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招かれざる超越者

第二章:不死属と亜人を全体的に手直しして、執筆再開です。


この連載小説は未完結のまま約1年以上の間更新されておらず、今後次話投稿されない可能性が極めて高い作品でしたので、前話まで読了済みだった方はもうちょっと前から見て頂けますと幸甚です。

「やあ」


 そう言って砦の窓を外から叩いたのはリリアーヌだった。例の黒いプラーナを撒き散らして空を飛ぶ彼女を見つけたレブナントの多くは足を震わせて崩れ落ちた。生理現象を催さないことを彼らは何かに感謝した。

 恐怖を具現化したような訪問者に動揺しなかったのは三人だ。ユーゴとサラ。そしてティンときたエクセレンである。


「あなたはもしやっ!!」

「エクセレン、その話は後で頼む。リリアーヌ、窓の外から挨拶するのは失礼じゃないか?」


 エクセレンは「たしかに」と思った。

 同じく横にいたエルヴィンは「そこなの?」と思った。

 むっとしたリリアーヌは「なるほど」と頷いていた。


「自分から他人を訪れたことなど久しくなかったのでな。許せ」


 全員が微妙な顔をした。空気を読まないエクセレンが念話で『ぼっち?』と呟く。

 この世界にも"ぼっち"に該当する単語があるのかよ、と一人戦慄したユーゴは窓を開けて招かれざる客を部屋に通した。


 彼らが集まっているのは砦の司令室だ。

 ユーゴ達が帰還してから既に一月ほどが経過して、スケルトンを含めた軍備がようやく整っていた。東への遠征に向けて、資材や配置を整理する軍略を話し合っていたのだが思わぬ訪問者に解散の空気が流れ始める。

 エルヴィンはユーゴに目線を送ったが、ユーゴはわざとその視線を無視して机上の地図を指差して言った。


「リリアーヌ、この街にスケルトンを配備するコツを聞きたい」

「ユーゴ様!?」

「こいつに隠し事をしても無駄だ。どんな軍備でも蹴散らされるに違いないからな」

「大して生きていないくせに、相変わらず割り切りが良いなボーヤは」


 ニヤリと笑ったリリアーヌは地図を一瞥すると、窓の外を睨んた。


「配置とプラーナの流れが全く噛み合っていないではないか」

「プラーナは地下水路で循環させてるんだよ」

「ほう、貴様らは地下水路の地形を把握した上で地上の要衝を抑えようとしているのか。しかしそれでは自然にスケルトンを作れんだろう、ボーヤ?」

「えっ?」


 ユーゴはかろうじて疑問の声を上げられた。

 しかし一番反応するであろうエクセレンは硬直していた。


「シゼンニスケルトン?」

「たわけ。何を言っている?ボーヤがこの街を支配しているのだから、出来るだろう?」

「いや、出来ませんけど……優秀なネクロマンサーが二人がかりで毎日フル稼働してるんだぜ?」


 何言ってんのこいつ、と思われている雰囲気を察したのだろう。

 不機嫌そうなリリアーヌは腕を組んでフンと鼻息荒く言った。


「お前たちの作ったスケルトンを見せてみろ。話はそれからじゃ」



◆◆◆◆◆



「なんっじゃこりゃあー!?」


 スケルトン工房に悲鳴が響き渡った。

 ずっと一人でいると自然に声が出てしまうんだろう。少しは抑えてほしかったが、ぼっちが久し振りに交流しているのだと思うと文句も出ない。

 肝心の吸血鬼がなにをしているかというと、エクセレンの考案したスケルトンを舐めるようにみつめながら口をあんぐりと開けていた。


「リリーがくれたんでしょ?何をそんなに驚いてんの?」


 絶望的な戦力差の存在をすでにあだ名で呼んでいる紙一重の存在は不満げに言った。

 リリアーヌの機嫌が一変したと思ったら今度はこっちか……。ユーゴは見えないように天井を見上げたが、エルヴィンがこの部屋の空気を変えてほしそうに自分を見ていることに気づいて話を切り出すことにした。


