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骸の街の主(上)

 ユーゴ達が根城にしていた腐れ谷北部の市街地を南に抜けると、長い年月を経て街道が無くなってしまった平野がひたすら続いていた。

 冒険者の目的は旅ではなく、遺跡の探索による日銭稼ぎだ。彼らが訪れるような建築物が無いからか、平野は草原といってもよいほど自然が育まれている。

 この世界に転移してきてから初めて見る一面の緑に、ユーゴは一人心を踊らせていた。


「腐れ谷なんて不吉な名前なのに、こんなに豊かな自然があるなんて……ちょっと変な感じがするな」

「自然が色濃く残っている土地は、僅かなプラーナも植物が奪ってしまうからゾンビには不向きなのよ」


 言わなかったかしら、とサラは当然のように口にした。

 ユーゴは今回の探索に連れてきた5名のレブナントの顔を見回したが、全員がごく当たり前だと言わんばかりに首を縦に振った。


「墓地の周りに植物をたくさん植えるのはそれが理由ですよ」

「さっすがゾンビ上がりのリーダーだ。久しぶりにその天然を見ましたね」


 部下達もやんやとユーゴの事を茶化す。無知を笑われたようで多少気恥ずかしいが、この世界の一般常識を身につけられるのはユーゴにとって悪いことではない。

 ゾンビ上がりで人間世界の常識を知らない、という言い訳は部隊に広がっているので、ユーゴは気にせず景色を楽しみながら、我慢することにした。


 ユーゴ達の進軍はゾンビの歩行速度が遅いこともあって非常にゆっくりしたものだったが、繁茂する自然のおかげで予定していた日数はさらに膨らんだ。

 24時間動き続けてほぼ5日。

 ユーゴの目の前には底がほとんど見えないほど深い谷が広がっていた。


「こりゃ凄いな……まるでグランド・キャニオンだ」

「それはアナタの世界にあった場所の名前?」

「有名な観光地だったよ。ここよりもっと大きくて広かったけど、底が見えないほどだから、深さはこっちの方が凄いな」

「あら、谷底なら見えてるわよ」


 サラに言われて覗きこんでみるが、谷の底には深い闇が広がっている。


「この暗闇の先が見えているなんて、さすがスカウトだな……」


 ぼーっと眺めて呟いたユーゴだったが、サラは手近なゾンビの片腕をもぎ取ると谷底へと捨てて投げた。

 ゾンビとはいえ、片腕をもいだら戦力は落ちる。彼女の意図は分からなかったが、意味もなくゾンビの戦力を落とすような性格でもない。

 何を見せたいのだろうと落下する腕を目で追っていたユーゴだったが、捉えたのはおぞましい光景だった。

 谷底の闇が一瞬だけ動き、ゾンビの腕を飲み込んだのだ。


「……サラ?」

「ここの谷底には、眼球ほどの大きさの、黒くて丸い虫が敷き詰められてるのよ。太陽が差し込む僅かな時間に熱を溜めて群れの内側に保存し、肉に卵を埋め込んで増えるの」

「……つまりこの谷底の黒いの、全部、虫なのか?」

「その通りよ」


 レブナントの中には、谷底を見ないように距離を取っている者もいる。

 エクセレンの死霊術で体に巣食う虫などへの恐怖心は消されている彼らは、虫そのものを怖がることはない。

 だが肉に卵を植え付けるとなると、彼らが谷の縁から距離を取るのも当然だった。


「もしかして、ゾンビが中に落ちたら生きたまま卵を植え付けられて……」


 ユーゴが口にした一言に、全員が身を震わせた。


「さすが、気持ち悪い事を思いつくのね」


 というサラの一声をきっかけに、レブナントが口々にユーゴを非難する。

 兵器転用出来ないだろうかと考えたが、彼らが「利用しようなんて考えるなよ!」と念を押すので、さすがのユーゴも断念した。


「……虫はともかくとして、どうやって谷を超えるんだ。こいつらを駆除して谷底を渡るのは厳しいだろ」


 そもそも、谷自体が数百メートル以上の深さである。遠近感が狂っていることを前提に考えると三桁ではきかないかもしれない。

 谷底に降りられたとしても、虫全てを駆除するのには短くない年月が必要になるだろう。

 となると。


「橋をかけるか……。いや、もう架かっている橋があるんじゃないか?」


 ユーゴの声に応じて、全員が見渡すかぎり続いている谷の様子を観察する。

 どうも近くに橋のような建造物は無いようだ。

 だが、目の効くスカウトの一人が何かを見つけ、彼方の山を指さした。


「東の方に、何か建物みたいなのがあるッス」

「……本当だ。こっから見えるってことは、相当高いな」


 つまり、あれが。


「今回の目的地、かもしれないわね」


 腐れ谷にかつて栄えたという王国の地図は無い。

 だがアシッド砦とその周囲の街がそうであったように、その古代王国はかなり理路整然と「まちづくり」をしていた様子がある。プラーナの循環を考えた区画整理が、予めされていたのだ。

