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Awakening Of Magic  作者: Hanna
序章Ⅰ 導きの少女 編
2/87

第一夜 転生、新たな世界で

 現実世界で楽しく暮らしている野田梨穂。だが、悲劇は突如訪れた。

 とある雨の日。野田梨穂(のだりほ)は、傘をさして帰路を歩いていた。高校からほど近く、徒歩二十分である。梨穂は、スマホのバイブに気付いて見てみると友人からのLINEだった。彼女は返事をして、カバンの中へしまった。


「さてと、帰ったらアニメを見よっと‼」


 よく見ると、彼女のカバンには、アニメキャラのぬいぐるみストラップが付けてあった。それは、彼女が一番気に入っているキャラである。所謂(いわゆる)、梨穂はアニメオタクである。

 だが、彼女は勉強もはかどっており、成績はオール四である。クラスでは、男女平等に話が出来て信頼が厚い。その影響か、彼女を好む男子は少なくはない。特別に綺麗と言う訳では無いが、人を惹き付ける何かがあるようだ。


 帰路の途中。人出の多いとある交差点に着くが、赤信号の為に梨穂は歩みを止める。やがて、青に変わり彼女は横断歩道を渡る。しかし、右側に止まっている自動車の列にトラックが走って来るが…スピードは遥かにオーバーしていた。


《ドカーン‼》


 トラックが前の車に激しく追突した。

 そして、玉突き状態になり前へ前へと自動車は押される。目撃した人々は、横断歩道を渡っている人々に逃げる様に言う。勿論(もちろん)、梨穂も耳に入っていたが、一番前にあった自動車が玉突きされ、彼女が逃げようとした瞬間には勢いよく目の前に迫っていた。


「梨穂~‼」


 クラスメイトか知り合いか、友人と思われる女子高校生が、倒れた梨穂の元へと駆けつける。現場にいた人々は、救急車と警察を呼ぶ。



 翌日。その事故は、ニュースに取り上げられた。


『次のニュースです。K県S市のとある交差点でトラックと自動車の玉突き事故が起きました。この事故で、高校二年生だった野田梨穂さんが巻き込まれ、頭を強打して病院へ運ばれましたが、間もなく死亡が確認されました。運転していたトラックの運転手は、ながらスマホをしていたと言う事で警察に現行犯逮捕されました。野田さんの学校では、追悼式を―』


 ―――――――――――――――――――


 異なる世界…魔法と騎士が存在する世界。そんな巨大な世界にある大陸島『ラフィンナ』…生命と希望の神・ラーフのゆかりの名をいただく。

 ラフィンナには、三つの王国が存在する。主に北と西を征する『エルシィーダン王国』、東には運河を越えた先にある「ナイツァノ王国」、南を主に征する「ヴィルハン王国」が栄えていた。


 エルシィーダン王国「王都・エルダ」から郊外にある町。その町を統率するとある一家に女の子が生まれた。母親は、「優しく勇敢な子になって欲しい」と言う意味を込めて、『ジェンレヴィ』と名付けた。真っ白で美しい髪と透き通った肌、瑠璃色の瞳を持つ少女だが、周囲の子供たちとは異なる部分があった。

 それは、前世(高校一年生の頃)に見た夢だけが生まれた時から記憶にあり、彼女の左鎖骨には雫の形で淡い青色の【聖痕】が刻まれていた。

 そして、彼女が生まれて六ヵ月頃に、初めての離乳食を食べた。普通なら、時間が掛かる事が多いはずが、彼女は抵抗せずに口にした。

 また、周囲の子供たちよりも成長は早かった。

 一歳少し前にはよちよち歩きと単語を発し、二歳では一文を言えるようになっり、三歳には完全に自我が形成された。母親が名付けた通り、優しく勇敢だったが、比較的大人しい性格だった。

 さらに、四歳で何気に読んでいた本で治癒(ヒール)魔法(以後、治癒(ヒール)と呼ぶ)を覚えてしまい、両親を困らせる程だった。

 彼女の愛称は『ジェン』となり、すくすくと成長して友人もできた。五歳では治癒(ヒール)を完全に使いこなし、規則正しい生活を送っていた。


 彼女が生まれた世界では、前世の様に車もなく高層ビルもないので空気が澄み、何一つ生態系は壊されていない自然に溢れていた。


 人々は、朝を迎えると朝食の準備をし、家族団欒(かぞくだんらん)をして楽しむ。ジェンは、五歳ながらも時間通りに起きていた。それだけでなく、文章を読み上げる事も完璧で、周囲の人々から称賛される事もある。

