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れぶなんと!!~ゾンビに転生してサバイバル~  作者:
レブナントと残された国
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首都攻略戦(上)

 かつてとある大陸に一つの大国が栄えていた。

 人類の版図は狭く、外敵はあまりにも多かった。

 地を駆ける獣。空から襲い来る怪鳥。水辺に潜む大蛇。森に潜む魔樹。山中で暴れる土塊。

 そして全ての頂点に龍が居た。

 人類は抗った。

 獣を取り押さえ、怪鳥を撃ち落とし、大蛇を罠に掛け、森ごと伐採し、土塊を砕いて坑道を切り広げる。

 それでも龍にだけは敵わなかった。


 ある時、一人の英雄が現れて歴史を変えた。

 悪神として崇められていたソレを打ち倒し、人類の版図を大きく拡げる礎を築いたのだ。

 彼の教えを守る組織は、悪神との闘いで疲弊した彼の大国が滅んだ後でも生き続け、今も諸国を跨いで存続している。


 龍が権勢を誇った時代とその国の名を誰もが忘れて久しいこの時代に、ユーゴは首都リーブランドに辿り着いた。



■■■■■



「ねぇ、帰らない?」


 エクセレンが冗談混じりにそう言ってくれなければ、自分で言ってしまっていたかも知れないとユーゴは思った。

 ファンタジーな異世界の中でも死者の蔓延る腐れ谷は、地獄や魔境と呼ばれていたが、その光景を目にしたレブナント全員がその考えを改めざるを得なかった。

 リーブランドの様相はそれほどまでに常軌を逸していたのだ。

 北から東にかけて走っている山に背を預けるようにして建てられた城と、城を中心に円を描くように広がっている城下町。古代の王国では一般的だったと思われるプラーナサーキットを前提とした建築思想だ。

 ではそれがレブナント達の目にはどのように映っていたのか。


 全てを覆うプラーナのドームが邪魔をして、彼らには何も視えていなかった。


「プラーナの壁……?何も見えないなんて、そんな」

「おいノイッシュ。プラーナを視る機能は切っておけ。戦争と同じさ、一人で敵の大軍に向かうわけじゃない」

「お前も緊張してるみたいで安心したよ。手勢が少数なことも無視してそんな励まし方をするとはね」

「そんだけお前が情けねぇ顔をしてたんだよ」


 軽口を叩きあうノイッシュとアレクに釣られて、皆が口々に状況を揶揄し合う。それがプラスに働くのかマイナスに働くのか、ユーゴには前者になってくれと信じるしかなかった。目の前の光景は言葉一つでひっくり返せるようなものではない。


 街を満たしたプラーナが空中でも制御されて、巨大なドームを形成していることは一目でわかる。

 それ以上の判断は専門家達に任せることにした。


「エクセレン、リリアーヌ。あれがどうなってるか分かるか?」

「………プラーナは水のように低きに流れるが、濃い方にも流れる。エクセレンと同じようにプラーナの向きを操作しているんじゃろうが、それをどうやったら空へ向けておるのかは」

「あ、多分あれは違うよリリィ」


 エクセレンは目をチカチカと緑に光らせながら言った。

 プラーナを視るモードの緑と通常のブラウンの瞳が頻繁に入れ替わる。他のレブナントが真似しているが頭が痛くなったようで蹲っている。


「うーん、塔をプラーナが登ってる。良くわからないけど塔の同じ高さを繋ぐようにプラーナの平面が出来てるねー。

 でも多分、塔の尖端から出てるプラーナは空に向かってるんじゃなくて、空に吸い出されてるんだと思う」


 エクセレンの解説を受けてサラも同じようにしてプラーナのドームを指と目で測る。


「確かに、プラーナの覆いは半球ではなく歪んでるわね。撓んだ頂点は」

「あの城だよな。問題は城が集めてるのか、集めてる誰かがいるのか」

「十中八九、居るじゃろ。確かめるか?」

「そんなことできるの、リリィ?」


 リリアーヌはエクセレンを自慢げに鼻で笑うと周りのレブナントから盾を奪って空へと舞い上がった。

 空中で盾を構えたリリアーヌは、右手に黒いプラーナを集中させる。


「プラーナを直接叩き付ける攻撃は、相手のプラーナの防御が厚いと貫通しないんじゃないか?」

「ユーゴ。あれはただのプラーナの流れだよ。普通にプラーナの流れが乱れるだけだと思う」


 エクセレンのアドバイスに頷いた皆がリリアーヌ見上げる。準備が終わったようで、リリアーヌはえいやっ!とプラーナをビームのように撃ち出した。

 黒い闇が空を走り、城の頂点へと直撃する。

 プラーナのドームが揺らいだように見えたその瞬間、城がギラりと黒く光った。否、それは光ったように見える錯覚だった。光を歪ませるほど圧縮されたプラーナ。次の瞬間、リリアーヌの放ったそれより何倍も太いビームが発射された。


