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れぶなんと!!~ゾンビに転生してサバイバル~  作者:
失くしたものと取り戻したもの
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アシッド砦攻城戦(上)

 夜が明ける頃、砦の中を慌ただしく粛清隊のメンバーが走り回っていた。

 夜の間に砦を半包囲するようにゾンビ達が布陣していたのだ。新月の夜とはいえ見張りに立っていた隊員が気付かない距離だ。神聖魔法の浄化も届かない距離のため、現在はゾンビ達とにらみ合いが続いている。


 司令室で部下から報告を受けていたのは、百人長であるルーリエという女だ。金の髪を肩口で揃え、オレンジの瞳は鋭い眼光を放っている。

 彼女は四人存在していた百人長の中では最も年若く、戦闘力も第三位階の平均ほどしかない。そんな彼女が百人長になれたのは、魔法と部隊運用の知恵を買われたからである。


「それで、ランス百人長はどう対応している」

「ハッ。東側の壁上に隊員を集合させております。見張りに立たせていた隊員は砦内部で休息を取らせておりますが」

「……後方について手は回していないのか?」


 彼女の部下は首を縦に振った。舌打ちが響く。

 緊張に固まる部下に手をひらひらと振って、ルーリエは指を二本立てた。


「半包囲している以外の敵を調査するため、西部市街に部隊を派遣しろ。四人組を五隊だ。ついでにランス百人長にもよしなに伝えておけ」

「よしなに、ですか?」

「『敵伏兵の調査を承ります。増援には隊の半分を待機させます』とかなんとか、上手く伝えろ。面倒くさいから機嫌を損ねさせるなよ」


 律儀な部下を送り出してルーリエは溜息をついた。

 前髪を指でいじりながら、思索の海に沈んでいく。


 恐らく、敵は動きを見せないだろう。ルーリエの直感はそう告げていた。

 敵は優秀だ。百人長の中で最強だったクラウドを撃退し、派遣した部隊を全滅させたのが偶然であるわけがない。

 その優秀な敵が音もなく神聖魔法の射程外に味方を配置している。

 新月の夜に奇襲もかけずに?


「ありえんな。先日のレブナントより上か下かは分からんが、考えるだけの能がある相手だ」


 であれば、敵はわざと待機しているのだろう。


「狙いは睨み合いの持久戦……真の狙いは籠城している我々の食料を尽きさせることか?」


 第一区画の冒険者の被害が減りはじめたという報告を受けて、リオンは一気に砦を再奪取する命令を出した。夏にゾンビの数が減るのはいつものことだ。何を躍起になっているのかと疑っていたが、実際にレブナントはおらず砦はもぬけの殻だった。

 秋まで砦で待機し、奪い返しに来るレブナントたちを撃退しろ。リオンからの命令は腐れ谷への長期滞在だった。

 隊員たちは苦労しながらも夏を乗り越え、そしていま、実際にリオンの目論見通りに敵は砦へと攻撃を仕掛けている。

 リオンが推理した理屈は当たっている。その理屈の道を外れるのは愚かな行いだ。


「いずれにせよ、堅実な作戦はランス百人長に任せるとしよう」


 今日、敵は動かない。

 ルーリエは見切りをつけて昼寝に入った。


 彼女の目論見通り、お互いに一歩も動くことなく初日が終了した。



□□□□□



「ルーリエ隊長。西に出していた偵察隊ですが、特に異変は見られないとのことでした」

「東に布陣している敵に変化は?」

「その……夜の間に塹壕を作っていたようです」

「っ!何故その報告を早くあげない!!!」


 砦が震えるようなルーリエの一喝で、隊員が直立不動のまま動かなくなる。

 ルーリエは部下の首を引きずってランス百人長の元へと向かった。

 東城壁の上で昨日から敵を睨み合いを続ける部隊の中心に、ランス百人長は居た。

 ランスは頭の半分ほどが禿げ上がった中年男性で、何事にも堅実だと評価されている百人長だ。ルーリエから見れば生真面目とか糞真面目と言いたいほど臨機応変さに欠けている。痩せこけた体に睨みつけるような半目。

 クラウドの百人隊が全滅したことを受けて連隊での派遣になっているが、ルーリエとしては本当なら会話もしたくないような相手だった。


「ランス隊長。敵が塹壕を築いているそうですが、どのようになさる御積りでしょうか?」

「どのように、とは?」


 年長であることを立てて敬語で話しかけているルーリエだったが、試すような聞き返し方に苛立ちは増す一方だ。


「塹壕で接近されては、浄化の神聖魔法が届きません。打って出るべきです」

「敵は必ず接近してくる。わざわざ我々が守りを放棄する必要はない。この砦の周囲には濠もある」

「濠に出てきたとしても障害物を用意されて防がれる恐れがあります!」

「ルーリエ百人長。そなたが打って出たいのであればそのようにすれば良い。防衛のために最低限百人隊を一つは砦に配置しておく必要があるだろう。リオン様はそのために、防衛に適した私の隊にそなたの隊をつけたのだ」