 町にいる子供たちからの信頼が厚く、ジェンは絵本を読み聞かせる程だった。



 そんなある日…、両親と共に王都から家に帰る時の事だった。

 馬車で家へ向かう途中、低くずしずしと迫り来る音…馬車が突然揺れて走る速度が増す。母親は、ジェンを守ろうと彼女の身を寄せる。父親は、揺れに耐えて剣が納められている鞘を強く握りしめる。彼女は、何が起きたのだろうと思い、窓の外を見る。

 窓の外では、五mの蜘蛛(くも)の異形の獣がいて、短剣(ダガー)と魔導書を用いて戦う者たちがいた。異形の獣の攻撃を避け、魔法で討伐する。その姿を見て、ジェンは魅了された。


 『異形の獣』とは、人間に危害を加える巨大な獣の事。普段、見かける虫や生き物がモデリングされている。しかし、何故現れたのかは不明でエルシィーダン王国の南辺り突如出現した為、王政府は対処方法として兵団を創った。


 彼女は家へ戻ると、両親にこう言う。


「お父様、お母様。私、さっき戦っている人たちの様になりたい‼」


 突然の娘の発言に少々驚いた両親。五秒ほどで父親は彼女にこう聞く。


「もしかして、魔導騎士(マジックナイト)になりたいのか?」


「まじっく、ないと?」


「あぁ。魔法と剣を使って戦う人の事だよ。」


「…凄い‼私、魔導騎士(マジックナイト)になる‼」


 彼女の発言に母親は少しばかり反対するが、父親の説得によりジェンに魔法を教える事にした。ジェンの母親は元魔導教師で、彼女に教える事は容易であった。


 数日後、ジェンは母親から基礎である単体魔法を教わる。大抵、覚えるのに必死で失敗する事も多いが、ジェンは直ぐに完璧に仕上げてしまい、母親を驚かせる。


 魔法は、人の体内に存在する魔力を利用して、(フランマ)(アクア)(ベントゥス)(サンダー)氷雪(アイス)(ルークス)(テネリス)の…主に七属性を使いこなす。最初は基礎魔法で土台を作り、複合魔法を教わると同時に魔力使用割合が高まって行く。五割は属性ごとの効果が出始め、七割までは多少の打撃などが伴う。八割を超えると攻撃魔法になる。


 ジェンは日々、魔法の練習をして行く。時には失敗して、落ち込んでしまった事もあったが、それでも鍛錬は怠らなかった。しかし、魔力の消費が激しければ、体への負担は多少かかる。だが、彼女は五歳という年齢で基礎である単体魔法をマスターし、六歳では七つの魔法を全て使いこなしてしまったのだ。

 そんな成長ぶりに両親は、驚きを隠せなかった。

 ジェンは、七属性の魔法が使える事に一切過信をせずに友人や人々の関係を大切にし、困っている事があるなら解決策を考え出した。例えそれが単純な事だとしても、人々に希望を運ぶものばかりで『導きの少女』と称され、噂で広がって行った。




 その四年後…、十歳となったジェンは王都(エルダ)で、母方の両親のもとで暮らしていた。王都・エルダは、五十五mもある二重の壁に守られている。

 彼女が王都で暮らしているのには、訳があった。彼女は、両親と七歳以前の記憶を亡くし、自分の名前と従兄妹(いとこ)たちの事しか覚えていなかった。

 私物は、黒色の魔導書と金剛(ダイヤモンド)のペンダントのみ。長かった髪は、訳あって顎辺りで切られていた。


「あの、お婆ちゃん。私のお父様とお母様は、どんな人でしたか?私と似ている部分は、あったでしょうか?」


 ジェンは椅子に座っている祖母に、自分の両親の事を聞く。


「そうね。お父さんは、とっても優しいお方だったよ。お母さんは、とても綺麗でしっかり者。ジェンの髪と瞳、優しさはお父さん似で、しっかりしていてべっぴんさんはお母さん似だよ。」


