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天使の輪

作者: ishicorocorocoro

 行き交う人々とすれ違いながら僕は今朝のことを考えていた。

 昨年生まれたばかり娘を抱いたとき、娘の頭の上に天使の輪のようなものが薄っすらと見えたのだ。寝起きだったので目のかすみかと思ったが、目をこすってもその天使の輪はぼんやりと見え続けていた。輪郭ははっきりすておらず、淡黄色で、後ろが透けて見える。やや楕円のように見えた。娘はまさに天子のような存在だからな、親にしか見えないものかな、親ばかだな…。今日帰ったら妻に話してみよう…と僕は少しにやつきながら職場へ入っていったが、仕事中、娘の天子の輪のことはすっかり忘れていた。

 

 帰り際、後輩の女の子Yと通路ですれ違った。伝えることがあり振り向きYを呼び止めた。

 変な顔をしている僕を見てYは不思議そうに「どうしたんですか…?」と尋ねるが僕はYの頭上を見つめたままだった。Yの頭上に、今朝娘にあった天使の輪のようなものが浮かんでいる。しかしYのものはねじれていて、メビウスの輪のような、無限の記号のような形をしている。なんとか取り繕いYに用事を伝え、職場を後にした。


 帰宅すると妻が出迎えてくれた。

すぐに娘のところへ行くと、やはり輪っかが浮かんでいる。

「今日何もなかった?」

妻に聞くと妻は「別に、何もないけど、どうしたの?」と近寄ってきて肩が触れた。

「いや、Kの頭の上にさ・・・」と言ったとき妻の頭上に輪っかが現れた。いや、輪っかでも無い、無限でもない。

「…25…?」

「なに?25?」

妻の頭上にはうっすら見えるものは、確かに数字の25だ。

「うん、25…25歳だよね。」妻は25歳だ。

「そうだよ。もうすぐ26だけどね。どうしたの?」

「いや…」

言いかけてやめた。

 年齢か?とすると娘に見えたのは輪ではなく「ゼロ」、娘は確かにまだゼロ歳だ。だがYの「無限」は…数字だとすると8か…8歳じゃないよな…。


 どうやら、体が触れると数字が見えるようになるようだ。同僚の数字は4、6、10…だいたい一桁くらい、明らかに年齢ではない。

「お前さあ、5って何?」

「5って何ですか?」ビールを飲みながら頭上に「5」という数字を乗せた後輩のNが答える。

「いや、お前さあ、何か5って数字に見覚えっていうか、言われっていうか、お前に関わることない?」

「何のことですか?5?、5月生まれですけど?なんなんですか?」

違う。「いや別に…俺に数字見えないよね?」

「数字?なに言ってんですか、さっきから」

「いいや、いいや、ごめん」


「今日は早く帰れる?」

「帰れるよ。誕生日だろ?7時くらいには帰れるから、ケーキ買ってくるよ。いってくるね。」

「いってらっしゃい。」

相変わらず25と0を浮かべた妻と娘が見送ってくれた。

 子どもはほとんど0、大人になると数字が大きいけど、みんなバラバラだな。

会社に着いた時、後輩のNとYが一緒に歩いてきて、ちょっと気まずそうな顔をしながら挨拶して通り過ぎていった。その二人の後姿を見る。「6と…9…、あれ、Nは昨日は5で、Yは8だったよな…」そういえば、数字変わってる人もいるような…。


喫煙所でNと一緒になった。

「お前さ…Yとなんかあるの?」

Nは照れくさそうな顔をしながら、「やっぱばれました?付き合っちゃいました。」

「え、そうなの。」

「いやー、朝会っちゃいましたからねー、ばれますよねー。」

二人が付き合って、二人とも数字が増えている。…え…と言葉に詰まっていると、「だめですかね?あの子」とNが無邪気に話す。

「いや、いいんじゃない、かわいいし…。…え、で、もう…その…」

「やっちゃいました、昨日。」

「…あ、そう…お前これまで何人と付き合った?」

「え、なんすか。5人…ですかね。」

「彼女は?」

「え、知らないっすよ、3、4人って言ってましたけど。普通じゃないすか?」

付き合った人数?いや合っていない、とすると、経験人数かこれ?

Nはそんなに遊ぶような人間ではないから、付き合ってない人と関係があっても1人くらいか…

「付き合ってない人としたことある?」

「あー、学生のとき、1回ありましたね…もう結婚してんだからSさんはだめっすよ。」


 25…?妻の数字が25?あいつ、付き合った人数は5人だって言ってたぞ。めっちゃ嘘ついてるじゃねーか…しかも多いよ…まじかよ…。

 でもどうやらこの数字は経験人数で合ってそうだな…課長の奥さんは幼馴染って言ってたもんな、だから1かよ…

 しかし25かよ…結構遊んでたんだなあいつ…。まあ、しょうがないか、出会う前のことだし…。本心ではすごくショックを受けたが、女の子が付き合った人数を少なく言うのはきっと多少あることだと思うし、そうして自分と付き合ってくれたんだと自分に言い聞かせ納得した。今日はあいつの誕生日だし、忘れて帰ろう。こんな数字消えてくれないかな…。


 帰りに妻の好きなケーキ屋でケーキを買い帰った。

ドアを開けると娘を抱いた妻が笑顔で出迎えてくれた。

「おまえ…」

「おかえり」

「…27…って…」

「なに言ってんの、まだ26歳だよ。あ、ケーキありがとう。」


たまに妻の数字が増える。


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