第十夜 更なる闇の棘
学校に入ってから二ヵ月が経とうとしていた。平日でもシーガは、学校に入っては三人と行動を共にしていた。が、彼が来てから大変な事が起きた。
シーガって、本当に女性から追いかけられますね…。とジェンは見ていて確信した。
「こ、こらぁ!僕の事より、昼食を摂って来てよ‼」
シーガは走り回るが、後を女子たちが追いかけて来る。アンネは、ため息をついてからこう言う。
「行きましょ。放って置けば後で来るって。」
アンネはそう言って、ジェンとソルの手を取って「とある場所」へ向かった。
「そう言えば、ジェン。魔導書・杖屋で話したい事があるって言っていたけど…。」
「はい。杖の選び方ですね。最近、分かった事がありまして。」
この間の事件により、アンネの杖が失われてしまった為、三人は魔導書・杖屋へと向かった。休日である為、丁度良い機会である。ジェンは、その店について中に入るとアンネに説明をした。
「杖に限らず…本来の持ち主が現れると、持ち主にしか聞こえない聲がします。アンネ、もし、聲がしたらその方向に行ってみてください。」
「うん。分かった。」
アンネは、杖が売られているコーナ―へ探しに行く。ソルは、ジェンに質問をする。
「なぁ、もし聲が聞こえた武器に触れたら、どうなるんだ?」
「そうですね。間違いであった場合は、外傷を伴わない痛みが襲い掛かります。正解でしたら、淡い光が発せられます。」
「なるほどな。」
すると、早速アンネは杖を持って来た。紅水晶の宝玉を携えた杖だ。
「どうやら、アンネの武器はその杖ですね。」
アンネは会計を済ませると、装備してある鞘に杖を納めた。三人は、店を後にすると―
「お~い!」
「シーガ。…すみません。置いて行ってしまって。」
「良いよ。女子たちから逃げるので必死だったし…。」
「その割には、息切れしていないけど。相手にして来たの、バレバレよ。」
アンネは、シーガに容赦ない突っ込みをする。シーガは、彼女の元へ行きこう言う。
「もしかして、嫉妬?」
「なっ!何を言っているのよ!そんなのじゃないし!」
そんな二人をジェンとソルは見守りつつ、ジェンの家へと向かった。途中、美味しそうなクレープ屋があり、それぞれの味を買って歩きながら食べていた。ジェンは、初めてのクレープを少しずつ食べていた。
「ジェン、クレープを食べるのは初めてか?」
「はい。甘さも丁度良いスイーツだなと思って。」
「だろ?俺も、この甘さが好きだぜ。」
そう話していると、ジェンの元へ誰かが走って来る。クラッドとアイカだ。彼女は、即座に気付いた。
「クラッド、アイカ!どうして、ここに来たのですか?」
「アイカがどうしても渡したいものがあるって。ほら、姉さんの誕生日に何も渡せなかったからさ。…アンネさん、ソルさん久しぶりです。」
「久しぶり。」
「クラッド、アイカ。元気にしてたか?」
アンネとソルは、前にクラッドとアイカに会い、簡単な魔法や武術を教えた事がある。クラッドとアイカは、元気だよと返事をした。アイカは、ジェンの頭にジーンズの様な色のカチューシャをつけた。彼女は、アイカに「ありがとうございます。」と礼を言った。
すると、クラッドはシーガに気付いて、ジェンに質問する。
「姉さん、あの人は?」
ジェンは、シーガを紹介する。クラッドは笑顔で言う。
「シーガさん、よろしくです。」
「シーガお兄ちゃん、よろしく!」
「よろしくね♪……ジェンちゃんの従兄妹が、こんなに可愛いなんて。」
シーガはそう言うと、ジェンは微笑んで言う。
「えぇ、いつか二人共、魔導・杖騎士学校に入学するんです。クラッドは、再来年だよね?」
「うん。姉さんに追いつかないとな!魔法も上達しているぜ!」
「それは良かったです。」
とその時。広場から悲鳴が上がる。六人が駆けつけると、禍々しい姿のミイラが五体いた。ジェンは、ペンダントを光らせて、光防壁を張り、クレープを左手に持ち替えて右手で短剣を抜刀する。
「ここにいられては、皆さんがお困りになりますので消えていただきます!」
ジェンは、炎を短剣に着用させて、ミイラ型へ瞬時に斬りかかる。速い機動で斬って行き―
「炎噴火‼」
ジェンがそう言うと、勢いよく炎がミイラを包み込む。まるで、噴火したかのような勢いだ。そして、ミイラ五体は跡形もなく姿を消した。