「ほ、本当ですか。」


 彼女は記憶がない為、誰にでも敬語で話し方はより大人になっていた。一刻も早く自分の事を知る為に、ジェンは祖母によくかつて自分の事を聞いていた。


「ジェン?」


「あ、アレックス叔父さん。」


 ジェンの母の弟…彼女にとって叔父にあたる。ジェンの母とアレックスに兄がいたが、三年前に異獣により帰らぬ人となってしまった様だ。


「悪いが、買い物に行ってくれないか?叔父さん、忙しくてさ。」


「分かりました。」


 ジェンはアレックスの元へ行き、彼から買い物メモを受け取る。


「これだけで良いんですか?」


「あぁ、他の材料はまだあるからな。」


「はい。では、行って来ますね。」


 ジェンはそう言い、財布を入れた肩下げバックを肩に掛けて商店市場の方へ向かった。



 商店市場では、人で賑わっていた。八百屋、魚屋、肉屋…ハーブ店、食料品店、本屋、雑貨屋、床屋、薬屋、魔法道具屋が立ち並んでいる。

 ジェンはメモを見ると、まず一段目には「トマト×五個、大豆の缶詰×一缶、セロリ×一束」……二段目には「ローリエの葉×一枚、スープの素×一瓶、パセリ(容器)×一瓶」と書かれていた。

 彼女は八百屋でトマトとセロリ、ハーブ店でローリエの葉、食料品店で大豆の缶詰にスープの素とパセリ(容器)を買い、自宅へ戻る。


「おかえり、ジェン。」


 アレックスは、ジェンの持つ荷物を受け取る。


「ただいまです。アレックス叔父さん、今日、もしかして…ミネストローネですか?」


「流石だね、ジェンは。大当たりだ。」


「嬉しいです。」


 ジェンは、ミネストローネが好きなようだ。彼女の瞳が輝いているので、間違いないだろう。


「おうよ。…そうだ。クラッドとアイカは、友達と遊びに行ったようだよ。」


 クラッドとアイカは、ジェンにとって従兄妹である。彼らは、よくジェンに懐いて慕っている。現在、クラッドは八歳、アイカは七歳である。


「そうですか。では、私は木刀で剣の稽古をしてきます。」


「分かった。門限までには帰って来いよ。」


「はい‼」


 ジェンは返事をし木刀を手に、近くにある静かな野原に向かった。いつも剣の稽古を行う時は、精神が安定する環境が必要だ。彼女は木刀を強く握りしめ、素振りをする。

 魔導騎士(マジックナイト)は、魔導書と短剣(ダガー)を用いて戦う。短剣(ダガー)は、人ぞれぞれ形や重さが違うが、剣術を学ばなければ元も子もない。


 すると、一人の幼い少女がジェンの元へ駆けつけて来た。


「お姉ちゃん!」


「…!アイカじゃないですか。どうしたのですか?」


 よく見るとアイカは涙ぐんでいる。ジェンは訳を聞くと、彼女はこう話す。


「ひぐっ…お姉ちゃんから貰ったブレスレットが取られて、返してくれなくて…。お兄ちゃんが取り返そうとして…。」


「…分かりました。どこにいるのか、案内してくれますか?」


「う、うん。」


 アイカはジェンの手を握り、クラッドの元へと走って行く。



「調子に乗んな、ガキめ!」


「うっ!」


 クラッドは、壁に背中を打ち付けられる。口の片端は切れ、片方の頬には殴られた跡がある。彼の周りには、剣を携えた十二、三歳くらいの少年たちがいた。


「抵抗するか?あぁ⁈」


「うるさい!お前らの様に弱い者虐めはしない‼妹のブレスレットを返せぇ‼」


 クラッドは必死に言う。


「黙れ‼」


 三人のうちの一人が彼に向けて、拳を振り上げる。


「やめてください‼」


 大きな声で誰かが叫んだ。三人は振り返って見ると、走って向かってくるジェンの姿があった。三人の少年らは、格闘技の構えを取る。


「男だし、やっちまおうぜ!」


『おう‼』


 ジェンを男だと勘違いし、三人は彼女の元へ走り込む。ジェンは三人が迫る前に、ジャンプして飛び越えてクラッドの元へ行く。


「クラッド、大丈夫ですか?」


「少し痛い。けど、アイカのブレスレットが…。」


「分かりました。私に任せてください。」


 ジェンは立ち上がって、三人の前に立って「ブレスレットを返してもらえますか?」と言う。しかし、三人は耳を傾けない。

 その内の一人目がまず、ジェンに殴り掛かった。彼女は避けて相手が殴った後、バランスを崩したのを狙って(うなじ)にチョップをする。残りの二人も、殴りにかかる。ジェンは、空手で凄まじい速さで二人を怯ませた。

