第十三夜 事件の謎 推理
王都では、新聞によって人斬り事件の情報が、不安を掻き立てる。朝食を終えたジェンたちはクラッドとアイカの稽古を終えて、部屋で話していた。
「えぇ⁈人斬り‼」
『しっー‼』
ソルの声の大きさに、皆は注意をする。シーガは、自警団の情報を話す。
「現場は、人気があまりない幅のある路地だった。遺体は全員男性で、十二人。傷口は鋭利な刃物で斬られ、宝石の様なものがへばりついていた。」
「宝石?」
アンネがそう質問すると、ジェンは小瓶に入った赤橙色の宝石の一欠片を見せる。
「宝石とは、これです。私の短剣で取れたようですが、その欠片からは魔力が放たれています。ただの宝石ではないと考えています。」
宝石を収容している小瓶は、シーガが自警団の調査瓶から取って来たもので、余計な傷がつかない様にしている。
ジェンは、宝石が収容されていた小瓶をテーブルの真ん中に置く。アンネは、小瓶をそっと手にして良く眺める。
「確かに……少し感じるかな。何の力までかは知らないけど…。」
アンネは、そう言ってソルに小瓶を渡す。ジェンは、自分の短剣を鞘ごとテーブルに出す。
「実は、ソルが持っている宝石を剥がせたのは…この短剣だったんです。皆さんが持つ短剣に比べて、ややリーチはありますし…装飾も本物の金剛があります。一体、何の剣なのか…不思議です。」
彼女がそう言うと、ソルはふと何かに気付いたのか…小瓶の中にある宝石を見て言う。
「なぁ…気のせいかもしれないけどさ。この宝石の中…何かの模様が書かれているぜ。」
「…ちょっと、見せて!」
「あ、あぁ。」
ソルは、シーガに小瓶を渡す。彼は中にある宝石をよく見ると、こんな事を言う。
「吸血鬼の紋章がある…。冗談だろ⁈アレが人の手に渡ったら…。」
「シーガ君、どうしたの?」
アンネがシーガに尋ねると、彼はこう話した。
「吸血鬼の神器だ。」
「?どういう事だ?」
シーガの言う事に、ソルは首を傾げた。が、ジェンは何かを考えてからこう言う。
「おそらく、吸血鬼一族の神器である可能性が高いと言う事ですね。」
「ジェン、何か知っているの?」
「今、確信しました。断言とまでは行きませんが、吸血鬼の神器・大鎌の事だと思います。」
ジェンが言った【神器・大鎌】。それは、吸血鬼一族が受け継ぐ神器で人間は触れる事ができない。吸血鬼と同じ、人狼や竜人、また王家や特別な力を持つ一族は多少触れる事ができる。
だが、力を持っている者でも神器の力に劣ってしまえば、狂化されてしまう。
「そんな恐ろしいものなのか…。」
ソルがそう言うと、シーガは「本当だ…。」と口にして説明する。
「神器は、吸血鬼の為に作られている。人間にとって不気味なんだが、昔から大鎌に選ばれた者はある儀式があるだ。」
「儀式、ですか?」
「あぁ。……赤き月が昇る頃、神器を持つ者よ。信頼たる者の血を口にし、覚醒をせよ…。」
「赤い月の時にもっとも信頼する人の血を口にするって…吸血鬼が?」
ソルはそう言うと、彼は頷く。ジェンとアンネも同じような疑問を持つ。シーガは説明を続ける。
「実は、神器には自分が持つに相応しい主に吸血衝動に駆られるようになっているんだ。大昔、俺の先祖が大罪を犯してその罰だって聞いているけど。あれが、人間の手に渡ったら吸血衝動で人を斬る事だって、難しくない。」
「そんな恐ろしい武器、でしたか…。今後しばらく、夜は注意した方が良いですね。」
しばらく話した四人は、クラッドとアイカ、アレックス、フィノには内密にする事にした。そして、夕方までクラッドとアイカの稽古をする。二人は呑み込みが早く、基礎は全てマスターし、応用や上級までもほぼマスターしてしまった。
「凄いですね、二人共。でも、自分が凄いからって魔法をむやみに人に当ててはいけませんよ。」
『はい‼』
クラッドとアイカは返事をする。何て良い兄妹なのだ!二人は、アンネ、シーガ、ソルに礼を言う。
「そんな事ないよ。ジェンが私たちに丁寧に教えてくれたもの。」
「うん。ジェンちゃんのおかげで、友達も増えたし、楽しく過ごす事も出来ているよ。」
「そう、俺が失敗した時も…まるで母親みたいに見守ってくれたもんな。」
アンネ、シーガ、ソルはそれぞれ言う。
「大袈裟ですよ。私は出来る事をやっただけです。」
