第二十七夜 ジェンの力 ―決勝戦の惨事―
ジェンは相手側にいた兵士の無事を確認して、アンネに言う。
「アンネ、ソル…この人たちを頼みます。」
「ジェン、…ナイト王子はどうかしちまったのか?」
ソルはジェンに聞く。
「凄まじい闇の力…。恐らく、私の兄上が言っていた最後の仕掛け…。」
「え?じゃぁ、ナイト王子は⁈」
「はい。闇の力によって凶暴化し、私たちを敵と見なしています。」
ジェンはそう言いながら、短剣を抜刀して光刃をナイトに放って、こう言う。
「何者ですか‼名乗りなさい!」
「ワレハ…コノヨ ヲ スベル…モノナリ…。ヒカリ…キエサリ ソコノシレヌ ヤミ ニ オチヨ‼」
すると、彼の体から闇のオーラが発せられる。その風が凄まじく、ジェンはアンネ、ソル、生徒二人を光防御で守る。そして、彼の体は凄まじい恐ろしさを持つ化け物へと姿を変え、左手には恐ろしいオーラが漂う大剣に変化した。観客たちは叫びを挙げる。逃げ惑う人や逃げれず佇んでしまう人など、様々だ。リティとナシィー、自警団団員は観客を避難させる。
闇のオーラが放つ風が止むと、ジェンの持つ短剣に異変があった。神々しい光が解き放たれ、短剣から剣へと姿を変えた。
「あれは…伝説の!…宝剣‼」
ソルが言った『宝剣』。その剣は、神々しい光を常に放ち、鍔に大きなダイヤモンド、剣柄には細かいダイヤモンドが所々に装飾されている。所謂、神器だ!
“宝剣…。確か、変幻自在で剣や短剣に変身できるものだと…。今は、この剣が必要なのですね!”
すると―
「ジェンちゃん‼」
「シーガ!」
「これを使え‼」
シーガが投げたものは、ナイトが実際に使われる王剣だった。ジェンは宝剣を地面に射し、鞘に収まっている王剣を受け取る。すると、化け物はジェンへと迫る!
「うぉぉぉぉぁぁぁ‼」
ソルが叫んだ。同時に、超音波の様なものが辺りに響き、化け物は走るのを止める。
「ジェン!今、その剣とお前の剣で戦うんだ‼」
ソルは、彼女に叫んだ。ジェンは即座に、王剣を鞘から抜いて右手で握り、地面に刺さっている宝剣を短剣の形に戻して左手に持ち、二刀流で構える。ジェンの横に、神器・ジャダクを手にしたシーガが立つ。
「俺も加わるぜ‼アンネ、ソル…その二人を外へ連れて行け!」
『はい‼』
アンネとソルはシーガの言う通りに、相手の精鋭兵を避難させる。
「シーガは、時々口調が変わるんですね?」
「まぁ、戦闘だけだがな。……行くぞ!」
二人は、一斉に化け物へと距離を詰める。化け物は左手にある大剣を横斬りで攻めて来る。ジェンとシーガは上に飛び、化け物の上から両肩に攻撃する。しかし、化け物は痛みを感じず、ジェンに縦斬り攻撃をする。
「……っ!」
ジェンは二つの剣で上手く止めたが、衝撃が強く痺れが伴ってくる。彼女はそれを堪え、二本の剣で大剣を押し返した。同時に、シーガが神器で薙ぎ払う様にして、化け物の胸部に傷を負わせる。
「やったか?」
ジェンとシーガは距離を取って、奴の様子を見る。観客やリティ、ナシィー、自警団団員たちは、別の場所への避難が完了した。今は、ジェンとシーガ、化け物のみだ。
「いや…、まだみたいです。やはり、本体に攻撃しないといけないのですか…。」
そう。ジェンの兄・ヴィルは「解ける方法は、分からない」と言っていた。
奴はゆっくりと体を起こし、姿勢を崩さない。すると、シーガは何か覚悟を決めたのか…。
「ったく、お騒がせ野郎だな‼……神器・ジャダクに宿りし力よ。我に応えよ…そして、汝が持ちし力を我に宿せ‼」
神器の宝石を赤橙に光らせると、シーガの体の周りに綺麗な闇のオーラが発生する。そして、彼の髪は銀髪に変化し、瞳はさらなる赤い輝きを増して、服は白と黒から赤と黒へと変化した。ジェンは驚く。
まさか、これは…三つ神器に宿る力の一つ。…神器の力、【緋之覇者】‼
「おぉぉぉぉぁぁぁぁぁ‼」
シーガは力いっぱいに奴の元へと距離を詰め、刃を振るう。ジェンも戦う。立ち止まっている訳には行かない。よく見ると、シーガの力は凄まじいものだった。刃で受け止めても互角の力を発揮し、防御は凄まじい力で振るわれた大剣の刃でさえ跳ね返す程で、機動力や攻撃力も凄かった。