 その結果、三人は沈没…そのうち、一人が気絶してしまった様だ。気絶した少年の近くに、アイカの藍玉(アクアマリン)のブレスレットが落ちていた。運よく、壊れてはいなかった。ジェンはそれを拾い上げて、気絶していない少年二人にこう言う。


「私よりも年上で、この手を使うのは卑怯です。二度としないでください。…あと、私は女性です。」


 ジェンは、そう言ってクラッドをおんぶし、待っているアイカと合流して自宅へと向かった。



 ジェンは、自分の部屋でクラッドを治癒(ヒール)で怪我を治した。


「ありがとう、姉さん。」


「クラッドが無事で安心しましたよ。…はい、アイカ。ブレスレット、無事でしたよ。」


「ありがとう‼」


 アイカは、ジェンからブレスレットを受け取り、大喜びしながら右手首に身に付ける。藍玉(アクアマリン)のブレスレットは、ジェンがアイカの誕生日祝いにと買った物だった。アイカにとって、宝物である。


「それにしても…あの三人方は、騎士学校の御方でしたね。」


「姉さん。何か、最近、騎士(ナイツ)学校の奴らがおかしいって、俺の友達が言っていたんだ。」


 エルシィーダン王国には、三大騎士見習い学校がある。一つ目は『魔導(マジック)杖騎士(ロッドナイト)学校』、二つ目は『騎士(ナイツ)学校』、三つ目は『天馬(ペガサス)飛竜騎士(ドラゴンナイト)学校』である。


「そうだったのですか…。騎士は、人の為に闘う覚悟がある人たち…何があったんでしょう?」


「そういえば、姉さんって格闘…出来るんだね‼びっくりしたよ!」


「えっと…。」


 “またですね…。いきなり、思い出す事…。”


「そうですね。昔から出来ていたようです。」


 ジェンはそう言って、心の戸惑いを振り払った。



 数日後…朝日が昇る頃、ジェンは小鳥の鳴き声に目を覚ます。洗面所で顔を洗い、パジャマから私服に着替えた。魔導書を肩下げバックにいれ、肩に掛けてカーテンを開けて窓を開く。

 ジェンは、屋根に乗って滑らぬ様に注意して、飛翔(フーガ)魔法(以後、飛翔(フーガ))を発動し、走りながら屋根伝いの練習をする。

 そして、王都(エルダ)の町中で一番高い三十mもある時計台の頂上付近に辿り着く。穏やかな風が吹き、彼女の髪が美しく(なび)く。同時に、朝日が王都(エルダ)を守る壁から現れて町に光を(もたら)す。


 “私は、魔導騎士(マジックナイト)になります。そして、異獣の手から人々を守り…困っている人々を助けたいです。いつか、お父様とお母様の事を…思い出したいです。それと、お爺ちゃんの願いを叶えたいです。”


 ついこの間、ジェンは祖父を亡くしてしまったのだ。亡くなる直前に祖父は、こう言っていた。


(まこと)の平和の時代……見たかったのう。」


 『(まこと)の平和』…誰もが一度は願ったものだ。だが、世の中はそう簡単にはいかない。ジェンは、その言葉を聞いてより一層、魔導騎士(マジックナイト)へ突き進む道を歩んで行った。



 その日の昼。ジェンは昼食を終え、家にある魔法練習スペースに向かう。ほとんど石造りで、魔法で壊れないように作られている。


「姉さん‼」


「クラッド、どうしたのですか?」


「ぼ、僕にも魔法と剣を教えてくれない?」


 クラッドは、そう言う事を今まで発言してこなかった為、ジェンは少し驚いた。彼女はクラッドにこう言う。


「でも、練習を積み重ねないと失敗する事もありますよ。その覚悟があるなら、教えますよ。」


「分かっているよ。僕、姉さんみたいになりたいんだ!」


 クラッドの真剣な眼差しに、ジェンは微笑んで答える。


「良いですよ。一緒に頑張りましょう!今度、魔法道具を買いましょうか。」


「ありがとう‼」


 早速、ジェンはクラッドに簡単な剣術を教える事にした。庭に転がっていたとても丈夫な枝を見つけ、クラッドはそれを木刀代わりに使った。彼は呑み込みが早く、コツを掴んで覚える事ができていた。ジェンは、無理をさせない程度に彼に剣術を教え、できる様になると彼の頭を優しく撫でた。

