第十二夜 謎の事件、現る⁈
ジェン、アンネ、シーガ、ソルはジェンの自宅へと向かっていた。途中で、アンネはジェンに話をする。
「ジェン、その腰にある白い物は何?」
「あぁ、説明していませんでしたね。これは、魔法鞄と言って…中は、亜空間になっておりまして限度はありますが、様々な物をしまえるんです。昔、お父様がこの鞄と杖の鞘を開発しようと考えていたようです。」
「お前の父さんが?すげぇな。」
「私も、お父様の考えに驚かされました。これで、人々の悩みを解決できると仰っていたようですし。」
「確かに、杖は片手で持たなきゃいけないっていう事であまり利用する人がいないもんね。」
「ジェンちゃんのお父さんは、人々の事を考えていた優しい人だったからね。」
四人がそう話していると、二人の男女がこちらへと駆けつけて来る。
「姉さ~ん‼」
「お姉ちゃ~ん‼」
クラッドとアイカだ。彼らだと分かったジェンは、笑顔で手を振る。彼らの案内により、四人はジェンが住まう家の玄関に着いた。中に入ると、リビングでアレックスとフィノに会う。
「おかえり、ジェン。」
「おかえりなさい、ジェンちゃん。」
「ただいまです。お婆ちゃんは元気ですか?」
「あぁ、元気にしているよ。ただ、脚が悪くなってしまったけどね。」
「そうでしたか……あ、えっと私のご友人を紹介します。」
ジェンは、アンネ、シーガ、ソルを紹介した。アレックスは、ジェンの説明を終えるとこう言う。
「よろしくな。クラッドは、再来年…アイカは三年後に魔導・杖騎士学校に入学する予定だ。無理はせずに、この子たちに出来る事を教えてやってくれ。」
『はい‼』
四人がそう言うと、クラッドがこう言う。
「なぁ、姉さん!早く教えてくれないか!」
「私も‼」
「そうですね。休憩を挟みながら、お昼まで頑張って見ましょうか。」
四人とクラッドとアイカは、練習スペースにて稽古を開始した。ジェンはシーガに、アンネはアイカに、ソルはクラッドに教える。
「そう、その調子だぜ!クラッドは、呑み込みが早いな。」
ソルは、クラッドの器用さと技術面で呑み込みが早い事に驚く。
「いえいえ、ソル先輩のおかげです!姉さんが学校にいる間も、自分で頑張っていたんです。」
「いいじゃないか!その心意気だ!」
「アイカちゃん、とても上手だね‼この調子なら、私を追い越しちゃうね。」
アンネは真面目に取り組み、諦めないアイカを褒めた。
「本当‼」
「うん。アイカちゃんは、諦めない心を持っているよ。立派な大人になれるよ。」
「やったぁ‼このまま頑張るぞ!」
ジェンは、シーガと話をしていた。
「シーガ。確か、貴方の一族って神器を持っていませんでした?」
「うん。族長が持つ、神器・ジャダクでしょ?でも、俺…持っていないんだ。」
「そうでしたか…。本を読んでいて思い出した記憶では、ジャダクは大鎌だと聞いております。そして、族長がその鎌の力を身に宿すと聞きます。」
ジェンの言う通り。神器・ジャダクは、大鎌で吸血鬼一族が受け継ぎ、災いに起きた時に必要となる神器と語り継がれている。
「だけど、人間が手にした時…大変な事が起きる。」
「大変な事とは?」
「あの神器は、闇の力が強いんだ。吸血鬼や特殊な血筋の者以外が触れちゃうと、闇に侵されてしまうんだ。」
シーガはそう話す。ジェンは、彼の話に真剣な表情をする。が、彼は、気持ちを切り替えて彼女にこう言う。
「まぁ、とにかく…稽古つけてくれる?」
「はい!お互い、頑張りましょう!」
そして、あっという間に昼となった。ジェンたちは、夏の旬の野菜が詰まったサンドイッチに冷たい麦茶を堪能していた。
「うめぇ‼」
「ソル、急いで食べすぎですよ。」
ジェンがそう言うと、ソルは早速咽てしまった。シーガは、サンドイッチを美味しく食べていた。
「美味しい♪トマトの甘みが全身に行き渡る!」
「うん。みずみずしさが凄い‼」
シーガとアンネがそう言うと、フィノは喜んだ。
「良かった。トッピングが合うか、心配だっただけど…。」
「いえいえ。フィノちゃんの料理はとても美味しい、とジェンちゃんが褒めていたよ。」
「ありがとう。…そう言えば、シーガ君はジェンちゃんの話を聞いたけど…その……。」
フィノはジェンから聞いた彼の事情を話そうとしたが、話してよいのかとどまってしまう。
「大丈夫。元々、吸血鬼の一族は王家に仕えていたし、この国の人々は悪い人じゃないって事は分かっているよ。」
「そうだったのね。…そうだ。吸血鬼の一族が食べていた料理とか、文化をいつか見たいと思っていたの。」
フィノの言葉に、シーガは心の底から嬉しい気持ちになった。アンネは微笑んだが、フィノに対する礼儀が悪いと彼に言った。
