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れぶなんと!!~ゾンビに転生してサバイバル~  作者:
失くしたものと取り戻したもの
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マレタ市攻略戦(中)

 この世界における騎士の仕事は戦うことだ。

 領民を管理する貴族と兼任している者もいるが、基本的には他国の人間かモンスターと戦う。

 剣と槍と弓を持ち、国家と国民の盾になるのが騎士だ。


 アーヴィアン騎士団は入隊してから実戦配属されるまでひたすらに訓練を積まされる。騎士見習いから騎士に昇格出来るのは第二位階の平均を超える能力を身につけてからで、ここで落第したものは騎士団補助員として騎士の世話係になる。

 実戦に出せる新人が第二位階の平均以上。ベテランや実力者の団員は第三位階の実力を有している。エースと呼ばれる存在は当然第四位階だ。それだけの実力者達を要する騎士団だが、犠牲は絶えない。

 彼らの主な任務が、冒険者単独では当たれない大繁殖した魔獣や侵攻してくる亜人の群れの討伐だからだ。敵には第四位階のモンスターも存在するし、第二位階のモンスターでも徒党を組まれれば討伐難易度は第四位階相当にまで上がる場合もある。

 それらを集団の力でもってして成し遂げるのが、騎士の戦いだった。


 ノイッシュとアレクが挑んだ戦いは、まさに騎士の戦い。

 弱者の集団で強者に抵抗する戦いだった。


 弱ったとは言えどもキマイラはまだ工夫を残して戦う余力を持っていた。

 毒によって体力を失い失速していたとは言え、キマイラにとってはそれでようやく工夫を要する相手と認識したに過ぎない。

 正面からぶつかってしまっては、人間など相手にもならないだろう。


 奇襲を成功させたアレクが、ノイッシュ達の潜む家とは広場を挟んで反対側の家から飛び出す。手に持っているのは長弓だ。意固地なノイッシュとは違って多才なアレクは剣も槍も弓も一流の使い手だった。

 引き絞られた矢がキマイラの目を狙う。口の中を焼かれて暴れていたキマイラだったが、音より早く飛来する矢を空中で弾き飛ばした。

 その一事をもって、全員が敵の戦闘能力を十分に警戒した。


「アレク隊が一撃を入れられるように、我々で撹乱するぞ。戦士一人は俺に続け。魔法使いは攻撃ではなく撹乱と防御の魔法を使って援護だ。盾持ちは彼らの直掩に回れ」


 アレク隊もノイッシュ隊も、性別を除けば構成は同じだ。

 隊長と戦士二人のうち一人は攻撃要員で、一人は盾を持った防御要員。残った二人が魔法使いの五人パーティーだ。

 レブナントを入れ替えても指示が混乱しないように、彼らは隊員を名前ではなく役職で呼んだ。


「こちらを見ろ、化物めが!」


 ノイッシュは腰の剣を抜いて敵に駆け寄る。

 対人用の剣よりもやや長いロングソードは銀白色をしているがよく見れば透けている。クリスタルドラゴンから作られた剣だ。

 キマイラの間合いに入るその二歩手前であえてノイッシュは立ち止まり、牽制のために剣を横に薙ぎ払おうとした。

 だが、絶妙なタイミングでキマイラが逆に身を乗り出して一歩を踏み込み、大きく口を開けてノイッシュの剣に噛みついた。


 キマイラの口元から白い何かが弾け飛んだ。

 自慢の牙だ。


『退け!』


 アレクの念話に、考える前に体が動いた。

 キマイラと至近で交錯したノイッシュが後ろに飛ぶと、アレク隊の放った三本の矢と二つの火矢がキマイラを襲う。

 直撃はしているが致命傷ではないのだろう。

 冷静に判断しながらもノイッシュは剣に助けられたと思った。この剣でなければ牙に押し負けて、噛み殺されていたかもしれない。


『全員、相手を獣だと思うな。人間のように工夫すると思って戦え!』


 ノイッシュが念話で警戒を促す。

 咆哮を上げるキマイラに対して、ノイッシュの後ろから追いついた戦士が剣で突きを放つが体は前に乗り出していない。

 キマイラは先程と同じように一歩踏み込んで攻撃に移った。こうやって武器によるリーチ差を埋めるのがこいつの戦法なのだろう。今度は牙ではなく左の爪を横薙ぎに振るってレブナントが攻撃される。

 体を引いて回避するが、連続して振るわれる右の爪は避けきれない。ノイッシュが斜め上から振り下ろされる爪の軌道に対して剣を振るい、接触したキマイラの手の肉を浅くだが切り裂いた。


 その様子を遠くから見るアレクも立ち尽くしていたわけではない。

 彼は魔法使い達に己の矢を強化させていた。弓をもたせた戦士二人は命令で既に散らばっている。

 あとは決定的な隙を晒させるだけだ。


『ノイッシュ、一手稼げるか?』

『やってみせよう。魔法使い達、合図をしたら私にソニック・バレットだ』


 律儀なノイッシュの返事はいつもと変わらない阿吽の呼吸だ。

 重く感じるほどの信頼だが、この責任感は悪くないとアレクは思った。


 ノイッシュの指示を受けて、彼の隊の魔法使いが魔法を完成させる。彼らはノイッシュが何をしようとしているのか分かっていないだろうとアレクは見ていた。恐らくこの場で意図が分かっているのはアレクだけだ。

