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れぶなんと!!~ゾンビに転生してサバイバル~  作者:
レブナントと残された国
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首都攻略戦(下)

 城を中心に八角形を描くように設置されていた尖塔が次々と崩れ落ち、崩落音と振動が首都に響き渡る。

 尖塔の間にできていたプラーナの輪が消えて、立ち昇っていたプラーナは全て地上へと戻っていった。

 ユーゴの計算では街に溢れたプラーナは回路から溢れ、街の外へとこぼれ出していくはずだ。周囲の土地に流れるはずだったプラーナを無理やり集めていたのだ。それがなくなれば恐らく首都の周辺も潤い、レブナント軍の戦力になる魔獣達が繁殖するはずだ。

 だが、環境整備の結果を見届けるにしても、まずはこの扉の先にいる敵を倒してからだった。


 敵がレブナント軍を狙っていないことはおおよそ確信していたが、ユーゴは彼女たちを囮にして城まで接近していた。家屋の壁に穴を開け、城から見えない通路を作って接近する作戦は成功だ。囮にする意味もなかったかもしれないが、結果としてユーゴは一人、敵の喉元に辿り着いている。


 ユーゴは城の扉に手をあて、ゆっくりと押し開いた。

 ロビーの石階段は崩れ落ち、壁の燭台なども錆びている。リリアーヌの城と同じで布などは腐食して取り払われたのか、寂しい景色だ。

 だがそんな城の中で唯一まばゆい場所があった。

 ロビーの正面、開け放たれた扉の先にある玉座をユーゴは睨んだ。


 プラーナの満ちた玉座の間、その主だけが許される場所に、黒の全身鎧に身を包んだ騎士が座していた。

 床に刺さった巨大な黒の大剣を両手で握り微動だにしない敵に、ユーゴは全神経を集中させた。いつビームを撃たれるか分かったものではない。プラーナの供給は途切れたが、あの魔法はユーゴ個人でも出力を落とせば再現できる。


「………悪神への備えとして現世に残っていた我が同胞を、よくも手にかけてくれたな、レブナントよ」


 それは男の声だった。

 壮年の男性だと思われたが、鎧兜のマスク越しでは定かではない。


「レブナントが知性を獲得するとは。神聖術で蘇った個体が居たか……。まぁよい。お前は何をしにここまできた。お前達はリーブランドの外縁部を守っていれば良いものを」

「龍や人間の国に対抗するために、俺達はもっと力をつける必要がある。そのためにここまで来た。三本の神河を流れる大量のプラーナを分けてもらおうと思ってな」


 既にこちらから都市へ攻撃を仕掛けているのだ。会話による解決など望めないだろうが、ユーゴは相手の会話に乗った。少しでも敵の情報を集め、知らないことを聞き出して、自らの利益にするために。

 とはいえいつでも狙撃される恐れがあるのでは、対等な会話など望めない。ユーゴは己の魔法も準備するために、クリスタルドラゴンの剣を抜いて構えた。


「アンタが念話を阻害してくれたもんだから、誰を俺の仲間が倒したのかは分からないけど、もしアンタが剣を引いてくれるなら………」

「………龍に対抗する?ではその武器はなんだ」


 会話を断ち切られた。ユーゴは焦らずに左手の剣へプラーナを通して魔法の触媒にする。


「奴らは、殺すべき敵だ。奴らの血一滴たりともこの世に残しておけぬ!」


 黒騎士が叫ぶと同時に、玉座の間が歪む。

 握りしめた大剣から熱線が照射される。

 ユーゴは予め組み立てておいた盾を空中に作り出していた。水で作った多面体の盾だ。

 同時に体を右に投げ、石柱の影に隠れた。

 熱線は水を蒸発させて貫通するが、一瞬でも遅滞し逸らせれば避けることができる。


 ユーゴは暴れる心臓をプラーナで無理矢理に調えて笑った。一発勝負だったが、上手く行った。まさかファンタジーの世界でビーム対策をするとは思わなかったが、この距離であれば何とか対応できることがわかった。