クラッドとアイカは、二人で仲良くサンドイッチを食べていた。食べ終えていたジェンが眺めていると、アレックスが話しかけて来た。
「クラッドとアイカ、この間は大喧嘩してたが、仲良くなって良かったぜ。」
「え、クラッドとアイカが喧嘩を?」
「あぁ、アイカが作ってた物をクラッドが汚してしちまってな。丁度、アイカは学び舎の宿題をやっていた所だったんだ。」
学び舎とは、ジェンの前世で言う「小学校」である。十二歳で魔導・杖騎士学校、騎士学校、天馬・飛竜騎士学校のどちらかを選択する。また、中高一貫校に通い、就職を目指す選択肢もある。六割の生徒は騎士を目指すが、四割は国家機関や町にある店などで働く。
「でも、仲良く出来て良かったです。まぁ、喧嘩する程、仲が良いと仰いますし。」
「そうだな。」
「…ところで、アレックス叔父さん。最近、奇妙な噂とかありますか?」
「この間の事件きりだな。化け物が町にいたって……最近はそんな噂は無いな。」
「そうですか…。」
“何でしょう…、嫌な予感がします”
と、ジェンは直感的にそう感じた。
昼食を終えたジェン、アンネ、シーガ、ソルとクラッドとアイカは再び練習を開始した。
クラッドは、一生使う短剣の召喚を完了した。濃く普通でシンプルだが、純白の刃を持っていた。アイカは、アンネの教えにより、魔法と武術の一層迫力のある者へと成長した。シーガもジェンの教えにより、魔法と武術の高度が増した。
時間はあっという間に過ぎ、夕食の時間となった。夕食は、ナイツァノ王国の料理の一つである「そうめん」だった。最初は箸を使うのに苦労したが、食べて行くうちに慣れて行った。
「そうめんって言ったか?凄くうめぇ‼」
「ソル…あまり食べすぎないでくださいね。」
思いっきり食べるソルに、ジェンは注意する。
「アレックスさん。このそうめんは、何からできているんですか?」
アンネはアレックスに気になった事を質問した。そうめんは、小麦粉、塩、水、少量の油で出来ている麺だ。話を聞いたアンネは興味を持ち始める。
「こんなに美味しいものがあるなんて、行ってみたくなったなぁ。」
アンネはそう呟いた。シーガも同じ気持ちだったらしく、こっそりと微笑んだ。
その日の夜、ジェンとアイカ、アンネとシーガ(シーガの強制でアンネが巻き込まれた)、ソルとクラッドで二人一組で寝る事にした。
ジェンはアイカを眠らせてから、敷布団へ横になって就寝した。
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ある日の夜。ジェンは短剣を手にして、必死に何かを追いかける様に走っていた。暗闇の中、走っているとふと誰かの声がした。
《ダレカ…タスケテ…クレ…。》
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「……っ‼」
ジェンは、勢いよく目を覚ました。ただの夢だった様だ。
丁度良く、朝を迎えていた。ジェンは普段着に着替え、アイカを起こさぬ様に窓を開けて、屋根の上に上る。太陽の日差しが優しく降り注ぐ。
すると、丁度そこへシーガが来た。
「シーガ、どうしたのですか⁈」
「事件が起きた。……人斬りだ。」
「…現場に案内してくれますか?」
シーガは彼女と共に屋根伝いで、人斬りが起きた現場へと向かった。現場に着くと、自警団の団員達が事件調査をしていた。現場は、十二人の男性の無残な遺体であった。地面に大量の血が流れた跡があり、赤黒く染まっていた。
「こ、これは、酷い状況です。」
「遺体には、宝石の様なものが傷口周辺にへばりついている。奇妙な事に、そこから魔力を感じる。」
確かに、言われてみれば…ここからでもあの傷口に出来た宝石の様な物から、魔力を感じますね…。……?そう言えば、この短剣はどんなものでも切れるとお父様が言っていました。なら…。
ジェンはそう考えて、シーガに言う。
「シーガ。悪いのですが、私の短剣で傷口に出来た宝石を取ってもらえませんか?」
「…?分かった。」
シーガはジェンの短剣を手にして、遺体の傍に行って慎重に宝石に刃を入れると…「メキメキ」と音を立てて、宝石が取れた。彼はその宝石の一欠片を手にして、ジェンの元へと帰って来た。
「ありがとうございます。……やはり、この短剣は普通のと全く異なるようですね。」
「ジェンちゃんの、その短剣…どこかで見たような気がするけど…。」
「何か知っているのですか?シーガ。」
「でも、随分幼い時だったし…覚えていないかもしれないし…。」
しかし、この事件は「だたの人斬り」では無かった。ジェン、アンネ、ソルは知らなかったが、「彼」だけは薄々何かを感じ、嫌な予感を巡らせていた。この事件は、予想外な事となるのを王都の人々は気付いてすらもいなかった。