第十四夜 事件、解決‼
話し合いを終えた後、四人は犯人を捕らえる為に準備をしていた。シーガは、「今夜、王都を守る様に」とリティを含めた自警団に依頼した。
夕食と風呂を済ませた彼らはソルの考えた作戦を実行するべく、夜の王都へと出た。
シーガは噴水広場、ジェンは広場から西、アンネは広場から東、ソルは広場から南に。リティや自警団の団員たちは、それぞれの班に分かれて各配置につく。
あとは犯人が現れるのを待つだけである。シーガは集中力を高め、周囲を見渡すと―
“あれは⁈”
シーガが警戒したのは、正面に立つ禍々しいオーラに包まれ、大鎌を持った人型。その大鎌は、彼の記憶にもあった神器・ジャダクであった。
彼は持っている小さな鎌を抜刀して、奴に問う。
「何者だ‼ここで何をしている。」
「……ニクキ、ヴァンパイア ノ コ。」
人型はそう言い、家の屋根へと飛んで移動を始めた。方角は、「誓いの丘」であった。
“喋った⁈…それより、行くしかねぇ‼”
そう直感したシーガは奴が去って行った家の屋根に乗り、後を追う。ジャダクの力を感じたジェンとアンネ、ソルは素早く、リティはゆっくりと移動を開始する。
シーガは奴の後を必死に追って行くと―
“やっぱり、誓いの丘…。何を企んでいるんだ…”
彼が走っている間…東、西、南で戦闘が起きていた。西にいるジェンは軽い身こなしで、突如現れたミイラ型を倒す。
「ソルの言う通りでしたが…。にしても、これだけの数と言う事は…一体?王都は、危機に迫っている様な気がします。」
彼女は目の前にいるミイラ型を鎮めるべく、再び短剣を構えた。
アンネも東で戦闘に遭遇し、全ての敵を鎮める事ができた。彼女は、周囲に敵がいない事を確認する。
“よし。大丈夫だね。シーガ君の所に行かなきゃ!”
彼女は一刻も早く、彼に合流すべく「誓いの丘」へと走って向かった。
シーガが辿り着いたのは、ソルの言う通り「誓いの丘」であった。屋根から降り、丘に辿り着いた彼は目を見開く。
“何だよ…これは”
正面には、殺された仲間の幻影があった。彼は幻影である事に気付いていたが、仲間の事を思い出してしまい、苦しい表情をする。しかし、その思いを彼は押さえて二本の鎌を抜刀する。
今は、昔とは違う。守るべきものは、いつも傍にあって自分を照らしてくれた「光」。なら、今度は自分が光となって今を乗り越えるのだ、と。
「何の罪もない人間を巻き込むのは、許さない‼」
シーガは幻影の中に突っ込み、二本の鎌を使いこなして幻影を斬る。幻影は斬られると、直ぐに消えて行く。その後、ジェン、アンネ、ソルは丘へ到着する。
「何よ…これ。」
「闇の気配が、わんさかといるな…。」
「…これは、奴が生み出した幻影と言うものですね。敵と判断しましょう。……シーガは、おそらく奴の元へ向かっています。アンネ、彼を援護してあげてください。」
ジェンの発言にアンネは「どうして?」と言う。
「決まっていますよ。シーガは、アンネといると心強いんですよ。」
「そうだぜ。もしかしたら、シーガの奴、アンネの事が好きなのかもな!」
「……う、うん。分かったわ。腕が鳴るわ!」
アンネは照れ隠しでそう言い、素早い動きで迫り来る幻影を斬り、彼の援護へ向かう。ジェンとソルはそれぞれ武器を構える。
「ジェン、俺たちはどうするんだ?」
「奴は、こんな簡単な敵だけを生み出すはずがありません。ソルもそう思いませんか?」
「あぁ。」
「……早速、お出ましの様です。アンネとシーガが向かっている間に、こちらへ攻め込もうと考えていたようですね。」
「でも、奴はバカだったみたいだな‼」
迫り来るミイラをソルは鞘から杖を抜き、宝玉を水色の斧に変身させ斬り伏せた。ジェンも戦闘を開始し、炎光線の五つ放ってミイラを焼き尽くす。そして、ソルとの連携戦闘も鮮やかに決める。
シーガは、敵を切り抜けて行く。すると―
「シーガ君‼」
「アンネちゃん、どうして…。」
シーガは驚いた。アンネは、彼にこう言う。
「それより……二人で奴をやっちゃいましょう!」
「勿論‼後ろでジェンとソル達が押さえているしな。その分、こっちも暴れやろうぜ‼」
奴の元へ近づくと、幻影は消える。二人は足を止め、奴と向き合う。すると―
「ニクキ……ヴァンパイア ノ コ……ライリー ノ ケツゾク……。」
「‼…喋った⁈」
アンネはその事に驚く。シーガが言うには、「カタコトだが、妙に人間らしい喋り方をする」と疑問点を抱く。アンネは、彼に疑問を抱いている訳を聞く。
「分からない。でも、事件の起きる数日前くらいだが、自警団の優秀な先輩が行方不明と聞いた。関係があるのなら…。信じたくはないが。」
「でも、この闇を取り払えれば…正体は暴けるはずよ。」
アンネはジェンが前に「記憶上、闇に支配された物を倒す方法としては、直接人ではなく…光の魔法を用いて、闇を狙うのです」と話していたと彼に話す。
「ジェンは難しい事を言うが、やってみなきゃな!俺は接近戦で行く。アンネは遠距離を頼む。」
「OK!まぁ、接近して斬り込むこともあるけど…その時は気を付けてね。」
二人は覚悟を決めた。まず、シーガは奴に接近し鎌を振るう。アンネは遠距離から魔法弾、光線、刃を放ち、彼を援護する。しかし、奴は機動が速く、隙が見つからない。
「シーガ君!」
「くそっ!奴の動きは尋常じゃねぇ。」
「…私が接近戦をするわ。シーガ君は、ジェンに教わった魔法で援護をお願いできる?」
「お、おい!アンネ!」
「大丈夫。この間の恩返しよ。……おぉぉぉぉ‼」
アンネは杖の宝玉を三刃ある薙刀に変身させ、奴に突進する。シーガはアンネの速さに合わせ、後ろから援護をする。すると、アンネの刃の一撃が奴の腕を掠めた!