 で、あれば。「くにづくり」もまた理路が整っているはずだ。

 山の中腹に建てられた、遠目からでも分かる巨大な建築物に意味が無かろうはずもない。


「とりあえず、行ってみるか」


 西を見渡しても、他に何も見つからない。

 今打てる手は他にないと全員が納得して、ゾンビの一団は東へと移動を始めた。



◆◆◆



 それは巨大で優美な城だった。

 山の麓に街が広がり、その中央で山に食い込む形に建てられている。

 城の外壁には蔦がびっしりと生えているので傍目からは緑の城に見えるが、ところどころに除いている白亜の石から、過去の美しさは十分察することが出来た。

 砦とは段違いの、まぎれもない要地である。


「大当たりね」

「あぁ。予想通り橋もある」


 街は谷の縁まで広がっているが、昔は街道が繋っていたのだろう。谷が細くなっている場所を渡れるよう、頑丈でしっかりした石造りの橋が架けられていた。

 老朽化もしておらず、100体のゾンビが歩いて渡っても問題はなさそうだったが、忘れてはならない。

 ここにきた目的は、第三区画の主の偵察、あわよくば撃破だ。


 それだけの強者である。当然プラーナが集中する場所に居るだろうと推測したユーゴは、プラーナを目に集中させて街を観察した。


「おぉ……こりゃすごい」


 思わず声が漏れるほどの出来栄えだった。

 北の街区とは比べ物にならないほどしっかりと、プラーナが綺麗に循環している。見事な回路(サーキット)だ。


 城を中心に何重もの輪が出来るように街並が整えられ、谷と山を結ぶプラーナの流れの中心地に城が建っている。

 自然の中を循環するプラーナを城が吸い出し、街へと流し込んでいる。輪は綺麗に循環しているため、街の中には大量のプラーナが溜め込まれていた。


 この要地を抑えることが出来れば、ゾンビの生産数や、人間からの防衛も楽になるだろう。

 ここ最近は砦の修復とかの地味な仕事ばかりをしていたからか、完成した都市を目の前にしてレブナント達はにわかに浮足立った。

 だが、サラの鶴の一声が飛んだ。


「誰の手も入らず、こんなに街の状態が保全されているなんてありえないわ」


 いかにしっかりと作りこまれた街とはいえ、主な資材は石と木である。

 自分たちの根城よりも奥地で生き延びる何者かが、これを整えているのだとしたら。


 ここにいるレブナントは全て、ユーゴ達に敗北した元冒険者達だ。

 自分たちよりも強い何者かの支配する街に踏み込む恐怖は、骨身どころか魂まで染み込んでいる。


「まずはゾンビ達を渡らせよう。ガント、20を連れて先行してくれ」

「分かったぜ、大将」


 連れてきたゾンビの総数は100体。

 ユーゴとサラを除いた5人のレブナントそれぞれに20のゾンビを従わせ、ユーゴは順々にゾンビ達に橋を渡らせる。

 いくら警戒してもモンスターは一体も現れないが、その静けさが異常自体であることを、元冒険者達は十分に理解できていた。


 たとえゾンビ達が出てこなくとも、野生のネズミなどは人を襲う。

 それらの動物が全く存在しないなどありえなかった。

 何故ならば、橋を渡りきった街の広場には、人間の骸が横たわっていたのだから。


「大将、調べるかい?」


 周囲に散らばる骨と遺品の数々。

 武具以外にも、彼らが残したメモや依頼書などが入っているかもしれない。

 と、普段ならそれを漁りにかかるが、今回の旅の目的は骸そのものだった。


『どうする、サラ。わざと罠にはまってやってもいいけど』

『スケルトンが私達の物になるなら後で試せるし、ならないなら試す必要はないんじゃない?』

『確かに。それじゃ魔法が使える奴はあの骨を砕け。近づくなよ』


