唐突に「あなたはB型だから無神経な性格をしているのよ」と言われました
唐突に「あなたはB型だから無神経な性格をしているのよ」と言われました。
それはとあるオフ会でのことで、その時は皆で飲んでいたのですが、そこで右斜め前の席に座っている宮田さんという女性からそう言われたのです。どんな経緯でかは忘れましたが、血液型の話題になったのですね。
そう言われて僕は困ってしまいました。「うーん」と。
そもそもほぼ初対面の相手に向かって堂々と“無神経だ”と、しかも血液型なんかを理由にして言う方がよっぽど無神経だとは思ったのですが、それを言ったら彼女を傷つけてしまいそうですし、世間一般的に言われているいわゆるB型的な性格に自分が完全に一致していないかと言われれば、それもそうではなく、被る部分もなきにしもあらずな気もしていて、ならばそれを肯定するべきかと言えば、それもなんだか違うように思えたので、結局は困って「うーん」と声を上げるしかなかったのです。
「B型だから無神経」と僕に言った宮田さんは、それからこう続けてきました。
「でも、だからって気落ちしないでね。自分が無神経だって気付いたなら、それを克服するようにすれば良いだけの話よ。ちゃんと言動に注意して……」
そんな風に滔々と諭して来る彼女に、僕はやっぱり困ってしまって「はぁ」としか返せませんでした。ところが、そんな時にこんな声が上がったのです。
「何を言っているのよ、あなた、失礼な人ね」
それは僕の真向かいに座っていた仁藤さんという女性でした。それを聞いて僕は“救世主だ!”とそう思いました。彼女はなんだか真っ当な意見を言ってくれそうです。僕の味方になってくれそうな雰囲気。ところがどっこい、それから彼女はこう続けたのです。
「彼は○○県民なんだから、繊細な性格をしているのよ」
別種の何かでした。
「―は?」
と、それを聞いて僕がまるで氷結の魔法にかかったように動きを封じられている間で、更に新手が加わりました。僕の隣で飲んでいた川田さんという男性が、こんな事を言ったのです。
「違うよ、この人は動物占いによるとバンビだから、穏やかで臆病な性格をしているんだよ」
動物占いと来ました。これまた、懐かしいもんが出てきたもんです。
そして、どう反応したらいいのか困惑している僕に構わず、彼女らはそれから言い合いをし始めてしまったのです。まぁ、予想できるとは思いますが、かなり不毛です。
「血液型の方が影響は強いでしょう? 遺伝子に刻印された性格付けよ?」
「何言っているのよ? 環境要因が性格に与える影響をなめないでよ。県民性の方が重要に決まってる!」
「動物占いの神秘を甘く見ないでもらいたいなぁ」
何なんでしょ、これ?
そこに至って、僕は堪えきれず思わず大声を上げてしまいました。
「ちょっと、ちょっと、君達!」
当人をガン無視で、よく分からない議論をし続けないでもらいたいです。彼女らは僕の雄叫び聞いて「何?」と異口同音にそう言いました。
「皆、それぞれ主張がある訳だけど、仮に正しくても、それが指標に使えるかどうかは別問題だよ?」
まぁ、僕には彼女らの主張が正しいとはとても思えなかったのですが、僕はそれなりの大人なので、それは今は置いておきます。僕の言葉を聞いて、宮田さんが「指標?」とそう疑問の声を上げました。僕は頷きます。
「そう。指標。簡単に言っちゃえば、目印とかって意味だね。
例えば、あるBって国の犯罪率が、日本の十倍だったとしようか? 驚くべき数字に思えるけど、日本は極端に犯罪の少ない社会だから、世界を観れば実は大した数字じゃない。実際、そんな国でも国民全体の犯罪者割合で観れば、0.1%にも満たないだろう。
で、質問をするよ。この場合、B国の国民である事は、犯罪者である事の指標に使えるだろうか?」
それを聞いて、仁藤さんが言いました。
「そりゃ使えないのじゃない? だって、0.1%しかいないのでしょう?」
僕はそれに頷きます。
「うん。じゃ、それが50%だったら?」
今度は川田さんが言います。
「それでも難しいのじゃない? だって、半分は違うんだろう? そんなんで犯罪者と決めつけられたら堪らないよ。指標に使うべきではないと思う」
僕はまた頷きました。
「だね。で、考えてみてね。君達がそれぞれ主張している性格傾向って、統計を取ったら果たして全体の何%に適応できるのだろう? 多分、どんなに大目に見ても50%は超えないのじゃないかと僕は思うんだよね」
そもそも、どれにもちゃんとした統計結果なんかなさそうだとは思っていましたが、先にも述べた通り、僕はそれなりに大人なので言いません。彼女らから何も反論がないのを確認すると僕は言いました。
「なら、君らの主張が仮に正しくても指標には使えないよ。B型だからといって無神経だとは限らないし、○○県民だからといって繊細な性格だとは限らないし、動物占いでバンビだからって穏やかで臆病な性格をしているとは限らない」
そして、そう僕が言い終えたタイミングでした。
「ちょっと」
と、そこでそんな声がしたのです。
「ずっと話を、聞かせてもらっていたのだけど」
見ると、そこには立石さんという名の女性がいて、僕らを見ていました。彼女は続けます。
「人は何かしら分かり易い答えを求めたがるものだから、そんな風にして○○だから何々ってしたがるわ。だけど、実際にはそんなに単純じゃない。だから、そーいうのを複数一緒にすると、そんな変な事になっちゃうのよ。
もしも、その人を判断したかったのなら、そんなよく分からない分類に頼るのじゃなくて、確りとその人本人に目を向けなくちゃ駄目だと思うわよ」
僕はその彼女の主張に安心しました。ようやく真っ当な意見が出てくれたようです。それからやっと僕らは普通に飲み会ができました。ところが、それからしばらくが経った後の事です。先の彼女、立石さんが不意に僕にこんな事を言って来たのでした。
「ところで、あなた。私の精神分析によると、あなたはね……」
……もう、本当に勘弁して欲しいです。