第十八夜 第一壁、見学② ―結界の危機⁈―
あっと言う間に昼になり、生徒や担任らは昼食を摂る。第一壁で食べていいのは今回限りで、貴重な時間であろう。三人は弁当を食べる。ジェンは、レタスとハムにドレッシングを挟んだサンドイッチに緑茶。アンネは、エビピラフにコッペパンと麦茶。ソルは、焼きそばパンに卵サンドイッチと麦茶である。
「こんな景色を見ながら食べられるなんて、光栄です。」
「うん。私たちだけ、特別なんだよね。」
「……あとで絵に描こうか…。」
ソルはそう呟くとすぐに食べ終えて、スケッチブックを取り出して鉛筆で何かを描き始めた。ジェンとアンネは気になって覗き込むと、今いる南の方の景色の様子を描いていた。
「ソルって、絵が上手いのね!」
「いつから絵を描くようになったのですか?」
「小さい時からだったな。黙々と絵を描いていたから、周りは邪魔しない様に僕に近づかなかったけど…。」
ソルは早い手捌きだが、物の位置や特徴など、全てキャンパスの中に納まって行く。その素晴らしさにジェンとアンネは魅了される。すると、そこに―
「アンネちゃん、ジェンちゃん、ソル君!」
「シーガ君‼」
「シーガ、仕事お疲れ様です。」
「急いで来たけど、女の子に囲まれちゃって…。弁当も分けて貰っちゃって…時間が…。」
シーガが困った様に言うと、アンネは笑顔で言う。
「大丈夫だよ。ちょうど、昼食は済む所だったから。」
「ソル君は何をしているの?」
シーガはソルが何をしているか尋ねる。ジェンは、ソルの代わりに答えた。
「絵を描いているんです。小さい時から好きだったみたいです。」
「へぇ~、素敵な才能を持っているね。……それで、何か変化はあったか?」
シーガは、話題を変える。アンネは「今の所、異常はない」と言い、続ける。
「ただ、ジェンのペンダントがあの宝玉……よく分からないけど…たがいに反応し合っていたと言うか。お互いに光合っていたの。」
「リティちゃんが行く前に教えたのは、こう言う事か。」
「シーガ君?」
「いや、リティちゃんが言っていたけど、ジェンちゃんのペンダントとあの宝玉は一族の物と考えて良い。」
シーガの言葉にジェンは「私のペンダントと宝玉の持ち主と、どういう関係があるのですか?」と聞く。
「ジェンちゃんは記憶が無い以上、話をすると混乱を招いちゃうし……。あぁ~、どうしたら良いか…。」
「だ、大丈夫ですよ。私も思い出すように努力をしている所でしたし。」
「そう?ごめんね、ジェンちゃんは優しいね。」
「いえいえ。ところで、神器はどこに?」
言われてみれば、大鎌であり、神器でもあるジャダクが見当たらない。シーガは、ジェンに話す。
「あぁ。実は、右手甲に吸血鬼の紋章が刻まれたんだ。紋章を光らせて、武器を持つ仕組みらしいんだ。」
「なるほど。でも、良かったです。取り戻せて。」
「ありがとう!」
ジェンはその後、一人で宝玉の元へ来た。注意は守っている限り大丈夫である。ペンダントを胸元から出して、記憶を思い出すように考え込む。
“この宝玉の台座は宝玉を置いておくもので、前には剣でも刺す事が出来る溝があります。そして、宝玉の台座を中心に美しい石畳があります………。やっぱり、簡単に思い出せませんよね”
ジェンはそう思った瞬間、脳裏に映像として蘇った。
「いいか、ジェン。お前が十四の時を迎える頃に、結界が限界を迎える。その時は、お前が結界の儀を行うんだよ。」
父親であろう人物にそう言われる。幼きジェンは疑問を持つ。
「どうして?」
「おそらく、異獣の出現か、怖い竜の復活の予兆かもしれないからだよ。」
「……‼」
まだ、お父様の顔は思い出せませんが……、結界が限界を迎えていることは事実のようですね。来年が勝負という所でしょうか?しかし、何故私が結界の儀を行うのでしょうか?
