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れぶなんと!!~ゾンビに転生してサバイバル~  作者:
レブナントと残された国
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雄吾

「アンタは一体何者だ?どうして俺の体が異世界にあるんだ?」


 ユーゴは静かに問いかけているつもりだったが、言葉には自然と熱がこもり、声は震えていた。

 それだけではない、先程からこの男に聞かなければならないことはちらほらと山積していた。


 左の義手に込めたプラーナは解放されていない。

 力加減を間違えてしまえば誤って暴発してしまいそうなほどに、ユーゴの気は昂ぶっていた。


「……良いだろう。二年足らずでお前がここまで来るとは思ってもみなかったが、お前には全てを聞く権利がある」


 黒騎士はプラーナを完全に押さえ込み、鎧も消失した。

 ユーゴは義手にプラーナを溜め込んだまま数歩を下がり、黒騎士が黙って玉座へと座り直したところでようやくプラーナを解放した。


「お前はなんと名乗っている?」

「……ユーゴ、と」

「ふむ。こちらの発音に近いか。それでは私も自己紹介と行こうか、ユーゴよ。

 私の名前は雄吾。日本という国で生まれ育ち、異世界へと"召喚"された日本人だ」

「召喚?」


 ユーゴは自分の記憶と食い違っている相手の自己紹介に疑問を覚え、そのまま口に出した。


「そう、召喚だ。日本人の雄吾は、異世界に転移したんだ」

「だけど、俺は……」

「順を追って話そう」


 黒騎士こと雄吾は城の天井を見上げて目を瞑り、大きく息を吐いてからユーゴへと視線を戻した。


「私は死んだ、はずだった。電車に轢かれて手に持っていたスマートフォンは砕け……だが、私は死んでいなかった。この世界の召喚魔法が死ぬ直前の私の肉体を呼び込んだのだ。

 救われたと言っていいだろう。無理やりに呼び出されたことを苦痛だと思わなければな」


 ユーゴの背後でサラを治療しているエクセレンも、彼女に抱きかかえられているサラも、二人の前に立つリリアーヌも話に聞き入っていた。ユーゴも矛盾についてはまとめて質問することにして、黙って話を聞いている。


「地上に人間の敵が蔓延り、龍は全てを制していた。召喚された時は苦痛だったが、仲間と共に戦い続ければ異世界にも愛着が湧くものだ。

 私はあらゆる知識を使って国を守り、龍と戦った。悪神と呼ばれた龍は追い払うことしかできなかったが、少なくとも深手を負わせて百年の安寧を国に齎すことが出来た」


 それは今はもう語られていない、失伝した英雄の話だった。


「だが。国は分断し、国土は荒れ、私の教えも誤って伝えられていってしまったようだ」


 それでも、と雄吾は言った。


「それでも私はこの国を見捨てられなかった。

 例え自らの生み出した神聖術で己を動く死体にしようとも。例え己のコアを対龍迎撃用魔法の核にして、そのせいで城から一生離れられぬとしても。

 だが人間達はリーブランドの事を忘れ、私の教えを守りつつもそれを狩るようになっていった。城から動けぬ私の代わりに、リーブランドを守る存在が必要だった」


 ユーゴの手が強く握りしめられる。

 今までの情報から、雄吾の出した結論を推測出来てしまう程度には、ユーゴは聡明だった。

 それもそのはずだ。


「そのために作ったプラーナ・コア。私から前世の"知識"を分離させて生み出したゾンビ。それがお前だ、ユーゴ」


 有り得ない、と。

 ふざけるな、と。

 叫び出せない納得感がユーゴの胸のうちにあった。

 彼が抱えていた苦悩。ある感情を除いて心の動きが鈍かったのが、記憶が無いせいだとしたら。

 それでも頭の中に渦巻く熱が邪魔をして、冷静な思考力が戻ってこないまま、ユーゴは立ち尽くしていた。

 その間に思い切りよく手を上げたのはエクセレンだ。


「ちょっと待って、えーと、雄吾さん?」

「何か質問が?」

「今の話をまとめると、雄吾さんは自分のプラーナ・コアから前世の知識だけを抜き出して、新しいプラーナ・コアにそれを与えたってことになるんだけど」

「その通りだ」

「どうやってそんなことを!?」


 雄吾はエクセレンをじっくりと見つめ、ため息を付きながら手をひらひらと振った。犬を追い払うような仕草だったが、答えも梨の礫だ。


「基本を知らずして応用を教えるつもりはない。どうも私の技術とは違う体系でレブナントを作っているようだ。余計な知識に頼らず己の研究を進めるといい」

「………ぐぬぬ、そうは言っても」

「引いておけ、エクセレン。では私からも質問させてもらいたいのじゃが」

「結構だ。ユーゴが立ち直るまでは質問に答えよう」

「ユーゴはゾンビからレブナントに成り上がったという。なぜ最初からレブナントを作らなかった?」


 リリアーヌの質問に雄吾がほくそ笑んだ。


「ゾンビからレブナントに成り上がった真っ白なプラーナ・コア。そこに転生したと考えれば俺自信が納得するだろうと思ってのことだ。いきなりレブナントとして存在し、目の前に自分自身が居て己がクローンだと分かったら。大抵のSFでそういった人物は狂ってしまうものだ。自然と異世界に"転生"した、という筋書きが欲しかったのさ」

