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れぶなんと!!~ゾンビに転生してサバイバル~  作者:
失くしたものと取り戻したもの
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隻腕

 サラやエルヴィンなどの出払っていたレブナント達がガラトナム城に帰還してから数日後。

 ユーゴは少数の仲間を引き連れて市街地を進んでいた。放棄した第一区画ではない。人間たちの区分で言うところの第四区画にあたる、腐れ谷中央部への入り口にあたる廃墟だ。

 連れているメンバーは、レブナント軍の中でも選りすぐりのメンバーである。ユーゴ、サラ、エクセレンは当然のことながら、常にレブナント軍の一員として活躍してきた魔法使いのマリベルに、身体強化の闘法をマスターしつつ有るオーガ・レブナントのレイキ。そして自分からは手を出さないと仰せのスペシャルアドバイザーのリリアーヌである。


「どうして貴女がいるのかしら?」


 出発前のことである。当然サラがリリアーヌに突っかかった。

 生死は冒険者の常だ。なまじ冒険者を食い殺す側に回ってからのほうが長く生きているサラは、自分を殺した吸血鬼だからリリアーヌの存在を厭っているわけではない。

 それでもサラがリリアーヌに反目する理由を周囲の者達はわかっているので、あえて黙って彼女たちを見守っていた。


「無論、友人達を守るためじゃな」

「貴女に守ってもらわなければならない敵がこの先にいると?」

「私はそうだと思っておる」


 ガラトナム城を制圧して以後、リリアーヌはハッキリと自分のスタンスを変えていた。

 同盟者としての間合いを捨てた彼女はあけすけな発言が極端に増えている。今日の会話もそうだ。


「今の御時世、容易くこの土地から外にでては生きられぬ。ようやく出来た知的な友を、分かっていて見殺しにするのはもったいなかろう?」

「そうなると分かっているのなら、情報だけくれればいいじゃない」

「サラこそ分かっておろう。情報だけでは不足じゃからユーゴが行くのだろう」


 なぁ?とユーゴに話が振られる。

 サラの着地させたい結論が分からないでもないユーゴだったが、それを許容する余裕は今のユーゴには無かった。


「サラ、悪いけど今の俺は十分に戦えない。だからこそ、限界を見極める必要が有ると思ってる」


 ユーゴは中身の無い左袖をプラプラと揺らした。

 レブナントとしての最終目標は侵されない自由だ。集団としての人間から自由を守るために、ゾンビの群れを作った。より強力な個人に負けないために、ユーゴは個人の戦闘力を伸ばしてきたのだ。


 そのユーゴ自身が今はパワーダウンしている。戦える相手を判断するラインを改めて見極める必要があった。

 残念ながら、隻腕の状態でも身内でユーゴを脅かせる者はおらず、リリアーヌは規格外に強すぎて参考にならない。


 レブナント達の歯が立たない中央部のモンスターとユーゴが戦えるのか。

 それは侵攻というよりは、彼らが攻めてきた時にユーゴがどれだけ自分達の身を守れるかという重要な情報であり、リリアーヌの目算によれば敗色濃厚らしい。


「俺がこの体たらくだからな。リリアーヌが保険として控えてくれるのはありがたい」

「……というわけじゃ。言いたいことはあろうが、私が不要だと言いたいならば行動で証明すればよかろう」


 やれるものならというニュアンスを込めた挑発めいた言い回しはわざとで、サラにはその手の挑発を躱さずに受け止める反抗心があった。

 黙って歩き出したのが返事になり、全員がぞろぞろと出立する。


(ギスギスしてんなぁ……)


 そう感じているのは彼女たちの渦中にあるユーゴだけで、他のレブナントからすれば「将軍、頑張ってきて下さい」という気持ちのほうが強かったのだが、誰もが黙ってそれを見送った。

 サラとリリアーヌに、余計な意味で受け取られては明日の朝日を拝めない。


 かくして出発したユーゴ達は一日を移動に費やし、市街地外縁部に到着し、一夜を明かしてから市街地攻略に乗り出したのだった。



■■■■■



 市街地は滅びた王国の中央寄りだったからか、腐れ谷の外縁部にある第一区画よりも建物自体が高く大きかった。正確にはそうであっただろうということが推測できるほど、崩れ落ちた外壁が高かった。

