第十五夜 夏休み明け
残り少ない夏休み。事件を終え、四人は出かけたり、クラッドとアイカの元に訪れ魔法や武術を教えるなど楽しみでいっぱいだった。
「今年も丁度良い暑さだぜ。水も超気持ち良い!」
ソルは、噴水前でそう言う。勿論、三人も同じである。この前の事件で町は少し静かになったが、今はとても賑やかになり嘘のように思える。
「この間の川遊びは楽しかったですよね。」
「うん。ソルがドジって滑って、川にドボンっと入ったのは面白かった。」
「ア、アンネ‼それは恥ずかしいっつの‼」
ソルは慌てて言い、赤面する。あれはもう、偶然としか言いようがない出来事である。滑って落ちる先が石よりもまだマシである。
「ソル君ったら、照れちゃって。まぁ、奇跡で良かったよ。」
「そう言えば、シーガ…話を変えてしまいますが、事件の真相は掴めそうですか?」
「そうね。ジェンちゃんの言う通り、傷とかの損傷はなかったみたいだから誰かに操られていたようだね。それに俺が止めの一撃を討った時…気付いたんだが、知性のある異獣と同じ聖痕があったんだ。」
シーガの言う事にジェンは頭の奥にあった考えが本当である事を確信する。
「やはり、そうでしたか…。でも、真犯人は見つかっていません。というか、所在も不明です。」
「やっぱり、国外にいるんじゃ…。」
アンネはそう言うとソルはこう言った。
「でもよ。あらゆる考えでも立てておかねぇと、いざって言う時困るぞ。」
ソルの考えも妥当だ。だが、もし国外に真犯人がいたとすると厄介で、事件は謎に包まれて行くばかりである。
「やっぱり、ハンヴィル宗教団よ……。」
「アンネ?」
「絶対、奴らに決まっている‼」
アンネは怒りに燃えていたらしく、「犯人はハンヴィル宗教だ」と主張する。シーガは「可能性はある。しかし、まだ、そうとは決まっていない。」と言うが、彼女は止まらない。
「そうだよ。だって、私のお母さんを殺したのも、町の人たちを殺したのも、全部アイツらだ‼」
「アンネ‼」
シーガは、アンネに怒る。彼女はシーガに言われて、ハッと我に返った。
「まだ、アイツらがやったと言う証拠はない。お前のお母さんの事は今でも解決しようと自警団の皆が調べている。それに、お前はまだ、強くなるのに時間が必要だ。今は、魔導・杖騎士学校の生徒だろ?王都の人々を守る事だけで良いんだ。」
「……ごめん、言い過ぎたね。まだ、決まってはいないもんね。」
「アンネ。私も皆も同じです。ですが、四人が集まる事で大きな力となります。相手を信頼する心が何よりも大事です。」
「そうだな。……それよりさ、あっちでカキ氷を売っているぜ‼皆で食べようぜ‼」
ソルは暗い雰囲気を無くそうと思い、声を掛ける。
「そうね。気分転換に、皆で食べよう!」
「やったぁ‼」
アンネ、ソル、シーガもカキ氷店へ行く。
皆さん…。これからも一緒に頑張りましょう。
そう思って、ジェンは三人の後を追い、共にカキ氷を食べた。だが、食べ過ぎたソルは腹痛を強いられる事になった。
夏休みは、あっという間に過ぎて行き、三人は第二学期の学校生活を迎えた。始業式では、クラスメイトたちが一カ月ぶりの再会で話に盛り上がる。
早速、訓練所で行われたテストは三人以外合格した者はあまりおらず、合格者以外は追試となった。追試となった者たちが合格しようとアドバイスを求めたのは―
「はいはい。一人ずつな‼」
「落ち着いて、丁寧に教えるから!」
「では、ゆっくり説明いたしましょう。」
ジェン、アンネ、ソルの三人であった。彼らは、担任の期待をも超える魔法や武術を見せつけ、生徒たちを魅了させてしまったからである。
一クラス四十人のうち魔導騎士と杖騎士はそれぞれ半分ずつになっている。アンネとソルは十人ずつで楽であるが、ジェンは二十人に教える事となり大忙しであった。
「まず、的や正確な位置に魔法を当てる人の場合は、当てるぞと言う勢いと言いますか、根性を持つ事です。そして、もう一つは魔導書を良く読み込む事…そうする事で魔導書はより力を貸してくれます。」
ジェンがそう説明すると、一人の生徒はこう言う。
「でも、どうして魔導書をよく読んだ方が良いんだ?」
「そうですね。魔導騎士の武器は、魔導書と短剣ですが、魔力を倍増させるのが魔導書です。理解する事により、より一心同体になるんです。最後に魔法が上手く繰り出せないのは二つあります。一つ目は、鍛錬を怠ってしまった事。二つ目に、魔導書の魔力切れです。一つ目の解決方法は小さな努力を積み重ねる事。二つ目は、もし資金がおありでしたらの場合です。買い物をする時に魔導書・杖屋に寄り、聖なる光を出してくれた武器が自分の物です。」
彼女が説明を終えると、また別の生徒が質問をする。
「でも、どうやって見分けるの?」
