外伝Ⅱ 自警団の不安
王子と王女の喧嘩、夏の人斬り事件が起こる数十日前の事。自警団は、異獣討伐任務を終えていた。が、怪我人や遺体処理などの最中で些細な異変が…。
ジェンたちが学校に通い、人斬り事件や王子と王女の喧嘩が起こる数十日前のエルシィーダン王国・王都郊外某所。ナイトとリティは、自警団の務めで異獣討伐を行っていた。
武器を使いこなし、異獣を討伐して行ったナイトは、異獣が他にいない事を確認して野宿を覚悟していた。彼はリティと共に、遺体の処理や負傷者などの治療などに回っていた。
そんな事をしているうちに、夕方となっていた。
「今日は怪我している人が、多かったね。」
「あぁ。でも、フーティが森で誰かに左目に呪い様なものに罹った。」
「え⁈フーティさんが!」
リティがそう言うと、ナイトは頷いて「しばらくは、見えないかもな。」と言っていた。相当酷い怪我を負ってしまったのだろうと、彼女は思った。彼女は彼にフーティの居場所を聞き、すぐさま駆けつけた。
フーティと言う青年は、太古からエルシィーダン王家に仕える「青の神官」と言われた子孫で、侯爵の位を持つ父の息子の「フーティドゥ・ビュウター」の事である。
救急テントに着いたリティは、怪我を負った彼を見つけて駆けつける。
「フーティさん。」
「リティか…。心配して来たのか?」
ベッドに横たわり、左目にガーゼや包帯に巻かれた彼がいた。傍には、フーティと同じ王家に仕えている「緑の巫女」の子孫で伯爵である父の娘「ペラリッド・ブライリ」(愛称は「ペラリ」)がいた。
「だって、友達だもん!」
「相変わらず、リティは優しいな。」
フーティがそう言うと、ペラリはこう言う。
「良いじゃない。リティちゃんは、真っ直ぐで可愛いもの。」
「ペラリさん…。……あの、それでフーティさんの怪我はどうなんですか?」
リティは改めて、フーティの怪我の様子をペラリに聞く。
「そうね。もう、左目はしばらく見えないかもね。治癒で何とか出血は抑えられたけど…。」
「そっか…。」
「それにしても、リアフには災難が来ちまったな。」
「え?リアフさんに何か遭ったのですか?」
フーティの言葉にリティは質問すると、彼はこう答えた。
「リアフの兄さんとここの所、誰も会っていない。王都を探しても、姿は無かったから、行方知らずとなっている。」
「えぇ⁈ニックさんが!」
赤の巫女の子孫であり、子爵である父の息子である「ニッカラ-イ・ビルフ」(愛称は「ニック」)が今行方不明らしいのだ。彼の妹である「リアシスフ・ビルフ」(愛称は「リアフ」)は、「兄が突然いなくなる事は無い」と断言している。
「あり得ないもの。あの方は、任務はちゃんとする人だし…。」
「そうだな。性格は凄く変わっているが、いざと言う時は頼りがいがある。」
「うん。」
何でだろう。嫌な予感がすると言うか…。
リティのその思いは後に的中するが、この時は当然知るよしもない。そんな不安を抱えつつ、リティは兄の元へ戻って行った。