第二十三夜 仲間と秋の学校生活
書物館にいる三人は、伝承などについて話していた。
「ねぇ、ジェン。この国って【神々の故郷の大陸島】と書かれているけれど…よく分からないよ。」
アンネにそう質問され、ジェンは数秒考えてから答える。
「簡単に言えば、神様たちの誕生の地という所でしょう。神様は一人から二人、三人と次々と創造されて行くのです。この本では神々の祖はゼウス様で、それからラーフ様や大地の神、水の神、炎の神、四季の神などが創造されたのです。人間も神々が生まれると同時に、感情が芽生えたとかも言われています。」
「へぇ、凄い!」
アンネはジェンの説明に納得し、感心する。ソルは目を輝かせて本を手にして、じっくり見ている。ジェンとアンネは少し苦笑いをした。ジェンは説明を続ける。
「実は、ライリー様の出身は天界と言う場所で、天使の翼を生やした一族と言われています。」
「てんかい?」
「ここから遥か上空にある世界の事です。空に浮かぶ島に一族は平和に暮らしていると聞きます。」
「行ってみたいな!雲海とか見られるのかな?」
「そうかもしれませんね。」
三人は課題や調査を終え、書物館を出ると…シーガが駆けつけて来た。シーガは三人が調べ物を終えた事に少ししょんぼりしていたが、学校の訓練所でアンネとソル、それぞれの稽古相手をする。
ジェンは一人、短剣で武術の稽古をしていたが、ふと手にしている短剣を見て、書物館で見た本の内容を思い出していた。
【太古、ライリーの持つ神器は精霊の宿りし名にちなみ、宝剣と言われた。その剣は、変幻自在であった。剣の鍔には、美しい金剛がはめ込まれている。】
もし、これがライリーの持っていた剣だとしても…どうして私が持つべき剣なのでしょうか?
そんな事を考えていたが、ジェンは今やるべき事を優先した。いつか、その真実が分かる日まで…。その日の夕食…ジェンは何故か食事が進まない。そのせいか、定食ではなく単品で済ませていた。
「ジェンちゃん、どうしたの?あんまり食べていないけど…。」
「いえ、その…考え事をしていて…。…ご馳走様です。」
ジェンは席を立ち、片付けをして食堂を後にした。
「どうしたんだよ?考え事って、言えば良いじゃないか。」
「ソル君。男も事情があるのと同じ、女の子にもそれなりの事情があるのよ。ね、アンネちゃん。」
「えぇ⁈ま、まぁね。……。」
食堂を後にしたジェンは一人、訓練所にいた。考え込んでいた。
……嫌な予感がします。リティ王女が言っていた事が本当だとしても…私が立ち向かえるでしょうか?周りを巻き込むかもしれない…。それを何とか、避けたい事案ですね。
「ジェン。」
「…‼アンネ。」
ジェンが振り返ると、アンネがいた。
「ごめんね。折角、一人でゆっくりしているのに。」
「いいのですよ。少し、不安な事がありまして…。」
「そうだったのね。でも、私にだけでもいい…話してくれる?」
アンネはジェンに言った。ジェンは、止むを得ないと思ってアンネに話す事にした。
「大会の事で心配していまして。もし、リティ王女が言っていたことが本当だとしたら……周りを巻き込んでしまうと思ったんです。アンネ、ソル、シーガに何かあったら…私は…――」
ジェンは何か言いづらそうにしていると、アンネはこう言う。
「誰が、ジェンの友達になりたくないと言ったの?」
「アンネ…?」
「皆、ジェンを信頼している。私だって、シーガ君、ソルだって…。一人で巻き込まれるより、皆で巻き込まれた方がまだマシよ‼」
「…アンネは賢いですね。そう言ってくれて、嬉しいです。それに、後の二人もちゃんと聞いていたようですし。」
ジェンがそう言うと、訓練所の扉の方からソルとシーガが出て来た。
「バレちったな…。でも、アンネの言う通りだぜ!俺たちは仲間なんだぜ?」
「そう!仲間一人だけに負担はかけたくないよ。」
「皆さん……ありがとうございます。さて、夕食も終えたので稽古は明日の朝からですね‼ですが、これまでの稽古を行うと同時に、ある練習を追加したいと思います。」
「追加?何だ?」
ソルが質問すると、ジェンは張り切って言う。
「持久力の練習です‼」
『持久力?』
アンネ、ソル、シーガは口をそろえて首を傾げる。ジェンは「持久力を持つ事により、体力や魔力は少しでも維持できるのでは?」と担任に質問していたからである。【魔力は、持久力や体を鍛えると同時に上がって行く】と言う常識を利用するのだと教わった。