「そんなに出来が悪かったのか?一応模擬戦とかもやって性能は確認したつもりなんだけど」

「逆じゃ、たわけ。性能が高すぎる。なんじゃこのハイスペックなおもちゃは。どうやって作った?」


 リリアーヌの評価に機嫌を良くしたエクセレンがぺらぺらと喋りだした。

 各関節にお互いの骨同士で引きつけ合う魔法を施すことで稼働性を向上させつつ耐久力を上げて骨の形を維持させる。命令はは脊椎の骨に分散させた並列コアで受信し、骨の内部を伝導して全身に伝えられる。コアが複数あるので単純に破壊されただけでは止まらない。無論神聖魔法で浄化されては形無しなのだが。

 他にもいくつかの機能を備えているが、そのいくつかはユーゴによる入れ知恵だ。具体的には前世のロボットアニメ的な要素である。

 途中から未知の技術の理解を諦めたリリアーヌは痛くなった頭を抑えて項垂れた。


「なるほど。よーく分かった。お主らが人間辞めてるのが惜しいくらいに有能なのは分かった。全く、不味い死属になどなっておらねば食らって眷属にしてやったものを」

「そりゃ良かった。隷属するつもりはないんでね」

「フン。そう言う割には自覚が薄いではないか死者の王よ」

「シシャノオウ?」

「たわけ!!」


 リリアーヌの二喝目にも、心覚えは全くない。


「そりゃ最近は多少の心構えは整えて来たつもりだけど」

「人間からの成り下がりではないくせに、人間の常識に染まり過ぎじゃな。ボーヤは既に人間辞めておるのだぞ?サラよ、お主なら分かるのではないか?」


 話を振られたサラはユーゴをじっとみつめたあと、ハッとして言った。


「まさか……」

「サラ、知っているのか?」


 コクンと頷くサラ。

 ユーゴはさして期待せずに言ってみたかったセリフを言っただけなのだが、サラの解説を促した。


「多数の眷属や土地を治める主は、配下のプラーナに強く干渉できる。でもそんな魔物、そうそう現れるものじゃ」

「その通りじゃ。長い時を生きた吸血鬼やエルフやドラゴン達。無数の亜人を従えた蛮族王。そして……」


 リリアーヌは言葉を区切ってユーゴを強く見据えた。


「この世の何処かに存在するかもしれぬ、進みし者、アヴァンス。そういった一握りの連中だけの特権を、お主は手に入れかけているのじゃ、ユーゴよ」

「なんだか凄いことなのは分かったけど、具体的には何が出来るんだ?」

「例えば蛮族王のような亜人は、配下のプラーナを自らに吸い上げることで己を強化しつつ、余ったプラーナを部下に循環させることで相互強化を図っておる。ドラゴンも似たようなもんじゃな。

 私のような不死属や死属の多くは土地にプラーナを通すことに長けておるので、支配地にプラーナを循環させるだけでそこらにある骨をスケルトンにできるのじゃ」


 なるほど、とユーゴは頷いた。

 だからリリアーヌは死霊術製のスケルトンに驚いていたのだ。

 彼女が想定していたスケルトンはゾンビの延長線上だったのだから。


「つまり俺にも同じような事ができるのか?」

「既に土地にプラーナを通してゾンビを……いや、いい。それもそこの小娘がやっていたのだな?」

「エクセレンだよ。よろしくねリリー」

「うむ、よろしくしてやろう。惜しかったな。お主よりもプラーナコアの強度が強いボーヤがいなければ、お主が支配者になれたかもしれんというに」

「それは興味ないかなー」

「無欲……いや、支配よりも強い我欲か。これならばたしかにボーヤが適任かもしれんな」


 スケルトンを見るのは飽きたのだろう。リリアーヌは外に出るとふわりと宙に浮いて砦の外縁部に降り立った。

 遅れてやってきたのはユーゴだけだ。他の者たちには部屋に戻って軍議を命じて、ユーゴはレブナント達のリーダーとしてリリアーヌの前に立った。


「リリアーヌ、俺にアンタの言う土地にプラーナを通す技術を教えてくれ」

「イヤじゃ。面倒な」

「たけど自分で蛮族王の力を削いでいくよりは楽だと思うけど?」


 ユーゴの発言にリリアーヌは眉をピクリと顰めた。

 実際のところ、ユーゴも内心ではかなり冷や汗をかいていた。普通に話せているようでも、リリアーヌは遥か格上だ。交渉のテーブルに上げたネタもリリアーヌがぽろっと零した言葉からの推測でしかなかった。