ジェンは、またもや自分の謎に頭が参る。何度も、両親の声は出て来ているはずなのに、顔だけは思い出せないのが、不思議でならない。
しかし、一年後には危機が迫ると言うのはそれは少しまずいかもしれない。だが、今はやるべきことが優先である。
今は、目の前にある壁を越える事が先です。
ジェンはアンネ、ソル、シーガの元へ行き生徒たちとも合流し、学校へ戻った。その間に大変な事が起きるかもしれないからだ。
学校寮の一〇三号室で四人は、ゆっくりお菓子やお茶を飲みながら話していた。
「じゃぁ、結界の儀は一年後と言う事なのか?」
ジェンは蘇った記憶と共にアンネ、ソル、シーガに結界の限界の年数を伝えた。
「だから、異獣が稀に壁付近まで……。」
「そう言う事ね。」
「シーガ、何か心当たりでもあるのか?」
ソルはシーガに質問するとこう答える。
「前に遠征していた時が会ったろ。その時に第一壁に迫り来る異獣がいて、その討伐をしていたけど、知性があるせいで苦戦したよ。」
「知性のある異獣……。厄介だわ。」
「厄介なのがそれだけじゃなかったんだ。そいつ、蛇型だったんだが、言葉を話したんだ。」
「喋ったのか⁈」
「あぁ。…結界破れる…ライリーの子はいない…って、そう聞こえた。」
「やっぱり、異獣たちは結界を敗れる時期を見計らっているって事?何か、嫌な感じ!」
確かにそう言える。シーガは、ジェンが言っていた結界の事をリティに伝えると決め、本人に許可をもらい自警団の情報として持ち帰る事にした。
そして、数日後。三人はいつもの様に授業を受け、武術を鍛錬し、クラスメイトらに教えたりと楽しい毎日が過ぎて行く。そして、木々が徐々に黄色や赤へと染まっているのに気づく。
「もう、秋なんですね。」
「早いね。春が昨日の事のように思う。」
「確かに。一年がこんなに早く感じるのは初めてだぜ。」
三人だけではなく、生徒たちもあと一組で過ごせるのは進級まで約五カ月であり、半年を切ったのだ。生徒らも彼らの教えにより、徐々に魔法や武術に関して器用さや技術面で高くなっている者も少なくはない。追試を受けた生徒らは全員合格し、一組は「優秀者の箱」とも言われる程になった。
密かにジェンの素晴らしい魔法の噂は学校中に回り、彼女とその仲間三人の事を知らない生徒はいなかった。それだけでなく、今まで町の人々をも救って来た事の影響もあり王都中に広まりつつあった。
ある日、四人は街中の大通りで楽しい話をしながら歩いていると、同じ学年だが別のクラスの生徒たち数人が彼らの元へ走って来た。
「ど、どうしたのですか⁈」
ジェンが尋ねると、別のクラスの生徒の一人が言う。
「ナ、騎士学校の奴らが喧嘩を売って来たんだ!俺たち何もしてねぇのに!」
「それに、やつらの力が尋常じゃねぇんだよ!」
「本当なのね。」
アンネがそう言うと走って来た彼らは全員頷く。
「お前らは学校に向かって走れ。俺たちが何とかする!」
ソルは生徒らにそう言う。四人は彼らを逃がそうとすると、ジェンは何かに気付く。
「何か来ます‼」
それと同時に大通りの真ん中を通る騎士学校の生徒数人が走って来る。アンネはジェンと同じく、邪悪な何かを感じて、魔力が七割程度の光の魔法弾を五つ放つ。しかし、奴らは避けて邪悪なオーラで体を包み込み、走って来る。町の人々はそれに怯え、逃げて行く。
「皆、臨時体勢だ!」
シーガの掛け声がする。ジェンは短剣を抜刀し、アンネは杖の宝玉を三刃薙刀へ、ソルは杖の宝玉を槍へ変形させる。シーガは神器・ジャダクを手に取る。アンネとソルは一斉に飛び、宙を舞って刃を振るい光の刃を放つ。
すると、六体中三体当たり歯止めをかける。残り三体はジェンとシーガの元へ走って来た。
「全くもう、世話を焼かせるな。」
「シーガ、彼らはもしかすると…光の中の闇によって操られている可能性が高いです。」
奴ら三体は二人を囲む。ジェンとシーガは背中を合わせ、話す。
「ど、どう言う事だ?要するに、誰かがこいつらに魔法か何かを掛けたのか?」
「はい。」
「じゃぁ、こいつらの目を覚まさせるしかないね。殺さない程度に、この武器の使用方法も鍛錬してきたし。」
「頼りにしていますよ。……行きます‼」
ジェンはそう言い、光魔法弾を三つ放つ。三体は避ける為、宙へと舞う。シーガはそこに隙をついて、宙へ飛び神器・ジャダクを振るい、宙にいる三体を怯ませる。ジェンは瞬時に、光刃を三つ放つ。すべてうまく命中し、ゆっくりと地面へ闇から解き放たれた少年三人が地面へ降りて来た。
アンネとソルの方も同じことが起きた様だ。そして、六人の騎士学校の生徒は目を覚ました。
「怪我はありませんか?」
ジェンは声を掛ける。
「あ、あぁ。ここは……。」
様子がおかしい。シーガは少年たちに事情を聴くと…どうやら今の出来事は記憶にないようだ。さらに事情を聴いて行くと、一昨日に誰かに呼ばれて集合場所に来た辺りから記憶の欠落が見えたと分かった。すると、とある生徒が証拠品として一枚の紙切れをくれた。
【月の無き夜に、お前らの住処の屋上に集合せよ。】
六人の騎士学校の男子生徒とは分かれ、さっそく学校寮の一〇三号室で調査を始めた。この所、先程と同じ様な事件が多発しており、操られた六人以外の生徒もジェン、アンネ、ソル、シーガ…四人が救った。だが、不可解な点が残る。
それは、これまで同じなのが四人との関係のある人たちが、狙われ追いかけられる事。しかし、ここからが少々の謎であった。例えば、獲物を追っている時に邪魔が入ろうとも、追いかけている者に集中している為、周囲に目は取られない。
だが、操られていた者たちは四人を見かけると、走り去って行くものを諦め、彼ら四人への攻撃を仕掛けると言う事だった。




