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れぶなんと!!~ゾンビに転生してサバイバル~  作者:
失くしたものと取り戻したもの
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異端者

 その日、ドワーフの国は三度震撼した。


 一度目はプラーナの流れが変えられた時。とはいえこれは物理的な振動ではないため魔法の才能がない人間は気付かなかった。

 二度目はドラゴンの起こした振動だ。ダンジョンの入り口まで届くほどの振動は地震と間違えるほどで、冒険者達は慌ただしく縦穴を降りていった。

 そして三度目は素材の枯渇していた東の坑道から、巨大なクリスタルドラゴンの死骸を引きずって英雄達が現れた時だった。


 ユーゴ達はドラゴンの体を通路を通り抜けられる程度に分解して紐で繋ぎ、入り口まで引きずってきた。

 まさかドラゴンの起こした振動が地上まで届いているとはユーゴもサラも考えていなかったので、冒険者に出迎えられた時は素性がバレたのかと思わず身構えてしまうところだった。


「これ、あんたらが倒したのか!?」

「そうよ。引き揚げを頼みたいのだけど、どなたか上に伝えてもらえないかしら?」


 息の上がっているユーゴの代わりにサラが冒険者への取り成しを頼む。手数料代わりに気前よく銀貨を渡されて、冒険者のパーティーは慌てて地上へと戻っていった。


『銀貨はやりすぎじゃないか?』

『……この様子だと相当噂になるわ。これだけの大物で稼げるだろうに、要らない恨みを買って酒場で騒がれたくないから』

『確かに。こりゃあさっさと事を進めないといけないかもな』


 ユーゴとサラは地上から鎖が垂らされるのを待つ間に、バナンへと改めて依頼したい内容を告げた。


「腕が回復しないから義手をつけたい?バカなのか?普通引退するだろう。このクリスタルドラゴンを換金すれば一財産になるが?」

「三等分したら一生は言い過ぎだろ」

「……驚いた。ワシにも報酬を分けるつもりだったのか」


 それこそバカな話だとユーゴは思った。


「あのピッケルがなけりゃ勝てなかった」

「お前がおらなんだら死んでいた」

「なおさら等分すべきね」


 サラが総括して論争は終わった。


「依頼を受けてもらえないか、バナンさん」

「バナンでいい。ワシのところでなくても、ドワーフ最高の工房に素材を持ち込むこともできるが」

「………あんた、あんなに良い物作れるのに自信ないのか?」


 妙な渋り方をするバナンにしびれを切らしたユーゴが背中の魔剣を握って突きつけた。

 鞘に収まったままだが、鋭く振り抜かれてバナンの目の前で剣が止まる。


「あんたの作品を上で見た。最高の剣を作れる工房はあるかもしれないけど、最強になれる剣を打てるのはあんただけだ」


 バナンのピッケルは神がかったバランスをしていた。それは剣とはまた違う、ピッケルを振るうための最適の動きを想定したものだった。

 バナンはただ品質のいい武器を作るのではなく、人体を理解した上で最強の武器を作ることができるとユーゴは信じていた。

 サラが呆れるような熱い告白が、ようやくバナンに届いた。


「……素材をすべて回収されたらわしらのところに回ってくるのは遅れちまう。使う分は隠しておくんだな。引き渡して鑑定にだしたらワシの工房に行くぞ」

「あんたは工房を持ってないって聞いてたけど」

「店を構えとらんだけだ。さぁ、お迎えが来たぞ」


 垂らされた鎖を取り付けて、引き揚げられるクリスタルドラゴンを見送る。

 最も品質の高いと思われる牙や尻尾の一部は秘匿して、ユーゴ達は地上へと戻った。



■■■■■



 噂が回りきった夜。冒険者たちは酒場で騒ぎ、我先に東の坑道へと降りていった。

 ユーゴは地上へと戻る前にプラーナの流れを均等になるように戻していたので同じ品質のゴーレムゾンビが生まれることは無かったが。


 一方でドワーフ達も大騒ぎだった。過去に見たこともないほど巨大なクリスタルに値がつけられなかったのだ。

 ドワーフとの交渉にはサラが当たっていたのだが結論の出る萌しが見えなかったので、試しに一部を使って武器を作り品質を評価してらどうかと提案した。


 早くユーゴと合流したいサラだったが、彼女は囮でもあった。もし神聖教会の人間が噂を聞きつけて買い付けに来たら、神官と鉢合わせてしまうだろう。

 ユーゴを危険から遠ざけているのだと自分を諭して、サラは完成品が出来上がるのを待った。



 そして肝心のユーゴは、バナンの隠し工房にたどり着いていた。

 溶岩が張り出した岩棚の上を流れている危険な土地の、岩棚の傘下にそれはあった。


「人目につかないどころかめっちゃ危険じゃないか?」


 上の岩が壊れたら万事休すだ。

 全く寛げない。


「危険だが人目につかないからな」


 うまく言葉が通じているのか不安になる返事である。

 バナンは細かい説明をしないので分かりにくいが、瑛士は一通りの発言をすべてポジティブに読み取るようにした。

 つまりリスクよりリターンということだろう、と。


「さて。ではお前さんがどんな敵と戦うつもりなのか教えてもらえるか?」


 鍛冶場の準備をしながらバナンが聞いた。


「それを聞いてどうするんだ」