 魔法の使えるレブナントの詠唱を待つ傍らで、ユーゴは念話の相手をサラに絞って感謝を伝えた。


『すまん、助かった』

『……急にどうしたの、珍しいじゃない』

『改まって自分の悪い癖を自覚したもんだからさ』


 なんでもかんでも策を弄しがちなユーゴにとって、効果があるかどうかで判断をサポートしてくれるサラの助言は相性が良い。久々に緊張感のある実戦を前にして、逸った気持ちを抑えてくれた相棒のありがたみを感じたからなのだが。


『まだ何も終わってないわ。そういうタイミング悪いところも、ダメなところよ』


 すげなく会話を切られてしまっては、それも反省するしかない。

 だが、確かに彼女の言うとおりである。

 どこか油断しているのかもしれないと改めて気を引き締めると、魔法の準備が終わって許可を求めた部下と目線があった。


『行くぞ、構えろ』


 全員が武器を構えるのに合わせて、魔法が放たれる。

 人間の冒険者の間ではめったに使われないが、集団戦の戦術としてユーゴ達の間で最もよく使われる、あの呪文だ。


「『ソニックバレット』!」


 複数人で固めた空気弾が、巨大な見えないハンマーのように地面に転がった骨を撃った。

 ガラガラと音を立てて骨が飛び散っていく。

 だが、その骨が再び地面に落ちることはなかった。


 空中で骨が組み上がり、人間型の骨人形が出来上がったのだ。


「出やがったな……サラ、周囲の警戒は任せた」

「あなたはどうするの?」

「……様子見で固まってるみたいだから、ちょっくら暴れてお手本を見せてくるよ」


 スケルトンはユーゴですら一度も見たことがないモンスターだ。当然、レブナント達も始めて相対することになる。

 相手がどんな動きをするのか、どうやって倒すと効率が良いのか。

 一歩間違えば死にかねない状況で慎重に戦うのは、良い冒険者の証だ。


 だが、今の彼らは死体である。

 死体には死体の戦い方がある。


 ユーゴはいつでも応戦できるように剣を抜くと、強力な念でゾンビ全体に指示を出した。


 食らえ、と。


 スケルトンを動かしているのはプラーナだ。

 プラーナが篭っているのなら、ゾンビにとっては人間と変わらない。

 広場に転がっていた骨のほとんどは接合していたが、スケルトンの数は二十かそこらしかいない。

 確かに、五人組の冒険者にとっては驚異的な数だ。初見のモンスターに囲まれて全滅するパーティーも多かっただろう。


 しかしこちらのゾンビは100体である。

 スケルトン一体に対して、数体のゾンビが押し寄せる。

 手にした剣や槍で迎撃するスケルトンにゾンビの数体が切り刻まれていくが、ユーゴはそれを助けることはせず、じっくりとスケルトンの動きを観察した。


 その様子を見たレブナント達は各々が従えていたゾンビに細かく命令を与え始め、それぞれにスケルトンの隙を探して行った。


『どうだ。弱点は見えたか?』


 ユーゴが念話で聞くと、仲間たちからそれぞれ答えが帰ってくる。


『どうやら近くの敵しか認識していない見たいです』

『それなら魔法で倒すのは簡単そうだが、後ろのゾンビにまで反応してるぜ』

『近づくなら力づくでぶっ壊したほうが早いんじゃないか』


 概ねの作戦が決まってしまえば、単調な操り人形を相手にするのは苦ではない。

 ゾンビを囮にした戦い方は、ユーゴのような長いことレブナントとして戦ってきた者にとっては常套戦術だったが、元人間にとっては常識外だ。

 なまじ今回連れてきたのは、生前に第2位階へ辿り着いた冒険者だ。レブナントになって第1位階の冒険者と戦わせても、素の戦闘力で上回っているのだから、敵を観察して様子見する習慣などつくはずがない。