 室内のプラーナも確かに減衰している。敵も同じタイミングでそのことに気付いたようだ。


「城に流れ込むプラーナも減っているのか」

「ご明察。回路の方も仕掛けをさせてもらったぜ」

「レブナントよ、よくぞ看破した。尖塔の組み上げ機と回路が別々の仕掛けだと気づけるとは。これで龍に与していなければ部下にしたものを」

「部下?」


 ユーゴは鼻で笑った。残りの熱線の回数は二回だろう。

 その最後の一発を引き出すのは剣ではなくペン。もとい口先三寸だ。


「こんな奥地に篭って、敵が来ることに何百年も怯えて潜むような男の部下になれってか。冗談じゃないぜ。

 俺達はいずれ、ヤツを倒す。倒せるだけの力を手に入れてみせる!」

「ほざけ!」


 プラーナが急速に敵へと集中する気配を感じ取って、ユーゴも柱から躍り出て剣を敵へと向けた。

 プラーナを剣先に集中させる。制御出来ないほどの熱が光を生む。翠の光を包むように、刃をバレルに見立てて砲を作る。

 即席のビームキャノンだ。


「なんと!」

「さぁ、これでもう切り札は使えないぜ」


 お互いに発射した熱線が正面衝突し、空中でエネルギーが相干渉することでビームが逸れる。

 床と天井に大穴を開けたが、互いの体は傷一つない。

 だが状況は変わっている。二人で広間に満ちたプラーナを大量に消耗したおかげで、空気中のプラーナは薄れていた。

 騎士は剣から手を話して玉座から立ち上がる。


「切り札?

 悪神の鱗すら灼けぬこの程度の火で切り札になど、なるものかよ。ヤツの喉首を斬り裂くのはこの拳と決めている」


 黒騎士は無手のまま玉座を降り、ユーゴに近づいていく。

 まさかの格闘戦にユーゴは焦った。異世界では誰も彼もが刃物を持っている。片手剣と組み合わせた格闘術ならいざ知らず、完全な無手による格闘戦を挑んできた冒険者は皆無だった。相手が人間のゾンビならなおさら素手で殴りたい者など居るはずもない。

 相手がどう出てくるか分からないが、またもやぶっつけ本番でやるしかない。気を引き締めたユーゴは左手の剣を後ろに引き、右手を軽く前に突き出して構えた。

 黒騎士の兜の奥で、瞳が翠に光った。


「なるほど。騎士団の誰よりも貴様はセンスがあるようだ。だが街の修復もある。手早く終わらせてもらうぞ」


 ユーゴが返事を返す前に黒騎士は既に踏み出していた。

 右手に集めていたプラーナを魔法に変える。まずはお得意のソニック・バレットだ。物理現象の強風を凌ぐ方法は無い。人を跳ね飛ばすほどの突風なら必ず隙が出来る。

 黒騎士は左のストレートをユーゴの右手に向けて放った。


「破ッ!」

「魔法が!?」


 完成したはずのソニック・バレットが、消滅する。

 ユーゴは魔法を発動したつもりで棒立ちになっていた。否、反応が遅れたのは体が動かなかったからではない。敵が実行したことの恐ろしさを理解することに頭のリソースを使ってしまったのだ。

 ユーゴは右足を振り上げて黒騎士の左肘を外から狙った。鎧に防がれて骨を折るどころでは無かったが、ユーゴは右足を起点にして体をぐるりと回転させた。


 敵の左側に体を脱出させたユーゴはそのまま体を回転させて裏拳のように剣を一閃させつつ距離を開ける。

 まずは一合凌いだ。そう思ったユーゴを油断したと誰が言えるだろうか。唯一この黒騎士以外なら、その一手は成立していたのだから。

 だが、振り抜こうとした剣を黒騎士は受け止めていた。


「プラーナで刃を」

「甘いわ!」


 黒騎士は掌にプラーナの甲を作ることで、クリスタルドラゴンの刃を受け止めていた。

 十分な勢いで振るったのであればプラーナごと砕けただろうが、ユーゴの攻撃は逃げながら牽制で振っただけの気の無い一撃だ。甘いと言われても仕方がない、隙だらけの攻撃だった。

 再度大きく踏み込んだ黒騎士に、ユーゴが右の手刀を振り抜いた。ただの手刀ではない。プラーナによって剣と化した本物の手刀だ。

 踏み込む直前の姿勢で硬直した黒騎士とユーゴの間に距離が空く。


「今の一瞬で技を見切り、己の物にするとは……。"門前の小僧"がなんとやら、だな」

「は?」


 ユーゴは今度こそ呆けたが、その一瞬で黒騎士は再度詰め寄っていた。

 先程までとは違い、今度はユーゴから攻撃をしかけた。向かってくる黒騎士よりも早く、クリスタルドラゴンの剣を全力で振り抜く。ちゃんとした加速を与えれば敵の熱線すら弾き飛ばす素材だ、黒騎士も当然受け止められずに避けるしかない。

 だが回避した後に反撃に移りやすいのは黒騎士だ。黒騎士は突き出す拳から槍を、振り抜く肘から剣を、振り下ろす手刀から斧を繰り出していくが、基本的には無手の素早さがある。

