第二十夜 秋の始まりへ
ジェンは左腕を負傷したが、痛みに耐えて、ヴィルに向かって反論する。
「左腕を刺されてたが、まだ、右手がある。自由は、皆…平等で生まれた時からある。どんな苦しい事に遭遇しても立ち向かう力がある‼」
「黙れ‼そんな誤魔化しが何になる‼」
「誤魔化しではない‼私は、七歳以前の記憶は失われている。どれほど苦しい事か……でもな。私よりも苦しんでいる者が多いんだ!苦しい事を経験している程、他人の苦しみを分かち合う優しさを持てるんだ‼」
「何をふざけた事を‼」
ヴィルは、何かの魔法を貯め始めていた。ジェンも同じタイミングで傷が深い左腕も動かす。
「闇轟!」
「いい加減にしろ‼光一角獣‼」
ジェンが放ったのは今までの中でも誰も見た事のないものであった。透明でも白く輝く天馬の体と一角獣の角を合わせた生き物が走り抜く。
ヴィルの魔法の勢いもあり、訓練所は大きな爆発の煙に包まれた。生徒たちは身を守る。ソル、リティは訓練所を見渡す。
そして、煙は徐々に晴れる。ヴィルは壁に打ち付けられ気絶していたが、ジェンは体中に傷があり、所々で出血していた。
「うっ……。」
ジェンは、その場に崩れる。それに気付いたソルとリティは駆けつける。そして、シーガと治癒の魔法で完治したアンネも駆けつける。
「ジェン。今、治すぞ。」
ソルはそう言い治癒の魔法を使う。リティもソルと共に治癒の魔法を使う。自警団の団員たちは生徒たちの安全やヴィルと三人の少年の連行を行う。
「それにしても、随分と派手にやってくれたよ……あの四人。」
「でも、シーガ君。ジェンと戦ってい奴…妙な事を言っていたのは何だろう?」
「まだ、他にも敵がいるってどういう事でしょう?」
アンネの言葉にジェン、ソル、シーガ、リティは「確かに」と聞く。ソルはポツリと呟く。
「嫌な予感しかしないが……。」
「謎に包まれた言葉だったね。」
リティがそう言うと、治癒の魔法をかけてもらっているジェンは言う。
「おそらく、光に潜む邪悪な闇が残っていると言う事ですね。リティ王女、城では何か変わった様子はありませんでしたか?」
「いや、お兄ちゃんもいつも通りだし…お母さんの身も安全だよ。」
「それなら、嬉しい事です。ですが、今後も油断はしない方が良いかもしれませんね。」
「ジェンの言う通りかもしれないね。あの宗教がいつ暴れ出すか分からないものね。」
アンネはそう言う。ジェンは治癒の魔法により完治し、立ち上がりソルとリティにお礼を言い、話を続ける。
「宗教と言っても、平和を望む人や先程の四人の様な過激派の人…それぞれです。宗教は人それぞれの思想などがありますから、あまり疑いたくはありません。」
「まぁ、そうね。ジェンちゃんの言う通り、人間は一人一人考えが違うものね。吸血鬼もだけど。」
シーガはそう言った。
こうして、事件の一幕は閉じたのである。しかし、数日後、ヴィルの証言に寄ると、「ライリーの子孫と吸血鬼の末裔を殺せ」と命じられたとの事であり……ヴィルンたちは実行犯で命令を出している者は別の人物であり、ますます謎が深くなっていった。
だが、嬉しい知らせもあった。それから、事件は起こらなくなり、人々は安全に暮らせるようになったと言う。ただ、あの時のジェンの口調は本人自身も不思議だと言っており、彼女の謎は少々深まっている。
この秋を越えれば、クリスマスに年末大会と行事がたくさん!王都・エルダは盛り上がりを見せていた。
数日後、紅葉の秋のある日。ジェンたち四人は和菓子店の庭で紅葉饅頭と抹茶を堪能していた。
「美味しい‼」
アンネがそう言う。ジェンは珍しく目を輝かせている。
「饅頭と言う和菓子の中のあんこの絶妙な甘さに、抹茶のわびさびと言うのですか?それがたまりません‼」
ジェンは少々の早口で言った。ソルは珍しいと言う表情である。
「珍しいな…。ジェンがあんなに目をキラキラさせるの。」
「そうね。」
「ジェンちゃん、よっぽど気に入ったようね。」
確かに三人の言う通りだ。今まで見た事ない笑顔や瞳がより一層輝いているのだから。そして、ゆっくり堪能した後…四人はのんびり町を歩いていた。
「もう、町は紅葉シーズンだね。こんな綺麗なのを見るの…何年ぶりだろう。」
「シーガ…紅葉見るの久しぶりなのか?」