 見通しの悪い市街地で挟み撃ちにあってしまっては腕試しにもならない。ユーゴ達は偵察に出ているサラに誘導される形で、慎重に市街地の中を進んでいた。


『ユーゴ、この道を右に折れてまっすぐ行った所に広場がある』

『敵が居るか?』

『もちろん。噴水はどうやらまともに機能しているみたい。水場になっているみたいだけど』

『第一区画の事を考えれば、恐らく地下に回路があるんだろうな』


 かつて滅んだ古代王国は、地下にプラーナの巡りを良くする下水道を用意していた。それも外縁部の(今思えば)小さな街にもだ。より栄えている中央にそれらの設備が無いはずもなく、つまりサラが見つけたスポットは戦いやすい開けた地形に、強力な生物の集まる重要ポイントと言えた。


「仕掛けるのか、ユーゴ?」

「そのつもりだ。散発的に遭遇したデカいコンドルやら火を吐く犬は大したこと無かった。他のレブナントでも苦戦するようなやつは、やっぱりボスらしいところに居るもんだろ」


 意外なことに、腐れ谷という地名はゾンビにピッタリだと思っていたユーゴ達だったが、この中央地区には死属は少なかった。

 代わりに蔓延っていたのは濃いプラーナを潤沢に摂取した死霊や、大きく成長した怪鳥などのモンスター達だった。

 それらのモンスターもそこら中に蔓延っているわけではなく、都合の良い環境に居座るのが普通だ。彼らは強大な力を支えるだけのプラーナを要するのである。


「全員賛成のようじゃが、私から一つだけ制限をつけさせてもらうぞ」

「制限?縛りプレイって意味じゃないよな?」

「縛り?そういうニュアンスではない。制限時間を設ける。五分経ったら影の中に取り込んで撤退するぞ」

「理由はあるのか?」

「有るに決まっておる。お主らは気付いておらんかもしれんが、この街のモンスター共のテリトリーは激しく複雑に入り組んどるんじゃ。サラはその隙間を縫うようにして進んでいるが、いざ戦闘になれば漁夫の利を狙う他の敵がやってくる。混戦になってしまえば上手く影での回収ができないやもしれん」

「……了解した。リリアーヌは後方で撤退のタイミングだけ測っててくれ」

「任せよ」


 話しながら角を曲がると、確かに街路の先は開けているようだった。

 リリアーヌはそのまま家と家の間の細い隙間の影に消え、レブナント達全員が街路を駆けた。

 ユーゴ達が広場に突入するのと同時に、隠れていたサラが短弓でそのモンスターに矢を射掛ける。

 それは翼の生えたライオンだった。体長は3メートル、体高は2メートル程だろうか。ライオンと呼ぶには大きすぎるそのモンスターが、十分な広さの広場に2体も居座っていた。


『俺とエクセレンで一体抑える。サラ、レイキ、マリベルで一体を殺れ』


 ユーゴの指示に全員が了解の念を返す。

 サラが放った矢は翼と翼の間にしっかりと刺さっていた。一方のライオンは翼をはためかせて空に浮かび、もう一方は背中を庇いながらも地を駆けて突進を仕掛ける。

 右手に魔剣を握りしめたユーゴは、突進してくるライオンの前爪をジャンプして回避し、背中の矢傷を更に深く切り裂いた。しかしライオンが霧に変わる気配はない。


「ちぃっ、プラーナが濃いか!」


 魔剣は確かにその効果を発動していた。自分の手からプラーナが吸い出される感覚が有ったにも関わらず、敵はその魔法に抵抗していた。

 だが、ユーゴは焦らなかった。その理由をユーゴは既にリリアーヌから教わっていたからだ。

 霧の魔剣に込められた魔法は対象の傷からプラーナ・コアまで魔法を流し込み、コアを経由してプラーナの循環する肉体を霧に変える。だが敵のコアも当然抵抗する。プラーナによる防衛強度を上回る必要があった。

 魔剣をもってすれば、傷をつけたならどんな敵でも倒せる。その認識が誤っていたという証明だった。


(だからこそ、隻腕でも技術だけでこいつらを倒す!)