「リリィ!?」


 エクセレンが悲鳴を上げるより早く、ビームがリリアーヌを飲み込む。


「やはりおったのう」


 呆然とするエクセレンの足元の影からリリアーヌが顔を出して冷や汗を拭っていた。


「ちょっと!心配させないでよ!」

「念の為じゃったんじゃが、盾の影があって助かった。ところでユーゴ」

「あぁ、分かってるよ、バカヤロウ!全軍走れ!!」


 ユーゴは指示を出すとスケルトン化させたキマイラの背に跨って空へと飛んだ。

 その背にリリアーヌが飛び乗ると、空中のユーゴに向かってビームがすかさず発射された。


『回れ!』


 ユーゴはキマイラに指示を出して体を右回転させながら、無理やり頭を掴んで引っ張り上げる事で軌道を斜め下に逸らすことでビームを回避した。


「リリィのおバカー!」

『舌噛むわよ。黙って馬を走らせなさい!』


 全軍が走り出したのを確認したユーゴは正面に向き直った。


「こういうのやめろって言ったよな!?」

「逃げ腰じゃったくせによく言うわ」

「せめてこれを防ぐ装備があれば……うぉっ!?」


 次弾は急上昇することで避けたが、キマイラの片足が溶けて消える。

 ユーゴは空気の焦げる臭いに違和感を覚えた。


「リリアーヌ、お前はさっき何したんだ?」

「何って、プラーナを固めて押し出したんじゃが。……次!」


 回避。


「じゃあ、あれはプラーナそのもので攻撃したんだな?」

「そう言って……うん?うわっ!?」


 最速ではなく遅らせて発射された一撃を辛うじて回避したがキマイラの右翼が半分ほど消滅した。

 次はなんとか避けられるだろう。だがその次はない。味方はあと少しで街まで辿り着く。尖塔の影が安全であると信じるしかない。

 つまり耐えるべきは、一撃のみ。

 

 理屈を考えている時間の余裕は無い。二人は直感に身を委ねた。


「ユーゴ、これは対龍の」

「だよな、手伝ってくれ」

「は?どうやって?」

「こうやってだよ!」


 ユーゴはキマイラを殴りつけて位置をずらす。運悪く左の翼が全損した。墜落コースだが構わない。

 ユーゴは後ろに座っているリリアーヌの手を掴んで自分の左腕に回させると、右手をキマイラの背骨に突っ込んで体を固定した。


「リリアーヌ!」

「あぁぁぁ、まったく!」


 背中から注ぎ込まれるプラーナと自分のプラーナを、ユーゴは全て義手に流し込む。肘に圧が溜まり、肘から先が熱を帯びる。捩じ切れそうなエネルギーの暴力に耐え、城が歪む。


「ブチ抜け!」


 ユーゴの左腕から撃ち出された杭が、ドリルのように回転しながら黒いビームを穿った。

 空中で衝突したクリスタルドラゴン製のドリルがビームを貫き、螺旋状に放散させていく。


「やりおったな!」


 尖塔に墜落する直前で、ユーゴは快哉を叫ぶリリアーヌを抱えて飛び降りる。

 衝撃で尖塔の一部が崩れて下にいたレブナント達が慌てていたが、頭上を見上げればプラーナのドームが一部分だけ薄くなっていた。


「……ゲームだと先にボスを弱体化させるのが定石だよな。その間にボスは出てこないもんだけど、俺なら城から出てくるね」

「城から出て来る前に先に尖塔を壊して回るか?」

「とりあえずサラとエクセレンに怒られてきたらどうだ?」


 地表に到着したユーゴはリリアーヌの背中を突き飛ばす。

 尻込みしていたレブナント軍の尻を叩いてくれたことにユーゴは感謝していたが、それはそれとしてリリアーヌがしっかり怒られることで、面々の気を落ち着けてもらうのだった。

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