「まぁな……亡き母と妹ととな。」
「すまない。余計な話を聞いたな。」
「いいって。気にしないで。」
ソルとシーガは仲良く話している。ジェンとアンネも話す。
「事件が無くなって、安心したよ。」
「そうですね。でも、よく考えてみると私、悪運が強いのでしょうか?」
「そんな事ないよ!と言うより、そんな事考えるのジェンらしくないと言うか。」
「そうでしょうか?……それに、今年が終わるのはあと一ヵ月ですね。」
「早かったよね。確か、二学年は所属兵団によってクラスが分かれるんだよね?」
「はい。それぞれの兵団の任務…知識が関わってきます。それに今年から天馬・飛竜騎士兵団に、私たちも入れるようになったみたいですよ。ただ、杖騎士に限られると思いますが。」
そう話していると、シーガがジェンに聞いてきた。
「ねぇ、ジェンちゃん。こんな事を聞いて悪いと思うけど、記憶の方は大丈夫なの?」
「はい。この間は少し戻りました…。よく分からないのですが、時々この王都を訪れていたようです。どうやら私はこの王都の者でないようです。ですが、完全な出身地はまだ…。」
「そうか。でも、少しは思い出せたで良いと思うよ。」
「ありがとうございます。」
そう話していると、女子の団体がこちらに迫って来た。シーガは心辺りがあったのか、「ご、ごめんね。また後で‼」と言って逃げ出した。三人は「なるほど」と当然のように心で思った。
三人は、シーガの事は放って置いて、町の中を歩き始めた。
「シーガの事は心配しなくていいのか、アンネ。」
「良いのよ。いっつもべったりくっつきたがるから、たまにはこう言うのも良いの‼」
「乙女には、乙女なりの事情ありと言う事ですね。」
「そう。男子には分からない所があるのよ。」
アンネに言われて、ソルは少しムカついたが「お互い様か」と怒りを鎮めた。すると、新聞を配る配達員がいた。
「あの、すみません。新聞、一つください。」
「おぉ、いつもありがとうな。お嬢さん。」
配達員の若者はそう言う。ジェンは「いえいえ」と言い、料金を払い新聞を貰う。
「ジェン、新聞を買ってどうするの?」
アンネが質問するとジェンは答える。
「ここに書かれている情報を頭に入れておくのです。何かの事件の状況とかが書かれているんですよ。」
「へぇ~。そいつは便利だな!間違った情報より正確な情報が入るからな。」
「そう言う事です。それよも、嬉しい知らせです。結界は弱まっていたのですが、謎の事件を解決して以来少し強化されたようです。…ですが、お父様の遺言も忘れてはいけませんので油断はしませんが。」
さらに新聞の記事には年末大会の選手が記載され、一学年代表はジェン、アンネ、ソルであり、対抗するのは騎士学校一学年の生徒三人である。
「さて、そろそろ再び練習に入らないとな!」
「そうね。事件で忙しかったからね。」
「作戦も一応立てておきましょう。」
三人は町を歩いて行き、城下町中央にある噴水広場のベンチに座り休憩する事にした。噴水の水面には紅葉や銀杏の木々が映えており、水面には紅葉や銀杏の葉が浮かんでいた。
「そういえば、学校の食堂メニューが秋の味覚シリーズになるんだってな!」
「凄いわね。お金かかりそうだけど…、旬の野菜とかを取り入れるって何だか良いね。」
「はい。確か、渡されたプリントには松茸ご飯、栗ご飯、薩摩芋ご飯、秋刀魚、鮭の塩焼き、梨のシャーベットと色々あるみたいですよ。」
ジェンの話にソルは嬉しい反応をする。
「マジ⁈俺、全部食べてみたいな!あ、一日ずつ変えるって話だぞ!」
「分かっているよ。それくらい。」
「まぁ、この年齢になると食欲旺盛になると聞きますし、お腹を壊さない程度に食べれば大丈夫ですよ。」
そんな話をしていると、シーガがこちらに駆け付けて来るのを見る。
「皆、酷いよ。俺を置いて行くとか……。」
「すまん、シーガ。待っていようと思ったんだが…。」
ソルは目線をアンネに向ける。
「あ、後でちゃんと来ると思っただけ!」
ソルの目線を感じ、照れ隠しでアンネはそっぽを向いて言う。シーガは「照屋さん」と思いつつ、置いてかれた事に少し拗ねていた。ジェンは彼の様子を見て、「じゃぁ、特別に今夜の食事をおごります」と優しい気づかいをすると、シーガは「ありがとう」と言い喜んだ。