 ユーゴは焦ること無く戦うターゲットを空中のライオンに切り替えた。

 口を大きく開けて滑空してくるライオンに向けて、剣気を飛ばす。プラーナが見えているのか、ライオンは剣気があたる直前に口を閉じて加速した。


「バインド!」


 ユーゴに迫るライオンに向かって、エクセレンが雷撃の魔法を放った。対象を焼くほどの火力はないが、肉体に電流を流されては筋肉の動きが狂う。

 失速したライオンの頭に足をかけ、ユーゴは左翼を切り裂いた。

 絶叫と共に落下しながら、ライオンは体をぐるりと反転させて前足でユーゴを横から殴りつける。

 その一撃が剣を持っている右から来たのはただのラッキーだった。ユーゴは剣で攻撃を辛うじて防いだが、勢い良く地上にはたき落とされる。


 剣を手放して右手をつきながら体を回転させて起き上がった。

 ライオンが痛みで藻掻いている。もしもユーゴが起き上がる前に追撃を受けていたら、重症は免れなかっただろう。ユーゴは魔法を使えるが、その実力は高いとは言えない。

 命拾いをしたと事実に冷や汗を書きながら、落ちていた剣を拾ったユーゴはもう一方のライオンの様子を伺った。

 レイキが正面から敵の攻撃を抑えている間に、マリベルが氷の槍を打ち出してライオンの体に突き刺していた。サラはレイキの姿勢が崩れそうになったタイミングでライオンの後背を突いて上手くフォローしている。


『サラ達は問題無さそうだ。仕留めるぞ、エクセレン』

『了解。ちゃんと避けてね?』


 左手を振って了解の合図を返そうとしてその腕が無いことに気づき、ユーゴは苦笑しながら念話を返した。

 ライオンと正面から向き合い、顔から笑みが消える。

 前世だったら間違いなく死んでいるシチュエーションだ。だが、今はこの巨獣に打ち勝たなければならない。どうやって戦うべきか。


 剣をいつでも突き出せる体勢を保ちながら、ライオンの右側面に回り込むように反時計回りにユーゴは走る。当然残った翼も切断されてはかなわないと、ライオンも右側面を守るように回転していく。

 ライオンの回転する速度が一定になったタイミングで、ユーゴは石畳を粉砕するほどの脚力で跳んだ。

 最速で右回転していたライオンの伸び切った左腕が力なくスイングされる。無論当たれば常人なら即死する程度の力は込められていたが、第四位階の戦士からすれば緩慢だ。ユーゴはライオンの前で急停止し、紙一重の距離で左爪をやり過ごす。

 ライオンが左腕を戻すよりも早く、ユーゴは右手を突き出して切断された翼の傷跡に魔剣を突き刺した。

 そのまま魔剣の能力を発動すれば霧化で倒せたかもしれないが、ユーゴはあえて後ろに数歩下がった。


「サンダーブレイク!!」


 景気良く叫んだエクセレンの手元から稲妻が発射された。

 正確にはプラーナの通り道を定めた状態で電位差を発生させることで、自動的に稲妻が目標に向かって飛来する、ユーゴの作った魔法だ。

 稲妻の火力は発生させる電位差が素早く大きいほど強くなる。軍内トップスリーに入るエクセレンの魔法の腕前で放たれた稲妻は、ユーゴの魔剣を避雷針代わりにしてライオンの体内に叩き込まれた。

 断末魔の叫びが木霊し、ライオンはその場に倒れ伏した。

 相方の叫び声を聞いて硬直したもう一方のライオンも、レイキの斧によって首を叩き落される。


「そっちは余裕だったのか?」


 ユーゴが聞くと、大きく息を吐いていた三人が同時に首を振った。横にだ。


「レイキが全力で力勝負をしても押し負けるんだから、支援を一回でも外していたら食われてたわよ」


 サラが分かりやすく戦闘の内容を総括した。

 難敵だったのはユーゴも身をもって体験している。彼女の意見に反対するつもりはなかった。


「今のがこのあたりで一番強い敵なら助かるんだけど……」

「そうだとしても、三匹以上いたら危なかったよー」

「エクセレンの言うとおりだけど、まずはここから撤退しない?」


 三人の結論に、レイキもマリベルも賛成した。


『リリアーヌ。戦闘は終わったから影にしまって街から脱出させてくれないか?』

『まだじゃ。まだ二分も経っておらんぞ?』


 リリアーヌの返事に全員が嫌な予感がする、とユーゴを見上げた。

 お前が確認しろ、という圧力を受けて、ユーゴが恐る恐る問いかけた。


『それはもしかして、五分経過するまではここで戦ってろってことか?』

『その通りじゃ。先程の雷音と死臭に誘われて、既に広場は包囲されとるぞ』

『いやいや、腕試しは終わっただろ!』

『たわけ。もしもこの街を治めるならば、お主らは敵を絶滅させるまでテリトリーの奪い合いを続けることになるのじゃ。丁度良い機会じゃから、そこで生き残れるか試すと良い』


 念話を一方的に拒絶され、全員が眉をひそめる。

 彼らの思いは一つになっていた。


「あのクソ吸血鬼……!全員陣形を整えなさい!誰一人欠けずに耐えて吠えづらかかせるわよ!」

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