「そのためにリスクのある方式を取ったと?」

「"俺"が自発的にこの土地を守るためには必要なリスクだった。保険もかけていたしな」


 ハッキリとリスクを認識した上で、目標のためには必要な犠牲をしっかりと払える。

 そんな思考自体がユーゴと瓜二つだとリリアーヌ達は思った。

 ユーゴは自分の顔を見つめたまま動かない。

 次に質問をしたのは応急処置を終えたサラだ。


「ユーゴが持っていた強い衝動。生き残るために己を束縛する全てに抗う決意も、アナタが植え付けたものなの?」

「それは明確に違うと答えよう。私の術がそのような副作用をもたらした可能性はあるが、私が意図的にそのように術をかけた認識は無い」

「そう……。そうなのね。十分よ、ありがとう」


 サラはそう言うと、ユーゴの背中をじっと見つめて押し黙った。

 自分の納得が伝わればそれでいい。ただ、念話で教えるのではなく彼に気付いて欲しい。

 エクセレンとリリアーヌも、同じ視線をユーゴに送っていた。

 それを感じ取ることが出来たのかどうか。

 ユーゴは彼女達が聞き出してくれた答えを飲み込んで、ようやくハッキリと雄吾と正面から視線を交わしあった。


「アンタは俺に聞く権利があると言ったけど、本当はそんなものありゃしなかったな」

「そうかもしれん。だが"俺"なら知りたいだろうと俺が考えた結果だ」

「話してくれたことには感謝するよ。新しい悩みも増えたけど、今まで抱えてた悩みはちょっとだけ解決したから。

 だけど敢えて言うぜ、雄吾」


 自分の名前を自分で呼ぶのはどこか気持ち悪かったが、ユーゴはあえて言い切った。


「お前が俺の本体なんだろう。ベースで、コピー元なんだろう。

 だけど俺は雄吾じゃない。ユーゴとして今ここに居る。俺だけが持っているものは前世の俺じゃなくてユーゴとしての俺だけだけれど、それで十分だ。

 サラと、エクセレンと、リリアーヌと、みんなで俺達の国を守ってきた俺がここにいる。だから"俺"からの施しはノーサンキューだ、雄吾」

「……俺達の国、か」


 その表現の仕方は雄吾の怒りに触れるかもしれないと分かっていたが、ユーゴはあえてその表現から逃げなかった。

 確かにここにはリーブランドという国があった。いま、腐れ谷と呼ばれるその土地を守っているのは間違いなくユーゴ達だ。

 それは雄吾にとってはリーブランドの国土であるかもしれないが、ユーゴ達にとってはそうではない。


 過去は共有された。理解もした。共感もできるだろう。

 だが、未来は違う。

 

「なぁ雄吾。俺達はこれからも俺達の国を守る。そのためにここのプラーナが必要だ」

「先程の戦闘でその左腕を使われれば、私は殺されていただろう。抵抗するつもりはない」

「それなら話は早い。俺達と一緒に、死属の国を守らないか?」

「断る」


 雄吾は迷う素振りすら見せずに断言した。


「私のコアは城の中枢たるこの剣に込められている。巨大化した私の器は城のプラーナが無ければ長くは保たないし、私のコアがあるかぎりお前達はプラーナを得られん。私の生存とお前達の未来は共存できん」


 雄吾は後悔など無いと言わんばかりの横柄な態度で言ってのけた。

 逆に喜ぶべきユーゴ達のほうが戸惑っていた。自分の生存をあっけなく投げ出せるくらい、達観した死生観は死者である彼らをして理解できないものだった。


「人類の防壁として生きてきた私にも矜持は有った。だが……外から見れば意固地だっただけなのかもしれぬ。

 他ならぬ自分自身が乗り越えてくれたおかげだ。私はようやく……ようやく国と共に死んでも良いと、そう思っている」

「……自分のことながら納得出来ないけど、俺も数百年生きてみてから改めてアンタの気持ちを考えてみるよ」


 減らず口を交わし合う二人を見てサラ達は「口の回る似た者同士の二人が仲間にならなくて良かった」などと内心で思っていたが、その後にあるものを見て息が止まるほどに驚いた。

 雄吾と和解しあって右手を差し出すユーゴの口端が、ニヤリと釣り上がっていた。

 今、この時、この場所で、その悪癖をどうして出せるのか。女性陣が驚いている間にユーゴは特大の爆弾を投げ込んだ。


「色々と教えてくれたお礼に、俺も"俺"に、良い情報をやるよ」

「"冥土の土産"というやつか。受け取ろう」


 日本語の慣用句を交わし合う楽しさに笑みを浮かべながら、


「アンタの教えを歪めたのは、多分悪神(ラトナム)だぜ」


 ユーゴは引き金を引いた。


「なんだと?」

「悪神と呼ばれていた古龍ラトナムは今も生きている。奴の名は山脈にもつけられ、その名前にあやかった人間の国もある。

 それどころかアンタの教えを伝える教会の総本山はその国にあるし、そこの幹部の一人はラトナムの鱗を大事に盾にしてた。

 そしてその幹部の立てた組織は教えと真逆に死属を駆逐してる。いったい誰が得をしてるんだろうな?」

「……くくくっ、良いぞ、"俺"よ。俺も喚び出された直後は悪辣だのなんだのと言われていたが、とんと評価されなくなって忘れておったわ」

「感謝してくれるかな?」

「ハッ、人の感情をハメておいて良く言う」


 だが。


「良いだろう、消え行く命だ。奴と決着をつけるのに使い果たす程度には動いてやろう」

「……ありがたいぜ、雄吾。外に馬もある。使ってくれ」

「遠慮なく。この土地はお前の物だ。心して守れよ、ユーゴ」


 雄吾が剣を引き抜く。

 城に流れ込んでいたプラーナが一緒に引っこ抜かれるような衝撃と共に黒の大剣が引き抜かれ、雄吾は再び黒の鎧を身に纏っていた。


 城を飛び出し、スケルトンホースに跨った雄吾の背中を全員が見送った。




「さらばだ。我が愛した国、愛した人々よ」


 かつての英雄が遺した最後の言葉は風に消え、風よりも早く彼は北へと向かった。

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