 しかし、彼はその賭けに勝った。


「さっきの一言でよく気付いたな?」

「むしろ納得したんだよ。リリアーヌは強い。そのリリアーヌが打って出ない相手に俺達だけで勝算があるとは思えない」


 ならば。


「勝てると踏んだからくりがあるはずだ。最初はこの魔剣のことかと思ってたんだけどな」

「私がその魔剣を恐れぬように、蛮族王も恐れぬじゃろう。それほどにプラーナの質と量ともに格差がある」

「だからまずは眷属を減らして蛮族王の力を削ぐんだろ」


 詰まるところ、蛮族王の討伐は冒険者の任務というよりは国家間の戦争のようなものなのだろう。

 霧の魔剣という必殺の一撃が届くところまで戦力を削れば勝ち。出来なければ負ける。

 リリアーヌがユーゴ達に与えようとしているのはそういう戦い方だ。

 だが彼女は倒し方を教えているだけで、それを強いているわけではない。

 ただし、そうしなければユーゴ達は一生ここで燻るだけだ。


「無理だったら蛮族王を倒すところまではやらないからな」

「私がケリをつけられるところまでやつの力を削げばそれで十分じゃよ。ボーヤ達は自分のやりたいように土地を抑えて進めば良いさ。そのついでに各地でプラーナを整理していってくれれば御の字じゃの」

「なんでだ?」

「長い時を生きたエルフやドラゴンが人間の領域を襲わないのは理由がある。プラーナの薄い土地では我らは良く生きられんのさ」


 酸素が薄い場所に暮らすようなものだろうかとユーゴは想像する。


「この街は平気なのか?」

「その前にユーゴよ、改めて誓え。私の協力を取り付けるからには私にも協力しろ。私もあの奥地で隠居するには飽いた。土地を支配する術を教えてやる代わりに、私の順遊にも使わせろ」


 ユーゴは沈思した。

 内容に問題はない。自分のコアに集中して魔術的な干渉が無いことを確認する。

 これが死霊術にも用いている魔術的な強制力を働かないのなら。


「誓おう。隷属して開拓者になるのは真っ平ごめんだけど、友達が遊びにやってくるなら歓迎するよりも」

「誰もそんなことは言っとらんだろう!?」

「いや、言ったよ?」


 引きこもりをやめて外に遊びに行きたいから、私の遊びに行けるおうちを広げてね。

 ユーゴにはそう聞こえたのだが翻訳機能の不調だろうか。プラーナさんにはしっかりしてほしいもんだなぁ。


「まぁ誓うならそれで良いけど……ところでボーヤ、いつごろ出発する予定なんだ?」

「人間の領域に偵察に出してるレブナントを呼び戻したらすぐにでも」

「完全に引き上げるのか?情報収集はどうする?」

「そっちは何とかなるし、そろそろ人間にちょっかいを出すのをやめないとまた冒険者が減りそうでね。とりあえずあと数日だよ」


 数日か……。呟いたリリアーヌは眼下を見下ろした。


「これだけあればなんとか……足りるか?足りなければ……」

「ところでリリアーヌ、どうしてあんな誓いを立てさせたんだ?」

「この街が平気なのは、アレじゃ。お主らがプラーナを」

「それは分かってるって。さっきの誓いを立ててほしい理由があったんだろ?」

「うっ、ぐぅっ。その、土地を治める王に鍵を掛けられたら、締め出されるのじゃっ!」


 恥ずかしそうに吐き捨てたリリアーヌが可愛らしくて笑い転げてしまったユーゴは、かわいそうなので一言訂正することは諦めた。

 友達の家でも鍵はかかってるし、ノックはするもんだよ、と。

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