表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
れぶなんと!!~ゾンビに転生してサバイバル~  作者:
レブナントと残された国
78/87

トライアングラー

 マレタ市の拠点に辿り着いたユーゴは、異世界人生で最大のピンチを迎えていた。


「告白してきたのに三ヶ月もほっぽりっぱなしなんて、ヒドクない!?」


 エクセレンが開幕に投げつけた爆弾が盛大に爆発し、ユーゴの背後で眠っていた(とユーゴは思っていた)爆弾にも誘爆した。

 確かにひどいとユーゴ自身も思ってはいたのだ。

 忙しいどころかレブナント軍の危機であり生死の瀬戸際だったのだが、恐らく異世界でも仕事を理由にして逃げられる話題ではないことは、放置していた本人でも分かる。

 エクセレンの癇癪も、背後の爆発も沈められる銀の弾丸は無いか必死に考えていたユーゴだったが、救いの手は部下から差し伸べられた。


「サラ副将。リリアーヌ様。僭越ながら申し上げますが、エクセレン副将はあえて誤解される言葉を選んでおります」


 苦笑を噛み殺しながら言ったのはアレクだ。

 なぁ、ノイッシュ?と巻き込まれた生真面目な騎士も、真顔で首を縦に振った。


「ユーゴ大将はまだ誰も選んでおりません。その話はエクセレン副将からお聞き頂いた方が宜しいでしょう。ユーゴ大将にはこちらで現況の報告をさせていただきたいのですが、構いませんか?」

「あ、あぁ。助かるよ、アレク」

「恐縮です」


 まったく恐縮する素振りも見せずにアレクはそう言ってのけた。

 予め準備していたのだろう、部屋を整えさせていたアレクは小間使いをやらせている位階の低いレブナントにサラとリリアーヌを案内させ、部屋の中にユーゴだけを残すことに成功した。


「……マジに助かったぜ、アレク。ノイッシュもすまんな」

「無礼を承知でお聞きしたいのですが……」

「命の恩人だし、俺達は運命共同体だ。仕事でなければ普通に話してくれていいけれど」

「それでは……本当にあのお三方のどなたにも、女性として興味が無いのですか?」


 ノイッシュが真面目な顔をして質問するものだから、アレクが腹を抱えて床にうずくまってしまった。

 ユーゴはアレクを睨んだが、彼の背中に目はない。放置してノイッシュに逆に質問をすることにした。


「ノイッシュはどうなんだ。死属になったけど、彼女達をどう思う?」

「非常に魅力的な女性達だと、私を含めてレブナント軍全体で好評です」

「そ、そうか……」


 彼女達が美人であることはユーゴにも否やはない。

 エクセレンに以前話した通り、好意を寄せられていることも分かっている。

 だがそれでも、ユーゴには衝動と欲求が無かった。愛欲に体を突き動かされることはなかったし、彼女達と恋人になってどうしたい、という未来も思い浮かばないのだった。


「ということは、やっぱりレブナントの中でも俺だけが、その感情を持ってないんだな……」

「なぁノイッシュ。ユーゴくんは知識はあっても意識が生まれてからはまだ二歳にも満たないんだぜ。俺達のように生属から死属になったやつと同じ思考回路なわけがなかろうよ」


 アレクは意図的に"ユーゴくん"と呼び、ノイッシュもその意図に気付いた。

 実際には違うのだが、一般のレブナントにはユーゴの事をゾンビ上がりのレブナントと説明している。生属として人間社会の中で生きた経験が無いという設定だ。

 彼らの認識は事実ではないが、ユーゴはなるほどと納得もしていた。

 知識としてはユーゴは前世でも成人している年齢だ。だが異世界に魂が流れ込み、こちらの世界でユーゴというレブナントが誕生してからは、確かに二年も経っていない。


「案外アレクが言っていることは当たってるのかもなぁ」

「でもヤレることはヤレるんでしょう?だったら彼女達の関係が悪化する前に全員抱き込んだらどうです、大将?」

「……なぁノイッシュ、感心したのを取り消してもいいか?」

「問題ありません。私も日頃からそうしております」

「おいおい、ひどいぜ二人共。真面目な話を終わらせたら、酒でも飲みながら弁解をさせてもらおうじゃないの」


 アレクはユーゴを指揮官席に勧めながらおどけて言った。


(エクセレンがしっかり説明してくれているといいけど……)


 後々のフォローをどうしようかと思考の一部をそがれながら、ユーゴは部下からマレタ市の現況を聞くのだった。



■■■■■



「のう、サラよ。人間の男というのは皆ここまで気が利くものなのか?」

「皆じゃないわ。少なくともレブナント達の中ではアレクだけよ」


 二人が通されたのはいわゆる女子部屋であった。

 ユーゴがアシッド砦へ向かって旅立つ前のやり取りを知っていたアレクには、勝利の吉報を受けて「すぐに戻る」と言っていたのに一向に戻ってこないユーゴに憤っていたエクセレンの苛立ちも、ユーゴが来ると分かって情緒不安定になっている彼女が"やらかす"つもりであることも、一通りお見通しだった。

