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れぶなんと!!~ゾンビに転生してサバイバル~  作者:
失くしたものと取り戻したもの
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マレタ市攻略戦(上)

 ユーゴは二組のパーティーをマレタ市の中に放った。

 彼らはリーダーが第四位階に到達しかけている猛者で、それを補うように第三位階の魔法使いや戦士を配置した、まさに冒険者のセオリーを踏襲したパーティーだ。


 パーティーを率いるリーダーは第四位階のハイ・レブナント。

 名をそれぞれアレクとノイッシュといった。

 二人は人間時代からの顔見知りで切磋琢磨しながら第四位階にまで成長してきた有望株。そして彼らはレブナントの中では珍しく、生前は元冒険者ではなかった。

 彼らは西に存在する国家、アーヴィアンから流れ着いた元騎士であった。


『アレク、そちらの様子はどうだ?』


 ノイッシュは全身が焼けただれた死体だったために仲間内でも敬遠されていたが、堅実な部隊運用と冴えた剣技でガラトナム城周辺の警備中にメキメキと頭角を現したレブナントの一人だ。

 ハイ・レブナントになって生前の容姿を取り戻したノイッシュは金髪の美男子だった。女性レブナントからの支持も厚い。

 街路を走り回る厄介な火吹き犬を仕留め、彼らが逃げてきた方角へと調査のため進んでいる最中だ。何か他の場所でも異変が起きていないか把握するため、彼はアレクへと念話を飛ばして状況を尋ねた。


『広場に向かう道だからかモンスターは普段より多いぜ。だけど変化ってほどのものは起きてないな。今は近くの家の中で休憩中だよ』


 対する一方のアレクはウェーブのかかった黒の長髪で、元騎士とは思えない飄々とした男だった。部隊運用も堅実とは正反対の型破りなものだったが、臨機応変な指示は的確で効率的。

 そして自他共に認める色男でもある。アレクが率いているパーティーのメンバーは四人共に元冒険者で女性だ。ついでに言えば美人でもある。戦闘力の基準は満たしているが、もちろんアレクの希望によるものである。


『休息を取るのはかまわんが地脈の確認は怠るなよ?』

『誰に言ってんの、ノイッシュ。結果はちゃんと出してるでしょ』

『サボる事について言っているんだ。お前の判断ではなくユーゴ将軍に情報を持ち帰ることが任務だぞ』

『将軍に任務ねぇ……』


 アレクは嘆息した。

 彼は自分が型破りな性格だと自覚していたが、無自覚な部分では人一倍立場に対する責任感を持っていた。飄々としつつも人望を集めてリーダーについているのは絶妙なバランスでリーダーとしての責任を果たしているからだった。

 それもこれも、彼が騎士という生き方を与えられて育ったためである。


 戦争で死んだ時、アレクは枷から解放されたと自分を捉えていた。死ぬまで戦って貢献したことで国と家への義理は果たした、と。

 レブナントという形で蘇らされたことは新たな枷ではあったけれど、生前のような面倒くさいしがらみなどはない。死霊術で心を操られていたとしても、今この時に自分を自分自身だと捉えている自分が自由に戦わせてもらっていると思えば苦はなかった。

