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俺は今、興奮している。
始めてから初めてのボス戦だからだ。
今の技量で通用するのか? シロは大丈夫? アイテムとか足りるかな?
色々考えてしまうけど、それも楽しい。ドキドキだ。
今回はユナさんが居るからサポートしてくれるだろうけど、不安もある。
だけど、それも含めての興奮だ。
現実世界じゃあ、こんな冒険は出来ないからね!
な~んて、勝手に想像して興奮してました。
デカい扉がダンジョンにあったら、ボス戦だと思うじゃん!
扉をくぐった先には、お爺さんが1人居るだけだった。
古いRPGでよくあったパターンだな。
子供心に、こんな所でどうやって生活してるんだろうと思ったもんだ。
普段は町に住んでるのかな? 試練に人が来た時だけ、ダンジョンに来るのかな?
どっちにしろ大変な仕事(?)だよなぁ。
「よく来た、勇者の卵達よ」
「はぁ……お邪魔します」
「勇者の証を取りに来たのだろう?」
「あのね、ここで試練を受けて合格したら証がもらえるの。
失敗しても、一度扉から出て戻ればまた受けられるから大丈夫よ」
「あのな……。NPCだからって、無視するのは止めてくれる??
ワシもね、これが仕事なのよ? こう見えても忙しいんだよ?
説明するのもワシの仕事なんだからな?」
怒られた。凄いな。NPCなのに定型文じゃないんだ。
あの有名なAIってやつかな? よく知らないけど。
とにかく、どうやらバトルではないらしい。
試練ってのは簡単なものだった。
制限時間3分で、奥にある壁をツルハシで掘り、証を発見するのだという事だ。
……毎回このお爺さんが埋めてるのだろうか?
参加は1人づつなので、ユナさんは見学。
シロは従魔だから参加しても良いらしい。
参加したところで掘る事は出来ないけどさ。
「他に聞きたい事は無いかな?」
「じゃあ、1つだけ」
「うむ。何じゃ?」
「ここに住んでいるんですか? それとも誰かが来る時だけ降りてくるんですか?」
「……そういう事は聞くもんじゃないじゃろ? お約束じゃろ?」
「いや、良い機会だから聞いておこうと思って」
「『設定』じゃ! 気にするな!」
「え~、でも……」
「お前は過去のもプレイしているようだから言っておくぞ!
NPCの家のタンスを開けたりツボを割ったりするなよ? 犯罪だからな? 捕まるからな?」
「お決まりの勇者の行動ですね。フリですか?」
「フリじゃないわい! 本当に逮捕されるからな?!
そもそも、勇者が他人の家に侵入するな!」
「それをNPCが言っちゃダメでしょ?」
「発売当初、逮捕されたヤツが続出したからじゃ!」
「ちなみに、逮捕されるとどうなるの?」
「財産とポーチは中身込みで没収。その上ログインすると自動的に強制労働。
労働時間が合計で8時間になるまではログアウトしても、次にログインしたら続きからになる」
思った以上に重い罪だな。気をつけよう。
この世界にはこの世界のルールがあるんだね。
そう言えば、全然知らないな。ヒマな時に法律の本でも探してみるか?
「で、お前さんだけが挑戦するのじゃな?」
「そうです」
「判った。そこにツルハシがあるから、好きなのを選べ」
「何か違いが?」
「重さや素材が違う。手に合った物を使わないと上手くいかないぞ」
う~ん、ツルハシなんか初めて持つしなぁ。
トライアンドエラーでやるしかないか。
判り易いように、一番手前にある物から使ってみよう。
「よし、持ったな。ではスタートじゃ!
色の違う所が掘れる場所じゃ。間違えるなよ」