「っ!では、そのように!」


 ルーリエは踵を還すと百人体の半分へと招集をかけた。

 それを見送ったランスの部下が、隊長へと小言をこぼした。


「相変わらずの小娘ですな」

「……クラウドがおれば、奴に突破を任せたものを」

「反対はなされんのですか?」

「むしろ、賛成している。ただし策略を実行に移すのに彼女では突破力が不足している。クラウドかダレン並の戦力が無ければ敵に撤退されて籠城が長引くだけだろう」


 ランスが空を見上げて口を閉じる。

 沈思黙考の末、彼が出した命令は単純なものだった。


「冒険者への物資輸送依頼を多めに発注しろ」


 その視線の先は、外へと打って出たルーリエ隊へと向いている。

 敵の部隊は大きく後退していく。塹壕の中では変わらず土を掘っているようだ。ルーリエ隊は塹壕の中を浄化すると、後退した敵の追撃に入った。

 だが敵が中央を凹ませて左右両翼で逆にルーリエを包囲しようと隊列を動かし始める。ランスは眉を潜めたが、ルーリエも敵の動きに気付いたようで、包囲される前に撤退を完了させていた。


「……敵の練度が高いですね」

「ゾンビの動きが遅いから助かったようなものだ。だが地上から包囲されかかっていることに気づけたのはやはりルーリエ百人長の手腕だろう」


 だが、先行きは明るくないとランスは考えていた。

 敵は塹壕の中の兵は切り捨てる作戦に出ている。そうしてでも本隊は守るという姿勢を見せた。

 消耗戦に持ち込もうとしているのは明らかだ。


「細々とした対応は全てルーリエ隊に任せ、我々は交代制で絶えず壁上にて迎撃の布陣を敷く」


 ランスは明言した。

 ルーリエが何もせずに敵を待った方が、戦闘は早く終わる。いかなる作戦を立てようとも直接戦闘になれば僧侶が有利なのだ


(だが、ルーリエ百人長は認めんだろうな)


 彼女は発奮させたほうが結果を出す。

 そのために嫌われ者を演じるのはランスにとって苦ではなかったが、これまでのツケが今になって悪影響を及ぼすとは。

 自省しながら睨み合いを続けその日は終わり、変わらぬ消耗戦が一週間も続いた。



□□□□□



 砦の中には澱んだ空気が溜まっていた。

 一週間で一人の犠牲も出ていないので、沈鬱というほどでもない。冒険者たちからの輸送も絶えないので食事にも困らない。むしろ妨害を想定して多く発注してしまったので、食事は豪勢に供されている。

 敵は確実に削っている。だが冒険者が一日で排除できるよりも

成果は少ない。


「我々の宿願通りではないか。この地の呪われた死者共を全滅させる良い機会だ。明日にはリオン様が視察に来る。隊の交代制を検討してもらえるよう上申する。十年百年かかろうともゾンビ共を駆逐し尽くすつもりで任務に当たれ」


 ランスは何事もないかのように同じ言葉を繰り返した。

 彼は本気だった。むしろ良いチャンスだと思っていた。犠牲の出ないペースでゾンビを駆逐し続けられるのだから。普段ならゾンビを駆逐するために部隊を動かすことすら憚られるのだ。この機を逃してはならないとすら思っていた。


 だが一般の兵士は彼と同じように一晩で覚悟を決めることはできない。国には家族がいるのだ。

 ルーリエ百人長が一発逆転の攻勢をかける日が来るはずだと内心で信じる隊員も多かった。

 塹壕は手を変え品を変えて伸びてきている。堀に届く日には、きっと。

 今日もまた日が暮れる。

 敵のペースを考えればその日は恐らく一ヶ月くらい先だろう。


 砦を囲む死骸の骨がいっせいに起き上がるその時まで、粛清隊の誰一人欠けることなくそう信じていた。


 初めにそれに気付いたのは魔法使いとしての技能を持つ隊員だった。突如として地の底からから湧き上がってきたプラーナの波を強く感知してしまった彼らは、そこかしこで気分を悪くしてへたり込んでしまう。


「おい、大丈夫か?」

「何か、何かがおかしい……おい、ありゃなんだ?」


 床に崩れ落ちた仲間を介抱していた見張りの隊員が外から目を離していたのはほんの一瞬に過ぎない。

 だがその一瞬で、砦を包囲する大量の骨が起き上がっていた。

 あれが昨今噂になっているという骨の兵士。スケルトン。

 敵がいるのか、それとも腐れ谷ではよくある光景なのか。退院たちが困惑しつつ硬直する。

 しかしランスだけは即座に次の一手を次々と打ち始めた。


「情報班!事実のみを把握し、報告せよ!