 黒騎士の反撃に対してユーゴはプラーナを放出してバリアを作り出すか、同じようにプラーナの武器を作って迎撃するしか無い。

 だが、剣を空振りさせられた後の体勢で反撃を繰り出すことは容易ではない。

 両手を突き出して放たれた槍をプラーナのバリアで受け止めたユーゴが大きく後ろに吹き飛ばされた。

 着地して顔を上げたユーゴの顔には滝のような汗が浮かび、息も上がっていた。

 対する黒騎士はまだまだ余裕があった。その証拠に彼は動きを止め、再び会話という選択肢を選んでいた。


「手早く終わらせると言ったのは撤回しよう。まさかレブナントで私に追随するほどの力と知恵を持つ者が現れるとは思ってもみなかった」

「恐縮だぜ。古代王国の王様にお褒めいただいてよ」

「だが、お前と私の実力差は分かっただろう。その穢れた武器を捨てれば我が部下に迎え入れよう、レブナントよ」


 ここに来ての勧誘にユーゴは苦笑したが、黒騎士は本気のようだった。


「お前達はそのために生み出したのだ。いずれにせよリーブランドから外にお前達の生きる場所はない。在るべき所に収まることを拒否して死ぬなど愚かな選択だ」


 黒騎士の声は凛として揺らがない。

 彼が本気でそう思っていることは疑いようが無かった。


「お前は私に追随はすれども、まだまだ対等ではない。お前と私でプラーナの残存量が然程違わないにも関わらず、お前だけが疲弊している理由が分かるか?」

「それが分かったら苦労してないぜ」

「お前は全身にバリアを張っている。対して私は掌や肘などに武器を作るだけだ。確かにその龍の武器は驚異だが、継戦能力を考えればその武器を捨ててプラーナで作った武器のみを使ったほうが良かったな」

「……まだ決着がついてないのに、上から目線でお説教かい?」

「私の方が回復も早い。百年をかけても貴様を屈服させたほうが、利が大きい」


 レブナントという私設軍隊の中で長を務めていたユーゴだったが、敵の格の大きさに打ちひしがれそうだった。

 実力も、器も負けている。逃げ出して次回に賭けるということも難しいだろう。

 だが、それでも。


「俺は自由を手放したりなんかしない!」


 ユーゴの啖呵に合わせて、三人の人影が玉座の間に飛び込んだ。



■■■■■



 事前に念話で告げられていた合図で、エクセレンは壁に空いた大穴から身を乗り出して魔法を放った。

 彼女お得意の"消散"だ。最近ではプラーナ・コアまで魔法を届かせることが出来ない敵が多いために成功することが稀になっている消散だが、それでも無視出来る効果と威力ではない。

 黒騎士はユーゴに対して構えを崩さずに全身のプラーナを放出して魔法を掻き消した。


 放射されるプラーナの波をやり過ごして、頭上から空中を駆け下りるサラがナイフを投擲する。数十年培ってきた投擲の技術を乗せたクリスタルドラゴン製のナイフは迎撃のために構えを解かざるを得ない。

 ユーゴの攻撃に対応出来るようにバックステップで下がり、後退した位置にも既に放たれていたナイフを手刀ではたき落とした。

 空中で一時停止したサラに視線を向けてしまった一瞬で、ユーゴから強力なプラーナの剣気が放たれたことを知覚する。


 黒騎士の判断は一瞬だった。距離が近い方から対処する。つまりは頭上の女からだ。

 だが黒騎士の予想外の自体が起こる。乱入してきた三つの(プラーナ)、そのうち最も巨大なそれが、ユーゴの剣気を飲み込んだのだ。

 目で見て確認する余裕はない。黒騎士はストップ&ゴーで再加速したサラにしっかりとタイミングを合わせた上段回し蹴りで腹を横から蹴りつけてはじきとばす。


 黒騎士が視線を正面に向けた時、ユーゴは逆手に持った剣に剣気をためて跳躍を終えていた。


「笑止!」


 黒騎士が叫んだ。

 確かにユーゴの敗因はプラーナの消耗の仕方の違いだ。だが全力でプラーナを放出したときの破壊力が同等とは一言も言っていない。

 全力の右ストレートで剣を砕き、返す左のフックで首から上を消滅させる。

 ノータイムでタイミングを合わせた右のカウンターが閃いた瞬間だった。


「甘いのは貴様の方じゃな」


 警戒に全身の肌が粟だったが、突き出す腕の内側から攻撃をされては、黒騎士といえども対処することは適わなかった。

 ユーゴが剣を振り抜き、タイミングを合わせて鎧の影からリリアーヌがユーゴの遠当てを放つ。

 二度目のプラーナの放出は間に合わなかった。


 大きなクロスを描くように黒騎士の鎧と兜が割れて、大きく弾き飛ばされた。

 リリアーヌとエクセレンとサラがホッと息を吐き。

 ユーゴは黒騎士が熱線を放つ前に前へと出て、左の義手を心臓に突きつけていた。


「その腕、何か仕込んでいるな。何故使わぬ?」

「これを使ったら粉々にしちまう。アンタから話を聞かなきゃならんと思ったんだよ。なぁ、アンタも地球から………」


 警戒しながら近づいたユーゴは息を呑んだ。

 割れた兜のその向こう。そこには、年を経たとはいえ、前世で十数年も見続けた雄吾自身の顔があった。

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