『いいかお前ら。ゾンビは消耗品だ。思い切り良く使い切るのがコツだぞ』


 スケルトンの癖と特徴を把握するのに、一分もかからなかった。

 種が分かれば、後は動きの緩慢な弱っちょろい骨人形にすぎない。


「近接戦闘なら足と腕を破壊しろ。研究のために、なるべく敵の残骸を残せよ」


 どこかで聞いているか、覗き見ているであろう何者かに向かって、宣戦を布告する。

 目指すは街の中心地である城だ。


「兵力を削って、敵の大将を引きずり出す。俺に続け!!」


 大物や撤退経路はサラに丸投げして、ユーゴは先頭を突っ切って走りだした。



◆◆◆



 ユーゴは街の中を駆け抜け、至る所で白い霧を作り出す。

 斬った相手を霧散させる魔剣の力は、生きた肉を相手に発動すれば血液の赤黒い液体が霧状に撒き散らされるが、どうやら骨を相手に発動すると白い粉のような煙になるらしい。


 上空から見ても分かるほど大量の煙を撒き散らしながら、ユーゴは城下町の中央にある城へ向かってまっすぐ突進していた。

 大通りを白い煙が埋め尽くし、城下町に張り巡らされた円形の回路と交錯する旅に更に大量の白煙が上がった。

 交錯点は広場になっており決まって数十体のスケルトンが集団で起きだしてきたからだ。


 スケルトンの群れを見つけると、ユーゴはまず何も考えずにその中に飛び込んだ。

 武器を持っているが、スケルトンの動きは緩慢だ。致命傷を避けて中心地に飛び込んだら、後は魔剣の出番である。


 握りしめた魔剣にプラーナを込めて思い切り振り抜く。

 骨が白煙に変わり、一気に数が半減する。

 プラーナを使いすぎて消耗するのを避けるため、ゾンビ達が追いついてくるまでは普通に剣で骨を粉砕していく。


 そうしてゾンビ達が広場に到着すると、ユーゴはすぐに次の広場を目指して駆け出していく。

 問題ひとつ怒らず順調に進撃を続けながら、ユーゴは相棒に念話を送った。


『サラ、スケルトンの動きに変化は?』

『無いわ。城のほうにも変化はなし』

『……もしかしたら、本当に自律駆動しかしないのかもな』


 これだけ派手に領土を荒らされれば、ここの主が出てくるかと思っていたのだが。

 順調に進軍しながら、そこだけが目論見から外れていた。


『もしかしたら、城に主なんていないのかもな?』

『調子にのらない。撤退の指示を出したらちゃんと逃げるのよ?』

『もちろん。もう一回死ぬ気はないよ』


 死体に言われてこれほど信頼できない言葉はないわね、というサラのぼやきは無視して、加速しようとしたその時だった。


『跳んで!!』


 サラの声が頭に響き、言われるがままユーゴはジャンプした。

 瞬間、彼の下を無数の矢が通過した。

 通り抜けようとした左右の路地に、弓矢をつがえたスケルトンが待機していたのだ。


『タイミングを見計らって弓を使うなんて、高度な骨もあるのね』

『そんなことより、問題は見えない角度だったのに、タイミングが合ってたことだよ』


 先陣を切って突撃しているユーゴだが、無警戒で走っているわけではない。

 屋根の上や家の中に伏兵が居ないか確認しながら走っていたのだ。

 だが、さすがに曲がり角の向こう側まで見ることは出来ない。


 スケルトンが何をどう知覚しているのか分からないが、少なくとも目視できないはずのユーゴを狙って、一斉に矢を放ったというのは看過出来ない現象だ。

 角から何かが飛び出すのを待っていたとしても、認識してから攻撃するまでには路地を駆け抜けるよりも時間がかかるだろう。

 前世で嗜んだ一人称視点の銃撃戦で、その難しさをユーゴはよく分かっていた。

 普通にやったら出来ない。

 だったら、何か仕掛けがあるはずだと彼は考えた。


