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れぶなんと!!~ゾンビに転生してサバイバル~  作者:
失くしたものと取り戻したもの
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超えるべき壁

 腐れ谷中央部への南進を諦めたユーゴ達だったが、得られたものもあった。

 それは廃屋の中で得られた幾つかの遺物。

 その中に非常に重要な一品があった。

 ユーゴがこぼした「これは"たいせつなもの"だ……!」という感銘は誰にも通じなかったが、感激の念は理解されていた。


 彼らが見つけたもの。

 それは腐れ谷の地図。

 風化に耐えるために石を削って作られたミニチュア模型のような地図が、とある廃屋の壁にかけられていたのである。


 ユーゴはそれを寸分違わぬ状態でコピーしていた。その場で作りだした転写の魔法で、反射した光情報を紙に焼き付けたのだ。

 ユーゴがその場で使った新魔法に一同は驚いていたが、まさかその場で魔法を創り上げたとは誰も気付かなかった。

 それでも十分驚かれていたのだが、もともとユーゴは過去にもオリジナルの魔法を作り上げていたので、まぁよくあるよね、と忘れられて戦闘に突入していたのである。




 そしていま、その地図を再び大判の地図に転写し、全てのレブナントが順番に呼び出されていた。

 今まで腐れ谷の中で訪れた地形などの情報を集め、地図を修正していくためだ。

 一日をかけて地図を描き終えたユーゴはそれをじっくりと眺めて言った。


「……広い広いと思っていたけれど、こうやって地図にまとめてみるとそうでもないのか?」


 サラが反論のために口を開こうとして、閉じた。そう言いたくなる気持ちも分かるからだ。

 ユーゴが呟きながら見つめているのは地図の一点。かつて存在した古代王国の首都である。そしてその城は、先日撤退した市街地を突破すれば目と鼻の先にあるらしい。


 ガラトナム城からは山が邪魔で姿が確認できないが、地図を信じるならば山を後背の守りにしていたようなので信憑性はあがる。

 ガラトナム城は腐れ谷のほぼ中央北部に存在している。北西の街からガラトナム城までの距離と同じほどを南下すれば、ほぼ腐れ谷の中心地だった。

 先日撤退した市街部はマレタ市という名だったようだ。新しい名前をつけたがる者もいなかったので、地図から判明した古い地名はその真浜用いられることに決まった。

 例えば西でリリアーヌが拠点にしていたキリエ城であるとか。


 マレタ市はガラトナム城(ちなみにこの城の名前が大昔にも同じ名前であったことをユーゴ達はこの時に知った)と首都とキリエ城を繋ぐ交易都市であったようだ。

 とはいえ街道も消えた今ではあまり意味のない線ではあったが。


 あの都市を抑えることが出来れば、腐れ谷の要衝はほぼ抑えたことになる。腐れ谷で行きていく上での安泰が具体的な形で見えたのだからユーゴの気が逸るのも仕方がなかった。

 そこにしっかりと水を刺したのはリリアーヌだ。


「いやいや、馬を手に入れたからそう思うだけじゃよ。のう、サラ?」


 リリアーヌが話をふると、サラは反応せずにピンを地図に刺した。


「この緑のピンが、徒歩で一日に移動できる距離。青のピンが馬で移動できる距離ね」

「なーる。馬で平野を突っ切ったけど、徒歩だと数日かかっちゃうね」


 エクセレンがサラに頷いて同意を示しま、「それならゾンビの移動は一月がかりになっちゃうなぁ」とこぼした。


「どちらにせよ、ゾンビはガラトナム城より南には送れない。連れて行けるのは強力な死体から造ったスケルトンくらいよ」

「移動速度は対して変わらないから、一ヶ月も平野を歩かせたら絶対襲撃を受けちゃうのは同じかな?」

「そもそも、スケルトン程度で立ち向かえるように私達で凶悪な魔獣を退けておくべきでしょう。それすらも容易では無いけれど」


 サラとエクセレンの討論が続くが、話題はあっちこっちに飛んでは戻ってきてを繰り返している。

 つまり距離だけではなく、問題の量も質も、今までとは桁違いだということだ。


「わりぃ、俺が早計だった。でも、この地図を見たらやっぱりあの市街地は抑えたい。

 この城はラトナム山に近すぎるから、人間と戦いになるリスクが高い。より内地に拠点を築いておきたいし、それは死体が流されてくる神河沿いがベストだ」


 ユーゴは意図してデメリットを語らず、メリットから語っていった。

 リスクが大きいならば撤退することも大事だったが、その先に追い求めるべきメリットの大きさをはっきりさせておきたかったからだ。


「それに、この市街地はガラトナム城とキリエ城、そして首都を繋ぐ神河沿いの要衝だったみたいだ。今は街道がなくなっているけれど、プラーナの回路を通せばリリアーヌにわざわざ危険な第一区画を経由して現れてもらう必要もなくなる」