そんな彼女の活躍を称え、人々は拍手や歓声を挙げる。アンネ、シーガ、ソル、クラッド、アイカは、彼女の元へ行き、「凄い」などの声を掛けた。
しかし、それが夏に起きる事件の前触れである事を四人と人々は知るよしもなかった。
時が過ぎ、人々は夏服へと衣替えをした。ジェンは、来ている服が季節に応じて効果を発揮する特殊な物だった為、衣替えはしなかった。四人の活躍は、学校中に広がり、町の人々へと広がり始めていた。
ある日の昼休みの事、訓練所にてジェン、アンネ、シーガ、ソルは話し合っていた。
「それにしても、ジェンとアンネが従姉妹同士って…驚いたな。」
「私もよ。シーガがそんな事を言った時は、尚更。」
「ごめん。いつか言おうと思っていたけど、タイミングが悪くて…。」
シーガはそう言うと、ジェンはこう話を始めた。
「でも、シーガのおかげでアンネのお母さんの事を思い出しました。一度、会っていたようですが、その時、アンネは友人と遊んでいたと聞いていましたので、またいつかと思っていたんです。ただ、記憶の中にフィーメ家と言う言葉が出て来たんですが…。」
「フィーメ家って、確か、六年前に滅んだ貴族の名だ。伝説では、ライリーの子孫…フィーメ家が受け継ぐ力と神器を持っているって。」
ソルはそう説明すると、シーガも同じだと彼の意見に賛成するが、ジェンにある質問をする。
「そう言えば、ジェンちゃんの左鎖骨…色が変わっている様だけど?」
「シーガ、何か知っているの?ジェンの事?」
アンネはそう言うが、シーガはこう言う。
「いきなり全部を話しちゃうと、ジェンちゃんは混乱するから。とりあえず、聖痕の話だけね。……ジェンちゃんの聖痕は元々淡い青色をしていて、雫の様な形なんだ。何故色が変わったかは分からないけど、今の色じゃなかったよ。」
「そうでしたか…。私の記憶もまだまだな部分はありますし…。当時の国の事も知りたいのも一理あります。」
「じゃぁ、俺が調べて何かあったら提供するよ。」
「ありがとうございます、シーガ。」
「それじゃ、時間もそろそろだし、アジトへ戻るね。」
シーガはそう言って、自警団のアジトへと帰って行った。ソルは「女子に追いかけまわされない様に」とシーガの幸運を祈った。
その後の授業で、歴史、魔法学などを受けていた。アンネは教室にて居眠りしそうなソルを叩き起こし、授業を終えて放課後となった。三人は、夕食を摂り始める。
「アンネ……お前、痛すぎて、たん瘤ができたぜ…。」
「ごめん。ソルが、とっても眠そうな顔をしていたからよ。」
「眠気覚ましには、良いけどよ…。手加減をしてくれ…。」
ソルはいじける。ジェンは微笑んでから、話を切り替えた。
「でも、この王都の壁の事がやっと分かって良かったです。壁は、太古から創られたのに全く壊れないとは…驚きです。」
「それと、噂によれば…南にある宝玉に罅が入っているらしいんだ。一族が滅ぶと同時に、結界が弱まるんだ。」
その頃…ナイトは剣の稽古をしていた時。女王・ナシィーは、会議室にて貴族や年末大会主催者らと共に話し合っていた。
「決勝戦は、審判を置かずに試合をお願いできますか?」
ナシィーの発言に皆は驚く。
「どういう事ですか?」
「実は、宝玉の予言に大会に危機迫るとの告げを貰いました。万が一、闘技場に来られる民たちに被害が及ばない様にしていただきたいのです。」
ナシィーは懸命に訳を説明した。彼女の話を聞いた者は、最初は半信半疑だったが、彼女の懸命な眼差しを受けて、改める事にした。
「分かりました。」
「予言が起きなかった場合は、責任は私が問います。」
光の中に闇あり…、それは希望を絶望へと変える大きな存在…。
その言葉を、ナシィーは意味を理解していたが、一体誰が光の中の闇なのか見当もつかない。
しかし、これが、王都で起こる様々な事件や国内で起こる出来事の予言に過ぎず…闇の棘は一つではなく、まるで薔薇の棘の様に迫って来るのであった。
勿論、ジェンも知るよしもなかった。
その頃、エルシィーダン王城の一番高い場所に仮面をかぶった不思議な者がいた。
「闇の棘は、全て四つ。……一つは、王都。二つは、郊外…。三つは、真実…。」
一体、何者なのだろうか…。だが、この時には既に運命は動き出していた。