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Awakening Of Magic  作者: Hanna
第一章 魔導・杖騎士学校 編
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第九夜 事件解決へ

 ジェンは、ソルと共にアンネの行方を捜査していた。


「私たちは、アンネを誘拐した犯人を許せませんが…一番怒りに火をつけているのは、シーガさんだと思います。」


「何でだ?」


「蘇った記憶で、吸血鬼(ヴァンパイア)の一族は、心遣いが良い一族だと。アンネに寄れば、シーガさんは、家族を失い一人で生き抜いてきたのだろうと言っていたんです。」


「確かに、恩を返すって感じだと、その人が唯一な人であったり、大事な仲間であったら、許せない相手に傷付けられるとたまったもんじゃないな。」


 ソルの言う通り、誰だって友人や家族、仲間が傷付けられると腹が立つ。二人は、その気持ちが現状で一番分かる。


「でもよ。どうして、シーガって奴がアンネを助けるって感じるんだ?」


「記憶もそうですが、最近、不思議な感覚で…。特別な力を持っている人の気配を時々、感じるんです。」


「マジか⁈…でも、本当か?」


「はい。吸血鬼(ヴァンパイア)の気配が屋根上でしていました。けど、今は王都(エルダ)内でも、この学校とは違う場所の様です。」


「そうか…。でも、違っていたら責任取れよ。」


「分かっていますよ。でも、不思議な事にアンネの気配も微かに感じます。」


「え?でも、アンネは俺たちと同じ一般だろ?」


「分かりませんが、おそらく…(ロッド)の宝玉を三刃ある薙刀に変形させる力です。普通なら、一つの薙刀で構成されます。」


 ジェンの記憶では、父親と思わしき人物の説明が刻まれている。当時、幼いジェンは少し理解し難いものだったが、今は理解できる。


『俺たち家族は、特別な力を持つ事をラーフ様から頂いたんだ。俺たちの力は、どんな人でも受け継ぐ事があるんだ。俺と同じ、瑠璃色の瞳を持ったり、白い髪を持つ人がその証拠だ。』


 待ってください…。アンネと私の瞳…同じ?

 ジェンは気付けば、と思ってソルに話しかけた。


「ソル。ちょっと、話が…。」


 ジェンは、ソルにこそこそ話で考えを言う。ソルは驚くが、冷静に聞いた。


「いつでも準備を整えておくと良いかもな。」


 丁度、昼になりジェンとソルは食堂へと向かう。クラスメイトの生徒らは、無事であったかと駆けつけて来る。ジェンは、事件の事を正直に話した。周囲はざわつき始めるが、彼女は落ち着かせてこう言う。


「大丈夫です。皆さんは、いつも通りに過ごしてください。事件の経緯(いきさつ)が気になる気持ちは分かりますが、犯人は私たちよりもはるかに強いです。ここは、私たちに任せてください。」