「まず、魔導書を手にして嫌な感覚がしたら相性が悪く、逆に白の淡い光を帯びたなら相性が良いと言う事です。もし、魔導書で自分に合う物が無い場合は、杖も見ておいてください。貴方たちにしか聞こえない聲がしますし、ソルもそうだったのですから。」
「え?ソルさんが⁈」
ジェンの言葉に皆は驚く。ジェンは「本当です」と言い続けた。
「毎日の積み重ねは重要です。練習して失敗しても良いんです。失敗は成功の基。私も幼い時は失敗を繰り返していました。その時は大泣きしていましたが…。」
ジェンの言葉に皆は前向きになった。そして、それから一年一組の生徒らは昼休みになると自主練や彼らにアドバイスを貰いに行くなどを試みた。
そんなある日、一〇三号室でジェンとアンネは風呂を済ませてリラックスしていた。
「ふぅ…疲れたぁ!」
「今日も大忙しでしたね。でも、徐々に成功している人たちがいるようですし。アドバイスが必要ない人も出て来ました。」
「けど…どうして私たちを頼って来るの。」
「それだけ、皆さんは憧れているのでしょう。」
「いや…。ジェン、聞いて欲しい事があるの。今日の訓練所で密かに聞いたの。数人の女子たちが私の事を邪魔って。」
ジェンは、それを聞いて思った。嫉妬、妬み、恨み、不快と言う感情であると。ジェンはアンネにそう教えてもらったが、生憎、その感情もすっぽりと消えていたようだ。残っているのが喜び、楽しみ、悲しみ、怒りと基本的な感情に近いものだけが残っていた。
「それは少し良くないと思います。誰だって、好きな人と絶対に一緒になると言うのは限りなく低いのでしょう?」
「うん。」
「それに、人気者だけではなく他の人たちに目を向けないと…人気者だけが良いと思い、他は悪いと固定されてしまうんですよね?」
「…そう。」
「もし、虐めと言うものが起こった場合は、私は許せません。アンネ、何か凄く嫌だと思った事は私に言ってください。」
ジェンの言葉に、アンネは少しだけ安心した。しかし、アンネに迫る悪魔は侵攻して行くのであった。
翌日、アンネはドアの下に挟んであった紙切れを拾い上げ、中を見ると―
『アンネリーカ・ミルーセ、死ね!』
と書かれた文字があった。アンネはすぐさまジェンに見せる。ジェンはそれを手に取って見る。
「これは完全に嫌がらせと言うものですね。これは本人たちが行った証拠にもなりますので、私が保管しておきます。」
そう言い、魔法鞄に入れる。
「ジェン。その鞄は魔導書だけじゃないの?」
「あぁ、そうでした。追加説明をしますと、事件や出来事に必ず証拠品はあります。それを保管する物にもしようと私が魔法で改良しました。」
「凄い!流石‼」
「ですが、私だけがこれを使うには申し訳ないので、クラス分を作ってみたいものです。」
「えぇ⁈ジェン‼」
それからソルはまだ腹痛が治らず、欠席する事に。一組の教室へ行くと、数人の女子がアンネを見てからそっぽを向く。ジェンは「彼女たちか」と思ったが、確信が無い以上、あまり疑わないようにしておいた。アンネは不安を抱えつつもいつも通りに授業に取り組んだ。
今日は異獣についての勉強である。異獣の種類は以下に記されている。
蜘蛛型:大きさが小さいのは毒を持ち、最悪の場合は死に至る。中・大は糸を出して獲物を捕らえる。知性を持つ場合は糸に毒があり、目に入ると痒くなり充血する。
蜈蚣型:強い顎で獲物を噛み砕く。口から出される液体は、痺れを伴う。また、稀に猛毒を持つ者がおり、最悪の場合は失明する。
蛇型:知性のある者は毒牙を持ち、一瞬で死をもたらす者もある。油断してはいけないのが、トグロ巻きである。
鴉型:昼間に活動を行う。脚の爪で攻撃し、翼を羽ばたかせて近づけさせないと言う点で厄介。急降下すると、獲物を捕らえる証拠。
蝙蝠型:夜に活動を行う。獲物を捕らえ、吸血する。集団で襲い掛かる事もある。
蛙型:湿った地帯に生息し、大きな舌で獲物を捕らえる。中には背中に毒を出すものがいて触れて消毒をせずに目に触れてしまえば、失明する。
ミイラ:包帯だらけにまかれた化け物。包帯で攻撃する事もあり、稀に大剣を持っている者もいる。
海星型:海に生息し、浅瀬にいる獲物を襲う。
鱆型:海の沖合に生息し、足で獲物を捕らえるが、吸盤で脱出は困難を極める。
人魚型:伝説上に描かれるが、実在している。味方となる者もいるが何故か敵対する人魚も生息する。また、不思議な歌で誘い人間を喰らう者も存在する。
さらに担任が言うには、先程紹介した異獣は味方となる人魚を除いて、六年前から急増しており知性のある異獣も稀に見かける事があり、戦闘は困難に陥いる事がある。
ジェンは「六年前から急増」と言う言葉に疑問を持つ。自分が記憶にないのは六年前…つまり、七歳の頃……考えてみたが、記憶は一向に蘇らなかった。