“よし!まだまだぁ‼”
アンネは素早く刃を奴に浴びせると、奴が大鎌を持っている腕に直撃した。奴は痛みと出血のせいで大鎌から手を離す。見逃さなかったアンネは「今よ!」と言い、シーガは咄嗟にその大鎌、神器・ジャダクの元へ行き、それを手にした。すると、神器・ジャダクは聖なる光を帯びて治まった。
ジャダクが…俺を真の使い手として認めたのか…。いや、そんな場合じゃない!さっさと片付けてやる。とシーガは決意して――
「おぉぉぉぉぉぉぉ‼」
神器を奴に向けて思いっきり振り、奴の右斜めに直撃。奴はこの攻撃が効いたのか―
「うぉぉぉぉぉぁぁぁ‼」
そう叫びながら奴は闇のオーラを空へ放ち、オーラの塊は完全に消えた。すると、アンネが奴の元へ来て驚く。
「え、うそでしょ?」
「……おいおい。傷が無くて良かったが…奴の中身は人間⁈」
倒れていたのは紅色に染まった髪の青年だった。丁度そこにジェンとソル、リティと自警団の皆が駆けつける。
「アンネ、シーガ。奴はどうでしたか?」
「そ、それが…。」
アンネは衝撃で言えない状態だった。ジェンは倒れている青年を見て推測を立て始めた。リティは青年の元へ行き、こう言う。
「ど、どうしよう…‼」
「リティ王女、どうされたのですか?」
ソルが困惑しているリティに聞くと、
「ビルフ家の長男のニックさんじゃん…。」
「え?あの赤の巫女の子孫‼ビルフ家の⁈」
ソルは リティの言葉に名家の名を出す。シーガは顔合わせをした事があり、行方不明の原因は理解できた。だが、何故、ニックと言う青年だったのか…。
「もしかしたら、王都の結界を壊す為……それとも、伝承に語られる人物の末裔を抹消させる為でしょうか?」
ジェンの考えにアンネは「何故?」と聞く。ソル、シーガ、リティも気になっている様だ。ジェンは話をする。
「推測ですが……。国内を混乱させる事、ある少女を探し続けている事、結界の弱体化。これは余りにもタイミングが良すぎると言うのでしょうか……次々と事が起こり過ぎです。」
「確かに…。」
「そうだけど、ジェンちゃんはどう思うの?」
「そうですね。国内を混乱させるのは様々な方法があります。一つ目は城下町で殺人事件を起こす事。二つ目は伝承にある一族の子孫を抹消する活動。三つ目は王家を罠に陥れる事。四つ目は誰かを殺める事と、色々ありますが、これがもし本当だとしたら、大変な事です。」
「なるほどね。ジェンさん、アンネさん、ソルさん、シーガさん…本当に助かるよ‼」
リティは四人にお礼を言う。ジェンはいきなり言われて驚き、「どうしてですか?」と聞くと―
「だって、四人がいなかったら今頃…被害が増えていたかもしれない。それに貴方たちのおかげで自警団の皆も助かっているって言うよ!」
リティがそう言うと、自警団の団員たちは「ありがとう」「助かっているよ」と声が上がる。
「皆さん…。はい!これからも皆さんを支えられるように私たち、猛進します‼」
それから、青年・ニックは自警団で調べた所…昨夜の事や事件の事を知らない様子であった。事件の真相は見えないままであったが、被害は無くなり、民たちは平穏な日々を取り戻しつつあった。
事件で亡くなってしまった人々の為にジェン、アンネ、ソル、シーガは亡くなった人々の墓標の前に花束を置いた。助ける事ができなかった後悔など、様々な感情が彼らの心を駆け巡った。
しかし、まだ国に忍び寄る魔の手は密かに進行しつつあった。それは魔法に優れ、人々を導く才のあるジェンさえもこの時…当然知らなかった。