「例えば、マラソンと言う競技があるのはご存知でしょう。最初はゆっくり自分の呼吸が楽にできるように走って行き、最終的には呼吸の仕方、体力・持久力の向上…魔力の向上にもつながります。まさに、一石二鳥です‼」
ジェンの説明に三人は感心し、「おぉ~!」と声を挙げる。彼女は他にも方法を教える。
「また、朝…町の屋根を伝い、走っては越え、走っては越えと練習をするのも良いです。それか、いつもより多少の負担をかける事も必要です。例えるなら、稽古中に移動しながらの攻撃技を練習するなどです。まぁ、明日の放課後に見本を見せますので。」
「そうだね。俺、もう眠いよぉ~。」
「そうだな。じゃぁ、ジェン、アンネ。また明日な!」
「はい!」
「ジェン、私はシーガ君を送って行くから風呂は先に済ませてね。」
「分かりました。」
ジェンは部屋に戻り、風呂を済ませベッドで横になる。先程の話は彼女を安心させ、今まであったモヤモヤが一気に晴れたのだ。まるで緑豊かな野原に心地よい風が吹き渡る様に…。
「ジェン。もう、お風呂はす――」
アンネは部屋に戻って来たが、ジェンはベッドの上でスヤスヤと寝ていた。彼女の寝顔は安心した様子であった。アンネは、風邪をひかさない様にジェンに掛け布団をかけ、風呂へ入った。
翌日。授業は語学、数学、魔法学、社会学を学び、昼食を終えた後は実習訓練で武術や魔法に関する戦術を実践していた。ジェンたちのクラスは基礎はがっしり掴んでいるが、応用となってしまうと混乱する生徒も中にはいた。ジェン、アンネ、ソルはそんな生徒たちにアドバイスを重ね、少しずつクラスメイトらの苦手を無くしていく。
順調ですね。皆さん、寒さに負けていません。
ジェンも実習訓練に励む。武術を教えるのは熟練の兵士長だ。そして、武術教訓の順番の最後にいた彼女が前に出る。
「お願いします!」
ジェンは礼をして、手加減は良くないと思い、本気で実習に挑んだ。彼女は集中し、できるだけ鋭い刃を振るう。縦斬り、横斬り、突き、回転斬り、ジャンプ斬りなど、彼女は真剣に繰り出す。実習を終えると、兵士長の男性は言った。
「君、珍しい剣を持っているね。それに剣術も熟練ですな。」
「?あなたは?」
ジェンが尋ねると、兵士長は名を言う。
「俺は自警団の兵士長のニッカーライ・ビルフと申す。ニックと呼んでくれ。」
「ビルフ家の御方…お会いできて光栄です。」
「それにしても、その剣は伝説の宝剣だとは…。」
「そう、なんですか…。」
「でも、そんな事より………君は何て、凛々しい女性なんだ‼今まで会った事が無いよ!」
突然、ニックが興奮気味と言う状態になる。ジェンは前にシーガに言われた事を思い出す。
『ニック君さ…ちょっと変わった所があってさ。少し気を付けてね…。嫌だって思った時に一番効く方法は――』
シーガが言っていたのは……要するに変態と言う事ですか?とジェンは察した。
「―だから、私が必死に集めているコレクションを着てみませんか……ぐはっ‼」
ジェンは、ニックの腹に一発拳を入れた。シーガが言ったのは「嫌だったら、腹に一発拳をぶつける事」であった。彼女は、シーガの言う事を素直に受け入れたらしい。
「すみません。私、そう言うのは大嫌いなので……。」
彼女の冷静な目つきと声、拳の威力にニックは圧倒された。周りは騒めていると、丁度そこに―
「ジェンちゃん。大丈夫?ニック君に何かされた…みたいね。」
シーガが駆けつけ、早速、この状況を察した様だ。
「シーガか…、強烈なパンチを食らったよ。」
「ニック君があんな言い方とかしなければ、女の子たちは離れて行かないよ。」
シーガはニックへ正直に言うのだが…。
「分からないのか⁈女が一番可愛くなる方法を‼」
駄目だ…。変態スイッチが入っている。
とシーガは呆れながらも、「女の子は、笑顔が一番可愛いの。」と言い、ニックに注意を促した。
そして、放課後になると、シーガは女子たちの対応に忙しかった。ジェン、アンネ、ソルは持久力強化を促すマラソンを行っていた。学校の壁際を走って行くだけだが、アンネとソルは少し辛そうだった。
「二人とも、ゆっくりで良いですよ。」
ジェンは、アンネとソルのペースに合わせる。走る時の歩幅、呼吸の仕方などをジェンは丁寧にレクチャーして行き、まず一周を終えた。ジェンは軽度の息切れだったが、アンネとソルは息切れが激しかった。
「きっつ!…ぜぇ…。」
「はぁ…ジェンは、凄い…ね…はぁ…。」
ジェンは、しばらく歩いて呼吸を整えた後、考えて言う。
「本番まで、この運動を取り入れましょう。」
『えぇ‼』