「まさかネズミにもドラゴンにも同じ剣の振り方はしまい?」


 なるほど、とユーゴは頷いた。

 そしてやはり、バナンを口説いたのは正解だったと改めて感じていた。


 ユーゴは情報を出来る限り隠しながら、大型の猛獣を相手にすることが多いことを伝えた。そして人型の敵と戦う機会も多いと。


「……そうなると、その魔剣の力に大分頼ってきたようだな」

「頼りにはしてきたけど、そんなに言うほど悪いのか?」

「そうじゃな。他人の武器を扱き下ろすのは趣味が悪いが、それは剣としてはあまりに出来が悪い。

 ほれ、左腕を見せろ。上半身の服を脱げ」


 バナンはユーゴの体を検分したり、右腕で握力を測るために色々なものを握り潰させたりした。

 その間に(適当な返事も多かったが)ユーゴはバナンに魔剣のことを聞いたりしていた。


「あの魔剣は拾いものなんだけど、そんなに仕立てが良くないのか?今まで使ってて不満はなかったんだけど」

「あれは剣ではない。尖った鈍器だ。剣というのは普通に振れば剣先がもっとも加速する。翻って剣先と柄のバランスと刃の切れ味が求められる。

 だけんども、あの魔剣は剣先で斬ることを想定しとらん。魔剣を振り回しやすいように出来とる」

「なるほどなぁ」

「この手の武器はボガードやオーガの、武術を持たない亜人の武器に多く見られる。さて、ここでひとつだけ聞いとかにゃならんことがある」

「どうぞ」

「お主、人間ではないな?」


 バナンが夕食の希望を聞くような気軽さで切り出し、空気が凍った。


「心配せんでもお主を突き出したりはせんよ。その場合、同胞に無数の犠牲が出るだろう」


 気にせず会話を続けるバナンだが、ユーゴはそうもいかない。

 いつでも魔法を使えるように右手にプラーナを集中させながら答えた。


「仰る通り、俺は生属の人間という生き物じゃない。どうして分かった?」

「その魔剣は人間を拒絶する素材で出来ている。魔力を封じる鞘に入れなければ持ち運びにも苦労するじゃろう。ましてや片手で振るうなど。お主の肉体がいかに鍛えられていてもな」


 しまった、とユーゴは反省した。

 最近はそんな呪いがあることも忘れていたとは言えない。


「それにお主の体は常にプラーナが漲っておるが、人間は戦闘中でもなければこんな状態にはならん。普段は肉体の能力だけで動き、一時的にプラーナを通して肉体を強化するのが普通だ」


 バナンの説明が流暢になっていく。

 何かを解明し、理屈や筋道を捉える。バナンはそういったことが死ぬより好きだった。最適動作を成し得る武器、という答えの見えない理を追求することは、彼にとって一生終わることのないパズルのようなものだった。。


「あとは素性かの。いくらなんでもお主の腕前で冒険者として活躍している情報がないのはおかしい。新米があんな大物を倒せるわけもない。

 なにか事情があるというのはそれだけで分かるし、裏付けになりそうな推測が二つもありゃクロだろう」

「乱暴な推論だけど、正解だ。それで、何のためにわざわざこっちの事情に踏み込んだんだ?」

「もちろん、道具の調整に必要だからに決まっておるだろうが」


 何を言っていると言わんばかりの表情で呆れるバナンに追加で説明を求めた。


「普通の義手が使えるような状態じゃないが、プラーナを通して作る腕なら動かせるだろう。ま、そんなもん人間は動かせんがな。やれるとしたら魔法使いくらいのもんか」

「なるほど。プラーナを通して操作する腕を作るってことか。でもそんなもん作れるのか?」

「この街で唯一、ワシだけが作れる」


 それはバナンがはぐれ者になっている理由そのものだ。

 たが、バナンはなせか顔を輝かせて話を続けた。お主だけに秘密を話させるのはフェアじゃないな、と。


「ワシはな、武器の品質ではなく使うものの戦果で良し悪しを比べるべきだと思っとる。そのためには体の構造を知る必要があった」

「つまり、バラしたことがあるってことか」

「ドワーフも人間も、生属も死属も」


 その時ユーゴの脳裏に誰の顔が思い浮かんだか、説明する必要もないだろう。バナンは研究者気質の天才サイコパス第二号だった。


「やはり動じんか。それでこそ試しがいがあるというものだ」


 ユーゴが動じなかったのは死属だからではない。

 前世では死体を解剖して医学を発展させるのが普通だったり、エクセレンという前例を知っていたからなのだが、バナンが納得してくれるならと訂正はしなかった。

 ユーゴとバナンの試行錯誤は半日以上続いた。ようやく納得できる義腕の骨組みができたところで、二人はようやくサラがまだ戻ってこないことに気づいた。


「いくらなんでも遅くないか?」

「遅いものか。この山で採れた素材の中で恐らく史上最高のクリスタルだぞ。鑑定だけで値が決められるわけがない。彼女には鑑定が長引いたら現物の武器を作って評価をしてもらうように助言をしておいた」

「それってどれくらいかかるんだ?」

「恐らく一日くらいはかかるじゃろうな」

「……サラはそれを」

「知らんだろうよ」


 バナンがサラに詰められないことを祈ろうとしたその時、玄関の扉がコンコンとノックされた。


 監視を切り上げてサラが戻ってきたのだろうか。

 バナンが扉を開けると、そこには人間の男性が立っていた。

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