 とはいえ、部屋の中でエクセレンがリリアーヌの作った影の縄で縛られて宙吊りにされるとまでは予想できていなかったが。


「で、エクセレン。今話したやり取りについて虚偽はないじゃろうな?もしもそうだと分かったら……」

「うぐぅ……恥ずかしいのに正直に話したんだから解いてよリリィ……」


 サラがプラーナを込めたナイフで影を切り裂き、エクセレンが床へと落下した。


「あいた!痛いよ、サラ!」

「私達が驚いた衝撃に比べたらマシでしょう?」

「マシじゃないよ!三ヶ月も我慢してたんだよ!?こんなに待たされるなんて分かってたらキスしてたよ!」


 エクセレンは涙目どころかサラに抱きついて本当に泣き始めた。


「っていうかユーゴのことよりも、サラが無事な方が今は大事だよ!」

「……私も無事に再会できて何よりだけど、ぶち壊したのはあなたでしょう」


 文句を言いつつも抱きしめ返しているサラを横目に見ながら、リリアーヌは溜息を付いた。


「そんなに想っておるなら会いに来れば良かったじゃろ」

「私には私でやることがあったんですー」

「ユーゴに頼まれたから、か?破天荒な癖して変なところで律儀じゃのう」

「リリアーヌに言われたくないよ。ユーゴに黙ってこっそり支援どころか、一国の軍隊を抑えるのに全戦力注ぎ込んだんでしょ?ポイント稼ぎ過ぎだよ!」

「……それを言うなら私が一番稼げていないんじゃないかしら」

「「一緒に居ておいてそれは無い」」

「そ、そう?」


 珍しく安堵のため息をついているサラが会話のクッションになり、白熱した会話がいったん途切れた。

 ユーゴは知らないことだが、彼女達はお互いのスタンスを以前から知っているし、話している。

 その中でエクセレンが一人抜け駆けしなかったことをサラもリリアーヌも評価はしているのだ。再開時のマイナスが大きいだけで。


「ともあれ。ユーゴがそう言っていたおったが本当だとしたら、どうするかのう」

「待てばいいんじゃない?」

「私は不老不死じゃが、お主らがついてこれるかは分からん。行き急ぐつもりもないが回り道をして目的地にたどり着けぬのでは愚の骨頂じゃ」


 リリアーヌは一日の進展を焦りはしないし、三ヶ月という月日にも心は動かされない。ただ、十年百年という単位を見れば、漫然と季節が通り過ぎていくのを良しとはしていなかった。

 サラも生きている年月が長いとは言え元人間だ。しかも生きている期間は遥かに長い。もしも人間の魂の寿命が死属になっても伸びないのならば、死に最も近いのは自分だと彼女は認識していた。

 唯一若く、時間があると思っているのはエクセレンだけだった。


「ユーゴは生前、どんな人間だったのかしらね」

「またその話か?奴も覚えていないと言っていたじゃろう」

「でも少なくとも、戦士では無かったはずよ」


 勢いで反論していたリリアーヌも、サラに言いたいことがあると分かって押し黙った。

 サラは全く常人離れしたメンタルモデルの二人に理解してもらえるか分からなかったが、自分の不安を続けた。


「ユーゴは最初から強かったわ。ゾンビであったことも、レブナントであることも受け入れた。やったことのない実戦の中でも生き延びたし、怯えて足が止まることもなかった」

「むしろ誰よりも早く駆け抜けてるくらいだけど……」

「そうね。だけど足が竦んでいなかったと、誰が言えるかしら」


 ユーゴは誰よりも前に進もうとしている男だった。今もそう在り続けている。

 そんな彼の足が竦んでいたことがあるなどと、考えたことがなかった。

 初めから不死属であるリリアーヌも、死霊術師という異常なメンタルのエクセレンも、死霊術で恐怖をなくされているとは言え死属であることを受け入れたレブナント達も。

 そして、唯一望まずにレブナントとして生きざるを得ず、ユーゴと出会わなければ消滅することすら覚悟していたサラでさえも。


「彼がどうしてあそこまで走れるのか、むしろ不思議なくらい。だから彼が足を止めても良いと安心できるところまで走り抜けて……そうしたら彼も、元の気持ちを取り戻せないかしら」

「……全く根拠の無い話じゃが」

「粛清隊に狙われて、こんなにもたくさんのレブナントをまとめて、強敵と戦い抜いて。確かにこれで安心出来るのは一握りだけかも」

「仲間になっている元冒険者がその一握りだとしても、そうじゃない人達も大勢いたわ。ユーゴは本当は、そっち側の人なのかもしれないわね」


 姦しかった女子部屋に、初めて静けさが訪れていた。


「今はサラの案を採るとしよう。とすれば、一旦の目標は」

「やっぱり首都攻略、だよね。そこが一番奥だもん」

「全部乗り切ったら、しばらく落ち着きたいわね。季節どころか、一年、二年と」

「そうしたら癒えるかもしれないし」

「そうでなくても新しい感情も生えるかもしれんのう」


 大荒れになるかと予想したアレクの配慮で離れた場所に取られた女子部屋の中で、彼女達はアレクの予想に反してあっさりと結論に辿り着く。


 その晩、心穏やかでない状態で眠りについたのは渦中の人物一人だけであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