 他に安全なやり方があるだろうに、確実で危険なやり方を選ぶ相棒には後で逆に説教が必要だろう。


『援護、撃て!』

『魔法を!』


 キマイラが全身を縮こまらせてノイッシュに向き合う。それが跳躍の姿勢だと見抜いた瞬間、アレクとノイッシュは同時に部下への指示を出していた。

 アレク隊の援護射撃は共にキマイラの後ろ足に突き刺さった。キマイラが姿勢を崩す。だが転倒させるには至らなかった。キマイラは踏みとどまり、ノイッシュに向かって跳躍する。

 だが跳躍は選択ミスだった。人間の武器の間合いを削り取るように踏み込む一撃が長所だったのに、キマイラは細かい調整の聞かない跳躍を選んでしまった。

 微修正の聞かない空中のキマイラに、ソニック・バレットで加速したノイッシュが叩き込まれる。爪を振り下ろすよりも早く腕の内側に入り込まれたキマイラは、ノイッシュの攻撃を防ぐことが出来ない。剣がキマイラの腹に突き立てられるが、ノイッシュ自身もキマイラに衝突した衝撃が強すぎて立ち上がることが出来なかった。

 キマイラが体勢を整えてノイッシュに向き合う一瞬の間を、アレクは待っていた。


 引き絞られた矢に魔法が付呪される。

 強化された弦でギリギリまで溜められたエネルギーをアレクの指が手放し、キマイラの心臓を穿った。

 地面を揺らすほどの衝撃が背中から地面まで貫通し、キマイラが息を断たれる。

 ノイッシュが死体を確認して、ようやく全員の緊張が解けた。


「なんとかなるもんだけど、やっぱりキマイラはしんどいぜ」

「けれど、勝ちは勝ちだ」


 倒れ込んでいるノイッシュにアレクが手を差し伸べながらやれやれとため息をつく。

 全員無事だが、今回のキマイラは特に賢い個体だった。最後の攻撃を許していたら犠牲が出始めて、あっという間に全滅していた可能性もあった。

 個体の強さだけでいけば、この都市ではキマイラがピカイチだ。次点で吸血コウモリ。物理攻撃の通用しない謎の青スライムあたりがトップスリーだ。群れの厄介さを含めるとランキングは更に入り乱れるが、キマイラがトップであることは変わらない。


「そういえば、ユーゴ将軍には連絡は飛ばしているか?」

「あぁ、戦闘前にやっといた。一応来るって言ってたけど」


 もう手助けはいらない。戻ってもらおうか。

 そう会話した二人は、念話を送るためにプラーナへと意識を集中させた。

 周囲のプラーナへと感覚を通した二人が感じたのは、恐怖。無意識でその場から飛び退ると、二人が立っていた足元から巨大な影の顎が地上へと突き出ていた。


「な……」

「撤退だ!!」


 ノイッシュは慄きながらも敵を観察し、アレクはすかさず部下への指示を出した。

 だが、返事の声は五つしかなかった。三つ足りない。

 確認する余裕はアレクにも無かった。


「ノイッシュ、一匹ずつ仕留めるぞ!」

「隊長、我々では足止めも、あ、あああああああ!?」

「アレク、駄目だ!」

「逃してくれるものかよ!?」


 無音ではなく悲鳴つきで仲間の一人が影の顎に挟まれて体を噛み砕かれた。

 地面から完全に体を出現させたのは、体高4メートルにもなろうかという巨大なキマイラの影。

 それが、三つ。


 アレクは戦力差に絶望し、救援を呼ぼうと思って思いとどまった。

 こんなモンスターは今まで見たこともない。どうやってここに気付いたのか。

 恐らく、念話だ。通信相手のプラーナを補足して直接送る場合を除いて、念話は自分を中心に円形に広がっていく。そのプラーナの波動を感知されたというのがアレクの直感だった。

 そしてほぼ同時にノイッシュも同じ見解に至っていた。


「ノイッシュ」

「いいや、アレク。あえて送るべきだ」


 あえて、の意味をアレクも部下達も間違いなく理解した。


「やれやれ、せいぜい派手に囮を勤めるとしますか……。お前はいつもこういう役割を引くよな」

「なに、付き合ってくれるアレクには言われたくないな」


 二人が前に一歩を踏み出し、念話を送った。


『ユーゴ将軍。キマイラの形をした影に襲撃されました。抵抗出来ないほどの強敵です』

『救援要請は取り下げます』

「その必要はない」


 黒と白銀の塊が空からやってきて、音と声は後から届く。石畳を破壊するほどの衝撃波が伝わって地面を揺らし、土埃が舞い上がった。

 風が土埃の煙幕を洗い流すとそこに居た一匹のシャドウキマイラは消え失せて、ただ一人ユーゴが立っていた。

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