィーは続ける。
「今日のパーティーは、ナイトからの提案。貴方たちに恩返しをしたいと思っていたの。」
第一王子自らの行動ですか…。なるほど。
「ありがとうございます。ナイト王子。」
ジェンはナイトにお礼を言い、礼をする。ナシィーは微笑んで言う。
「ジェン、ありがとうね。さぁ、リティ…皆さんをそれぞれ部屋へ案内してね。」
「はーい!」
「ナイトは、ジェンの案内をお願い。」
「はい、母上。」
リティは、アンネ、ソル、シーガ、ヴィルをそれぞれの部屋へ、ナイトはジェンをある場所へと案内した。
「リティ王女…、あの、ジェンは一体どこに?」
アンネは、リティにジェンの行く先を聞いた。リティが答えたのは―
「ジェンさんの部屋にだよ。」
「えぇ、アイツの部屋があるのですか⁈」
ソルは驚いて言う。当然そうだ。が、「ヴィルと一緒に行かなかったのは、何故だろうか?」とシーガはその事をリティに聞くと、彼女は答えた。
「お兄ちゃんが…ジェンさんが本当にあの一族か、そして…記憶喪失がどれ程辛く、悲しくて…思い出すには多くの時間が必要で、儚い物か……向き合いたいって。」
「そうだったのか…。妹があんな目に遭うのは、どんなに辛いのか分かる気がする。」
ヴィルは、ジェンが自分の事を覚えてもいない様子を見た時を思い出した。四人の空気はざっと重くなる。ソルは、そんな空気を脱するべく、話題を変えた。
「なぁ、折角のパーティーだし……真面目な話は後にして、今日は盛り上がろうぜ!王城で開かれるパーティーなんて、滅多にない代物なんだからさ!」
彼が言った後も沈黙は数秒続いた。が、彼の言葉にヴィルは微笑んで言った。
「そうだな。ソルの言う通り、折角のパーティーが台無しになっては、後悔するだけだ。」
「…そうね!ソルの言う事も一理あるよ!」
「確かに。楽しくないと心残りができちゃうもんね。リティちゃんも、そう思うでしょ!」
「うん‼パーティー、楽しんで行って‼」
リティは、元気いっぱいの笑顔で言った。




