第二十二夜 ジェンの兄
秋が訪れ、年末大会に向けて練習していたある日、自警団の仕事を済ませたシーガが来た。相変わらず、女子に囲まれる始末だが…。
ジェン、アンネ、ソル、シーガが集まり、先輩たちは新聞や噂で聞いた町を救った四人が彼らであり、そして誰よりも勇ましい事であるのに驚く。
しかし、そんな事よりシーガはジェンに「伝えたい事がある」と言って来た。
「何でしょうか?」
「それがさ…。この間、捕まえた奴が正気を取り戻したと言うか……ジェンちゃんの事を妹とか言い出して…会いたいとか、顔を合わせたいと言ってばっかりで…。」
「え?私のお兄、様ですか?」
ジェンは全く覚えが無く頭が混乱する。兄妹など、記憶にもない事を言われても当然困惑する。
「ごめん。早速……悪いんだけど、自警団のアジトへ来てくれるかな?」
「………はい。」
ジェンはアンネとソルたちに「後で合流します」と言い、シーガと共に自警団のアジトへ向かった。
「本当にごめんな。でも、真剣な話でもあるんだ。」
シーガは口調を変える。こう言う時は嘘ではなく、真に真剣な話であるに違いない。
「大丈夫です。もし、記憶に繋がる手掛かりになるのだと思うと待っていられませんし。どうして、私の事を妹と言うのか、訳も聞きたいですし。」
「ありがとうな。ジェンちゃんは忙しいし、たまには休憩も必要なのに…。」
「ありがとうございます。」
二人は自警団のアジトへ着き、その敷地内の地下牢に向かった。日の光は射すが薄暗い牢屋…。その一室に奴がいた。
「ヴィル…連れて来た…。言っていることは本当なのか?」
「…ジェン…。ジェンなんだろ!すまない。俺は……俺は……。」
ヴィルは柵の近くに来て、ジェンにそう言う。しかし、ジェンには見知らぬ相手…つい、つい最近で敵として戦ったばかりである。それでいきなり言われても、受け止め難い。
「すみません。貴方はつい最近、初めて会ったんですよね?いきなり言われても……。すみません。」
「そんな…。覚えていないのか?」
ヴィルがそう言う。ジェンは彼の姿を見る。白と赤黒の混髪に涙で滲み始める橙色の瞳……。
「‼」
ジェンは、ハッと何か思い出した様だ。
ジェンが五歳くらいの頃、魔法の練習をしていた時。彼女は、ほとんどの魔法を使いこなし、魔力の加減がよく出来ていた。
「ジェーン!」
「ヴィルお兄ちゃん!」
ジェンは練習を辞め、ヴィルと言う少年の元へ駆けつける。
「本当に、練習は好きなんだな。俺も良いか?」
「うん。良いよ!」
ジェンは、ヴィルと共に魔法の練習に励んだ。あまり笑顔を見せなかったヴィル…しかし、ジェンの魔法の遊び方を教えてもらい、楽しいと言う事を学び、初めての笑顔を浮かばせたのだ。
「……っ!」
「ジェンちゃん、大丈夫?」
シーガは心配したが、ジェンは記憶を取り戻した事により様子が変わる。
「ヴィル…兄様ですか?」
「ジェンちゃん?思い出したのかい?」
シーガはそう問うとジェンは「私の兄です」と述べた。
「ジェン……無事で良かった。」
ヴィルはそう言う。ジェンは、少しの間を置いて話す。
「兄様、その、正気を取り戻すまでの間……何があったのですか?」
彼女は、ヴィルが敵対していた時までの間の出来事を聞く。だが―
「分からない。でも、まだ俺のせいで操られている人物がいるんだ。それも記憶にないから……。」
「そうでしたか。」
ジェンがそう言うと、シーガがこう言った。
「ヴィル。悪いが、まだここから出す訳には行かない。リティちゃんが言っていたけど、まだ体内に操られる可能性がある魔力が残っている。それが、操る呪いを掛けた最後の一人を倒せば消滅すると俺は思う。」
「もし、年末大会でナシィー様の言う通りでしたら、私が押さえる所存です。」
その後、ジェンはヴィルと話を済ませ、シーガと共にアンネとソルの元へ戻る。ジェンは向こうで起きた事をアンネとソルに話した。
「えぇ?ジェンにお兄さんが⁈」
アンネは驚く。
「驚きと言うか、ジェンがより一層謎に包まれて行くような…。」
ソルは、驚きと言うより少し困惑している様子であった。ジェンが記憶にある以上、「ヴィルは兄である」と信じるしかなかった。
「まぁ、ジェンちゃんも思い出す事もこれからはある。俺たちは、それを支えきゃね。」
「そうね。シーガ君の言う通り。」
「言われてみれば、そうだな。俺たちは仲間なんだしな!」