「心配すんな。お前らの仲間は、必ず取り返してやるよ。」


 生徒らは、二人の事を心配するが、彼らの言葉に期待と不安を抱えつつ普通の生活へと戻った。ジェンとソルは、食事を始める。


「やっぱり、事件のことは学校中に広がったか…。」


「仕方ないです。…でも、危険と分かって現場に行った私の責任もあります。アンネを怖がらせてしまいましたし…。」


「まぁ、そう落ち込むな。俺だって、責任があるんだ。お互い様さ。だが、今日は少し嫌な予感だな…。」


 ソルはそう言い、鋭い目になる。ジェンは、彼の言う事に同意の気持ちであった。



 その日の夜。ジェンはベッドに横になったが、なかなか寝つけられない。


 寝られません…。睡眠不足はいけませんが…嫌な予感が…。

 ジェンは不安を感じて眠れないでいると――


《トントントン!》


 ん?ソルの気配ですか…。何でしょう、夜遅くに。

 とジェンはパジャマ姿で、部屋のドアを開けると、彼女の思った通り…ソルであった。


「ソルでしたか…どうしました?」


 ソルは、ジェンに小声で何かを言った。


「分かりました。すぐ、支度をします。」


 ジェンは、普段着と武器などの装備にリティがくれたロングコートを着て、フードを被ってソルと共にジェンの部屋の窓から学校の境内の外に出る。


「ソル。貴方も眠れなかったのですか?」


「あぁ、嫌な予感がしてさ…。起きちまった。」


「うふふ…。」


「な、何だよ、ジェン。」


「いいえ。ソルも真面目な部分があるんだと思ってしまって。」


「なっ‼お、俺はいつも真面目たぞ!」


 ソルは頬を赤らめ、慌てて言う。ジェンは微笑んだが、少しして気持ちを切り替えた。ソルも同じだった。彼は、ジェンに質問する。


「ジェン、アンネの居場所…分かるか?」


「そうですね…。」


 ジェンは意識を集中させて、王都(エルダ)のどこかにいるアンネの位置を探す。すると、東の方から微かにアンネと同じ気配を感知した。


「ここから、東の辺りに倉庫のような建物があります。そこから、気配が…。」


「行くか。」


「はい。」


 ジェンとソルは、走り出して急いで東へと向かう。しばらくして、ジェンは一般家屋の屋根に身を移す。ソルも彼女の後に着く。


「ソル。作戦はどうしますか?」


「えぇ⁈お、俺⁈」


「声が大きいです!」


「すまん。そうだな……、倉庫は二つ入り口があるっぽいが俺はシーガって奴がいたら、そいつと反対側から入ろうかな。一人は、あのぼろい天井から奇襲を仕掛けるのが良いかもな。ただ、シーガって奴が倉庫に入ったら、作戦開始だ。」


「では、その意見に賛同します。それに、彼もここに来ていますし…ソルの言う通り、ここと反対側にいますから。」


「よし、三人で犯人を驚かせようぜ。油断は禁物だけどな。」


「勿論ですよ。」



 ジェンとソルは、それぞれ配置へと向かう頃…シーガは倉庫の入り口へ来ていた。


 随分、人が近寄らなそうな場所を選んだねぇ。……まぁ、俺に追跡されているのに気づかないとか、馬鹿な連中だ、と彼は思う。


「さぁて、この扉、簡単に破れそうだし…堂々と入ろうか。」


 シーガは、目の前にある扉に向かってジャンプ蹴りをかまして、軽々と開ける。音で気付いたのか、男たちが来る。


「何者だ‼」


 一人の男が言うと、シーガは鎌を鞘から抜いて言う。


「俺の大切な人を誘拐しておいて、よくそんな事が言えるな。悪いが、ここで死んでもらう。」



 ソルは、そう聞こえた瞬間、風刃(ベントゥス・ソード)を放って扉を真っ二つに斬ってこう言う。


「よくも、俺たちの仲間を誘拐しやがって!…向こうにいるのは、シーガか?なら、お前にアンネの救出を願いたい!」


 すると、ぼろい天井をジェンが風魔法弾(ベントゥス・ブーレット)で破壊し、降りてきて飛翔(ブート)でゆっくりと地面へ着地する。ジェンは、隣にいるシーガに言う。


「大丈夫でしたか?シーガさん。」


「……‼あんたは⁈」


「名を名乗るのは、後になってしまいますが…協力をお願いします。」


「わ、分かった。」


 シーガは、アンネの元へと駆けだす。ジェンは、炎壁(フランマ・ウォール)でシーガを追いかける男どもを妨害する。ソルは、短剣(ダガー)(アイス)着用(エンドゥム)させ、打撃攻撃を開始する。ジェンは、得意の空手と速さで攻撃して来る男どもを鎮める。ジェンの攻撃で怯えて逃げ出す者も出始める。