ジェンはそう言い、アンネが自分の従姉である事をアレックスたちに話した。彼らは驚いたが、クラッドとアイカは「親戚」と言う事に喜んでいた。
その日の夜、シーガは部屋で夜空を眺めていた。
嫌な予感しかしねぇ…。あの神器を見つけないと…。
彼だけではない。他の三人も嫌な予感をしていた。
翌日。四人の予感は的中し、昨日とは異なる場所で男性二人の遺体が発見された。被害は少ないが、上体は残酷なものだった。
「なんて酷い仕打ちだ…。」
ソルはそう言い、苛立ちを見せる。シーガは、怒りの眼差しをしていた。「自分の一族は、こんな事を絶対にしない。」と…。
さらに、その翌日には六人の遺体が発見され、そのうち二人が女性だった。さすがに不味いと感じた四人は、学校寮の一〇三号室にて話し合いを始めた。しかし、それだけでとどまらず…被害は起き、二十九名もの死者が出てしまった。
「とりあえず、自警団の資料を持って来た。」
シーガはそう言い、自警団がまとめた今回の事件の資料をテーブルに置く。そこには、事件の日時や現場などが記されている。
今日、四人で事件解決への道を朝から進めていた。
「変よね。無差別だなんて…。」
「あぁ。犯人の目的が分からん。でも、何かヒントはあるはずだ。」
アンネとソルがそう言う中、ジェンは黙ったまま、小瓶の中に見える吸血鬼の紋章が刻まれた宝石を見ては、資料を見ての繰り返しをして、こう呟き始めた。
「人数…性別…時間…場所…。なるほど…。」
そう言い彼女は自分の机の引き出しから王都の地図とマーカーを取り出し、三人の元へ持って来る。
「ジェン?」
「事件の意図が分かりました。」
「分かったのか⁈」
「はい。この事件は、メッセージがあります。」
ジェンはそう言い、地図を広げてマーカーで何かを書き込んでシーガに尋ねる。
「シーガ。遺体の傍に紙切れがあったと資料にありましたが…。」
「あぁ。死者の数、宝石に刻まれし紋章を目に焼き付けろ…と。」
シーガがそう言うと、ソルは何か閃いたのか、こう言う。
「もしかして、死者の数は目的の人物の名前のはずだ。」
「ソル?どういう事?」
アンネが質問すると、彼は説明を始めた。
「それぞれの現場で、男性の数を文字起こしするんだ。……ジェン、マーカーを借りて良いか?」
「はい。」
ジェンからマーカーペンを受け取り、ソルは書きながら説明する。
「まず、男性の遺体の数と同じ文字を起こすと…。こうなる。」
「女性の遺体を含まないのですか?」
「まぁ、見てなって。」
ソルはそう言って、さらさらと書き始める。
「女性の遺体は、文字に足りない物を追加する暗示なんだ。…可哀想だけど。」
彼の書く文字によって、書かれたのは―
【シグアーガ】
これを見たアンネとシーガは驚いた。その様子に気付いたジェンは彼らに質問した。
「どうしたのですか?二人とも…。」
「その…、俺の本名なんだ。」
答えたのは、シーガだった。ジェンはどういう事だろうかと考えていると、ソルが何かを書き終えて三人に声を掛ける。
「三人とも…。犯人は、シーガをここに誘き寄せるつもりだ。」
ソルが指したのは地図で「誓いの丘」と示される場所だった。それは、遺体が発見された現場の印を定規で結び、交差した場所でもあった。
「誓いの丘…。太古の伝説で王家と民がエルシィーダンを建国した時に、平和で豊かな国づくりを誓ったと言われている場所って聞いたわ。でも、どうしてそんな場所に?」
アンネの言う通りだ。どうして、そんな場所だろうと思う。しかし、シーガが目的ならば直接本人では無いのかとも考えられる。
ジェンはソルにこう質問する。
「ソル。どう思いますか?」
「どうって?」
「犯人を捕らえる方法です。これ以上、被害が出ない方法を…。」
「そうだな。……俺の考えだが、別の場所で待機して敵が来るのを待つ。そして、敵が来た時…それぞれ分かれて誓いの丘に向かうんだ。迂回して、敵がいないか確認するためだし……って、ジェン。何で俺?」
「ソルは、とても勘が鋭いですし…。天井からの侵入方法も大成功でしたし、信用しているんです。」
「そ、そうか。あ、ありがとうな。」
ソルが礼を言うと、シーガは彼に質問する。
「ソル。それで、いつ実行するんだ?」
「…今夜だ。」
ソルはそう言った。果たして、四人は犯人の正体を突き止める事ができるのだろうか?そして、神器は見つかるだろうか…。