『周囲のプラーナにも注意を払っておくけど、速度を落とす?』

『まさか。速度を落とさせるのが敵の狙いだろ』

『分かってるじゃない。じゃあ後ろは任せて、さっさと突っ込んできてね』


 もうちょっと言い方あるだろ、と声にだして悪態をつきながら、ユーゴは左右の街路に突撃してスケルトンを霧に変え、再び街路を南進した。

 そこから先は奇襲のオンパレードだった。

 窓から槍を投擲したり、分かれ道から矢を放ったり。

 ユーゴが通りすぎた家からスケルトンが湧き出すこともあった。


 だが、その全てがユーゴの脅威足り得なかった。

 なぜならば……。


『なぁ、このスケルトンの動き』

『あぁ。大将が俺たちをハメた時とそっくりだぜ』


 スケルトンを誘導して罠にはめるパターンは、ユーゴがゾンビを使って実現していたそれと酷似していたからだ。

 当然ユーゴもそれに気づいている。

 気づいているからこそ、わざと敵の狙い通りに走りながら、罠を絶妙なタイミングで回避して突き進んでいるのだ。


 五個目の広場を越え、ついに次の広場が城の(ふもと)だという位置まできて、ユーゴは改めて城を見上げる。

 どのバルコニーにも人影は見当たらず、変化は一切ない。

 だが、プラーナを観察してみれば、この城からは今までみたことがない色のプラーナがあふれていた。


『サラ、あの城の黒いプラーナが見えるか?』

『黒?私に魔法使いの素質がないからかもしれないけれど、普通に緑に見えるわよ』

『……だけど、確かに黒なんだ』


 この世界に転生してから、さんざん付き合ってきたエネルギー体だ。

 見慣れるどころか見飽きてきたプラーナだったが、色は緑しか見たことがなかった。


 城から溢れ出ている黒いエネルギーが、そもそも自分の知っているプラーナと同じなのか。

 なんにせよ、この黒はマズイ。

 そう感じたユーゴは対策を考え始めていたのだが、先に変化を見せたのは黒のプラーナの方だった。


 城から漏れ出ていた程度の黒いプラーナが、突然噴火するように吹き出したのだ。

 大量のプラーナが城から溢れ、ユーゴの目指していた最後の広場へと降り注ぐ。

 ユーゴは、その正体を見極めようと、剣を握り直した。


 後ろから味方が到着してくるその先頭で、いつでも動き出せるようにユーゴは腰を落として剣を構える。

 待ち構えた黒いプラーナの中から聞こえたのは、女の声だった。


「良い働きだったぞ、ボーヤ。スケルトンの包囲網を抜けて、よくぞここまで辿り着いた」


 若い女の声だ。だが、ボーヤという呼び方はあからさまに年上目線だ。

 どこかゆったりとした気品ある口調と、先ほどのボーヤという呼び方がハートマークを後ろに付けられそうな色気も含んでいて悪い気はしない。

 しないが、相手が上から慇懃な話し方をするのなら、それに付き合ってやるつもりはなかった。

 ユーゴはあえて黒いプラーナの塊を指差して挑発を返す。


「姿を表したらどうだ」


 自分から相手の領土に侵入しておいてふてぶてしいなと内心では思っていたが、声の主は意外にもユーゴの誘いに乗ってきた。


 プラーナの影の中から現れたのは、絶世の美女だった。

 ウェーブがかった金の髪に、切れ長でエメラルドのような緑の瞳。そして白人ばかりのこの世界にやってきてからは初めて見る、褐色の肌の美少女だった。

 胸元が大きく開かれたミニスカートのドレスは扇情的で、敵として出会わなければ心躍らずにはいられないような美しさだ。

 それも彼女の正体を聞くまでは、だが。


「私の名前はリリアーヌ。リリアーヌ・ララファン。貴様等人間が不死属と呼ぶ、吸血鬼だよ」

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