 二人が気付いた時は、もう夕方だった。


「もう、夕方だね!」


「そうですね。…楽しい時間はあっという間に過ぎて行ってしまうものだと、お婆ちゃんが言っていました。」


「へぇ~、そうなんだ!」


 すると、アレックスが来て「夕食だぞ!」と声が掛かる。アイカもアレックスの傍に来て、「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ご飯だよ!」と呼び掛けた。


「はい‼クラッド、手洗いをして食事にしましょう。」


「うん。僕、お腹がペコペコだよぉ。」


 そして、ジェンたちは食事を始める。今日の夕食は、クラッドとアイカが好きなカレーライスだ。今までスパイスの粉を混ぜ合わせるのに時間をかけていたが、現在は食料品店で売られている「ルー」と言ったスパイスを立方体に固めた物を、沸騰した水の中に入れるだけ。

 ジェンの前世は「ルー」があるのは当然だが、この世界の技術は少し低いようだ。


「やっぱり、カレーは美味しい‼なぁ、アイカ。」


「うん!」


 クラッドとアイカは、美味しそうに食べる。ジェンもカレーを食べ、頬が落ちそうになる。


「ジェン、本当にありがとうね。クラッドとアイカの面倒を見てくれて。」


 そう話をして来たのは、クラッドとアイカの母親で、アレックスの妻のフィノである。とても優しく、おっとりした性格である。


「いいえ。フィノさんが大変なのに手伝わない訳には行きませんから。それに、クラッドとアイカは良い子たちです。……あの、クラッドが魔導騎士(マジックナイト)になりたいと言っていたのですが、魔法道具を買ってあげたいのです。」


「あら、そうだったの。クラッドも目標を持ち始めたのね。う~ん…ねぇ、あなた、魔法道具を買う資金はあるかしら?」


「あぁ、給料は昨日くれたから十分足りる。」


 そうアレックスが話すと、祖母は微笑んで言う。


「まぁ、クラッドがジェンと同じ夢を目指すのね。……クラッド。」


「何?お婆ちゃん。」


「頑張って、立派な魔導騎士(マジックナイト)になるのよ。」


「うん‼」


 クラッドは、元気よく返事をした。ジェンの祖母は、優しい微笑みを浮かべる。すると、ジェンの隣に座っていたアイカがこう言い始めた。


「ねぇ、お姉ちゃん。私も、お姉ちゃんの様になりたい‼」


「ア、アイカ…、辛い練習もあるのですよ。まだ、疲れやすいからですし…。」


「いいの!お姉ちゃんと同じようになるの‼」


 ジェンは、アイカの必死な考えに頭を悩ませる。


「参ったな。まぁ、二人が諦めないで魔導騎士(マジックナイト)になるんだったら…買ってやっても良いぞ。」


『やったぁ‼』


 クラッドとアイカは、大喜びだったが、ジェンはアレックスにこう聞いた。


「家計に影響ないですか?」


「大丈夫だよ。ジェン、心配すんな。」



 翌日、ジェンはクラッドとアイカを連れて「魔法道具屋」へ向かう。中に入り、店員の説明を受けてクラッドとアイカの魔法道具を探す。

 時間は掛かったが、クラッドは藍色の魔導書で、アイカは黄玉(トパーズ)の宝玉の(ロッド)だった。


 魔導書は、単行本の大きさで片手でも持ちやすいようになっている。(ロッド)は、元々の大きさは兵士が使う槍程度だが、特殊な材料で軽い設計になっている。さらに、持ち主が持ちやすいように大きさが変わるようになっている。

 そして、両種の武器は色やデザインがそれぞれ違う。


「ありがとう、お姉ちゃん。」


「姉さん、流石‼」


「どういたしまして。クラッド、アイカ…これから先、基礎的な魔法を練習します。無理をしないで、疲れたと感じたら休憩をするんですよ。」


『はーい!』


 そして、ジェンはクラッドとアイカに基礎的な魔法「単体魔法」を教えつつ、魔導(マジック)杖騎士(ロッドナイト)学校の入学準備を進めていた。

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