第十六夜 生徒の異変とアンネの力
それに、よく考えてみるとアンネの母が殺されてしまった年数も一致する。彼女の母、ヘンリはジェンの父の妹である事も関係あるのか…。だが、授業であった為、あまり深く考えない事にした。
昼休み。昼食を終え、ジェンは工房室へ用がある為、アンネと別れる事となった。
「ごめんなさい。少し、考えたい事がありまして。」
「良いの。自分で何とかできるよ。」
ジェンは工房室へ向かい、アンネは訓練所で魔法や武術の練習をする事にした。すると、数人の女子が訓練所に現れる。
「ねぇ。」
「な、何ですか?」
アンネはリーダー的な女子に声かけられ、おずおずと返事をする。すると―
「アンタ、シーガ君とどういう関係?」
「え?と、友達ですけど…。」
アンネは素直に答えると別の女子生徒がこう言う。
「はぁ?友達って言うの?ウザいんだよ。」
「イケメンが友達だから良い子演じて、何様のつもり?」
「シーガ君は私たちだけの物なの。アンタみたいな穢れた者は、近づかないでくれる?」
アンネは、暴力や暴言など何もしていない女子たちからの悪口を言われ、混乱する。すると、丁度そこに―
「アンネ。」
ジェンが現れた。アンネは即座に彼女の元へ行く。ジェンはアンネの様子を見て事情を察知する。
「ごめんなさい。一人にしてしまって。」
「アンタ…、何?」
「いえ、アンネを呼びに来たんです。では。」
ジェンはアンネを連れて、工房室へ向かった。アンネは窮地を救われ、安心する。ジェンはアンネに先程の状況を話してもらい考える。
「やはり、アンネへの嫉妬の様ですね。」
「でも、何か雰囲気が違うと言うか…。あの人たち、前は大人しい人たちだったはず…。」
アンネの言う事にジェンはそう言えばと考えて言う。
「確かに。何度か話をしていますが、様子がとてもおかしい感じです。シーガは今、自警団の遠征に付き合っていますので時間は要しますね。アンネ、これからはなるべく、一人にならない様にしてください。身の為です。」
「う、うん。」
「それはそうと、今、アンケートを考えていたんです。」
「それって、鞘とか魔法鞄の事ね。いいかも。製作、私もやってみたい‼」
「良いですよ。ソルもシーガも誘おうと思っています。」
そして、二人は工房室で材料などの確認も行い、アンケートのコピーを担任へ提出し要件を話す。担任は理解できているか不明だったが、コピーをしてくれた。ジェンはそれを放課後前のHRで行いたいと言った。
ジェンとアンネは放課後、アンケート収集をしながら話をする。
「そう言えば、思っていたのですが、集団で先頭に立っていた彼女……人間ではない雰囲気を持っている様な気がします。」
「え?じゃぁ、皆気づかないのは何で?」
「分かりません。ですが、調べてみる必要はあるかと思います。」
ジェンは、詳細をアンネに話した。彼女が言うには、集団のリーダ的存在の女子の右鎖骨辺りに何かの刻印があり、邪悪な何かを感じると言うが、確信はない。さらに、訓練所で教えて見ていた際に変化があった。それは、前は槍をよく使うと言っていたはずが、斧に変わっていた。数日前から気になっていたことを話した。
「まぁ、虐めは何とか辞めさせます。アンネは普通にしていてください。大事にしないように頑張りますから。」
「ありがとう。いつも世話を焼かしちゃって…。」
「いえ、困っている人を見過ごす訳には行きません。」
その後、ソルの見舞いに行くと、少しは治ってきた様だ。
「もう、ソルは食べすぎ‼」
「注意をよく聞かないから、罰でも当たったのでしょう。」
「わ、わりィ…。」
ソルは二人に謝る。けど、治って来ている事に二人は安心と嬉しさがあった。
「それに、今日はシーガ君も帰ってくる日でもあるし。寝込んだままで腹が痛いって小馬鹿にされるの嫌でしょ?」
「なっ‼そうに決まっているだろ⁈」
「うふふ。」
ジェンは頬を赤くするソルが可愛いと感じ、クスクスと笑った。ソルは布団で顔を隠した。そして、彼に授業の事を分かりやすく伝えた。
そのすぐ後に一〇三号室に戻り、アンケート収集を開始する。内容は魔導書か杖どちらか、好きな布の色を書いてもらうだけ。二人はそれぞれ集計や材料のシナリオをまとめる。
そうしているうちにあっと言う間に夕方となり、夕食の時間となる。
食堂で二人は美味しく食べていた。今日の夕食は二人とも同じ、うな重定食である。ナイツァノ王国産の鰻は、とても身が美味しいと評判である。鰻に染み込んでいるタレもナイツァノ王国独自の物。鰻を焼いている所を見たが、洋風とは違い炭で直火焼きにしていておいしそうだったのだ。さらに麦飯、野菜たっぷり味噌汁と栄養バランスよくとってある。
