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れぶなんと!!~ゾンビに転生してサバイバル~  作者:
失くしたものと取り戻したもの
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撤退

 サラの叱咤が功を奏したのかは不明だったが、ユーゴ達はなんとか五分間を耐え忍んだ。

 空中から強力な風の魔法を駆使する大蝙蝠。常に電撃と火炎を放っているプラーナの塊のようなウィルオウィスプ。翼ライオンのおかわり。

 戦闘は敵を倒すことよりも犠牲を抑える持久戦にシフトしていった。ユーゴとサラが巧みに指揮を出して有利な対戦相手に仲間を割り振ったことで、なんとか誰一人欠けることなく五分が経過した。

 時間ピッタリに、戦闘中の彼らを足元の影が飲み込んだ。


「……影の中とは、気持ち悪いものですね」


 沈んだと思ったらそのまま足が突き抜けてもとの空間に帰還する。移動した先は薄暗い部屋の中。集められたメンバーの中で最初に口を開いたのはレイキだった。

 自分の体が何かに沈んでいくのに、液体も空気もない空間を通過していくのは例えようもない感覚だった。


「私はそこまでじゃないですけど、他人のプラーナに包まれるのは不安ですね」

「マリベルもそう思う?自分で出来れば良いんだけどね〜」

「そんな簡単に使えたら苦労しないですよ!こんなの使えたら人間社会で一生食いっぱぐれないでしょ?」


 エクセレンとマリベルの魔法使いコンビは和気あいあいと魔法談義をしている。


「こんな危険な魔法を使う奴、幽閉されるに決まってるでしょ。そんなことより出てきなさい、リリアーヌ」


 サラがピシャリと会話を遮ると闇に向かって吐き捨てた。

 壁にかかっていた燭台にエクセレンが火を灯すと、薄くなった闇の中から金色の少女がズルリと現れた。


 リリアーヌだ。と認識した瞬間にはサラがナイフを投擲していた。普段であればリリアーヌの体を覆う闇に遮られて、ナイフが空中で止められてしまうだろう。それでも抗議のために投げたのだが、リリアーヌは大げさに転びながらナイフを回避していた。

 結果的に当たらなかったことを回避といえるかは怪しいところだが、その様子に全員が目を点にする。


「そんなに消耗しているのは初めて見たわね」

「……分かっているなら手を貸さんか」


 歩み寄ったサラが手を引き、立ち上がったリリアーヌの尻についた埃を払った。

 普段は汚れ一つ寄せ付けないために浮遊し防御膜まで作っている彼女が、それらを行えない状態なのだと全員が察した。

 だが当のリリアーヌは気遣いを吹き飛ばすように笑って言った。


「謝らんでも良いぞ。意地悪をしたのはわざとじゃからな」

「貴女ねぇ……。その性格直さないと友人は出来ないんじゃない?」

「じゃが、痛感したじゃろ?」

「文字通りにね」


 全員が生き残ったとは言え、負傷と消耗はある。ユーゴは全身に切り傷がある程度だが、レイキはウィスプに焼かれた左腕が爛れているし、エクセレンとマリベルは体内のプラーナをほとんど使い切って走ることも難しいほどだ。唯一無傷なのはサラだが、彼女も空を駆ける魔剣を酷使してプラーナをほぼ使い切っている。


 レブナント軍のエース級で作った1パーティーが、全力で戦闘して五分しか保たない。しかも勝利ではなく撤退している。

 この事実に、肉体よりも精神的に現実を痛感させられていた。


「無理だな、こりゃ」


 ユーゴは明るく苦笑いを浮かべながら言った。


「俺がなんとか左腕を取り戻しても、通用するのは一部のレブナントだけだ。ゾンビは連れてこれないな」

「仮に一対百でけしかけてもだめかな?」

「敵が逃げずに死ぬまで突っ込んでくれればワンチャンあるかもな。でもライオンクラスの敵が出てきたらそれでも敵わないぜ」


 ユーゴの返事に、提案したマリベルが肩を落とす。

 彼らはここまで数の力を頼みにして進んできた。一匹で無理なら二匹。十匹ではどうか。それでも敵わないなら百匹で。

 だがその方法で超えられない境界が、この中央市街地外縁部だった。


「ガラトナム城を要塞化して籠もることも出来るじゃろ。それでもまだ進むつもりか?」


 リリアーヌの問いかけは蜜のように甘い誘惑だった。


「この中央市街地に生息するモンスターのほとんどは外に出られん」

「そうなのか?」

「外はプラーナが薄すぎる。お主らを脅かすような輩は基本的にガラトナム上には辿り着かんよ」


 蜜の甘い匂いはどんどん増していく。

 そして現実的にその方法で生き残る戦略を、ユーゴは脳内で描くことが出来る。実際に描いた。

 順調に過ぎる時間。享受する平和。そして。


「そしていつか現れた強敵に、負ける日が来る。必ずだ」


 ユーゴはその可能性から目を逸らさなかった。逸らせなかったとも言える。満身創痍の仲間達は今の傷しか感じられていない。

 この場でその恐怖を感じているのはユーゴの左腕だけだった。


「無理な進軍はしない。けど、南進は続ける」

「死期を早めるだけだとしても?」

「特攻のほうが諦めるよりマシさ」


 エクセレンは「そうだよね!」と賛成した。

 サラは「どうかしらね?」と疑問を呈した。

 だが二人共、ユーゴの視線から目を逸らすことはしなかった。


「無理強いはしないけど……お前らとあと何人かいれば、なんとか。それにちょっとだけ楽しみなんだよ」

「何がでしょうか?」


 素直に聞いたレイキに、ユーゴは真面目な顔でこういった。


「レベルアップして強敵を倒すなんて、普通の冒険者みたいだろ?一度やってみたかったんだよ」


 頷いたのはレイキ一人だけ。

 冒険者を殺して使役している本人は、真面目に発言したのかブラックジョークのつもりだったのか。

 それを聞く勇気あるものはいなかった。



■■■■■



「ところで、ここはどこなんだ?」

「先程の広場からすぐ近くにある地下水路じゃ」

「いつの間に探してたんだよ」

「無論、城を出たときからじゃよ」


 プラーナの充足した空間で大の字に転がっているエクセレンを見れば、その価値が値千金であることは疑いようもない。

 つまりリリアーヌは疲弊した体を癒せる緊急避難場所をわざわざ見つけてくれたのだ。

 人の命を軽く見ている時もあれば、労る時もある。不死属ゆえにバランスが悪いとユーゴは思っていたが、とにあれありがたい差配だった。


「ちなみにこの地下水路、プラーナは繋がっとらんが北の方にも伸びているようじゃぞ」

「まじか。城まで伸びてると良いな」

「その場合は地下から襲われることも考えんとな」


 冗談のつもりでユーゴは笑ったが、実際に出口を探して北に向かうと、地下道は目的地まで伸びていた。

 出口の扉を開けた先で、頼りになる少年軍師の顔を見つけたユーゴ達は慌てて念入りにプラーナの流れを遮断した。

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