「…ありがとうございます。では、早速稽古しますか‼」
ジェンは暗い気持ちを振り払って、明るく言った。稽古中、アンネとソルがジェンとの一対一で苦戦していた。それを見ていたシーガは…
優しいけど、厳しい一面を持つ……俺が小さい時に噂で聞いていたジェンちゃんのままだ。それに、俺たち四人はこれから色んな事にぶち当たって行くんだろうな…。
と思っていた。
翌日…。授業は、調理実習である。この授業をやるには訳がある。兵団に入り、当番制がある場合は料理を任される事もある。その為でもあり、グループで仲良くなる事、これからの未来の為でもあった。
ジェンは、家での手伝いの経験もあり、上達した。アンネは少し下手に近いが、必死に役目をこなしていた。ソルはほとんど料理の経験が無い為、ジェンに一から丁寧に教えてもらった。
完成したのは美味しそうな中辛カレーである。他のグループはピラフや旬の野菜の炒め物など、さまざまである。
「ジェン、私の野菜の切り具合平気だった?」
「大丈夫ですよ。心配は無用です。」
「良かった!」
アンネは、安心してカレーを食べ始める。ソルは初めて料理と言うものを作った為、嬉しくて仕方が無くいっぱい食べていた。だが、彼は食べすぎてお腹を壊した……かもしれない。
食後、昼休みを迎えた彼らは、腹痛を起こさぬ様に休憩を入れつつ訓練所で稽古をしていた。二・三年生の先輩も加わり、それぞれのチームの連携性も増した。ジェンはさらに、新たな魔法を教えた。
この世に今までない魔法…。それを創るのには時に、命を失う事に繋がる危険性もある。それにまだ、魔法を新たに作ると言う年齢に達していないはずのジェンが、そこまでの成果を出すと思うと、皆は謎に包まれている少女であると無意識に思うようになった。
そして、紅葉の時期は終わり…冬へと向かう頃になった。朝の寒さで風邪ひかぬ様に、防寒着を着る人も出て来た。ジェンもさすがに肌寒く感じたので、マフラーを身に付ける。
「さすがに、寒くなってきましたね。」
「そうね。息も白くなってきた時期だし…これで年末大会を迎えると思うと……寒く感じる。」
「そうか?動かせば、体は暖かくなるし…病気になりにくい体になるそうだぜ?」
「確かに。体を動かすのは健康の一つでもありますからね!」
今日は、調べ物がある為に書物館へ向かっていた。後で、シーガも合流する事になっている。調べ物は学校の課題や伝承などについてだ。
書物館へ着き、本を数冊持って来て椅子に座った。
「課題って確か、この大陸島についてだろ?」
「はい。何冊かありましたから、情報もいろいろあるはずです。」
三人はそれぞれの本を見て話し合い、情報を交換してノートに書き込む。理由は学者それぞれによって考え方や情報が少々異なる事もある。本を読み続けていたジェンはふと、思い出す。
“確か、お父様が言っていたのは群れで襲い掛かる者や単体で厄介な者もいると聞きましたが…。”
ジェンは、少しばかりの記憶を手掛かりにノートに異獣の大きさを書き込でいた。彼女が書いたのは以下の通りである。
【異獣の大きさは、「大」が三十m以上、「中」が十m~三十m、「小」が一m~十mとなっている。しかし、ここの所…小型が減少し、中型や大型が増加している。】
「ジェン?大丈夫か?」
「…っ‼はい。すみません。異獣に関しての記憶が、思い出されたので夢中になってしまって。」
「異獣に関する事まで覚えていたの?凄いわね。」
ジェンは書き留めた事をアンネとソルに見せ、丁寧に説明をする。そして、知性のある魔獣に関しても推測だが、こう言う。
「知性が有ると言う事は、おそらく毒の威力の増減、噛み砕く力の大小などが考えられます。」
「考えてみれば、そうだな。まだ、実物を見ていないせいもあるし…実際見たら、驚いてしまう奴だっている可能性はあるんだろ?」
ソルがそう言うと、ジェンは頷いて話す。
「はい。私の記憶上、南東…いや、南から異獣が押し寄せて来た時…初めて見る人が多く、身動きできない人もいたそうです。まぁ、お父様が阻止し、私は補佐する事しかできませんでしたが…。」
「異獣は南から⁈でも、今は南東だって…。」
「おそらく、本格的な出現場所が見つかったようですが、どうやって出現するか未だに分からないのでしょうね。」
そして、ジェンの説明が終えた後…三人は伝承について話していた。