「おいしい‼」
「これ、ソルにも食べさせてあげたいですね。」
「確かに。絶対、食べたがるよ!」
「そうですね。」
『アハハハハ!』
二人は笑い合った。その後、ソルに少なめのうな重を持っていくと喜んで食べていた。でも、よく噛んで食べていた為十分にお腹が腹八分目となった。そして、二人は部屋へ戻り風呂を済ませて横になる。
「明日は確か、第一壁の見学の予定確認だよね?」
「はい。明後日が見学日となります。楽しみです。」
「うん。ふわぁ~…。」
「もう、そろそろ寝ましょうか。明日の為にも。」
「うん。おやすみなさい。」
二人はそれぞれのベッドに入り睡眠へと入った。
暗闇の中、アンネの正面にいる誰かが何かを言っている。それは徐々に聞き取れるようになっていき―
「お前はここで死ねぇ‼」
正体不明の誰かが、ナイフを振りかざしてアンネに振り下ろして行く。
「……‼」
アンネは勢いよく起き上がる。時計を見ると数時間後で、朝を迎える頃合いであった。早過ぎる様な気がしたが、彼女は普段着に着替え、杖を装備して部屋を出て、稽古を行う為に訓練所へ向かった。
あんな夢を見たの…久しぶりだった。それにジェンも、一カ月に一回は同じ夢を見るって言っていたっけ?あれは、本当に辛いだろうね。でも、皆それぞれ辛い事もある。それから逃げちゃ駄目!諦めるな、アンネ。ちょっとやそっとで、萎えない‼
と思いながら、アンネは訓練所に着くと、杖の宝玉を桃色の三刃薙刀に変身させ、薙刀術と魔法を合わせた稽古に励んでいると、何かの気配を感じ稽古を止めて気配のする方へ目を向ける。
「……何者だ!」
訓練所を覗く者がいた。アンネは何者か尋ねると、謎の人物は訓練所に降り立ち、姿を現す。それは、アンネに声を掛けていた集団のリーダーの女子であった。
「あら、もう気付くなんて。早いわね。」
「何の用があるの?」
「まったく、せっかちね。まぁ、教えてあげよっか。アンタを殺して、友人を捕まえに来たんだよ。」
「何ですって!」
「えい!」
奴は、闇魔法弾を放つが、アンネは即座に光防御で攻撃を防ぎ、光刃を放つ。奴は、避けて言う。
「魔法に長けているな…。なら!」
奴は今までにない強大な闇の魔力を貯め込み―
「死ねぇ‼」
アンネへ、強大な闇の魔力は放たれる。彼女は「不味い」と思ったが、防御を繰り出すのに一歩遅れてしまった。
駄目!やられる!
と思ったその時。光雨がアンネの目の前に降り注ぎ、強大な魔力は破壊された。
「私の友人に手を出すとは、卑怯です。」
「ジェン!」
「間に合って良かったです。それよりも、やはり彼女は偽物でしたか。」
「偽物⁈」
ジェンは、詳細を話す。ソルが腹痛で寝ていたのは半分嘘で、一〇六号室の様子を調べたのだ。何故か、他の部屋とは違い鍵がかかっており、ドアの隙間から闇の気配が漏れていたのだ。さらに下の隙間にあったのがアンネへの脅迫手紙である事。ソルはドアをこじ開け、縄で縛られていた少女を助けたと言う。
「なんて野蛮な‼」
「貴方の正体は、私が見破りました。姿を現してください。悪魔‼」
すると、少女の姿は跡形もなくなり悪魔の姿へと変わった。大きさは三mくらいで、爪は鋭い。それで攻撃を食らうと、たまったものではない。
「悪魔‼」
悍ましい姿にアンネは驚く。ジェンは冷静になり、推測を言う。
「これはおそらく、呪術師によって召喚されたのでしょう。行けますか、アンネ?」
「うん。勿論!」
二人は構えて、連携攻撃を行う。ジェンが先攻し、アンネが後攻を行って、光の魔法を用いた悪魔に損傷を与える。そして、隙をついて両眼を二人同時に攻撃し視界を奪う。が、悪魔は耳を立てる。と、その時!
「ジェン、危ない‼」
「うわぁっ‼」
悪魔の爪が彼女を直撃し、壁に打ち付けさせ、彼女の体に損傷を負わせる。アンネは、彼女の元へ駆けつける。
「ジェン!」
「大丈夫です。傷は深いですが、治癒の魔法で何とか……ぐはっ!」
ジェンは、口から血を吐いてしまう。
「ジェン。ここは私に任せて!」
アンネはジェンに怪我を負わせた怒りを出し、杖の宝玉を三刃薙刀に変身させ奴の正面に立ち構えて、こう言う。
「お前の周りに女子たちを従えていたのは、催眠術か?それとも、呪いの魔法か?私を陥れて、殺すために仕組んだんだろ?私が、あの名家の血の一部を引き継いでいるからか?本気で行かせてもらう‼」
すると、ジェンのペンダントが青月長石の輝きを放つ。同時にアンネの瞳は、瑠璃色の輝きが増して、背中には片翼一.五mの白き翼が生えた。