「逃がしはしませんよ!」


 ジェンはペンダントを白く光らせ、光防壁(ルークス・バリア)をドーム状に展開させた。これで、犯人たちを逃さずに済む。ソルは、ある事に気付きジェンに言う。


「ジェン。お、お前、魔導書は?」


「あ!忘れました!」


「何やってんだよ!」


 そんな会話は直ぐに終わり、二人は戦闘に入る。ジェンは、凄まじい速さで空手による攻撃を繰り出す。その間、シーガはアンネの元へ辿り着いた。


「アンネ‼」


「…誰?」


「おいおい、俺の事を忘れたのか?まぁ、無事で良かった。ここを抜け出すぞ。」


 シーガはアンネの手を取り、倉庫の外へ向かって走るが…。


「その女を寄越せ。」


「チっ!てめぇらなんかに渡す訳ねぇだろ。お前らは、俺が倒す。」


 アンネは恐怖心を押さえて、(ロッド)を鞘から抜こうとしたが…。


「いっ!」


 よく見るとアンネの利き手の二の腕に切り傷があった。見た所、さほど時間は経っていない様だ。シーガは、怒りに火をつける。


「よくも、こいつを傷付けやがって!……アンネ、そこで身を守れ。俺が道を開く!」


「う、うん。」



 ジェンは、息切れをしながらも最初の時と劣らずに男どもを空手で切り伏せる。ソルもジェンに負けず、打撃で敵を伏せて行く。敵は、残り半分となったが十五人と大がかりだ。


「ソル!平気ですか?」


「おう!まだまだぁ‼」



 シーガは次から次へと攻撃して来る男らに対応していたが、苦戦気味だった。


「ぐはっ‼」


 背中を斬られ、蹴られてアンネの元まで飛ばされたシーガは息が荒く、出血も酷かった。アンネは彼を心配する。


(このままじゃ、治癒(ヒール)を…。)


 アンネは治癒(ヒール)を使いたかったが、少し前に(ロッド)が力を失ってしまった事に気付き、慌ててしまう。

 彼に止めを刺そうと男たちは襲い掛かるが、それに気付いたソルは風魔法弾(ベントゥス・ブーレット)を放ち、遠ざけさせた。

 アンネは危機一髪を免れるも、どうすれば良いか迷っていた矢先、シーガはある頼みを彼女に言う。


「悪いが、あんたの血…飲ませてくれ。」


「…どういう事?」


「俺は、吸血鬼(ヴァンパイア)だ。血を飲むと、傷は治る。」


「……。」


 アンネは、何かを悟ったかのように右腕を差し出す。シーガは、彼女の負った傷口から出て来る血を丁寧に飲む。すると、傷はみるみる治って行き―


「すげぇ!力が、溢れて来る。…さぁて、さっきのお返しをしてやるよ。」


 シーガは紅玉(ルビー)色の瞳を輝かせ、今まで以上の強さで男らを鎌で斬って行く。アンネは、自分の血でここまでの回復力は見た事がなかった。

 ジェンとソルは、残り十五人の男らを全てひれ伏す事が出来た。


「さてと、これで全部ですかね。」


 しかし、シーガは人を斬り続けている。アンネを誘拐した班員たちは、もう…戦意を無くしている。それに気付いたジェンは、彼を止めに行く。


「てめぇらは、俺の大事な物を奪っておいて…生きる資格もねぇ‼」


「シーガさん‼」


 ジェンが彼の名前を呼ぶと、シーガの動きが止まる。アンネは、彼の名前にハッとする。


「何だよ?そんなの、俺の勝手だ。アンネを誘拐した奴らなんか、許されるはずも無い。あんたは黙ってろ。」


 シーガは鎌を振るい、男を斬った。ジェンは、即座に彼の手首を強く掴んで止めに入る。


「いったいなぁ。」


「止めてください!アンネの泣いている顔を見たいのですか?」


「うるせぇ‼」


 シーガは力づくでジェンを振り払う。彼女は、地面に引きずられ掠り傷を負う。すると、駆けつけたアンネがシーガを抱きしめる。


「やめて‼これ以上…やめてよ。」


「離せ!」


「嫌‼あなたは、そんな人じゃない‼お願い…やめて。」


 すると、丁度月明かりがアンネを照らす。彼女の瞳には、涙が溜まり、頬へと流れていた。それを見たシーガは泣かせてしまったと責任を感じた。


「わ、悪かった。すまない、アンネ。」


「シーガ君…無事だったのね。やっと……ぐすっ。」


 アンネは涙を流す。シーガは、彼女の頭をそっと撫でてから優しく抱きしめた。ジェンは、アンネの代わりにシーガにこう言った。


「アンネはずっと、貴方を待っていました。お母さんの仇だけじゃなく、貴方の身に何か起こったのではないかと心配し、杖騎士(ロッドナイト)を目指していました。貴方に、会うために…。」