 とはいえ、そこに軍隊の任務や責任といったものを持ち込みたくない。というのがアレクの心情だった。ようやくそこから解放されたのだから。


『それにしてもノイッシュ。よくお前はレブナントとして協力してるな。アーヴィアン騎士としちゃあレブナントに協力して任務だなんだってのは、イカンのじゃないか?』

『………。お前は戦争で殺される時に何を感じた』

『あぁ?俺は"ようやく終わった"って感じかねぇ』


 アレクの返事を聞いてノイッシュが苦笑した。

 念話はアレクと直接つなげているのでパーティーのメンバーから怪訝な顔をされたが、頭を指でトントンと叩くと全員が納得して顔を周囲へと戻した。

 念話で笑わされたやつをおかしな目で見ない。レブナント社会では必須のコミュニケーションである。

 苦笑したのはおかしかったからではなく、アレクらしいという納得からこぼれたものだったが。


『俺は………。怖かったし、後悔したよ』

『妹さんのこととか?』

『家族は父上と兄上守ってくれるだろう。だが私は国の任務を成し遂げられずに散った。結局アーヴィアンの国境は押し戻されて停戦だ。不甲斐ない』


 ノイッシュの神妙な顔がなんとなく脳裏に浮かんで、アレクは器用に心の中で大きなため息をついた。ノイッシュに聞かせるためだ。


『お前があそこで俺を助けに来ようとするからだろ』

『いくら囮のための騎馬隊とはいえ、敵に嵌められて全滅しかけている味方部隊だ。助けるに決まっているだろう!』

『それで共倒れじゃ笑えないぜ』

『仕方がないだろう。カレッセンの木と蔦は切り離せん。それ故に、お前が任務を果たさずに死霊術で魂のない傀儡として処分されるような事態は注意せざるをえんだろう』


 アレクも当然ノイッシュのことは友だと思っている。同じような信頼を預けあっているという確信がある。

 だが彼は自分の下にいる女を見下ろして、長年我慢していたネタを放出してしまった。


『……お前さんな。そーゆーこと言ってるから、昔から男色家なんて噂立てられるんだぜ?』

『はぁ!?』

『たまには堂々と女を囲ってみたらどうよ。なんなら見繕ってやろうか?』

『大きなお世話だ!そもそも死属同士で……』

『んなこたないぜ。しっかり行為自体は出来る。孕むかどうかは知らねーけどな』

『お前、まさか、休憩とは』


 ノイッシュが核心をつきかけたその時、彼の部隊のメンバーが緊迫した声でノイッシュを呼んだ。

 プラーナの気配を探ってみれば、強大なモンスター同士がこの道の先で争っているようだ。

 ノイッシュは念話をアレク宛ではなく拡散して放った。


『アレク。こちらに合流できるか』

『やれやれだな。迂回して反対側から行く。三分待て』


 三分というのは、アレク隊の進路や経過時間を考えれば真っ直ぐ急いで向かってくれている時間だ。

 不安そうにこちらを見る隊員に状況を説明して指示を与えた。


「アレク隊が三分でこちらに来る。それまでは隠れて様子を窺うぞ」

「こちらからは仕掛けないのですか?」

「三つ巴は不利だ。奇襲をするなら奴らの戦闘が終わり、気を抜いたタイミングを狙う」


 ノイッシュは冒険者たちを引き連れて、広場に面した建物へと侵入した。

 壊れた窓から外を覗き込むと、そこでは翼の生えたライオンであるキマイラと巨大な吸血コウモリが熾烈な空中戦を行っていた。

 キマイラの命名主のユーゴは「本当はキマイラじゃないんたけど」と言っていたが、彼の知識に水を差すレブナントはいないし、腐れ谷の外では見られない魔獣の名前をレブナントがどう名付けようと誰もかまわない。


 キマイラの武器は爪と牙。空中からまっすぐ突撃して敵の胴体を狙う。狙うのが頭などではなく胴体であるのは、彼らの武器にかかれば胴体を傷つけてしまえば相手が行動不能になるからだ。レブナント軍が相手をする時は直前で風の盾を使って勢いを殺したり、うまいこと攻撃を回避できる役割が必要になる。

 対する吸血コウモリの攻撃は魔法である。超音波を発する器官と魔法のあわせ技で空中からチクチクと攻撃してくるモンスターだ。近接戦闘でも機敏な反応を見せるため、空中戦でも手玉に取られてしまう。

 そして実際に目の前で繰り広げられているのは、吸血コウモリの思惑通りの戦い方だった。

 


「どちらが優勢でしょうか?」

「コウモリの方が余裕がありそうだが、一撃でも入ってしまえばキマイラの勝ちだ。体力的な余裕があっても勝利に近いとは言い難い」


 コウモリは翼の先端に紫色の液体を創り出すと、すれ違いざまにキマイラに毒玉を浴びせている。

 時間がかかればかかるほど、コウモリは有利になる。問題はその時間を稼ぐことが難しいという一点だが、今のところはキマイラの攻撃を器用に全て躱している。

 つにキマイラの攻撃の手が緩み、コウモリは完全に余裕を持って敵の攻撃を躱した。


「ノイッシュ隊長。今ならば両方倒せるのでは」

「まだだ。まだ決着はついていない」


 狙いも定かではなくなってきたキマイラが、最後の突撃を敢行する。

 このタイミングで倒しきろうという腹積もりなのだろう。コウモリも毒玉を通常の五倍以上の大きさで作成した。

 キマイラが咆哮し、風を切って急効果する。だが速度は依然として低いままだ。

 急降下しながらの爪攻撃を綺麗に回避し、コウモリが振り返りながら毒玉を発射しようとする。

 だがしかし振り返った先にキマイラの背はなく、そこには大口を開けるキマイラが居た。


「空中で急停止して噛み付くとは」

「……そこら辺の野良モンスターとは知恵の付き方が違いますね」

「そういう存在だけが生き残っているのだろう」


 ノイッシュ達は冷静に結果を見守った。

 ジタバタと暴れる巨大吸血コウモリを地上へと引きずり下ろしたキマイラは決して牙を引き抜かなかった。なおも暴れるコウモリの翼を爪で切り裂き、ようやくコウモリの抵抗と生命が消え去った。


 時間はどれくらい経っただろうか。

 アレク達が広間の反対側から現れるところは見えないが、ここで念話を発してしまうと隠れている場所を知られる可能性があった。強力なモンスター達はプラーナの波動に敏感だ。

 だが敵が疲弊しているのは確かだ。今ここで仕留めなければ。


「行くぞ。全員、武器を構えろ」


 キマイラがコウモリの肉体に齧り付こうとしたその瞬間。

 ノイッシュの号令と同時に飛んできた火矢の魔法が、キマイラの食事を直撃した。


「今のは」

「アレク達だ。行くぞ!」


 ノイッシュ達にも見つからない方法で隠れて接近していたのだろう。完全な奇襲だった。

 キマイラは燃える肉にかぶりついてしまい食事どころではない。

 キマイラにとっては気の毒な第二ラウンドが始まった。

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