彼の攻撃により、奴は多くの傷を負い地面へ倒れる。ジェンとシーガは用心して、奴と距離を取る。
「シーガ…、その力はどこで?」
「思い出したんだ。昔、親父と族長が教えてくれたんだ。いずれ、吸血鬼一族の未来を築く者になるって。」
「そうだったのですか。」
その時…。いきなり、竜巻の様な突風が二人を襲った。勢いが凄く、二人は思いっきり壁に打ち付けられた。二人が打ち付けた壁は、罅が入り、所々崩れていた。ジェンは頭の一部と口から出血していた。
「…プっ!」
口に含んでいた血を吐き出し、彼女はシーガの方を見る。しかし、彼は頭からの出血がジェンよりも多く、気絶してしまった。丁度そこに、アンネとソルが来てた。
「シーガ君!」
アンネは即座にシーガの元へ駆けつける。傷の様子を見て、アンネは直ぐに治癒を彼に行う。
「シーガ!…ジェン、これは一体?」
ソルはジェンに聞く。彼女は状況をソルに説明し、よろめきながらも遠くにいる奴の正面に立った。
「ジェン、無理すんな!お前だって、怪我を!」
「大丈夫です!あの化け物から王子を救って見せます‼……彼を、ナイト王子をこちらへ返してください‼」
ジェンは、短剣と王剣を強く握りしめて、奴との距離を一気に詰めて攻撃する。しかし、何度攻撃しても、魔法を放っても、化け物は大剣か鋭い爪で防いでしまう。彼女は「どうすれば!」と思った。その時だった。
「っ!……ぐはっ!」
奴の大きく鋭い爪が彼女の腹に突き刺さってしまった‼それにより、大量の血がジェンの口から吐かれる。化け物はジェンを蹴り、彼女をアンネとソル、シーガの近くまで飛ばした。
「ジェン‼……っ!傷が…出血が酷い。今すぐ休まねぇと‼」
「構わないで…ください‼」
「お、おい!」
ジェンはソルの注意を無視し、奴の正面に立とうと歩くが、出血が酷く倒れてしまう。血は、服にじわじわと全体へ広がって行っている。しかし、彼女は振り絞って膝をついたままだが、座った状態で顔を挙げると、ジェンが冷静に何かを唱え始めた。
「大いなる闇を、払いし聖なる光よ……今こそ、偉大な魔法を…開放すべし時‼我に力を‼」
すると、彼女の体の周りに神々しい光が現れ、渦の様に大きく巻き始めた。
奴の大きく鋭い爪が、しばらく経たないうちに、ジェンに変化がり、血で滲んでいた服の部分や、彼女の体にある掠り傷が徐々に消えて行く。そして―
「あれは⁈」
「…ジェン?」
ソルと治癒でシーガの治療を終えたアンネ、彼女によって目を覚ましたシーガはジェンの姿に驚きを抱いた。彼女の背中に大きな白い翼が生えていたのだ。翼の大きさは、片翼二mくらいに相当する。
そして、瞬時にジェンは化け物へと向かい、物凄い速さで刃を振るう。そして、すぐに化け物との距離を取り、短剣を、元の姿…宝剣へと戻す。
すると、シーガの手にあった神器の宝石が、赤橙に光り、光珠が宙に現れる。その光は二つに別れ、宝剣と王剣の中に入った。ジェンは、それに気付いた。
これは…。なるほど、神器が力を分け与えてくれたのですね。なら光と闇をそれぞれの刃に…。とジェンは念じる。
「ウォォォォォォ‼」
化け物はジェンに迫って来て、ジャンプして上から刃を降ろす。
「はっ‼」
ジェンは、化け物がジャンプしたのを機に何かを仕掛けた。よく見ると化け物の腕、手首と脚、足首に緋に染まった鎖が巻かれていた。奴の下には、小さな六つ魔法陣が六角形に展開されていた。鎖の出現元だ。
化け物は身動きできないのを分かったのか、口から炎を吐く。彼女は、瞬く間に炎に包まれる。
『ジェン‼』
彼女の名を呼んだアンネ、ソル、シーガは、彼女が無事なのかと肝を冷やす。すると、炎が弾かれるように散った。ジェンは、強力な水防御で炎を免れていた。そして、彼女は六つの魔法陣を光らせてこう言う。
「精神世界‼」
すると、ジェンと化け物の間に青白い光が生まれ二人を包み込み、輝きが治まる。その場にいる三人は、眩しさが晴れて目を開けるが、ジェンと化け物の姿はどこにもなかった。