「アンネが……。って、君は⁈」


 シーガは、ジェンの顔を見て何かに気付く。ジェンは、何のことか分からずキョトンとする。とそこへ―


「ソルさ~ん!」


「リティ王女‼外にいた奴らは、捕まりましたか?」


 リティは、自警団(ヴィジェラーンティ)の仲間を連れて来た。団員たちは、犯人確保と遺体処理を行う。

 ソルは、ジェンの部屋に来る前にリティにこう言っていたのだ。


光防壁(ルークス・バリア)が張られたら、来て欲しい』


と。


「ソルさんの言う通り、間に合ったよ。」


「良かったです。犯人も戦意を亡くしてはいますが、万が一にも対策は必要かと。」


「そうだね。……ところで、あの人は?」


 リティは、シーガについて尋ねて来た。ジェンは、彼女にシーガの事を話した。


「彼は、シーガさん。アンネと幼馴染みでして、吸血鬼(ヴァンパイア)一族の生き残りです。奇跡的に生きていて、良かったです。」


「そうだったんだね。」


「そうだよ。」


 リティの後ろからいきなり出て来たシーガ。彼女は、驚いた声を出してしまう。


「驚かせちゃったか。ごめんごめん。…それにしても、リティちゃんがこんなに可愛くなっているなんて、嬉しいな。」


 シーガさんって、本当は軽い人なのでしょうか?先程と別人の様な…。と、ジェンがそう思っていると、彼はジェンに飛びついて抱きしめて来る。


「あぁ~、このふわふわでサラサラな髪の毛……ジェンちゃんって、ほんと昔から変わらない。」


 昔から?とジェンは首を傾げる。


「あの、昔って?小さい時ですか?」


「えぇ⁈ジェンちゃん、俺の事…忘れちゃったの?……いてっ‼」


 シーガの頭を、アンネはチョップでお見舞いする。


「あんたね…。いつから、そんな軽い人になった?」


 その後、シーガはアンネに説教を喰らった。彼は、抵抗する事も無く彼女の説教を聞いた。シーガは、アンネにとても弱い…ソルとリティはそう思った。

 数日後、シーガはリティの勧めにより自警団(ヴィジェラーンティ)に配属された。奇跡的に生き残っていた吸血鬼(ヴァンパイア)の一族が見つかり、新聞の一面になる程だった。

 彼らの里は、ハロウィンと呼ばれる行事に盛大な祭りを開く事で有名であった為、無くなってしまった事でがっかりした人もいた程だった。


 ある休日の事。シーガは、学校に訪れジェン、アンネ、ソルと話をしていた。彼は、ジェンにこう質問する。


「本当に、俺の事を覚えていないの?」


「すみません。七歳以前の記憶が、喪失していて…吸血鬼(ヴァンパイア)の一族がいたと言うくらいしか…思い出せていません。」


「そっか。でも、アンネちゃんとジェンちゃんの関係は、まだ知らされていなかったよね?」


「え?何のこと?ジェンと私が?」


 アンネは彼にそう言うと、シーガは答える。


「ジェンちゃんとアンネちゃんは、従姉妹(いとこ)だよ。」


『えぇ⁈』


 二人は驚く。シーガは、根拠を話し始めた。


「アンネちゃんの瞳と、ジェンちゃんの瞳…同じでしょ。瑠璃色の瞳は、ジェンちゃんの家族である一族だけしか遺伝されない。不思議な仕組み何だけどね…。アンネちゃんがその瞳を持つって事は、お母さんがジェンちゃんにとって叔母さんって事。」


「叔母さんって…。言われてみると、瞳の色が同じだし…そうなのかな?」


 ジェンは、シーガの話を聞いて記憶が蘇った。アンネの母・ヘンリは、ジェンと同じ白髪で瑠璃色の瞳を持っていた。まさに、その証拠である。

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