 防衛班は浄化を!手の空いた者は対象が被らぬよう落ち着いて周囲と連携を取りながら敵を駆逐せよ!」


 ランス百人長の指示が飛ぶ。

 いつもと変わらぬ冷静で的確な指示が、魔法のように隊員達の心を落ち着けた。


「ルーリエ百人長に……なんだ!?」


 次の伝令を出そうとしたタイミングで砦が揺れ、爆音が内部から響いた。

 魔法の仕業だとしても外からではなく、内から。

 全員の肝が冷えた。


「隊長、ここは我らが抑えます!」

「頼む!退却の合図を見逃すなよ!」


 ランスは既にそこまでを視野に入れているという意図が全員に伝わった。

 気合を入れ直したベテラン隊員たちが指示を飛ばし始めることでなんとか防衛の体制が整う。ランスは手塩にかけた部下たちを信じて砦の内部へと戻った。


 ルーリエが無事なら爆発の原因を直に確認しようとするはずだ。彼はそう考え、自分では赴かないはずの現場に向かった。

 彼女は直感型の天才。人伝の情報ではなく現場からインスピレーションを得たがる。


 だがそこに居た百人長はルーリエではなかった。


「アンタか。遠くから姿は見させてもらったぜ」

「しぃっ!」


 クラウドの肉体を使う不届き者に、ランスの構えた槍が閃く。

 冗談のような名前の組み合わせだが、彼と対峙してそれを笑える余裕のあったものは二人しかいない。その一人の肉体を使うレブナント。この個体が敵の首領なのだとランスは頭ではなく心で理解していた。

 だが、それでも頭で理解したいのがランスという男だった。このレブナントが彼に匹敵する技量を持っているのか、それとも肉体を使っているだけの雑魚なのか。

 敵の呼びかけを無視して腕試しに放たれたランスの一撃を、ユーゴは左手で難なく弾いた。


 武器を抜く素振りすら見せず、常人なら目で捉えられない速度を誇るランスの武技を払う。

 想像以上だ。そして何より、いなした敵の隙を突かない敵の慎重さはランスが計算できる限界を超えている。


「アンタが粛清隊の大将か?」


 ランスは再び攻撃で返事をする。

 同じ一点を三度、回を増すごとに鋭く深く突き込まれる槍。数多の敵を貫いてきた必殺の三段突きだ。

 それをユーゴはバックステップ、スウェーバック、ダッキングの三動作で容易く回避した。だが、ダッキングで踏み込んだ先では既にランスが後退を終えている。

 ユーゴはため息をつく。


「おっさん、命かけてない踏み込みで俺の命を取れると思ってんなら、今すぐ降伏したほうがいいぜ」

「クラウド殿の肉体に寄生するレブナントごときが、偉そうに」

「偉くはないけどあんたよりは強いよ」

「ほう。試してやろう」


 ランスは槍を片手で持つと上空に手を上げた。紫の光を手のひらから窓に放って空に光を打ち上げる。

 敵が撤退を始めたと、ユーゴにすぐさま念話が送られた。


「遊んでやってても良かったんだけどな」


 ユーゴは白銀の剣を抜いた。

 クリスタルドラゴンの武器だ。ランスの警戒心は最大まで跳ね上がった。

 ユーゴが踏み込みを見せた瞬間には槍を放つ。直線、円曲、ありとあらゆる軌道で攻撃を放ちながら、常に逃げ場を残して戦う。堅実な持久戦がランスの強みだ。


 対して攻めあぐねているユーゴだったが、苦戦しているかというとそうでもなかった。敵はシャドウキマイラより格下だ。槍の技術は素晴らしいが、一撃必殺ではなく延命の戦法を選んだ時点で恐るるに足らない。

 ユーゴは敵の挙動から槍の動きを学習していた。ここまで高度な槍使いにはかつて出会ったことが無い。学ぶには良いタイミングだと思っていたのである。それだけの実力差が二人の間には横たわり、ユーゴには焦らなければならない理由もなかった。

 そしてまたランスも自分が弄ばれていることを自覚していた。だがその結果、仲間が一人でも逃げられればそれでいい。捨て駒になる覚悟を決めて、延命措置のために技術の丈を吐き出していく。

 心技体の全てを出し尽くすランスの額に玉のような汗が浮かび始めたその時だった。ランスの後ろから女が声をかけた。


「ユーゴ、そろそろ遊びは終わらせたらどう?」

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