「ほう……私のことを気にかけてくれたのか?」

「そうでなけりゃ、俺の過去は教えないよ」


 当たり前だろ、とリリアーヌの反論を封じて、ユーゴはエルヴィンに向き直った。少なくとも言われたリリアーヌの顔色を見ることはなかった。

 ここまで発言をしていなかった少年は、顔を伏せて頭の中で多くの計算をしていた。


「エルヴィン」


 ユーゴが一声かけ、エルヴィンがはっとして顔をあげる。


「一番重要なことは、俺達があの市街地を手に入れることだ。そのためにするべきことはなんだ?」

「……市街地を手に入れる、というのはどういう状況でしょうか?」


 エルヴィンの質問にサラは「休める拠点作り?」と反応し、エクセレンは「死体の生産工場?」と答えた。


「それ両方同じだろ。要はあの市街地のプラーナ回路を牛耳れる場所に拠点をつくり、そこで死体とスケルトンを作れるようにするんだ」

「つまり達成すべきは街の全てを手中におさめることではないのですね」

「それは拠点を造ってからじっくりやればいいことだな」

「街の地形は概ね地図で把握出来ていますから、何度か偵察すれば良さそうな場所は見つかるでしょう。問題はその場所をどうやって確保するかです。ユーゴ将軍が常に戦い続けるのですか?」


 死属は脳ではなくコアが脳に似た機能を提供している。とはいえ睡眠は不要なのだが精神的な疲労はたまったりするので、極度に集中が必要な戦闘行為を続けられるかといえば答えはノーだ。


「俺を含めて、戦力を底上げする必要がある」

「……時間をかければ冒険者のように、プラーナを吸収して強くなることはできますけど」

「時間はかけられない」

「なんで? 冒険者って何年も活動して位階を上げるんだから、そんなに簡単に実力は身につかないよ?」


 とエクセレンが会話に割り込んで聞いた。

 

「エクセレンは忘れてるかもしれないけど、この体の前の持ち主の生首を粛清隊の偉い人に送りつけて、腐れ谷侵攻を牽制したからだよ」

「なっ、お主らそんなことをしとったのか!?」


 リリアーヌだけが強烈に反応し、エルヴィンは絶句していた。


「当時は追加の部隊を送られると困ったからやったんだけど、改めて考えると十分な実力者がいたらこれは挑発行為だよな」

「当たり前じゃろ………」

「だから、夏で戦力が落ちている間に第一区画を引き上げたのもこれを警戒してたりするんだよ」

「つまり粛清隊がいずれやってくるのは確実じゃから、タイムリミットがあるということか、たわけが!」

「すまんな。それは過去の俺らに言ってくれ。というわけで、各自どうにかして戦力強化の方法を考えておいてくれ」


 この場ですぐに答えが出ないことは分かっているので、ユーゴは会議を解散させた。

 方針そのものに反対する者はおらず、全員が難しい顔をしながらも首を縦に振って部屋を出ていった。

 ただ一人、リリアーヌを除いては。


「何かあるのか?」

「……どうもユーゴは、まだまだ私に対して話しておくことがあるようじゃと思ってな」

「いや、話し合いたいことは終わったんだけど」

「言い方を間違えたかの。私に説明することがまだまだあるのではないか?」


 どうだろう、とユーゴは軽く思案した。

 ユーゴが前世ともいうべき異世界の知識を持っていることは既に伝えている。こちらの世界に来てからのことや、異世界の知識の詳細については話したことがないが、リリアーヌがその中の何を知りたがっているのかが、ユーゴには分からなかった。

 それなら、時間もあるし順番に全部話そうか、とユーゴは考える事をやめた。


「それじゃあ上に上がって話をしようか。吸血鬼って風邪ひかないよな?」

「引く。引くが、真夏の夜じゃ。心配はいらん」


 じゃが、心配には感謝する。と小さな声でリリア―ヌが頭を下げる。

 ユーゴのよくやる作法を誰に聞いたのだろう、と余計なことを考えて動揺を隠しつつ、ユーゴは酒瓶を持って屋上に上がっていった。

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